プロローグ編
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2人はバチカルに向かっていた。
例によって、暗殺の任務のために。
ダアト港から船に乗り、直接バチカルを目指す。少女は普段とは違う、流行りの服に身を包んでいた。
「これで、変装になっているのでしょうか……」
バチカルはとても大きな街だ。少女が導きの少女だと知れれば、瞬く間に民衆が集まって来るだろう。一般市民に紛れることは必須だ。
少女はその場でくるりと回って、少年を見た。
「良く似合っている」
少年はそう言ってみてから、やっぱりやめておけばよかったと思った。少女の顔が真っ赤だ。
服は本当に似合っていた。おめかしをして、デートに向かう初々しい少女。そんな感じだった。
少女は頬を数回叩いて、つねって、深呼吸した。こんなことで照れてしまうなんて、まだまだ修行が足りない。こんなことでは、1人で任務なんてできない。
「本当に、アッシュ様は来てくださらないのですか?」
「ああ。俺は船で待つ」
今回の任務は、本来アッシュに持ちかけられたものだった。
しかし彼は、バチカルに足を踏み入れたくなかった。憎い自分の故郷になど。
部下の兵士達に行かせれば、バチカルを避ける理由を勘ぐられてしまう。そこで少女を連れ、少女1人に任務をさせることにしたのだ。
少女は鞄の中に麻酔銃と毒薬を仕込む。1人で、できるだろうか。
「前回も上手くやれた。心配はしていない」
「はい、頑張ります」
少女はキビキビと敬礼して見せる。1人は怖いが、やるしかない。
バチカルに降りると、街はやけにざわざわしていた。元々人の多い土地だが、それにしても様子がおかしい。人々がこぞって、街の上へと移動して行くのだ。
少女はそれ流されるように、歩いて行った。
すると突然、人の流れが淀む。民衆の中心には、1人の少女がいた。ドレスを着て騎士を従える、高貴な少女。
「あの方は?」
「ナタリア殿下、王女様だよ。今日は彼女が建てた診療所の開館式なんだ」
少女の質問に、1人の市民がそう答えた。街の人々は王女に羨望の眼差しを向ける。キムラスカ・ランバルディアの王女は、とても美しかった。少女もその存在を知ってはいたが、姿を見るのは初めてだった。
さて、見とれている場合ではない。民衆の意識が向かない、今がチャンスだ。
指定された住所に向かえば、そこはもぬけの殻だった。王女を見るために家を開けているようだ。少女は裏口の鍵を叩き壊して家に入った。そして、蛇口、湯呑み、スプーン、食材……、口をつけるであろうもの全てに、毒を塗った。後は船で待機して、噂が耳に入るのを待つだけだ。
少女は素知らぬ顔をして、また、王女を見る群衆に混ざった。
「先程、ナタリア殿下を見ました。とても綺麗な方ですね」
船に帰って少女が話すと、少年の顔が引き攣る。船を降りなくてよかった。少年はそう思った。
少女は不思議そうに少年の顔を覗き込む。目が、泳いでいる。
「アッシュ様も、王族の血を引いているのですよね。お会いしたことが?」
少年は迷った。質問に正直に答えるべきかどうか。本来はこの少女に自分の生い立ちを話す必要などない。適当な嘘をつけばいい。
しかし、何故だか心臓がばくばくと音を立てている。額から汗が溢れる。少女の純粋な瞳に、吸い込まれそうになる。
少年は、心を落ち着けたかった。それはきっと、嘘をついたって叶わない。
「ナタリアとは、婚約者だった」
少女の動きが、ピタリと止まった。
少女は表情を強張らせたまま、少年からゆっくりと離れる。突然やって来た、大きすぎる情報。彼に婚約者がいた。それも、キムラスカ王国の、姫様だなんて。
「そう、だったんですか。では、アッシュ様は王になる予定だったと……」
王族と端的に言っても色々だ。血を継いだだけの貴族もいる。少女は少年がそれほど地位の高い立場だとは思っていなかった。王ならば、追っ手なりなんなりが来るはずだから。
