プロローグ編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
少年は、ヴァンの部屋にいた。これで何発目だろう。壁には殴られた跡が複数ある。
ヴァンはソファーに座ってコーヒーを飲んでいた。その余裕な態度が、少年の精神を逆撫でする。このままでは埒があかない。少年は本題を切り出すことにした。
「何故あのガキを俺のところに寄越した。モースへ送り返せ」
「いい部下じゃないか」
もうひとつ壁に傷が増えるが、男は動じない。威勢を張っているだけだと知っているからだ。
少年は昨日、少女との初めての任務から帰ってきた。男を1人殺しにいくだけの、単純な任務。1人でこなせるような任務だが、ヴァンはあえて、2人で行かせた。
ヴァンにとっては荒療治のつもりだった。少年と少女を2人きりにさせれば、少しは仲良くなれるかもしれない。そう考えていたのだ。事実、帰ってきた後の2人は変わっていた。成功したと思ったのだが。
「あんな奴、邪魔になるだけだ」
「素直でいい子じゃないか」
「それが駄目なんだよ」
ヴァンは驚いた。少年の言い分では、文句ひとつ言わないからこそ、限界がわからず迷惑なのだそうだ。それすなわち、少女を心配しているということである。ヴァンは、少年がそのような感情を持ったことを、珍しいと思った。同時に、喜ばしくも思った。
「それだけ忠誠心が高いということだ。あのことを話したおかげで、情が移ったか」
「てめ……っ!」
「そろそろ壁が壊れるぞ」
あのこと。それは少年の過去であり、秘密である。
少年は公爵家の跡取りだった。しかし、この男に連れ去られて以来、その座を少年の模造品、レプリカに奪われている。公爵息子の座だけではない。婚約者の姫までも奪われた。それを兵士や上司に知られたのなら、弱みになる。
「大丈夫だ。他言無用と釘を刺してある」
「どこまで話した」
「元は王族の血筋だったが、預言の運命から逃れるために、教団に逃げてきたとだけ教えた」
騙された。少年はそう思った。少女にルークと呼ばれたときに、全てを悟られているようで怖くなった。しかし本当は、王になる予定だったことも、姫のことも、レプリカのことも知らないのだ。
そうとは知らずに、あの少女を突き飛ばした。あの少女を脅した。もちろん、それを知った今でも少女を邪魔だと感じるが、優しい少年は、少しだけ後悔した。
「それだけか?」
「ああ、秘密は小出しにしたほうがいい」
ヴァンは笑っているが、冷たい目をしている。何か魂胆がある。少年は彼を見てそう思った。
「秘密を握らせれば、情が湧く。ここから離れることもなくなるだろう」
「そうまでして引き留める理由はなんだ」
「人質だ」
大詠師モースにとって、教団にとって、導きの少女はなんとしてでも守りたい存在だ。彼女は世界の希望なのだから。
その少女を抱えていれば、モースが六神将に手を出すことはできない。立派な人質として使えるだろう。いずれ、あの大詠師を裏切る時に。
「取り引きに使うにしてもお荷物だ」
「なに、最後には死んでくれてもいいんだ」
それを聞いて少年は愕然とした。少女のことを、死んでもいいなどと思って扱っていなかった。丁重に扱えと言ったのは、この男自身だというのに。
「もちろん、今死んでもらっては困る。追々の話だ」
少年は少女を哀れんだ。信じれば信じる程、努力すれば努力する程に、都合の良い道具になってしまう。まるで、自分のように。
預言を覆す。そんなヴァンの信念に、少年は賛同していた。しかし、近頃の彼の動きはどうもおかしい。ただ預言に離反するだけではない、もっと大きな計画を、彼は練っている。
ヴァンは超振動の力を、自分を、その計画に利用しようとしているのだろう。少年はとっくに気が付いていた。それでも、この男についていくしか道はないのだ。
「今は我慢してくれ。あれはお前に懐いているようだしな」
「何を言っている」
「まあ、好きなように使え」
導きの少女、すべての信者の希望。そんな彼女を物のように扱っているのは、おそらくこの男だけだ。しかしその男が、少女の最も信頼すべき上司である。
