外殻大地編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
バチカル、少年にとって因縁の場所。そこに少女はいた。
ここに来るのは初めてではない。しかし、降り立つときはいつも一人だ。
「あんたが部下についてから、アッシュの旦那からの依頼が減ってね。こちとら商売あがったりだよ」
派手な格好で体をくねらせるこの女は、盗賊団漆黒の翼のノワールだ。少女は彼女に金を渡し、導師イオンの誘拐を依頼した。特務師団の任務は様々で、時には外部の手を借りることもある。少年は以前から、漆黒の翼に世話になっていたらしい。
「これから情勢が大きく変わります。移動手段として貴方達を頼ることもあるでしょう。お代も弾みますよ」
少女がそう言うと、ノワールは幾分か落ち着いた声色に変わる。
「さすが導きの少女様、見た目はちんちくりんなのに落ち着いてるねぇ」
ちんちくりん。少女にその自覚はあったが、面と向かって言われたのは初めてだ。それが逆に面白くて、少女は笑った。ノワール、ヨーク、ウルシーの面々は、そんな少女を訝しげに見る。
「ごめんなさい。アッシュ様とは普段、冗談を交わさないもので」
「そうかい。報酬さえ貰えれば、いくらでも話し相手になるよ」
皮肉かなんだか本気なんだか判断のつかないノワールの言葉を聞いて、少女はより笑顔を深くした。
こんな風に、人と緊張感のない会話をするのは久しぶりだ。それだけで嬉しくなってしまう。特に今日は、一人で寂しかったし。
「では、また」
少女はその笑顔のまま、バチカルの街へと消えた。
あとは船に帰り、導師の到着を待つだけ。少女はそう思っていたが、一人の男がそれを引きとめた。
「導師イオン誘拐の手筈は整ったか?」
「……っ、ヴァン様」
ヴァンだ。その大きな体で、少女の行く手を阻むように立っている。突然の出来事にたじろぐ少女を見て、男は、少女の頭に手を乗せた。
「驚かせてすまない」
「いえ……」
少女は言葉を濁らせつつ、ここまでの出来事を必死に思い出していた。自分はこの男を裏切ろうとしている。そんな事がバレたら、一巻の終わりだ。辻褄が合うように話をしなければならない。
「暗殺から逃れたとは聞いていましたが、お元気そうなお顔を見れて、嬉しいです」
「身内に命を狙われるとは、恥ずかしい限りだ」
男はいつものように、爽やかな笑みを浮かべている。この笑顔を見ると安心する。頭に乗った手も、とてもあたたかい。少女がひとつ深呼吸をすると、心拍数が下がったような気がした。
「導師を探しにバチカルへ?」
「いや、レプリカが城を出たのは暗殺騒ぎが原因でな。その責任を取るため、ここに来た」
その後は、レプリカルーク達と共にアクぜリュスへ向かうことになるだろう。少女はその言葉を聞いて、息を呑んだ。その時が迫っているのだ。レプリカルークが、死ぬときが。
「導師イオンの誘拐はお任せください。ただ……」
「ただ?」
少女はどうしても聞きたかった。この男が、何を考えているのか。端の端でもいい、自分と少年のこれからのために、情報を集めておきたい。
ヴァンがレプリカルーク一行と行動を共にすれば、もう会えないだろう。直接のチャンスは今しかなさそうだ。
「何故今まで、解咒のことを教えてくださらなかったのですか?解咒の目的は?」
核心に迫った。少女はそのつもりだったが、男は表情を崩さなかった。ヴァンにとっては全て織り込み済みなのかもしれない。自分たちが彼に疑いを向けることまで。そう思うと、足が震える。
「預言を覆すには、世界を手中に収める必要がある」
「大地の柱であるセフィロトを押さえれば、それが叶うと?」
「そうだ。技術的な説明は難しい。ダアトに戻ってゆっくりと話すつもりだったのだが……導師の脱走やレプリカの失踪で叶わなくてな」
