外殻大地編
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「アリエッタ様が、レプリカ誘拐に協力してくれるそうです」
「そうか。だが、機会があれば俺達も行動する」
「はい」
カイツールは刺々しい緊張感に包まれていた。無理もない、現在のキムラスカとマルクトは、開戦寸前なのだ。
六神将それぞれが分散し、レプリカルーク一行を探す。少年と少女は、国境近くを見張っていた。検問所の屋根の上で2人、街を眺める。
「海岸線の景色は美しいですね」
少女の放った言葉は、そのまま宙に消えた。
こんな時に景色の美しさを楽しんでいる。少年は、そんな少女の意図を理解できなかった。いつあの出来損ないが現れるかわからない。自分は、景色など見ていられない。
少女も内心は落ち着かなかった。イオン奪還作戦が始まってからというもの、ハラハラしたり、迷ったり、そんなことばかり。だからこそ、普段通りに振る舞いたくて、景色の話をしたのだ。
「……あれは、導師守護役の」
マルクト側の入り口から、導師守護役のアニスがやって来た。旅券が無いが通してくれと、ゴネているようだった。
彼女が来たということは、他の面々が合流する可能性が高い。少年と少女は目を凝らして、マルクト側の街を見渡す。すると、鮮やかな赤髪が目についた。レプリカだ。
「俺が行く、危険を感じたらお前は逃げろ。タルタロスで落ち合う」
レプリカルーク一行とアニスが合流し、まとまりになってこちらへ向かって来る。隙を窺って、レプリカのみを捕らえなければならない。少年は耳を澄ませて、会話を聞き取ろうとする。しかし、少女は少年の姿を見ていた。少年は、タルタロスでレプリカと出会った時のような、恨みのこもった目をしていた。
「ところで、どうやって検問所を越えますか?私もルークも旅券がありません」
「ここで死ぬ奴に、そんなものはいらねぇよ!」
少年は突然屋根から飛び降り、レプリカルークを斬りつけた。
タルタロスの時と同じだ。感情に任せて、剣を振るっている。少女は止めようと思ったが、その前にヴァンがそれを止めた。
「退け、アッシュ!」
「……ヴァン、どけ!」
「どういうつもりだ。私はお前にこんな命令を下した覚えはない。――退け!!」
まさか、ヴァンと出くわしてしまうとは。少女は動揺したが、それよりも、少年の心中を案じた。少年が走り去るのを見届けると、少女はキムラスカ側の道に飛び降りる。
「おい、待て!」
キムラスカの兵が少女を止めるが、少女はそのまま走り去った。それぞれの持ち場がある兵士は、そう簡単には追って来れない。少女はそのまま、ひとりタルタロスへ向かった。
「後は、アリエッタに任せるしかない」
船に戻れば、少年はうなだれた様子で座っていた。少女はそんな少年にスープを振る舞う。この船のキッチンも、そろそろ使い慣れてきた。
ついこの間も、レプリカと対峙した少年をここで慰めようとした気がする。少女は既視感をおぼえて、つい、ため息をついた。
「あまり、感情的になってはいけませんよ」
少女の一言に、少年は反応しない。そんなことはとっくにわかっている。怒りに身を任せても、いい結果は生まれない。それでも、あの顔を見ると、勝手に体が動いてしまうのだ。
もしも、自分が少年の立場だったら。少女は想像してみた。しかし、泣き喚いたり、弱音を吐いたりする自分は想像できても、怒る自分は思い浮かべられなかった。
「この境遇は、すべてヴァン様がもたらしたのですよ。もし、怒るとしたら……」
「うるせぇ!」
久しぶりに聞いた、少年の怒鳴り声。驚いた弾みで、少女は手に持っていたスープをこぼした。おぼつかない足取りで布巾を手に取り、床のスープを拭き取る。
怒らせてしまった。少年を責めてしまった。余裕が無いのは当たり前なのに。少女は頭の中にぐるぐると回る後悔を落ち着けるため、必死で床を拭き続けた。
