プロローグ編
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今日は、朝からアッシュの姿が見当たらなかった。
これまでを考えれば珍しいことでもない。しかし、少女は落ち着かなかった。
大抵彼の行う任務は、モースからヴァンを通して命じられる。それは「特務師団」に向けてのもので、団員の誰が向かうかは自由だ。アッシュはここ数回、連続で菜真絵を同行させていた。
自分を置いていくなんて。
少女はそう思ったが、さすがに自惚れすぎかもしれない。自分は少年より弱い。難しい任務であれば、置いて行かれるのも当然だ。
少女が廊下をうろうろと歩いていると、ヴァンに声をかけられた。
「アッシュの居場所を知らないか」
「ベルケンドに行くと書き置きが。任務ではないのですね」
「単独行動は控えろと言っているのだがな」
少年の行方を案じているのは、ヴァンも同じらしい。どうやら少年は私用で出掛けているようだ。
ヴァンは少女の不安げな表情を見て、思案した。
「最近、アッシュと仲が良いようだな」
ここ最近、少年と少女は常に一緒にいた。任務に行くのも、食事をするのも。ただの上司と部下ではない。誰もが2人を見てそう思っていた。ごくごく狭い範囲でだが、色っぽい噂も流れ始めている。
「はい。以前よりは、ずっと」
少女は照れることなく、笑顔で答えた。少なくとも、噂のような関係ではないらしい。
「私の言った通りになったな」
少女は以前、ヴァンに言われたことを思い出した。
「アッシュには信頼できる相手が必要だ」
自分は彼にとって、そんな存在になれただろうか。でも、少なくとも主席総長からはそう見えているという事で。
少女は笑顔を更に崩して、えへへと笑った。努力が報われたようで、嬉しい。
「少し時間をとれるか?」
「アッシュ様への伝言ですか?」
「いや、お前に伝えたいことがある」
少女が首をぐーっと傾げると、ヴァンはくすりと笑った。どうやら説教の類ではないらしい。少女は胸を撫で下ろして、ヴァンの後ろを追いかけた。
「私がお前を部下にしたいと言った理由はわかるか」
部屋に着くなりヴァンが投げかけたのは、今更、と言いたくなるような質問だった。少女にとっては、初めてここに来たときから疑問に思っていた事だ。なぜだか自分はヴァンに好かれている。でも、理由はわからない。少女は温めてきた予想を、次々に並べていく。
「モース様に恩を売るため、私を盾にして身を守るため、私の権力を利用するため……でも、ヴァン様なら私の力などなくても……」
「これは参ったな」
ヴァンが苦笑いを浮かべると、少女はハッとした。失礼な事を言ってしまった。少女が慌てて90°の礼をすると、ヴァンの手が、頭に乗っかった。
「正直な所も気に入っている」
ケセドニアで助けてもらった時みたいだ。少女はそう思った。慈愛に満ちた、優しい手。
仕事ができて、冷製で、常に緊張感がある。そんな男が一瞬だけ、ふわりと柔らかい雰囲気を纏う。少女はヴァンに頭を撫でられることが好きだった。
「そういえば、初めて会った時に『部下にしたい』と言ってくださいましたね」
「覚えていたか」
「あの時も私、失礼な事を……」
預言に背いてでも人命を助けるか。
少女はそう質問した。しかし、教団員にする質問ではなかった。教団員にとって、預言を守ることは最も重要な仕事だ。イエスと答える人など、いるはずがない。
「あの時の答えだが」
「は、はい」
「私は預言を覆してでも、正しい未来を掴み取りたいと考えている」
預言を覆す。
その言葉を聞いて、少女は目を輝かせた。それはヴァンから見ても良く分かった。
あの時少女が欲しかった答え。少女が、そして赤髪の少年が、望んでいる未来。それを目の前の男が示している。
少女は思い出した。ヴァンはアッシュのレプリカを作り、アッシュを預言から守った。それはただ、ヴァンがアッシュへ愛情を持っていたからだと思っていた。でも違った。ヴァンは預言に立ち向かおうとしたのだ。預言で失うはずだった命を救おうとしたのだ。
「お前は、預言を嫌っているのだろう」
「……はい。わかっておられたのですね」
「私達は預言の無い世界を実現するために計画を練っている」
「それは、アッシュ様もご存知で?」
「もちろんだ」
少女が間髪入れずに問いかけると、ヴァンは笑った。
2人は本当に仲が良いらしい。それはとても好ましいことだ。菜真絵の存在が、アッシュがここに留まる理由になる。ともすれば人質にもなる。全ては計画通りに動いている。アッシュには、守りたい存在が必要なのだ。
ヴァンはほくそ笑んだが、少女から見れば、さわやかな笑顔にしか見えなかった。
「いずれお前の力が必要になる。協力してくれないか」
「……それは、」
「モースを、教団を裏切る日が来るかもしれない。お前を盾にして身を守る、というのも、あながち間違いではないな」
少女は考えた。自分を守ってくれたモースを、教団を、裏切ってもいいのかと。預言の力無しで生きていけるのかと。それでも、少年とヴァンと六神将と共に過ごす自由な未来は、魅力的だった。
「私が同じ思想を持っているから、誘ってくださったのですね」
「そうだ。わかってくれるだろうか」
「はい。できるだけのことは、させて頂きたいです」
少女とヴァンは手を出し合って、握手をした。
少女は震えていた。怖い。大きな権力に立ち向かうなど、したことも考えたこともない。とんでもないところに足を踏み入れてしまった。そう感じた。