言っている意味はわかる。預言を覆すなどという大きな計画を練っているのだ。世界を動かすための機構を乗っ取るくらいのことはしてもおかしくない。だからと言って、ヴァンを信用するに足る内容ではないが。
少女は首を傾げながら、低い声で威嚇する。
「話してくださらなかったのは、難しい話だから、ですか」
「そうではない。セフィロトは、鉱山の街……アクぜリュスにもある。アッシュを連れて行けば、どうなると思う」
ヴァンの顔が曇ったかと思えば、レプリカの死に場所が告げられた。いや、違う。男の言うところでは『聖なる焔の光の死に場所』だ。少女は、その意味を察した。
「レプリカよりも先にアッシュ様がアクぜリュスに行けば、アッシュ様が死んでしまう……?」
「預言は絶対だ。アッシュにその気がなくても、ローレライの干渉で超振動が暴発するかもしれない」
ヴァンは眉を下げ、鬼気迫る調子で言った。少女にとって、こんなヴァンの顔を見るのは初めてだった。いつも余裕ありげに微笑むこの男。だからこそ、ついていきたいと思えた。しかし、今の顔は頼りになる上司というより、アッシュを心配する優しい父のようだ。
「どうしても、アッシュをアクぜリュスに連れて行きたくなかったのだ。わかってくれ」
「では、何故今回から」
「コーラル城を勝手に使ったのは、私を信頼していないからだろう。秘密にすることで最悪の事態を避けようとしていたが、無理があった」
「では、アクぜリュスの解咒には……」
「お前なら、アッシュを説得できるだろう。頼む、アッシュをアクぜリュスに行かせないでくれ」
大人の男が懇願する姿を見て、少女の心は揺らいだ。いや、揺らいだだけではない、傾いた。
ヴァンがこれほどまでにアッシュのことを心配している。アッシュのことで取り乱している。少女はそれが嬉しくて嬉しくて、口角が上がるのを隠しきることができなかった。
「わかりました、任せてください。必ず、アッシュ様を死なせないようにします」
――少女の心は、まだ自分の元にある。
ヴァンはそう確信して、ほくそ笑んだ。しかし、少女の目には、優しく微笑んだようにしか見えなかった。
ここに来るのは初めてではない。しかし、降り立つときはいつも一人だ。
「あんたが部下についてから、アッシュの旦那からの依頼が減ってね。こちとら商売あがったりだよ」
派手な格好で体をくねらせるこの女は、盗賊団漆黒の翼のノワールだ。少女は彼女に金を渡し、導師イオンの誘拐を依頼した。特務師団の任務は様々で、時には外部の手を借りることもある。少年は以前から、漆黒の翼に世話になっていたらしい。
「これから情勢が大きく変わります。移動手段として貴方達を頼ることもあるでしょう。お代も弾みますよ」
少女がそう言うと、ノワールは幾分か落ち着いた声色に変わる。
「さすが導きの少女様、見た目はちんちくりんなのに落ち着いてるねぇ」
ちんちくりん。少女にその自覚はあったが、面と向かって言われたのは初めてだ。それが逆に面白くて、少女は笑った。ノワール、ヨーク、ウルシーの面々は、そんな少女を訝しげに見る。
「ごめんなさい。アッシュ様とは普段、冗談を交わさないもので」
「そうかい。報酬さえ貰えれば、いくらでも話し相手になるよ」
皮肉かなんだか本気なんだか判断のつかないノワールの言葉を聞いて、少女はより笑顔を深くした。
こんな風に、人と緊張感のない会話をするのは久しぶりだ。それだけで嬉しくなってしまう。特に今日は、一人で寂しかったし。
「では、また」
少女はその笑顔のまま、バチカルの街へと消えた。
あとは船に帰り、導師の到着を待つだけ。少女はそう思っていたが、一人の男がそれを引きとめた。
「導師イオン誘拐の手筈は整ったか?」
「……っ、ヴァン様」
ヴァンだ。その大きな体で、少女の行く手を阻むように立っている。突然の出来事にたじろぐ少女を見て、男は、少女の頭に手を乗せた。
「驚かせてすまない」
「いえ……」
