崩落編
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「セフィロトツリーの力を使って、タルタロスを地上に上げる」
満足に歩くことのできない少女は、常に部屋の中にいた。時折誰かが来て、現状を伝えてくれる。
今はアッシュが食べ物を持って訪ねてきている。
「食え。他に介助の必要はあるか」
「いえ……。優しいのですね」
そう言う少女の瞳に表情はない。彼が優しいなんてこと、前からわかっている。あえて口に出すのは、自分の無力さを再確認するためだ。
皆が助けてくれるのは、自分を必要としているからじゃない。彼らが優しいからなのだ。
「一刻も早く地上に出たい。お前はここにいろ」
「はい」
「合流地点も決めない。ヴァンを目の前にして、休んでいる暇はない」
「はい」
少女は聞き分けよく頷いた。当たり前だ。脚に怪我を抱えている身では、足手まといになる。
おそらく、少年はそれだけを言いに来たのだろう。口を閉ざして、ただ少女を見ている。差し入れを食べないのか、と言いたげだ。
「……申し訳ありません」
「何がだ」
「私がアッシュ様を引き留めなければ、こんなことには……」
少年はしかめっ面をしている。決して好意的な表情ではない。しかし、少年の顔を見ていると、弱音が口をついて出てきてしまう。少女は置かれたパンに手も付けず、1人でぶつぶつと話を続けた。
「私1人のわがままで、街を壊して、怪我をして、迷惑をかけて……」
「…………」
「私は、あなたの補佐失格です」
そんなことはない。これまでも、少女の存在に助けられてきた。
少年はそう思ったが、声を掛けられなかった。少女のせいでアクぜリュスへの到着が遅れたのは事実だ。
少女さえいなければ。元から1人ならば。
アクぜリュスが崩落してしまった以上、そう考えざるを得ない。少年は、少女を憎らしくも思っている。
「アクぜリュスの崩落に気づいているのは私たちだけだった。救えるのは私たちだけだったのに……私はその役目を……」
「こうしてくずぐずしている間にも、ヴァンは動いている」
少年の言うことは正しい。悲しみに浸っても、誰の為にもならない。今回だって、そうやって時間を先延ばしにしているうちに間に合わなくなったのだ。少女は身をもってそれを学んでいた。それなのに、悲しむことをやめられない。
「わかっています。でも、頭が真っ白で。そんな自分が嫌で、どうすれば、前を向けるのか、何もかも……」
「…………」
少年の頭の中に、これまでの少女の姿が浮かぶ。
初めて出会ったとき、自分は少女に冷たく当たった。暴力を振るうこともあった。それなのに食い下がり続けて、自分のあとをついてきた。
暗殺の任務を任せても、弱音を吐くようなことはなかった。箱入り娘が人を殺して、傷つかないはずがないのに。少女は常に冷静で、穏やかだった。
共に預言を憎んだ。共に幸せな未来を描いた。短い間だが、少女は紛れもなく、少年のパートナーだった。
そんな、強くてしなやかなはずの少女が、小さく、覇気をなくしてベッドにうずくまっている。
こうなることは、わかっていたはずなのに。どうして今になって。
少年は冷たい視線を少女に向けた。今の少女は、少年が頼りにしていた補佐官ではない。
「悪いのはヴァンだ。お前はそれを阻止しようとした」
「わかっています」
「俺を引き留めたのも、……心配したからだろう」
「だから、だからなんです!私はアッシュ様を……!」
アッシュ様を愛していただけなのに、それが街を滅ぼした。
皆が死んでいるのに、アッシュ様が生きているのを見て、笑ってしまった。
自分の抱いた愛は、間違いだったのだ。
自分の抱く愛は、世界の敵なのだ。
少女はそう言おうとしたが、言えなかった。この街には、彼の婚約者がいる。愛しているなどと言えば、彼を、彼女を困らせてしまうだろう。
少女は『少年が幸せになる未来』を追い求めて、ここまで走ってきた。それが少女の希望だった。少年を愛することが、少女の生きがいだった。
でも、それは間違いだった。
少女はそれを、街の消滅をもって知ることとなった。
人が死んでも、殺しても、耐えてきた。少年の未来のためならと、必死で耐えてきた。
しかしそれが裏目に出るのだとしたら、少女にはもう、できることがない。希望がないのだ。
今でも、少女は少年の幸せを願っている。
だが、少女はもう、この場に立ち止まることしかできなくなっていた。
「もう、アッシュ様の元へは、帰らないかもしれません」
「…………」
少女が消え入りそうな声でつぶやく。
言っていること自体はおかしくない。ヴァンの動きが目立ってきた今、少女がモースに呼び戻される日も近いだろう。
しかし、少女の発言の意図は違った。少年と決別しようとしているのだ。
「脚を怪我してよかった」
少年の紡ぐ言葉は、とても冷たい。怒りを含んでいるようにも思える。
「しばらく頭を冷やせるんだからな」
少年は部屋を出ていき、音を立ててドアを閉めた。