少年は黙ってその姿を見ていた。少女は布巾を洗ってから、少年に向き直る。
「申し訳ありません。立場をわきまえず説教など」
冷たい、業務的な声色で少女は言う。しかし、その瞳は揺れていた。手先も、足元も、震えている。
強がっているのだ。少年はそう思って、少女の手を取った。
「え?」
「すまない」
「はは……」
少女は椅子に崩れ落ちた。自分の軽々しい言動で、嫌われたかと思った。よかった。そうじゃなかったんだ。心配してくれた。
安堵するのと同時に、少女は、自分を慰めようとする少年の姿を見て、情けなくなった。最初は、自分が彼を慰めようとしていたはずなのに。
「いえ、こちらこそ、予定通りに行かず苛々していたみたいです」
少年も少女も、互いを責めたいわけではない。しかし、この緊迫した状況だ。2人の情緒は、常にゆらゆらと揺れ続けていた。怒りと、悲しみと、迷いと、不安が、ランダムにやって来る。ぶつけられる相手も、止めてくれる相手も、互いしかいない。
少年は落ち着いた様子で、スープのおかわりを少女に差し出した。
「立場を奪われた事を恨んでいるわけではない」
「……」
「あんなグズが俺の身代わりだと思うと、許せないだけだ」
それは、一見納得のいく理由だった。しかし少女は気付いてしまった。少年が、あのレプリカを"自分の代わり"として認めているということに。少年は、自分の"ルーク・フォン・ファブレ"の部分を、彼に任せているのだ。
少年は過去を断ち切れていないどころか、自分の分身に期待している。その事実が、少女には堪えた。
2人で、任務をこなしてきた。2人で、ヴァンに従うか逃げるか、宙ぶらりんな辛さを分かち合った。しかし少年の目には、自分以外の世界も映っているのだ。
少女は悲しいような、それでも、分身を愛す少年が可愛いような気がして、眉を下げながら笑った。
「同調フォンスロットが解放されれば、グズなレプリカも、役に立ってくれるかもしれませんね」
少女がそう言うと、少年は小さく「ああ」とつぶやいた。
少年は、微笑んでいるように見えた。
「そうか。だが、機会があれば俺達も行動する」
「はい」
カイツールは刺々しい緊張感に包まれていた。無理もない、現在のキムラスカとマルクトは、開戦寸前なのだ。
六神将それぞれが分散し、レプリカルーク一行を探す。少年と少女は、国境近くを見張っていた。検問所の屋根の上で2人、街を眺める。
「海岸線の景色は美しいですね」
少女の放った言葉は、そのまま宙に消えた。
こんな時に景色の美しさを楽しんでいる。少年は、そんな少女の意図を理解できなかった。いつあの出来損ないが現れるかわからない。自分は、景色など見ていられない。
少女も内心は落ち着かなかった。イオン奪還作戦が始まってからというもの、ハラハラしたり、迷ったり、そんなことばかり。だからこそ、普段通りに振る舞いたくて、景色の話をしたのだ。
「……あれは、導師守護役の」
マルクト側の入り口から、導師守護役のアニスがやって来た。旅券が無いが通してくれと、ゴネているようだった。
彼女が来たということは、他の面々が合流する可能性が高い。少年と少女は目を凝らして、マルクト側の街を見渡す。すると、鮮やかな赤髪が目についた。レプリカだ。
「俺が行く、危険を感じたらお前は逃げろ。タルタロスで落ち合う」
レプリカルーク一行とアニスが合流し、まとまりになってこちらへ向かって来る。隙を窺って、レプリカのみを捕らえなければならない。少年は耳を澄ませて、会話を聞き取ろうとする。しかし、少女は少年の姿を見ていた。少年は、タルタロスでレプリカと出会った時のような、恨みのこもった目をしていた。
「ところで、どうやって検問所を越えますか?私もルークも旅券がありません」
「ここで死ぬ奴に、そんなものはいらねぇよ!」
少年は突然屋根から飛び降り、レプリカルークを斬りつけた。