少女は言葉を濁らせつつ、ここまでの出来事を必死に思い出していた。自分はこの男を裏切ろうとしている。そんな事がバレたら、一巻の終わりだ。辻褄が合うように話をしなければならない。
「暗殺から逃れたとは聞いていましたが、お元気そうなお顔を見れて、嬉しいです」
「身内に命を狙われるとは、恥ずかしい限りだ」
男はいつものように、爽やかな笑みを浮かべている。この笑顔を見ると安心する。頭に乗った手も、とてもあたたかい。少女がひとつ深呼吸をすると、心拍数が下がったような気がした。
「導師を探しにバチカルへ?」
「いや、レプリカが城を出たのは暗殺騒ぎが原因でな。その責任を取るため、ここに来た」
その後は、レプリカルーク達と共にアクぜリュスへ向かうことになるだろう。少女はその言葉を聞いて、息を呑んだ。その時が迫っているのだ。レプリカルークが、死ぬときが。
「導師イオンの誘拐はお任せください。ただ……」
「ただ?」
少女はどうしても聞きたかった。この男が、何を考えているのか。端の端でもいい、自分と少年のこれからのために、情報を集めておきたい。
ヴァンがレプリカルーク一行と行動を共にすれば、もう会えないだろう。直接のチャンスは今しかなさそうだ。
「何故今まで、解咒のことを教えてくださらなかったのですか?解咒の目的は?」
核心に迫った。少女はそのつもりだったが、男は表情を崩さなかった。ヴァンにとっては全て織り込み済みなのかもしれない。自分たちが彼に疑いを向けることまで。そう思うと、足が震える。
「預言を覆すには、世界を手中に収める必要がある」
「大地の柱であるセフィロトを押さえれば、それが叶うと?」
「そうだ。技術的な説明は難しい。ダアトに戻ってゆっくりと話すつもりだったのだが……導師の脱走やレプリカの失踪で叶わなくてな」
言っている意味はわかる。預言を覆すなどという大きな計画を練っているのだ。世界を動かすための機構を乗っ取るくらいのことはしてもおかしくない。だからと言って、ヴァンを信用するに足る内容ではないが。
少女は首を傾げながら、低い声で威嚇する。
「話してくださらなかったのは、難しい話だから、ですか」
「そうではない。セフィロトは、鉱山の街……アクぜリュスにもある。アッシュを連れて行けば、どうなると思う」
ヴァンの顔が曇ったかと思えば、レプリカの死に場所が告げられた。いや、違う。男の言うところでは『聖なる焔の光の死に場所』だ。少女は、その意味を察した。
「レプリカよりも先にアッシュ様がアクぜリュスに行けば、アッシュ様が死んでしまう……?」
「預言は絶対だ。アッシュにその気がなくても、ローレライの干渉で超振動が暴発するかもしれない」
ヴァンは眉を下げ、鬼気迫る調子で言った。少女にとって、こんなヴァンの顔を見るのは初めてだった。いつも余裕ありげに微笑むこの男。だからこそ、ついていきたいと思えた。しかし、今の顔は頼りになる上司というより、アッシュを心配する優しい父のようだ。
「どうしても、アッシュをアクぜリュスに連れて行きたくなかったのだ。わかってくれ」
「では、何故今回から」
「コーラル城を勝手に使ったのは、私を信頼していないからだろう。秘密にすることで最悪の事態を避けようとしていたが、無理があった」
「では、アクぜリュスの解咒には……」
「お前なら、アッシュを説得できるだろう。頼む、アッシュをアクぜリュスに行かせないでくれ」
大人の男が懇願する姿を見て、少女の心は揺らいだ。いや、揺らいだだけではない、傾いた。
ヴァンがこれほどまでにアッシュのことを心配している。アッシュのことで取り乱している。少女はそれが嬉しくて嬉しくて、口角が上がるのを隠しきることができなかった。
「わかりました、任せてください。必ず、アッシュ様を死なせないようにします」
――少女の心は、まだ自分の元にある。
ヴァンはそう確信して、ほくそ笑んだ。しかし、少女の目には、優しく微笑んだようにしか見えなかった。