崩落編
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ローレライ教団本部。そびえ立つその姿を見ると、息の詰まるような、それでいて安心するような、複雑な気分になる。
思い返してみても、ダアトに良い思い出はない。いや、アッシュから貰ったリボンはここの露店で売っていたものだったか。
良くも悪くもこの場所は、少女にとっての第2の故郷だった。
教団本部に向かって歩いていると、小さい少女の影が横切る。導師守護役のアニスだ。驚いたのかガイが盛大に後退し、ルークの後ろに隠れた。
「アッシュ、髪切った?」
「俺は……」
「あ、違った。ルークだ」
アニスは厳しい挨拶をルークに投げつけ、その身をパタパタと揺らす。
「えええ!?なんでお坊ちゃまがこんな所にいるの!?てか、後ろにいるのは大佐たち?わっは♥これってローレライの思し召し?」
「……けたたましいなぁ」
ルークの背に隠れたまま、ガイが呟く。少女にとって、アニスのこのような姿は新鮮だった。以前、イオンとの面会で会った際も騒がしくはあったが、これほどわかりやすく毒を振りまいてはいなかった。
アニスはぐいっと首を傾げて、一行を見回す。菜真絵の姿を見つけると、驚いて頭を下げた。
「ハッ、菜真絵様!足は大丈夫なんですか!?」
「はい。戦争の抑止に寄与できればと、同行させていただいております」
「特務師団長は調べたいことがあるってどこかに行っちゃいました。ごめんなさい。菜真絵様が来るってわかってれば引き留めたんですけど……」
「……いえ。アッシュ様と合流するつもりはありません」
少女がそう言うと、面々は驚いたように少女を見る。
ユリアシティで、少女は少年と決別した。
彼は自分の上司だ。個人の感情で決別するなど、正しいことではないのかもしれない。それでも、今の少女は少年に合わせる顔を持ち合わせていなかった。
「この緊急事態です。今やれることに取り組んだほうが、効率的です」
少女は正論らしい事を言って、先に進もうとする。すると、ジェイドが少女を止めた。
「貴方の権限で、戦争を止めることはできないのですか?」
「……不可能です。あくまでも、私は奏長ですから」
「導きの少女様といえど、神託の盾では一人の兵に過ぎないのですね」
ジェイドは納得したように頷く。
少女の存在はユリアの預言に詠まれている。すなわち、人々の羨望の対象だ。場所を選べば、少女の一言はモースの一言よりも重いだろう。しかし少女に政治的な権限はない。それに、預言の象徴ともいえる少女が預言に背く行動をしたとなれば、真実を知る詠師たちが黙っていないだろう。
「じゃあ菜真絵様は、モース様のところに帰らないんですか?」
「今帰っても、イオン様やナタリアのように軟禁されるのがオチでしょうね」
「そう思います。ですので、今は皆様に同行させていただきたいと……」
自分の存在は邪魔になっていないだろうか。少女はそう思って、不安げに周りを見渡す。すると、ルークが屈託のない笑みを浮かべた。
「菜真絵がいてくれると助かるよ。心強い」
「……あ、ありがとうございます」
レプリカルークは、優しい。あの少年にはない、ストレートな優しさだ。それに甘えてはいけない。依存してはいけない。そうとわかっていても、どうしても、頬が紅くなる。
「ルーク、卑屈になっただけじゃなくて、女の子をたぶらかすように……」
「ばっ、そんなんじゃねぇよ!」
「ごめんなさい。私、神託の盾にこもりっきりで。人と話すのに慣れていなくて……」
そうだ。自分には、経験が足りないだけだ。別に依存しているわけじゃない。少女は自分にそう言い聞かせて、素直に頬を紅くしてみた。
そんなじれったい若者の様子に、さらに幼い少女が釘を刺す。
「も〜!早くイオン様を探しに行くよ!神託の盾本部に連れて行かれたみたいだから!」
そうだ。こんなところで足を止めている場合ではない。一同は歩みを進めた。
「今、本部には詠師職以上の許可がないと入れないんだ。詠師トリトハイムに会いに行こう」
ローレライ教会の正門は、巡礼者たちのために常に開放されている。その奥へ潜って、少女達はトリトハイムの元を目指した。