少年は、自分の部下になった少女に同情した。
ヴァンはソファーに座ってコーヒーを飲んでいた。その余裕な態度が、少年の精神を逆撫でする。このままでは埒があかない。少年は本題を切り出すことにした。
「何故あのガキを俺のところに寄越した。モースへ送り返せ」
「いい部下じゃないか」
もうひとつ壁に傷が増えるが、男は動じない。威勢を張っているだけだと知っているからだ。
少年は昨日、少女との初めての任務から帰ってきた。男を1人殺しにいくだけの、単純な任務。1人でこなせるような任務だが、ヴァンはあえて、2人で行かせた。
ヴァンにとっては荒療治のつもりだった。少年と少女を2人きりにさせれば、少しは仲良くなれるかもしれない。そう考えていたのだ。事実、帰ってきた後の2人は変わっていた。成功したと思ったのだが。
「あんな奴、邪魔になるだけだ」
「素直でいい子じゃないか」
「それが駄目なんだよ」
ヴァンは驚いた。少年の言い分では、文句ひとつ言わないからこそ、限界がわからず迷惑なのだそうだ。それすなわち、少女を心配しているということである。ヴァンは、少年がそのような感情を持ったことを、珍しいと思った。同時に、喜ばしくも思った。
「それだけ忠誠心が高いということだ。あのことを話したおかげで、情が移ったか」
「てめ……っ!」
「そろそろ壁が壊れるぞ」
あのこと。それは少年の過去であり、秘密である。
少年は公爵家の跡取りだった。しかし、この男に連れ去られて以来、その座を少年の模造品、レプリカに奪われている。公爵息子の座だけではない。婚約者の姫までも奪われた。それを兵士や上司に知られたのなら、弱みになる。
「大丈夫だ。他言無用と釘を刺してある」
「どこまで話した」
「元は王族の血筋だったが、預言の運命から逃れるために、教団に逃げてきたとだけ教えた」
騙された。少年はそう思った。少女にルークと呼ばれたときに、全てを悟られているようで怖くなった。しかし本当は、王になる予定だったことも、姫のことも、レプリカのことも知らないのだ。
そうとは知らずに、あの少女を突き飛ばした。あの少女を脅した。もちろん、それを知った今でも少女を邪魔だと感じるが、優しい少年は、少しだけ後悔した。
「それだけか?」
「ああ、秘密は小出しにしたほうがいい」
ヴァンは笑っているが、冷たい目をしている。何か魂胆がある。少年は彼を見てそう思った。
「秘密を握らせれば、情が湧く。ここから離れることもなくなるだろう」
「そうまでして引き留める理由はなんだ」
「人質だ」
大詠師モースにとって、教団にとって、導きの少女はなんとしてでも守りたい存在だ。彼女は世界の希望なのだから。
その少女を抱えていれば、モースが六神将に手を出すことはできない。立派な人質として使えるだろう。いずれ、あの大詠師を裏切る時に。
「取り引きに使うにしてもお荷物だ」
「なに、最後には死んでくれてもいいんだ」
それを聞いて少年は愕然とした。少女のことを、死んでもいいなどと思って扱っていなかった。丁重に扱えと言ったのは、この男自身だというのに。
「もちろん、今死んでもらっては困る。追々の話だ」
少年は少女を哀れんだ。信じれば信じる程、努力すれば努力する程に、都合の良い道具になってしまう。まるで、自分のように。
預言を覆す。そんなヴァンの信念に、少年は賛同していた。しかし、近頃の彼の動きはどうもおかしい。ただ預言に離反するだけではない、もっと大きな計画を、彼は練っている。
ヴァンは超振動の力を、自分を、その計画に利用しようとしているのだろう。少年はとっくに気が付いていた。それでも、この男についていくしか道はないのだ。
「今は我慢してくれ。あれはお前に懐いているようだしな」
「何を言っている」
「まあ、好きなように使え」
導きの少女、すべての信者の希望。そんな彼女を物のように扱っているのは、おそらくこの男だけだ。しかしその男が、少女の最も信頼すべき上司である。
少年は、自分の部下になった少女に同情した。