プロローグ編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
少女は目を覚ました。ほんのりと揺れる、絨毯の敷かれた部屋で。いつの間にか、服は着替えさせられており、体はベッドの上にあった。
「雷が鳴ってて、砂漠を歩いて、それで」
今までのことを一生懸命思い出そうとするが、いまいち記憶が曖昧だ。
「お目覚めですか」
突然女に声をかけられ、少女は驚いて跳びはねた。女はその姿を見てくすりと笑う。どうやら、彼女はずっと前から少女の隣に座っていたらしい。
「僭越ながら、お水を召し上がっていただきました。それと、お召し物のほうも」
その説明だけでは、何もわからない。少女がきょとんとした目で女を見ると、女は話し始める。
「申し遅れました。私、菜真絵様の教育係を務めさせていただきます、ジナミーと申します。菜真絵様にお仕えできること、嬉しく思います」
「え……っ?」
教育係。お仕え。不自然な単語が沢山出てきたが、なにより、自分の名前を知られていることを、少女は怖がった。この人とは初対面のはずだ。
「あの、名前……」
おそるおそる疑問を投げ掛けてみると、自称教育係はにっこりと笑う。
「預言に詠まれていますから」
「すこあ?」
知らない言葉を使う彼女に、少女はよりいっそう強い恐怖を感じた。全く話が通じていない。
「詳しいことはモース様からお聞きになってください。呼んで参ります」
女は部屋を出ていき、少女はひとりになった。ほっとしたような寂しいような。
彼女がいなければ質問もできない。ひとりでできることと言えば、状況を整理することくらいである。
「雷が鳴ったと思ったら、周りが強く光って」
友人の叫び声が聞こえた。少女はだんだん鮮明になっていく記憶を組み合わせて、現状をまとめた。
「つまり、死にそうだったところを助けられた。と」
砂漠の中でさまよっていた自分を、兵士に助けられたのだ。そしてきっと、あの女はその仲間。
少女はそう結論づけ、無理に自分を落ち着かせた。ふいにドアが開き、向こうから教育係と、もう一人、男が入ってくる。男は、少女が砂漠で見た男だった。
「モース様、こちらです」
モースと呼ばれたその男は、椅子に腰掛け、少女を見る。
歳の離れた男を前にして、少女は怯んだ。しかし、自分を助けてくれた人なのだ。少女はベッドの上に正座して、姿勢を正す。
「そう緊張しなくともよい」
「は、はい」
そんなことを言われたって、緊張しないわけがない。少女は姿勢を変えることなく、男の次の発言を待った。
「お前が菜真絵か?」
「は、はい、あの、砂漠で私を助けてくれたのは」
「私だ」
少女は胸を撫で下ろした。状況はまだ飲み込めていないが、目の前の人間は紛れもなく、命の恩人である。
少女の体には疲労が溜まっており、頭が回らない。今の少女には、目の前の人達を信じる事しかできなかった。
「こんなところで話すのもなんだ、部屋を変えよう」
ここは見たところ寝室である。確かに、話をするには不適切かもしれない。少女は、男に促されて立ち上がった。
部屋の外は木材の壁でできており、窓から青い空と、海が見えた。
「ここ、船の上なんですか?」
「ええ、今はダアトに向かっています」
「ダアト…」
聞いたことのない地名、不思議な髪の色、変な人名。少女は自分が日本にいないということを確信した。
日本語を喋っているのがなんとも不思議だが、それ以外に考えられなかった。
少女が連れて行かれたのは、大広間だった。大きな机の上には、豪華な食事が並んでいる。
「一流の料理人に作らせたものだ。好きなだけ食べるがいい」
「そんな、助けていただいたうえにこんなことまで」
「貴女のためのものですから、遠慮なさらず」
少女は精一杯断ったが、目の前の大人たちは聞き入れる様子もない。
少女は諦めて、手前にあったスープに口をつける。それが、とても美味しかった。少女にとっては久しぶりの食事だったため、より美味しく感じる。少女は、次々とご馳走を食べ進めた。
「うまいか?」
そんな少女を見て、男は満足げだ。視線に気がついた少女は、はっと姿勢を正す。がつがつと食べる姿を見られてしまって、恥ずかしい。
少女は食事を中断して、男の話とやらを聞くことにした。
「その、お話とはなんでしょうか」
「ああ」
男の視線が鋭いものに変わった。辺りも緊張感に包まれる。
「ユリア・ジュエ、と聞いてわかるか」
男が発した言葉は、少女には耳慣れぬものであった。
「……聞いたこと、ないです」
