外殻大地編
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「アッシュ、アンタのおかげで音符盤が盗まれたんだ。勝手な行動はよしてよね」
「フン」
「まあまあ、アレを見て同位体の研究結果だとは誰も思いませんよ」
シンクが少年に詰め寄るが、ディストがそれを止める。少女はただ頭を下げて、その様子を見ていた。
ディスト曰く、同調フォンスロットの解放には成功したらしい。しかし、ヴァンと六神将にその動きを掴まれてしまった。幸い、離反の疑いはかけられていないようだが。
「私としては、フォミクリーのデータが取れたので大満足なんですけどねぇ」
ディストが鼻息を荒らげながら言う。音符盤は盗まれたが、データは取り戻すことができたらしい。齢35になる男は、その書類に頬ずりした。
空飛ぶ椅子に乗っているのもそうだが、ディストという男はいつも自由だ。教団の思惑だとか、ヴァンの思惑だとか、そういった次元とは別で生きているように見える。
少女は自分達を庇うディストの姿を見て、微笑んだ。この男の自由なところは大好きだ。
「……レプリカに何かをさせようなんて、高望みすぎる。あんなの、アンタの代わりに死ぬのが関の山さ」
シンクが絶対零度の声色で言う。普段からシンクは冷酷だが、時折、スイッチが入ったように、態度まで冷たくなることがある。
勝手な行動を取ったからだろうか。少女はその空気を嫌い、おずおずと話し出した。
「どうせ死ぬなら、使い潰そうと思いまして」
少女の言葉を聞いて、シンクは口元をキュッと結んだ。少女は当たり前の事を言ったつもりだった。しかし、彼を纏う雰囲気は、重く、黒く、形を変えていった。
少女が震えながらアッシュの傍らに駆け寄ると、アッシュはシンクを睨みつける。
「何か可笑しいことを言ったか?」
シンクはその光景を見て、ふん、とだけ言って、部屋を出て行った。その際に、封筒を1枚、投げて寄越した。
「シンクも、つくづくわかりにくい人ですね」
「お前ほどではないがな」
呆れ顔のディストを一蹴し、少年は封筒を開ける。それは、ヴァンからの命令書だった。
『セフィロト解咒の為、導師イオンをザオ遺跡まで誘拐すること』
「……これは」
「ヴァン様は、解咒のことを私達に内緒にしていたはずでは?」
命令書の内容は、意外なものだった。自分達に隠されていたはずの情報が、堂々と文字として刻まれている。あれだけ追い求めていたはずの秘密が、こんなにあっさりと明かされるなんて。
動揺する2人の背後から、ディストが命令書を覗き込む。
「おや、ヴァンは考えを変えたのですね」
「どういうことだ」
「全てが整ってからアッシュに伝えるとの事だったのですが。今回の命令違反があったからでしょうか」
素知らぬ顔で言うディストを、少年が壁に追い詰める。
「他に何を隠している」
「し、知りませんよ、あのレプリカが完全同位体であったことも、ヴァンは秘密にしていたんです。私だって全てのことは……」
「チッ」
少年は舌打ちをして、ディストを解放した。逃げるようにディストは部屋を去っていく。何を聞いても答える気がない、といった様子だった。
ディストはヴァンの思惑の外側を動いているが、必ずしも、少年少女の味方というわけではなさそうだ。
「秘密は小出しにしたほうがいい、か」
少年は、以前ヴァンが言った言葉を思い出した。その時は少女を懐柔する方法として言っていたが、きっと、自分も同じように懐柔されているのだろう。渇望したところで飴を与える。その飴は、より甘く感じられる。
「……今は従うフリをするしかない。バチカルで導師を待ち受ける。船を動かせ」
「はい!」
その手には乗らないぞと言わんばかりに、少年は真っ直ぐな視線で少女を見た。少女も、それに応えるように大きな声で返事をした。
操縦席に向かうと、シンクがいた。
先程怒らせてしまった手前、下手な事は言えない。少女はできるだけ声色を落ち着けて話しかける。
「シンク様、アッシュ様が……」
「バチカルへ行くんだろ?もう向かってるよ」
少女は言葉を遮られて、黙った。命令書を寄越したのは彼だ。行き先を予測するのは容易いだろう。
少女が立ち尽くしていると、シンクがひとりでに話し出す。
「アンタ、本当にアッシュの事が好きだよね」
どうして急にそんな事を言い出すのか、少女にはわからなかった。少女が戸惑っていると、シンクが振り向く。口元が笑っている。
からかっているんだ。少女はそう思った。
「それは……上司ですから」
「ただの上司の腕を掴んだりするワケ?」