「では、次の王は誰が?」
「ルーク・フォン・ファブレ、俺の模造品だ」
「模造品……?」
「ヴァンが作り出した身代わりだ。そいつが何も知らずに、ルークとして暮らしている」
全て話してしまった。
少年は、自分の口の軽さに驚いた。それでも不思議と、心が軽くなっていく。これまで背負っていた重荷を開放したような、晴れやかな気持ちだ。
「アッシュ様を助けるために、ヴァン謡将がレプリカを……?」
「ああ、ヴァンはそう言っている」
「王家の方は、気づいていないのですか?」
少女がふと投げかけた疑問は、刃となって少年に刺さった。
自分が最後にバチカルを訪れた、あの日の記憶が蘇る。赤子のようなレプリカルークが、父、母、ナタリア、ガイに囲まれて、幸せそうに笑っていた。自分でなくともよかった。見た目が同じなら、中身のない、赤子でもよかった。そう痛いほどわかった、あの日。
「誰でもいいんだよ。"聖なる焔の光"がそこに居さえすればな」
「…………」
「預言を知っていながら俺を見殺しにした国に、未練などない」
少年は、自分に言い聞かせるようにそう言った。
少女は少年の揺れる瞳を見て、愛おしくなった。知られたくない過去を話してくれた。心細さをぶつけてくれた。自分を、頼ってくれたのだ。あの、ぶっきらぼうな少年が。自分を突き飛ばした少年が。
「すみません。辛い過去を話させるような真似をして」
「知りたがっていただろう」
「あはは、バレてました?」
少女が笑うと、少年もつられて笑う。
少年は、自分の話を人にするなんて初めてだった。それを、笑って聞いてもらうのも。
「愚痴のようなことを言ってしまったな」
「いいえ。とっても嬉しいです」
「何も面白い事は言っていないが」
「仲間のことを知りたいと思うのは当然でしょう?」
少年がずっと前に捨てた感情を、少女は振りかざす。
少年も幼い頃は、世の中のことをもっと知りたかった。国を変えたいと思っていた。国を、愛していた。
少女の屈託のない笑顔がまぶしくて、少年は上手く言葉を返せない。
それでも、少女は返事を急かさなかった。
例によって、暗殺の任務のために。
ダアト港から船に乗り、直接バチカルを目指す。少女は普段とは違う、流行りの服に身を包んでいた。
「これで、変装になっているのでしょうか……」
バチカルはとても大きな街だ。少女が導きの少女だと知れれば、瞬く間に民衆が集まって来るだろう。一般市民に紛れることは必須だ。
少女はその場でくるりと回って、少年を見た。
「良く似合っている」
少年はそう言ってみてから、やっぱりやめておけばよかったと思った。少女の顔が真っ赤だ。
服は本当に似合っていた。おめかしをして、デートに向かう初々しい少女。そんな感じだった。
少女は頬を数回叩いて、つねって、深呼吸した。こんなことで照れてしまうなんて、まだまだ修行が足りない。こんなことでは、1人で任務なんてできない。
「本当に、アッシュ様は来てくださらないのですか?」
「ああ。俺は船で待つ」
今回の任務は、本来アッシュに持ちかけられたものだった。
しかし彼は、バチカルに足を踏み入れたくなかった。憎い自分の故郷になど。
部下の兵士達に行かせれば、バチカルを避ける理由を勘ぐられてしまう。そこで少女を連れ、少女1人に任務をさせることにしたのだ。
少女は鞄の中に麻酔銃と毒薬を仕込む。1人で、できるだろうか。
「前回も上手くやれた。心配はしていない」
「はい、頑張ります」
少女はキビキビと敬礼して見せる。1人は怖いが、やるしかない。
バチカルに降りると、街はやけにざわざわしていた。元々人の多い土地だが、それにしても様子がおかしい。人々がこぞって、街の上へと移動して行くのだ。
少女はそれ流されるように、歩いて行った。
すると突然、人の流れが淀む。民衆の中心には、1人の少女がいた。ドレスを着て騎士を従える、高貴な少女。
「あの方は?」
「ナタリア殿下、王女様だよ。今日は彼女が建てた診療所の開館式なんだ」