申し訳なさそうに少女は言う。しかし男は大きく頷いて、隣の女性と目を見合わせた。
「異世界から来たのですから、知らなくて当然です」
「てっきりユリア・ジュエが遣わしたのだと思っていたが……」
それが、何も知らない子供だとは。と、男は声をあげて笑う。
自分に話があったはずなのに、大人二人は、勝手に話を進めていく。少女にとって、知らない言葉ばかりで、内容を理解できない。
少女は話の切れ間を待って、二人に話しかけた。
「あの、あなたたちは、どうして私のことを知っているんですか?私、何も……」
「まだダアトまで時間がある。何でも答えてやろう」
男はそう言うと、横にいる女に目配せした。すると女は、本や書類の束を抱えて持って来た。
その本は表紙からして、子供向けのものだった。しかし、少女には何が書いてあるのかわからない。
「あの、私、わかりません。字が読めません……」
少女の発言に、二人は顔を見合わせ、また納得の表情をする。
「音読してやれ」
「はい。預言とは、星の記憶であり、未来を示すものでもあります。散らばった譜石から預言を詠む預言者は、第七音素を扱える者でなければなりません」
女はそのまま本の内容を読み上げた。しかし、少女はその意味を理解できなかった。
少女が途方に暮れていると、女は、なんとかわかりやすく説明をしようと、本とにらめっこする。
「つまり、あなたがここに来ることはユリアによって予知されていたのです」
「予知……」
「わかりましたか?」
「は、はい、なんとなく……?」
女は胸を撫で下ろした。
少女は釈然としないままだが、わからないとは言えなかった。あんなに困った彼女の顔を見たら。
「これから、わからないことは私に聞いてくださいね」
「……これから、」
これから、という言葉には、悠久の時が感じられる。
菜真絵は震えながら、何度か言葉を反復した。
「ええ、菜真絵様には、まず勉学に励んでいただきます。その後、一流の剣士がついて剣術を……」
「あのっ!」
少女の今後を当たり前のように話す女性。
少女はとても不安になって、思わず叫んだ。
「私、家には帰れないんですか?」
「当たり前だ。お前には使命がある。お前は世界を導く「導きの少女」なのだ」
男は動揺することなく、そう言った。女性も優しい表情で頷く。
言葉は通じるのに、話が通じない。少女は、これ以上何も言えなかった。
ダアトはもう、すぐそこにあった。
「雷が鳴ってて、砂漠を歩いて、それで」
今までのことを一生懸命思い出そうとするが、いまいち記憶が曖昧だ。
「お目覚めですか」
突然女に声をかけられ、少女は驚いて跳びはねた。女はその姿を見てくすりと笑う。どうやら、彼女はずっと前から少女の隣に座っていたらしい。
「僭越ながら、お水を召し上がっていただきました。それと、お召し物のほうも」
その説明だけでは、何もわからない。少女がきょとんとした目で女を見ると、女は話し始める。
「申し遅れました。私、菜真絵様の教育係を務めさせていただきます、ジナミーと申します。菜真絵様にお仕えできること、嬉しく思います」
「え……っ?」
教育係。お仕え。不自然な単語が沢山出てきたが、なにより、自分の名前を知られていることを、少女は怖がった。この人とは初対面のはずだ。
「あの、名前……」
おそるおそる疑問を投げ掛けてみると、自称教育係はにっこりと笑う。
「預言に詠まれていますから」
「すこあ?」
知らない言葉を使う彼女に、少女はよりいっそう強い恐怖を感じた。全く話が通じていない。
「詳しいことはモース様からお聞きになってください。呼んで参ります」
女は部屋を出ていき、少女はひとりになった。ほっとしたような寂しいような。
彼女がいなければ質問もできない。ひとりでできることと言えば、状況を整理することくらいである。
「雷が鳴ったと思ったら、周りが強く光って」
友人の叫び声が聞こえた。少女はだんだん鮮明になっていく記憶を組み合わせて、現状をまとめた。
「つまり、死にそうだったところを助けられた。と」
砂漠の中でさまよっていた自分を、兵士に助けられたのだ。そしてきっと、あの女はその仲間。
少女はそう結論づけ、無理に自分を落ち着かせた。ふいにドアが開き、向こうから教育係と、もう一人、男が入ってくる。男は、少女が砂漠で見た男だった。
「モース様、こちらです」
モースと呼ばれたその男は、椅子に腰掛け、少女を見る。
歳の離れた男を前にして、少女は怯んだ。しかし、自分を助けてくれた人なのだ。少女はベッドの上に正座して、姿勢を正す。