シンクが言っているのは、つい先程の事だろう。怒っている様子だったシンクから離れるために、少女はアッシュの腕を掴んだ。確かに、部下が上司にする振る舞いではないかもしれない。しかし、咄嗟のことだったのだ。少女は言葉を選びながら返す。
「長い時間共にいれば、相手の事を知る機会が多くあります。……おのずと、信頼してしまうものかと」
少女は本当にそう思っていた。否、そう思い込むようにしていた。
他に誰もいない環境で2人きりになれば、愛着が湧くのは必然だ。多くの人の中から相手を見つける愛とは、違う。
少女は、自分が少年に対して抱く感情を、整理しきれずにいた。愛情を感じる。友情も感じる。尊敬も、それに慕情も。しかし、彼の心の中には、レプリカルークやナタリア王女への執着が残っている。それを邪魔することなどできない。
少女は自分の気持ちを「必然のもの」とすることで、昇華しようとしていた。
「僕の部下になってたら、僕に尻尾振ってたってワケ?」
「そうだと思います」
だから、もちろん答えはイエスだ。
「とんだ尻軽女だね」
「尻尾は振っていても、尻を差し出してはいませんよ」
少女は、風貌に似合わない下品な言葉を吐いた後、手で口元を押さえた。つい相手の調子に合わせてしまった。言い慣れていないから、変な感じだ。
しかし、弁解はしておきたかった。本当に少年とは何も無いのだから。
「振り回されるのが好きみたいだし、アッシュのガサツなところが気に入ってるんじゃない?」
「境遇と時間による信頼関係だと言ったじゃないですか」
少女がピシャリと否定すると、少年の顔色が曇る。と言っても、仮面越しにしかわからないが。
彼は怒っている。少女はそれを感じて、逃げられるようにと後ずさりした。
「……境遇なんて理由にされたら、どうしようもないだろ」
シンクは、ちいさなちいさな声で呟いた。
少女はそれを聴き取ったが、何を意味しているのか、察することはできなかった。
ニヤニヤと人をからかっていたかと思えば、突然怒り出す。その情緒は、少女の理解の及ばないところにある。烈風のシンクは、きっと自分の知る由もない何かを抱えているのだろう。少女はそう感じた。だからといって、少女に何かできる訳ではない。
「……いつか、シンク様とも、ゆっくりお話できる時間が来るといいなと思います」
少女はそれだけ言って、操縦室を後にした。
「フン」
「まあまあ、アレを見て同位体の研究結果だとは誰も思いませんよ」
シンクが少年に詰め寄るが、ディストがそれを止める。少女はただ頭を下げて、その様子を見ていた。
ディスト曰く、同調フォンスロットの解放には成功したらしい。しかし、ヴァンと六神将にその動きを掴まれてしまった。幸い、離反の疑いはかけられていないようだが。
「私としては、フォミクリーのデータが取れたので大満足なんですけどねぇ」
ディストが鼻息を荒らげながら言う。音符盤は盗まれたが、データは取り戻すことができたらしい。齢35になる男は、その書類に頬ずりした。
空飛ぶ椅子に乗っているのもそうだが、ディストという男はいつも自由だ。教団の思惑だとか、ヴァンの思惑だとか、そういった次元とは別で生きているように見える。
少女は自分達を庇うディストの姿を見て、微笑んだ。この男の自由なところは大好きだ。
「……レプリカに何かをさせようなんて、高望みすぎる。あんなの、アンタの代わりに死ぬのが関の山さ」
シンクが絶対零度の声色で言う。普段からシンクは冷酷だが、時折、スイッチが入ったように、態度まで冷たくなることがある。
勝手な行動を取ったからだろうか。少女はその空気を嫌い、おずおずと話し出した。
「どうせ死ぬなら、使い潰そうと思いまして」
少女の言葉を聞いて、シンクは口元をキュッと結んだ。少女は当たり前の事を言ったつもりだった。しかし、彼を纏う雰囲気は、重く、黒く、形を変えていった。
少女が震えながらアッシュの傍らに駆け寄ると、アッシュはシンクを睨みつける。
「何か可笑しいことを言ったか?」
シンクはその光景を見て、ふん、とだけ言って、部屋を出て行った。その際に、封筒を1枚、投げて寄越した。
「シンクも、つくづくわかりにくい人ですね」
「お前ほどではないがな」
呆れ顔のディストを一蹴し、少年は封筒を開ける。それは、ヴァンからの命令書だった。
『セフィロト解咒の為、導師イオンをザオ遺跡まで誘拐すること』
「……これは」
「ヴァン様は、解咒のことを私達に内緒にしていたはずでは?」
