プロローグ編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
2人は何度目かの任務を終え、グランコクマの宿屋に泊まっていた。
預言を振りかざして、人の未来を壊す。そんな任務を行った後だ。2人の表情は、どうしても優れない。
「外に出て歩くか。ここは景色が綺麗だ」
仏頂面の上司が、こんなことを言うなんて。少女は驚きつつも、微笑んで立ち上がった。
水の都と呼ばれるだけあって、グランコクマの景色はとても綺麗だ。歩いているだけで心が洗われる。
「この噴水も、音機関で動いているんですよね。不思議」
「菜真絵の世界に音機関は無いのか?」
「そもそも、音素という物質がありませんでした」
散歩の途中、少女は音機関の前で立ち止まった。水を吸い上げるポンプの機構が剥き出しになっている。それは、少女の住んでいた世界には見られない形をしていた。
「音素が無いのなら、どう過ごしていたんだ」
「電気か、ガソリン……油を燃やしたときの動力が主流でした」
少女にとって、音機関は理解の及ばない存在だった。だからこそ、見ていると楽しい。
瞳を輝かせる少女を見て、少年は微笑んだ。気晴らしになったのならよかった。
そういえば、少女の生まれた世界は、どんなところなのだろう。少女が話しているのを聞いたことがない。少年は気になって、少女に問う。
「ここに来る前は、どんな生活をしていたんだ?」
少年の言葉を聞いて、少女は驚いた。そんなことを聞かれたのは初めてだった。これまで誰も、昔の自分に関心なんて示さなかった。
「家族と暮らして、学校に通って、友達と会って……。何の変哲もない暮らしです」
「学校に通っていたのか」
「はい。私の国では、全ての子供が学校に通っていました」
何の変哲もない、と少女は言ったが、少年はそうは思わなかった。キムラスカ・ランバルディアで学校に通うのは、一部の富裕層だけだ。
「国によって違いがあるのか?」
「全然違います。190?200?くらいの国があって、言葉も、文化も、バラバラで……」
少年が質問すると、少女が答える。繰り返していくうちに、少女の住んだ「地球」「日本」の全貌が見えてくる。
少女は様々な仕組みの話をした。学校、飛行機、銀行、選挙、法律、宗教戦争……。明るい話から、暗い話まで。
「日本」は少年にとって、理想の世界だった。
全ての民が教育、医師の診療を受けられる。魔物もおらず、紛争もない。なにより、職業を、リーダーを、自分の意思で選ぶことができる。国王になるはずだった少年が、目指していた世界。
「この世界も、いずれニホンのようになるといいな」
そう呟く少年の目は、真っ直ぐ前を見ていた。
少女はその姿を見て、考えた。オールドラントの行く末など、考えたこともなかった。これまでは慣れることに必死で、世界を変えようなどと思ったこともなかった。でも、この地位があれば、この知識があれば、もしかしたら。
「もし本当に私が世界を導くのだとしたら、そんな世界にしたいです」
預言に縛られず、誰もが自分の未来を自分で選ぶことのできる世界。誰も殺されずに済む世界。
少女も少年も、同じ景色を思い浮かべていた。
宿屋に帰ると、少女は少年に、地球から持ち込んだ物を紹介した。教科書、時計、シャープペンシル、水筒など、中学校に持って行くはずだったものだ。
少年は、少女がこれほど生き生きと話す姿を初めて見た。少女は、少年がこれほど興味を持って話を聞く姿を初めて見た。
少年は教科書に目を留める。見たことのない難解な字が並んでいる。
「文字はここに来てから覚えたのか?」
「はい、そうです」
少女の話を聞くにつれ、少年は彼女の苦労を感じた。読み書きも、剣術も、少女はこの世界に来て半年で身につけたらしい。そのためにどれだけ努力しただろう。家族と、友人と引き離されて、心細くなかっただろうか。
少年はやっと理解した。この少女が預言を嫌うのは、当たり前のことなのだと。
少女は預言に守られている。だが、少女は預言に家族を、友人を、自由を奪われた。自分と同じだ。少年は初めてその事実に気がついた。
「……苦労したんだな」
「へ?」
「心細かっただろう、一人で、」
少年は言葉を続けようとしたが、自分に言っているみたいで、怖くなった。
話を遮ってしまった。謝ろうと菜真絵の顔を見ると、涙が流れていた。
「あ……」
初めてだ。初めて、自分の気持ちをわかってもらえた。期待と羨望ばかり受け続けてきたこの世界で、初めて、哀れに思ってもらえた。
「ごめんなさい……」
少女はただ感動して泣いた。張り続けていた緊張の糸が、急に切れたのだ。
しかし少年は、少女が悲しんで泣いていると思った。故郷を思い出し、寂しい思いをしているのだと。
「元の世界に戻る方法がないか、探してみよう。協力する」
元気づけたつもりだった。自分は味方だと、そう伝えたつもりだった。しかし少女はブンブンと首を振る。涙を流したままだが、笑顔だった。
「この世界を幸せに導くまでは帰れません」
その笑顔を見て、少年は安堵した。同時に気付いた。自分は少女に帰って欲しくないのだと。少女のいない明日を想像することが、少年にはできなくなっていた。
少女も同じだ。寂しくない訳ではない。心細くないはずがない。平気なら、教科書もペンも水筒も、持ち歩いたりしない。
それでも、もう未練などない。いや、たった今無くなった。
この世界の明日が見たい。彼の望む、自由な世界を手に入れたい。その気持ちのほうが、寂しさよりもずっと大きくなっている。