「そう緊張しなくともよい」
「は、はい」
そんなことを言われたって、緊張しないわけがない。少女は姿勢を変えることなく、男の次の発言を待った。
「お前が菜真絵か?」
「は、はい、あの、砂漠で私を助けてくれたのは」
「私だ」
少女は胸を撫で下ろした。状況はまだ飲み込めていないが、目の前の人間は紛れもなく、命の恩人である。
少女の体には疲労が溜まっており、頭が回らない。今の少女には、目の前の人達を信じる事しかできなかった。
「こんなところで話すのもなんだ、部屋を変えよう」
ここは見たところ寝室である。確かに、話をするには不適切かもしれない。少女は、男に促されて立ち上がった。
部屋の外は木材の壁でできており、窓から青い空と、海が見えた。
「ここ、船の上なんですか?」
「ええ、今はダアトに向かっています」
「ダアト…」
聞いたことのない地名、不思議な髪の色、変な人名。少女は自分が日本にいないということを確信した。
日本語を喋っているのがなんとも不思議だが、それ以外に考えられなかった。
少女が連れて行かれたのは、大広間だった。大きな机の上には、豪華な食事が並んでいる。
「一流の料理人に作らせたものだ。好きなだけ食べるがいい」
「そんな、助けていただいたうえにこんなことまで」
「貴女のためのものですから、遠慮なさらず」
少女は精一杯断ったが、目の前の大人たちは聞き入れる様子もない。
少女は諦めて、手前にあったスープに口をつける。それが、とても美味しかった。少女にとっては久しぶりの食事だったため、より美味しく感じる。少女は、次々とご馳走を食べ進めた。
「うまいか?」
そんな少女を見て、男は満足げだ。視線に気がついた少女は、はっと姿勢を正す。がつがつと食べる姿を見られてしまって、恥ずかしい。
少女は食事を中断して、男の話とやらを聞くことにした。
「その、お話とはなんでしょうか」
「ああ」
男の視線が鋭いものに変わった。辺りも緊張感に包まれる。
「ユリア・ジュエ、と聞いてわかるか」
男が発した言葉は、少女には耳慣れぬものであった。
「……聞いたこと、ないです」
申し訳なさそうに少女は言う。しかし男は大きく頷いて、隣の女性と目を見合わせた。
「異世界から来たのですから、知らなくて当然です」
「てっきりユリア・ジュエが遣わしたのだと思っていたが……」
それが、何も知らない子供だとは。と、男は声をあげて笑う。
自分に話があったはずなのに、大人二人は、勝手に話を進めていく。少女にとって、知らない言葉ばかりで、内容を理解できない。
少女は話の切れ間を待って、二人に話しかけた。
「あの、あなたたちは、どうして私のことを知っているんですか?私、何も……」
「まだダアトまで時間がある。何でも答えてやろう」
男はそう言うと、横にいる女に目配せした。すると女は、本や書類の束を抱えて持って来た。
その本は表紙からして、子供向けのものだった。しかし、少女には何が書いてあるのかわからない。
「あの、私、わかりません。字が読めません……」
少女の発言に、二人は顔を見合わせ、また納得の表情をする。
「音読してやれ」
「はい。預言とは、星の記憶であり、未来を示すものでもあります。散らばった譜石から預言を詠む預言者は、第七音素を扱える者でなければなりません」
女はそのまま本の内容を読み上げた。しかし、少女はその意味を理解できなかった。
少女が途方に暮れていると、女は、なんとかわかりやすく説明をしようと、本とにらめっこする。
「つまり、あなたがここに来ることはユリアによって予知されていたのです」
「予知……」
「わかりましたか?」
「は、はい、なんとなく……?」
女は胸を撫で下ろした。
少女は釈然としないままだが、わからないとは言えなかった。あんなに困った彼女の顔を見たら。
「これから、わからないことは私に聞いてくださいね」
「……これから、」
これから、という言葉には、悠久の時が感じられる。
菜真絵は震えながら、何度か言葉を反復した。
「ええ、菜真絵様には、まず勉学に励んでいただきます。その後、一流の剣士がついて剣術を……」
「あのっ!」
少女の今後を当たり前のように話す女性。
少女はとても不安になって、思わず叫んだ。
「私、家には帰れないんですか?」
「当たり前だ。お前には使命がある。お前は世界を導く「導きの少女」なのだ」
男は動揺することなく、そう言った。女性も優しい表情で頷く。
言葉は通じるのに、話が通じない。少女は、これ以上何も言えなかった。
ダアトはもう、すぐそこにあった。