タルタロスの時と同じだ。感情に任せて、剣を振るっている。少女は止めようと思ったが、その前にヴァンがそれを止めた。
「退け、アッシュ!」
「……ヴァン、どけ!」
「どういうつもりだ。私はお前にこんな命令を下した覚えはない。――退け!!」
まさか、ヴァンと出くわしてしまうとは。少女は動揺したが、それよりも、少年の心中を案じた。少年が走り去るのを見届けると、少女はキムラスカ側の道に飛び降りる。
「おい、待て!」
キムラスカの兵が少女を止めるが、少女はそのまま走り去った。それぞれの持ち場がある兵士は、そう簡単には追って来れない。少女はそのまま、ひとりタルタロスへ向かった。
「後は、アリエッタに任せるしかない」
船に戻れば、少年はうなだれた様子で座っていた。少女はそんな少年にスープを振る舞う。この船のキッチンも、そろそろ使い慣れてきた。
ついこの間も、レプリカと対峙した少年をここで慰めようとした気がする。少女は既視感をおぼえて、つい、ため息をついた。
「あまり、感情的になってはいけませんよ」
少女の一言に、少年は反応しない。そんなことはとっくにわかっている。怒りに身を任せても、いい結果は生まれない。それでも、あの顔を見ると、勝手に体が動いてしまうのだ。
もしも、自分が少年の立場だったら。少女は想像してみた。しかし、泣き喚いたり、弱音を吐いたりする自分は想像できても、怒る自分は思い浮かべられなかった。
「この境遇は、すべてヴァン様がもたらしたのですよ。もし、怒るとしたら……」
「うるせぇ!」
久しぶりに聞いた、少年の怒鳴り声。驚いた弾みで、少女は手に持っていたスープをこぼした。おぼつかない足取りで布巾を手に取り、床のスープを拭き取る。
怒らせてしまった。少年を責めてしまった。余裕が無いのは当たり前なのに。少女は頭の中にぐるぐると回る後悔を落ち着けるため、必死で床を拭き続けた。
少年は黙ってその姿を見ていた。少女は布巾を洗ってから、少年に向き直る。
「申し訳ありません。立場をわきまえず説教など」
冷たい、業務的な声色で少女は言う。しかし、その瞳は揺れていた。手先も、足元も、震えている。
強がっているのだ。少年はそう思って、少女の手を取った。
「え?」
「すまない」
「はは……」
少女は椅子に崩れ落ちた。自分の軽々しい言動で、嫌われたかと思った。よかった。そうじゃなかったんだ。心配してくれた。
安堵するのと同時に、少女は、自分を慰めようとする少年の姿を見て、情けなくなった。最初は、自分が彼を慰めようとしていたはずなのに。
「いえ、こちらこそ、予定通りに行かず苛々していたみたいです」
少年も少女も、互いを責めたいわけではない。しかし、この緊迫した状況だ。2人の情緒は、常にゆらゆらと揺れ続けていた。怒りと、悲しみと、迷いと、不安が、ランダムにやって来る。ぶつけられる相手も、止めてくれる相手も、互いしかいない。
少年は落ち着いた様子で、スープのおかわりを少女に差し出した。
「立場を奪われた事を恨んでいるわけではない」
「……」
「あんなグズが俺の身代わりだと思うと、許せないだけだ」
それは、一見納得のいく理由だった。しかし少女は気付いてしまった。少年が、あのレプリカを"自分の代わり"として認めているということに。少年は、自分の"ルーク・フォン・ファブレ"の部分を、彼に任せているのだ。
少年は過去を断ち切れていないどころか、自分の分身に期待している。その事実が、少女には堪えた。
2人で、任務をこなしてきた。2人で、ヴァンに従うか逃げるか、宙ぶらりんな辛さを分かち合った。しかし少年の目には、自分以外の世界も映っているのだ。
少女は悲しいような、それでも、分身を愛す少年が可愛いような気がして、眉を下げながら笑った。
「同調フォンスロットが解放されれば、グズなレプリカも、役に立ってくれるかもしれませんね」
少女がそう言うと、少年は小さく「ああ」とつぶやいた。
少年は、微笑んでいるように見えた。