「でも、どういう経緯で、イオン様とナタリアが軟禁なんてされてしまったの?」
ティアが素朴な疑問を投げかける。すると、アニスが一部始終を話した。
「アッシュの奴が、私とイオン様をダアトに送ってくれたんだけど、そこで戦争が起きそうって話を聞いて……」
「ナタリアが導師詔勅の発令を願い出たのです。そこで教会に向かったところ、捕まってしまったようですね」
その間ジェイドは、タルタロスの修理をしていたらしい。結局、陸上走行機能は直らなかったようだが。
「で、私だけなんとか逃げて、大佐に助けを求めたってわけ」
「アニスは大活躍だな」
「お坊ちゃまとは違うしぃ〜」
ルークが何気なく言った台詞に、アニスは冷たい言葉を返す。ルークが黙ってしまっていると、ホールに高い女性の声が響いた。
「あら あら あら!アニスちゃん、久しぶりねぇ」
「ママ!」
アニスが声を上げる。女性の前に小走りで駆け寄った。どうやらアニスの母親のようだ。
「ママ。ちゃんと貯金してる?」
親子の会話の始まりが貯金の話とは。
少女は興味深く、その様子を見守った。最年少で導師守護役に抜擢された彼女の肉親がどのような人なのか、純粋に気になったのだ。他の面々も同じように、その様子を眺めた。
「あらあらあら。大丈夫よ。ちゃんと月のお給金はローレライに捧げているわよ」
「まーだそんなことしてんのっ!?それじゃあ老後はどうすんのよっ!」
「大丈夫。預言通り生きていれば、お金なんて要らないのよ」
所謂、ローレライ教団の敬虔な信者。アニスの母親はそういう人物だった。いかにも人の良さそうな、おっとりとした女性。
ケセドニアで助けた兵士の妻と似ている。少女はぼんやりと、ヴァンとの出会いを思い出す。預言を素直に信じる者は皆善良で、嫌いになれない。だが、彼らといるととても居心地が悪い。だからこそ、ヴァンの思想に共感したのだ。
「……あー、やっぱ私が玉の輿狙わなきゃ……」
アニスが呟く。
この世の仕組みに振り回されている人間は、自分以外にも数多いる。
アニスの姿を見て、少女はそれを理解した。安心したような、それでいて、底のない絶望を見たような、そんな気分だった。
思い返してみても、ダアトに良い思い出はない。いや、アッシュから貰ったリボンはここの露店で売っていたものだったか。
良くも悪くもこの場所は、少女にとっての第2の故郷だった。
教団本部に向かって歩いていると、小さい少女の影が横切る。導師守護役のアニスだ。驚いたのかガイが盛大に後退し、ルークの後ろに隠れた。
「アッシュ、髪切った?」
「俺は……」
「あ、違った。ルークだ」
アニスは厳しい挨拶をルークに投げつけ、その身をパタパタと揺らす。
「えええ!?なんでお坊ちゃまがこんな所にいるの!?てか、後ろにいるのは大佐たち?わっは♥これってローレライの思し召し?」
「……けたたましいなぁ」
ルークの背に隠れたまま、ガイが呟く。少女にとって、アニスのこのような姿は新鮮だった。以前、イオンとの面会で会った際も騒がしくはあったが、これほどわかりやすく毒を振りまいてはいなかった。
アニスはぐいっと首を傾げて、一行を見回す。菜真絵の姿を見つけると、驚いて頭を下げた。
「ハッ、菜真絵様!足は大丈夫なんですか!?」
「はい。戦争の抑止に寄与できればと、同行させていただいております」
「特務師団長は調べたいことがあるってどこかに行っちゃいました。ごめんなさい。菜真絵様が来るってわかってれば引き留めたんですけど……」
「……いえ。アッシュ様と合流するつもりはありません」
少女がそう言うと、面々は驚いたように少女を見る。
ユリアシティで、少女は少年と決別した。
彼は自分の上司だ。個人の感情で決別するなど、正しいことではないのかもしれない。それでも、今の少女は少年に合わせる顔を持ち合わせていなかった。
「この緊急事態です。今やれることに取り組んだほうが、効率的です」
少女は正論らしい事を言って、先に進もうとする。すると、ジェイドが少女を止めた。
「貴方の権限で、戦争を止めることはできないのですか?」
「……不可能です。あくまでも、私は奏長ですから」