手の震えを抑えるように、ヴァンがもう片方の手を差し出す。
その手は、とても温かかった。
これまでを考えれば珍しいことでもない。しかし、少女は落ち着かなかった。
大抵彼の行う任務は、モースからヴァンを通して命じられる。それは「特務師団」に向けてのもので、団員の誰が向かうかは自由だ。アッシュはここ数回、連続で菜真絵を同行させていた。
自分を置いていくなんて。
少女はそう思ったが、さすがに自惚れすぎかもしれない。自分は少年より弱い。難しい任務であれば、置いて行かれるのも当然だ。
少女が廊下をうろうろと歩いていると、ヴァンに声をかけられた。
「アッシュの居場所を知らないか」
「ベルケンドに行くと書き置きが。任務ではないのですね」
「単独行動は控えろと言っているのだがな」
少年の行方を案じているのは、ヴァンも同じらしい。どうやら少年は私用で出掛けているようだ。
ヴァンは少女の不安げな表情を見て、思案した。
「最近、アッシュと仲が良いようだな」
ここ最近、少年と少女は常に一緒にいた。任務に行くのも、食事をするのも。ただの上司と部下ではない。誰もが2人を見てそう思っていた。ごくごく狭い範囲でだが、色っぽい噂も流れ始めている。
「はい。以前よりは、ずっと」
少女は照れることなく、笑顔で答えた。少なくとも、噂のような関係ではないらしい。
「私の言った通りになったな」
少女は以前、ヴァンに言われたことを思い出した。
「アッシュには信頼できる相手が必要だ」
自分は彼にとって、そんな存在になれただろうか。でも、少なくとも主席総長からはそう見えているという事で。
少女は笑顔を更に崩して、えへへと笑った。努力が報われたようで、嬉しい。
「少し時間をとれるか?」
「アッシュ様への伝言ですか?」
「いや、お前に伝えたいことがある」
少女が首をぐーっと傾げると、ヴァンはくすりと笑った。どうやら説教の類ではないらしい。少女は胸を撫で下ろして、ヴァンの後ろを追いかけた。
「私がお前を部下にしたいと言った理由はわかるか」
部屋に着くなりヴァンが投げかけたのは、今更、と言いたくなるような質問だった。少女にとっては、初めてここに来たときから疑問に思っていた事だ。なぜだか自分はヴァンに好かれている。でも、理由はわからない。少女は温めてきた予想を、次々に並べていく。
「モース様に恩を売るため、私を盾にして身を守るため、私の権力を利用するため……でも、ヴァン様なら私の力などなくても……」
「これは参ったな」
ヴァンが苦笑いを浮かべると、少女はハッとした。失礼な事を言ってしまった。少女が慌てて90°の礼をすると、ヴァンの手が、頭に乗っかった。
「正直な所も気に入っている」
ケセドニアで助けてもらった時みたいだ。少女はそう思った。慈愛に満ちた、優しい手。
仕事ができて、冷製で、常に緊張感がある。そんな男が一瞬だけ、ふわりと柔らかい雰囲気を纏う。少女はヴァンに頭を撫でられることが好きだった。
「そういえば、初めて会った時に『部下にしたい』と言ってくださいましたね」
「覚えていたか」
「あの時も私、失礼な事を……」
預言に背いてでも人命を助けるか。
少女はそう質問した。しかし、教団員にする質問ではなかった。教団員にとって、預言を守ることは最も重要な仕事だ。イエスと答える人など、いるはずがない。
「あの時の答えだが」
「は、はい」
「私は預言を覆してでも、正しい未来を掴み取りたいと考えている」
預言を覆す。
その言葉を聞いて、少女は目を輝かせた。それはヴァンから見ても良く分かった。
あの時少女が欲しかった答え。少女が、そして赤髪の少年が、望んでいる未来。それを目の前の男が示している。
少女は思い出した。ヴァンはアッシュのレプリカを作り、アッシュを預言から守った。それはただ、ヴァンがアッシュへ愛情を持っていたからだと思っていた。でも違った。ヴァンは預言に立ち向かおうとしたのだ。預言で失うはずだった命を救おうとしたのだ。
「お前は、預言を嫌っているのだろう」
「……はい。わかっておられたのですね」
「私達は預言の無い世界を実現するために計画を練っている」
「それは、アッシュ様もご存知で?」
「もちろんだ」
少女が間髪入れずに問いかけると、ヴァンは笑った。
2人は本当に仲が良いらしい。それはとても好ましいことだ。菜真絵の存在が、アッシュがここに留まる理由になる。ともすれば人質にもなる。全ては計画通りに動いている。アッシュには、守りたい存在が必要なのだ。
ヴァンはほくそ笑んだが、少女から見れば、さわやかな笑顔にしか見えなかった。
「いずれお前の力が必要になる。協力してくれないか」
「……それは、」
「モースを、教団を裏切る日が来るかもしれない。お前を盾にして身を守る、というのも、あながち間違いではないな」
少女は考えた。自分を守ってくれたモースを、教団を、裏切ってもいいのかと。預言の力無しで生きていけるのかと。それでも、少年とヴァンと六神将と共に過ごす自由な未来は、魅力的だった。
「私が同じ思想を持っているから、誘ってくださったのですね」
「そうだ。わかってくれるだろうか」
「はい。できるだけのことは、させて頂きたいです」
少女とヴァンは手を出し合って、握手をした。
少女は震えていた。怖い。大きな権力に立ち向かうなど、したことも考えたこともない。とんでもないところに足を踏み入れてしまった。そう感じた。
手の震えを抑えるように、ヴァンがもう片方の手を差し出す。
その手は、とても温かかった。