命令書の内容は、意外なものだった。自分達に隠されていたはずの情報が、堂々と文字として刻まれている。あれだけ追い求めていたはずの秘密が、こんなにあっさりと明かされるなんて。
動揺する2人の背後から、ディストが命令書を覗き込む。
「おや、ヴァンは考えを変えたのですね」
「どういうことだ」
「全てが整ってからアッシュに伝えるとの事だったのですが。今回の命令違反があったからでしょうか」
素知らぬ顔で言うディストを、少年が壁に追い詰める。
「他に何を隠している」
「し、知りませんよ、あのレプリカが完全同位体であったことも、ヴァンは秘密にしていたんです。私だって全てのことは……」
「チッ」
少年は舌打ちをして、ディストを解放した。逃げるようにディストは部屋を去っていく。何を聞いても答える気がない、といった様子だった。
ディストはヴァンの思惑の外側を動いているが、必ずしも、少年少女の味方というわけではなさそうだ。
「秘密は小出しにしたほうがいい、か」
少年は、以前ヴァンが言った言葉を思い出した。その時は少女を懐柔する方法として言っていたが、きっと、自分も同じように懐柔されているのだろう。渇望したところで飴を与える。その飴は、より甘く感じられる。
「……今は従うフリをするしかない。バチカルで導師を待ち受ける。船を動かせ」
「はい!」
その手には乗らないぞと言わんばかりに、少年は真っ直ぐな視線で少女を見た。少女も、それに応えるように大きな声で返事をした。
操縦席に向かうと、シンクがいた。
先程怒らせてしまった手前、下手な事は言えない。少女はできるだけ声色を落ち着けて話しかける。
「シンク様、アッシュ様が……」
「バチカルへ行くんだろ?もう向かってるよ」
少女は言葉を遮られて、黙った。命令書を寄越したのは彼だ。行き先を予測するのは容易いだろう。
少女が立ち尽くしていると、シンクがひとりでに話し出す。
「アンタ、本当にアッシュの事が好きだよね」
どうして急にそんな事を言い出すのか、少女にはわからなかった。少女が戸惑っていると、シンクが振り向く。口元が笑っている。
からかっているんだ。少女はそう思った。
「それは……上司ですから」
「ただの上司の腕を掴んだりするワケ?」
シンクが言っているのは、つい先程の事だろう。怒っている様子だったシンクから離れるために、少女はアッシュの腕を掴んだ。確かに、部下が上司にする振る舞いではないかもしれない。しかし、咄嗟のことだったのだ。少女は言葉を選びながら返す。
「長い時間共にいれば、相手の事を知る機会が多くあります。……おのずと、信頼してしまうものかと」
少女は本当にそう思っていた。否、そう思い込むようにしていた。
他に誰もいない環境で2人きりになれば、愛着が湧くのは必然だ。多くの人の中から相手を見つける愛とは、違う。
少女は、自分が少年に対して抱く感情を、整理しきれずにいた。愛情を感じる。友情も感じる。尊敬も、それに慕情も。しかし、彼の心の中には、レプリカルークやナタリア王女への執着が残っている。それを邪魔することなどできない。
少女は自分の気持ちを「必然のもの」とすることで、昇華しようとしていた。
「僕の部下になってたら、僕に尻尾振ってたってワケ?」
「そうだと思います」
だから、もちろん答えはイエスだ。
「とんだ尻軽女だね」
「尻尾は振っていても、尻を差し出してはいませんよ」
少女は、風貌に似合わない下品な言葉を吐いた後、手で口元を押さえた。つい相手の調子に合わせてしまった。言い慣れていないから、変な感じだ。
しかし、弁解はしておきたかった。本当に少年とは何も無いのだから。
「振り回されるのが好きみたいだし、アッシュのガサツなところが気に入ってるんじゃない?」
「境遇と時間による信頼関係だと言ったじゃないですか」
少女がピシャリと否定すると、少年の顔色が曇る。と言っても、仮面越しにしかわからないが。
彼は怒っている。少女はそれを感じて、逃げられるようにと後ずさりした。
「……境遇なんて理由にされたら、どうしようもないだろ」
シンクは、ちいさなちいさな声で呟いた。
少女はそれを聴き取ったが、何を意味しているのか、察することはできなかった。
ニヤニヤと人をからかっていたかと思えば、突然怒り出す。その情緒は、少女の理解の及ばないところにある。烈風のシンクは、きっと自分の知る由もない何かを抱えているのだろう。少女はそう感じた。だからといって、少女に何かできる訳ではない。
「……いつか、シンク様とも、ゆっくりお話できる時間が来るといいなと思います」
少女はそれだけ言って、操縦室を後にした。