「導きの少女様といえど、神託の盾では一人の兵に過ぎないのですね」
ジェイドは納得したように頷く。
少女の存在はユリアの預言に詠まれている。すなわち、人々の羨望の対象だ。場所を選べば、少女の一言はモースの一言よりも重いだろう。しかし少女に政治的な権限はない。それに、預言の象徴ともいえる少女が預言に背く行動をしたとなれば、真実を知る詠師たちが黙っていないだろう。
「じゃあ菜真絵様は、モース様のところに帰らないんですか?」
「今帰っても、イオン様やナタリアのように軟禁されるのがオチでしょうね」
「そう思います。ですので、今は皆様に同行させていただきたいと……」
自分の存在は邪魔になっていないだろうか。少女はそう思って、不安げに周りを見渡す。すると、ルークが屈託のない笑みを浮かべた。
「菜真絵がいてくれると助かるよ。心強い」
「……あ、ありがとうございます」
レプリカルークは、優しい。あの少年にはない、ストレートな優しさだ。それに甘えてはいけない。依存してはいけない。そうとわかっていても、どうしても、頬が紅くなる。
「ルーク、卑屈になっただけじゃなくて、女の子をたぶらかすように……」
「ばっ、そんなんじゃねぇよ!」
「ごめんなさい。私、神託の盾にこもりっきりで。人と話すのに慣れていなくて……」
そうだ。自分には、経験が足りないだけだ。別に依存しているわけじゃない。少女は自分にそう言い聞かせて、素直に頬を紅くしてみた。
そんなじれったい若者の様子に、さらに幼い少女が釘を刺す。
「も〜!早くイオン様を探しに行くよ!神託の盾本部に連れて行かれたみたいだから!」
そうだ。こんなところで足を止めている場合ではない。一同は歩みを進めた。
「今、本部には詠師職以上の許可がないと入れないんだ。詠師トリトハイムに会いに行こう」
ローレライ教会の正門は、巡礼者たちのために常に開放されている。その奥へ潜って、少女達はトリトハイムの元を目指した。
「でも、どういう経緯で、イオン様とナタリアが軟禁なんてされてしまったの?」
ティアが素朴な疑問を投げかける。すると、アニスが一部始終を話した。
「アッシュの奴が、私とイオン様をダアトに送ってくれたんだけど、そこで戦争が起きそうって話を聞いて……」
「ナタリアが導師詔勅の発令を願い出たのです。そこで教会に向かったところ、捕まってしまったようですね」
その間ジェイドは、タルタロスの修理をしていたらしい。結局、陸上走行機能は直らなかったようだが。
「で、私だけなんとか逃げて、大佐に助けを求めたってわけ」
「アニスは大活躍だな」
「お坊ちゃまとは違うしぃ〜」
ルークが何気なく言った台詞に、アニスは冷たい言葉を返す。ルークが黙ってしまっていると、ホールに高い女性の声が響いた。
「あら あら あら!アニスちゃん、久しぶりねぇ」
「ママ!」
アニスが声を上げる。女性の前に小走りで駆け寄った。どうやらアニスの母親のようだ。
「ママ。ちゃんと貯金してる?」
親子の会話の始まりが貯金の話とは。
少女は興味深く、その様子を見守った。最年少で導師守護役に抜擢された彼女の肉親がどのような人なのか、純粋に気になったのだ。他の面々も同じように、その様子を眺めた。
「あらあらあら。大丈夫よ。ちゃんと月のお給金はローレライに捧げているわよ」
「まーだそんなことしてんのっ!?それじゃあ老後はどうすんのよっ!」
「大丈夫。預言通り生きていれば、お金なんて要らないのよ」
所謂、ローレライ教団の敬虔な信者。アニスの母親はそういう人物だった。いかにも人の良さそうな、おっとりとした女性。
ケセドニアで助けた兵士の妻と似ている。少女はぼんやりと、ヴァンとの出会いを思い出す。預言を素直に信じる者は皆善良で、嫌いになれない。だが、彼らといるととても居心地が悪い。だからこそ、ヴァンの思想に共感したのだ。
「……あー、やっぱ私が玉の輿狙わなきゃ……」
アニスが呟く。
この世の仕組みに振り回されている人間は、自分以外にも数多いる。
アニスの姿を見て、少女はそれを理解した。安心したような、それでいて、底のない絶望を見たような、そんな気分だった。