とある宝石商の男の話(フリー朗読劇用シナリオ)

ロンファ【モノローグ】:豪奢なベッドの上、綺麗なきみの髪がシーツに流れている。まるで花畑に散らばる花びらのよう、手折られた白い素肌に…長く美しい睫毛は震えている。昨晩きみを愛し散らした花弁の痕が、きみの胸に彩をくわえている。ああ、こうして見つめているだけで、きみに触れた昨晩のことを鮮明に思い出す。宝石のような涙を流したきみは美しかった。

【SE:衣擦れの音】

ロンファ:ああ、おはよう。目が覚めたんだね

広いベッドの上、目覚めた少女は酷く驚いている。
昨晩、少女を見つけ、目の前の男に奥の奥まで深く愛され、浸食された体の気だるさは夢ではない。一糸まとわぬ絹のような素肌に男が触れた。まるで壊れ物を扱うかのようなそんな慈しみと愛とをこめた触れ方だ

ロンファ:(深い吐息)はあ…すごくすごく綺麗だよ、ああ、怖がらないで…きみは、ぼくの妻だ。さあドレスに着替えよう、きみのために誂えさせた衣服が何着かあるんだ…これを着てパーティに出かけよう。まあ、商談が主だから、きみはぼくの隣にいてくれたらいいよ…何も心配いらない。ぼくがきみをエスコートするからね




___場面転換 舞台はパーティ会場へ

【SE:人の笑い声】
【場面が変わると同時に音楽も変わる】

たくさんの商談相手に臆することなくロンファはそこの舞台では一流だった。行く人行く人、その男の商売口上に乗せられては良い心地になって金を落としていく。
それはロンファの隣にひっそりと佇む美しい華のお陰でもあった。少女は美しい…どんな宝石も敵わない、麗しい姿は行く人の視線を奪う。

商談の男:いやあ、ロンファ今日はこれまた見事な華を連れ歩いてるじゃないか

ロンファ:そうでしょ、ぼくの妻なんだ

商談の男の一人が下卑た笑いを顔に張り付けて近寄ってくる。
歳はロンファより幾何か年上だろう。顔に皺はないところを見るとまだ三十代後半から四十代と言ったところか。ちょうど働き盛りの中年の男。この男は確か貿易関係の仕事をしている世界有数の手練れの一人だ。ここは繋がりを作ったほうが賢明だったとロンファは判断したのだろう。ワインを傾ける手がとまった

【SE:グラス同士あたる音】

商談の男:いやあ、本当にお美しい…マドモアゼル、お手を


ロンファは戸惑いに揺れている少女の瞳を見て首を縦に振った
手を差し出しても大丈夫だよ。そう安心させるように。
この男の機嫌を損なわせるわけにいかない。


商談の男:ああ、絹のような手だ…白くて陶器のようじゃないか。その素肌を一度でいい、暴いてみたい

男の目が光る。欲情と執着…獣が獲物を見つけた時のあの顔。

ロンファ:あはは、さすがにそれは勘弁してほしいなあ…この子はね花嫁になったばかりなんだ。ぼくですらまだ触れていないんですから…

商談の男:ははは、それは大変だ。夫より先に抱くことはできないなあ

ロンファ:ははは、恐縮です。

ロンファ【モノローグ】:嘘だ。そう、ぼくは昨晩すでに彼女の体隅々まで愛している。彼女はぼくの妻。どんな宝石よりも価値がある未知なる宝石…彼女の素肌を暴いた昨晩に胸元に光る翡翠よりも濃度の濃い輝きを秘めた宝石を見た。彼女の生命をそのまま輝かせているような美しい宝石。それはぼくしか知らない。もちろん商売に使おうなんて思っちゃいない…その宝石を含めて彼女はぼくのモノだ。誰にも渡すもんか。つまり、ぼくのモノに手を出そうとする時点でこの男は抹殺対象だ

ロンファは穏やかな表情をしていた。内側を暴かせない男の顔、この商談相手の男はきっと、近いうちにひどい目を見ることになるだろう。
隣にいる少女に笑いかける。安心させるように、愛おしそうに。…少女は喋りこそしないが、ロンファの声に行動に呼応するように瞳で、その表情で感情を表していた。それがまるでこの世のモノとは思えないほど麗しくあり、そして美しかった。深いグリーンの瞳と胸元の宝石…それが彼女の全てだった。

【曲調が変わる】

ロンファ【モノローグ】:曲が変わると同時に、きみのその瞳が見開かれた。初めてぼくを見た時と同じ顔だ。彼女はこの世界を知らない。知らないどころか、まるで全くの異世界から来たように、ぼくとの時間に戸惑いと好奇心と不安がにじみ出ている

ロンファ:ああ、この曲かい?これはダンスの曲だよ。きみは本当に何も知らないんだね。ぼくが教えてあげよう。ダンスも社交辞令も…生活に必要なことすべて。さあ、ぼくの手を取って?

【SE:衣擦れの音】
ロンファ:ああ、ほら掴まえたよ。驚いているの?可愛いな。そう、リズムに合わせて…ぼくに全部預けて…

リズミカルな楽団の音楽。ロンファは確かに少女を愛していたはずだ。この瞬間、この一瞬…そうして少女もロンファの人柄に触れ、愛を感じていたに違いない。その瞳が、そのぬくもりが

ーあなたを愛している

そう言っていた。


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