少女の質問に、1人の市民がそう答えた。街の人々は王女に羨望の眼差しを向ける。キムラスカ・ランバルディアの王女は、とても美しかった。少女もその存在を知ってはいたが、姿を見るのは初めてだった。
さて、見とれている場合ではない。民衆の意識が向かない、今がチャンスだ。
指定された住所に向かえば、そこはもぬけの殻だった。王女を見るために家を開けているようだ。少女は裏口の鍵を叩き壊して家に入った。そして、蛇口、湯呑み、スプーン、食材……、口をつけるであろうもの全てに、毒を塗った。後は船で待機して、噂が耳に入るのを待つだけだ。
少女は素知らぬ顔をして、また、王女を見る群衆に混ざった。
「先程、ナタリア殿下を見ました。とても綺麗な方ですね」
船に帰って少女が話すと、少年の顔が引き攣る。船を降りなくてよかった。少年はそう思った。
少女は不思議そうに少年の顔を覗き込む。目が、泳いでいる。
「アッシュ様も、王族の血を引いているのですよね。お会いしたことが?」
少年は迷った。質問に正直に答えるべきかどうか。本来はこの少女に自分の生い立ちを話す必要などない。適当な嘘をつけばいい。
しかし、何故だか心臓がばくばくと音を立てている。額から汗が溢れる。少女の純粋な瞳に、吸い込まれそうになる。
少年は、心を落ち着けたかった。それはきっと、嘘をついたって叶わない。
「ナタリアとは、婚約者だった」
少女の動きが、ピタリと止まった。
少女は表情を強張らせたまま、少年からゆっくりと離れる。突然やって来た、大きすぎる情報。彼に婚約者がいた。それも、キムラスカ王国の、姫様だなんて。
「そう、だったんですか。では、アッシュ様は王になる予定だったと……」
王族と端的に言っても色々だ。血を継いだだけの貴族もいる。少女は少年がそれほど地位の高い立場だとは思っていなかった。王ならば、追っ手なりなんなりが来るはずだから。
「では、次の王は誰が?」
「ルーク・フォン・ファブレ、俺の模造品だ」
「模造品……?」
「ヴァンが作り出した身代わりだ。そいつが何も知らずに、ルークとして暮らしている」
全て話してしまった。
少年は、自分の口の軽さに驚いた。それでも不思議と、心が軽くなっていく。これまで背負っていた重荷を開放したような、晴れやかな気持ちだ。
「アッシュ様を助けるために、ヴァン謡将がレプリカを……?」
「ああ、ヴァンはそう言っている」
「王家の方は、気づいていないのですか?」
少女がふと投げかけた疑問は、刃となって少年に刺さった。
自分が最後にバチカルを訪れた、あの日の記憶が蘇る。赤子のようなレプリカルークが、父、母、ナタリア、ガイに囲まれて、幸せそうに笑っていた。自分でなくともよかった。見た目が同じなら、中身のない、赤子でもよかった。そう痛いほどわかった、あの日。
「誰でもいいんだよ。"聖なる焔の光"がそこに居さえすればな」
「…………」
「預言を知っていながら俺を見殺しにした国に、未練などない」
少年は、自分に言い聞かせるようにそう言った。
少女は少年の揺れる瞳を見て、愛おしくなった。知られたくない過去を話してくれた。心細さをぶつけてくれた。自分を、頼ってくれたのだ。あの、ぶっきらぼうな少年が。自分を突き飛ばした少年が。
「すみません。辛い過去を話させるような真似をして」
「知りたがっていただろう」
「あはは、バレてました?」
少女が笑うと、少年もつられて笑う。
少年は、自分の話を人にするなんて初めてだった。それを、笑って聞いてもらうのも。
「愚痴のようなことを言ってしまったな」
「いいえ。とっても嬉しいです」
「何も面白い事は言っていないが」
「仲間のことを知りたいと思うのは当然でしょう?」
少年がずっと前に捨てた感情を、少女は振りかざす。
少年も幼い頃は、世の中のことをもっと知りたかった。国を変えたいと思っていた。国を、愛していた。
少女の屈託のない笑顔がまぶしくて、少年は上手く言葉を返せない。
それでも、少女は返事を急かさなかった。