「……ああ。この世界を、変えてくれ」
窓から差し込む夕陽が眩しくて、お互いの顔が見れなかった。
預言を振りかざして、人の未来を壊す。そんな任務を行った後だ。2人の表情は、どうしても優れない。
「外に出て歩くか。ここは景色が綺麗だ」
仏頂面の上司が、こんなことを言うなんて。少女は驚きつつも、微笑んで立ち上がった。
水の都と呼ばれるだけあって、グランコクマの景色はとても綺麗だ。歩いているだけで心が洗われる。
「この噴水も、音機関で動いているんですよね。不思議」
「菜真絵の世界に音機関は無いのか?」
「そもそも、音素という物質がありませんでした」
散歩の途中、少女は音機関の前で立ち止まった。水を吸い上げるポンプの機構が剥き出しになっている。それは、少女の住んでいた世界には見られない形をしていた。
「音素が無いのなら、どう過ごしていたんだ」
「電気か、ガソリン……油を燃やしたときの動力が主流でした」
少女にとって、音機関は理解の及ばない存在だった。だからこそ、見ていると楽しい。
瞳を輝かせる少女を見て、少年は微笑んだ。気晴らしになったのならよかった。
そういえば、少女の生まれた世界は、どんなところなのだろう。少女が話しているのを聞いたことがない。少年は気になって、少女に問う。
「ここに来る前は、どんな生活をしていたんだ?」
少年の言葉を聞いて、少女は驚いた。そんなことを聞かれたのは初めてだった。これまで誰も、昔の自分に関心なんて示さなかった。
「家族と暮らして、学校に通って、友達と会って……。何の変哲もない暮らしです」
「学校に通っていたのか」
「はい。私の国では、全ての子供が学校に通っていました」
何の変哲もない、と少女は言ったが、少年はそうは思わなかった。キムラスカ・ランバルディアで学校に通うのは、一部の富裕層だけだ。
「国によって違いがあるのか?」
「全然違います。190?200?くらいの国があって、言葉も、文化も、バラバラで……」
少年が質問すると、少女が答える。繰り返していくうちに、少女の住んだ「地球」「日本」の全貌が見えてくる。
少女は様々な仕組みの話をした。学校、飛行機、銀行、選挙、法律、宗教戦争……。明るい話から、暗い話まで。
「日本」は少年にとって、理想の世界だった。
全ての民が教育、医師の診療を受けられる。魔物もおらず、紛争もない。なにより、職業を、リーダーを、自分の意思で選ぶことができる。国王になるはずだった少年が、目指していた世界。
「この世界も、いずれニホンのようになるといいな」
そう呟く少年の目は、真っ直ぐ前を見ていた。
少女はその姿を見て、考えた。オールドラントの行く末など、考えたこともなかった。これまでは慣れることに必死で、世界を変えようなどと思ったこともなかった。でも、この地位があれば、この知識があれば、もしかしたら。
「もし本当に私が世界を導くのだとしたら、そんな世界にしたいです」
預言に縛られず、誰もが自分の未来を自分で選ぶことのできる世界。誰も殺されずに済む世界。
少女も少年も、同じ景色を思い浮かべていた。
宿屋に帰ると、少女は少年に、地球から持ち込んだ物を紹介した。教科書、時計、シャープペンシル、水筒など、中学校に持って行くはずだったものだ。
少年は、少女がこれほど生き生きと話す姿を初めて見た。少女は、少年がこれほど興味を持って話を聞く姿を初めて見た。
少年は教科書に目を留める。見たことのない難解な字が並んでいる。
「文字はここに来てから覚えたのか?」
「はい、そうです」
少女の話を聞くにつれ、少年は彼女の苦労を感じた。読み書きも、剣術も、少女はこの世界に来て半年で身につけたらしい。そのためにどれだけ努力しただろう。家族と、友人と引き離されて、心細くなかっただろうか。
少年はやっと理解した。この少女が預言を嫌うのは、当たり前のことなのだと。
少女は預言に守られている。だが、少女は預言に家族を、友人を、自由を奪われた。自分と同じだ。少年は初めてその事実に気がついた。
「……苦労したんだな」
「へ?」
「心細かっただろう、一人で、」
少年は言葉を続けようとしたが、自分に言っているみたいで、怖くなった。
話を遮ってしまった。謝ろうと菜真絵の顔を見ると、涙が流れていた。
「あ……」
初めてだ。初めて、自分の気持ちをわかってもらえた。期待と羨望ばかり受け続けてきたこの世界で、初めて、哀れに思ってもらえた。
「ごめんなさい……」
少女はただ感動して泣いた。張り続けていた緊張の糸が、急に切れたのだ。
しかし少年は、少女が悲しんで泣いていると思った。故郷を思い出し、寂しい思いをしているのだと。
「元の世界に戻る方法がないか、探してみよう。協力する」
元気づけたつもりだった。自分は味方だと、そう伝えたつもりだった。しかし少女はブンブンと首を振る。涙を流したままだが、笑顔だった。
「この世界を幸せに導くまでは帰れません」
その笑顔を見て、少年は安堵した。同時に気付いた。自分は少女に帰って欲しくないのだと。少女のいない明日を想像することが、少年にはできなくなっていた。
少女も同じだ。寂しくない訳ではない。心細くないはずがない。平気なら、教科書もペンも水筒も、持ち歩いたりしない。
それでも、もう未練などない。いや、たった今無くなった。
この世界の明日が見たい。彼の望む、自由な世界を手に入れたい。その気持ちのほうが、寂しさよりもずっと大きくなっている。
「……ああ。この世界を、変えてくれ」
窓から差し込む夕陽が眩しくて、お互いの顔が見れなかった。