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トコトコトコ……。
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トリックオアトリートなの!
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フォレスター
あ……あそこにいるのは……
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レムレス
やぁ、エマ
待っていたよ♪︎ -
レムレス
はい、かわいらしい庭師さんには、特別甘ーいお菓子をあげるよ
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わぁ! お花の形をしたクッキーなの! すごいなの〜!
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レムレス
いっぱいあるから、いっぱい持っていってね♪︎
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やったーなの!
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フォレスター
さすが、レムレスさん……用意がいいなぁ……
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トテトテトテ……。
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トリックオアトリート、フォレスター!
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フォレスター
あ、チョッパー……
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フォレスター
はい、お菓子をどうぞ
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おおお! フォレスター、このわたあめ、自分で作ったのか?
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フォレスター
うん。日頃の感謝を込めて、みんなの分を作ったんだ
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三百人以上が住んでいる屋敷の住民たちのために、フォレスターが一日の時間を費やして作った、ハロウィン用のお菓子。
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こんなにいっぱい作ったのか! すげェな、フォレスター!
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フォレスター
そんなことないよ
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とフォレスターは謙遜しながら、レムレスの方を見やった。
いつもお菓子を常備しているレムレスは、いつも以上に人に囲まれている。 -
フォレスター
レムレスさんのところ、人がいっぱいだなぁ……
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レムレスは誰にでもお菓子をくれるからなァ
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フォレスター
あ、そっか……
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フォレスターは片手に提げた大きなバックを見下ろした。
その中には、彗星の形を作った大きなクッキーが入っていたが、フォレスターは隠すように別のお菓子を取った。 -
フォレスター
じゃあ、私は他の人のところにお菓子を配ってくるね!
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おう!
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フォレスターはそう言ってその場から離れ、他の屋敷の住民たちにお菓子を配り続けた。
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フォレスター
……それにしても、三百人って結構いるなぁ……
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とフォレスターは呟きながらも、大体のお菓子が配り終えた頃、また、レムレスの姿が視界に入った。
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トリックオアトリート!
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レムレス
あ、マスターハンドにあげてなかったね……これをどうぞ♪︎
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レムレスはどんな人を相手にしようとも、変わらない笑顔でお菓子を配っていた。
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フォレスター
レムレスさん、すごいなぁ
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とフォレスターは言いながら、ちょっと疲れたな、とバルコニーに出た。
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フォレスター
……もう夕方だったんだ
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それから、フォレスターはバックの中へ視線を落とす。
……一番お菓子を渡したい人に、渡せてないお菓子があった。 -
フォレスター
はぁ……レムレス……
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フォレスターにとって、レムレスはとても尊敬している人だった。
にこやかな笑顔で輝くような魔法を見せるレムレス。
それでいて美形な顔をしているし、話口調も、うっかり眠りに落ちてしまいそうな程穏やかで落ち着く。
フォレスターは、いつからかレムレスに惹かれていた。 -
レムレス
やぁ、フォレスターさん
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フォレスター
わぁ?!
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フォレスターのあまりにも驚く様に、レムレスは一瞬眉を吊り下げたように見えた。
だが、すぐにはにこりと笑って言葉を繋げた。 -
レムレス
驚かせちゃったかな? ごめんね?
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フォレスター
あ、いえ、そんな……
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フォレスターは言い繕いながら、さっきの独り言がレムレスに聞かれてしまったのだろうかと不安になった。
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レムレス
ふーん、そっかぁ
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レムレス
それより、キミからお菓子をもらってないんだけど、イタズラをお望みかな?
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フォレスター
え……?
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思わぬ言葉にフォレスターが噤んでいるのをよそに、レムレスはさらに言葉を続けた。
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レムレス
トリックオアトリート
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レムレス
僕は、お菓子を配るのはとっても好きだけど、好きな人からのお菓子をもらうのは、とっても大好きなんだ
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レムレス
フォレスターさんはみんなにお菓子を配っていたよね?
僕にはないのかな? -
フォレスター
あ、あります……!
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フォレスターは大急ぎで、レムレス用のお菓子をバックから取り出した。
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フォレスター
あ……
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しかし、渡しそびれて底に沈んでいた彗星型のクッキーは、見事なまでに真っ二つに割れてしまっていたのだ。
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フォレスター
や、やっぱり、ないです……すみませ……
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レムレス
これは、彗星の形をしたクッキーかな?
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フォレスターは今すぐここから立ち去ろうとしたが、いつの間にか回り込んでいたレムレスが、割れた彗星型のクッキーを手にしてこちらをみつめた。
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フォレスター
本当は……レムレスさんにあげたかったんですけど……
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フォレスター
レムレスさん、忙しそうだったので……
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レムレス
それは、謝らなくちゃね
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レムレス
ごめんね? フォレスターさん
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フォレスター
え、そんな……! 謝ることなんて……
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サクッ……。
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フォレスター
あ
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レムレスは、割れた彗星型のクッキーの片割れを取り出し、軽快な音を立てながらサクサクとクッキーを食べ始めた。
フォレスターは緊張気味にその場に立ち尽くし、次の言葉を待った。 -
レムレス
うん、美味しい♪︎
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フォレスター
本当ですか……!
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レムレス
本当だよ♪︎
キミが作ってくれたから、とっても甘くて美味しいよ -
フォレスター
よ、よかったです……!
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レムレスの感想の言葉に、ほっと胸を撫で下ろすフォレスター。
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レムレス
それじゃあ僕は、お返しに
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フォレスター
え……?
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ハロウィンにそのような仕組みはなかったと思うけれど……とフォレスターが戸惑っていると、何もなかったところから、手品のようにポンっとお菓子を繰り出した。
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レムレス
さぁ、フォレスターさん
キミには特別甘ーいお菓子をプレゼントするよ♪︎ -
フォレスター
でも……こんないっぱい……
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チョコレートやキャンディ、クッキーなどがたくさん詰め込まれた袋が、フォレスターに渡された。
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レムレス
遠慮しないで♪︎ 大丈夫、怖くないよ
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フォレスター
ありがとう、ございます……
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少し危険な香りのする甘くてアヤシイ魔法に飲み込まれてしまうかのような、二人のささやかな時間だった。
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