何事にも終わりは来る。これで、よかったのだ。
少女は自分にそう言い聞かせながら、涙を拭った。
満足に歩くことのできない少女は、常に部屋の中にいた。時折誰かが来て、現状を伝えてくれる。
今はアッシュが食べ物を持って訪ねてきている。
「食え。他に介助の必要はあるか」
「いえ……。優しいのですね」
そう言う少女の瞳に表情はない。彼が優しいなんてこと、前からわかっている。あえて口に出すのは、自分の無力さを再確認するためだ。
皆が助けてくれるのは、自分を必要としているからじゃない。彼らが優しいからなのだ。
「一刻も早く地上に出たい。お前はここにいろ」
「はい」
「合流地点も決めない。ヴァンを目の前にして、休んでいる暇はない」
「はい」
少女は聞き分けよく頷いた。当たり前だ。脚に怪我を抱えている身では、足手まといになる。
おそらく、少年はそれだけを言いに来たのだろう。口を閉ざして、ただ少女を見ている。差し入れを食べないのか、と言いたげだ。
「……申し訳ありません」
「何がだ」
「私がアッシュ様を引き留めなければ、こんなことには……」
少年はしかめっ面をしている。決して好意的な表情ではない。しかし、少年の顔を見ていると、弱音が口をついて出てきてしまう。少女は置かれたパンに手も付けず、1人でぶつぶつと話を続けた。
「私1人のわがままで、街を壊して、怪我をして、迷惑をかけて……」
「…………」
「私は、あなたの補佐失格です」
そんなことはない。これまでも、少女の存在に助けられてきた。
少年はそう思ったが、声を掛けられなかった。少女のせいでアクぜリュスへの到着が遅れたのは事実だ。
少女さえいなければ。元から1人ならば。
アクぜリュスが崩落してしまった以上、そう考えざるを得ない。少年は、少女を憎らしくも思っている。
「アクぜリュスの崩落に気づいているのは私たちだけだった。救えるのは私たちだけだったのに……私はその役目を……」
「こうしてくずぐずしている間にも、ヴァンは動いている」
少年の言うことは正しい。悲しみに浸っても、誰の為にもならない。今回だって、そうやって時間を先延ばしにしているうちに間に合わなくなったのだ。少女は身をもってそれを学んでいた。それなのに、悲しむことをやめられない。
「わかっています。でも、頭が真っ白で。そんな自分が嫌で、どうすれば、前を向けるのか、何もかも……」
「…………」
少年の頭の中に、これまでの少女の姿が浮かぶ。
初めて出会ったとき、自分は少女に冷たく当たった。暴力を振るうこともあった。それなのに食い下がり続けて、自分のあとをついてきた。
暗殺の任務を任せても、弱音を吐くようなことはなかった。箱入り娘が人を殺して、傷つかないはずがないのに。少女は常に冷静で、穏やかだった。
共に預言を憎んだ。共に幸せな未来を描いた。短い間だが、少女は紛れもなく、少年のパートナーだった。
そんな、強くてしなやかなはずの少女が、小さく、覇気をなくしてベッドにうずくまっている。
こうなることは、わかっていたはずなのに。どうして今になって。
少年は冷たい視線を少女に向けた。今の少女は、少年が頼りにしていた補佐官ではない。
「悪いのはヴァンだ。お前はそれを阻止しようとした」
「わかっています」
「俺を引き留めたのも、……心配したからだろう」
「だから、だからなんです!私はアッシュ様を……!」
アッシュ様を愛していただけなのに、それが街を滅ぼした。
皆が死んでいるのに、アッシュ様が生きているのを見て、笑ってしまった。
自分の抱いた愛は、間違いだったのだ。
自分の抱く愛は、世界の敵なのだ。
少女はそう言おうとしたが、言えなかった。この街には、彼の婚約者がいる。愛しているなどと言えば、彼を、彼女を困らせてしまうだろう。
少女は『少年が幸せになる未来』を追い求めて、ここまで走ってきた。それが少女の希望だった。少年を愛することが、少女の生きがいだった。
でも、それは間違いだった。
少女はそれを、街の消滅をもって知ることとなった。
人が死んでも、殺しても、耐えてきた。少年の未来のためならと、必死で耐えてきた。
しかしそれが裏目に出るのだとしたら、少女にはもう、できることがない。希望がないのだ。
今でも、少女は少年の幸せを願っている。
だが、少女はもう、この場に立ち止まることしかできなくなっていた。
「もう、アッシュ様の元へは、帰らないかもしれません」
「…………」
少女が消え入りそうな声でつぶやく。
言っていること自体はおかしくない。ヴァンの動きが目立ってきた今、少女がモースに呼び戻される日も近いだろう。
しかし、少女の発言の意図は違った。少年と決別しようとしているのだ。
「脚を怪我してよかった」
少年の紡ぐ言葉は、とても冷たい。怒りを含んでいるようにも思える。
「しばらく頭を冷やせるんだからな」
少年は部屋を出ていき、音を立ててドアを閉めた。
何事にも終わりは来る。これで、よかったのだ。
少女は自分にそう言い聞かせながら、涙を拭った。