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この謎の世界にやって来て、不思議な屋敷に住もうと決めたその日の夜。
フォレスターは、案内された自室に入るも、なかなか寝付けずにいた。 -
フォレスター
(まだ、ドキドキが治まらない……私、どうしてあんなところにいたんだろ……)
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フォレスター
……
水、飲んでこよ -
みんな親切だったけれども、フォレスターは、記憶喪失のままこの屋敷に来て、未だ緊張がほぐれずにいた。
フォレスターは自室を出た。 -
イライ
こんばんは、フォレスターさん
……眠れてないと思って -
フォレスター
え……
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確かにそうだったが、なぜ分かったのか。フォレスターは驚きを隠せなかったが、イライは優しく微笑むだけだった。
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フォレスター
そうなんです、眠れなくて……
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イライ
なら、付き合いますよ。ホットミルクでいいですか?
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フォレスター
え! い、いいですよ! 私は水で……
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イライ
甘いの、嫌いでしたか?
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フォレスター
いえ、そういう訳ではないんですが……
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イライ
なら、私の言葉に甘えてください。貴方は、私たちの大事な仲間ですから
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フォレスター
記憶、ないんですけどね……
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イライ
記憶が、全てじゃないですよ
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フォレスター
はぁ……
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この男性、会った時からそうだと思ってたけど、本当に不思議な人だ。全てを見抜いていそうなのに、それを優しく包み込むようにこちらに微笑みかけてくる。
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イライ
厨房……には、さすがにもう人はいませんね
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フォレスター
夜遅いですからね……みなさん、寝ちゃったんでしょうか……
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イライ
少し、ここで待っててください。すぐに、ホットミルクを出しますので
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フォレスター
すみません、ありがとうございます
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厨房から、イライが静かにホットミルクを用意している音だけが聞こえた。
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イライ
はい、どうぞ
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フォレスター
ありがとうございます……
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イライ
熱いので気をつけて
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フォレスター
あっつ……!
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イライ
あ、すみません……!
熱すぎましたよね……! -
フォレスター
あ、いえ、私の不注意なので……わ、イライさん、顔近いです……!
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イライ
……!
あ、すみませんっ
舌が火傷したのかとつい視ようとしてしまって…… -
フォレスター
あ……
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フォレスター
もしかして、火傷しちゃってます……? ヒリヒリするんですけど……
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フォレスターは舌を出した。
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イライ
ふふっ……
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フォレスター
え、なんで笑うんですか……?
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イライ
あ、いえ……火傷したかどうかは、自分がよく分かるだろうになって……
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フォレスター
あ……!
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フォレスターは、火傷を他人に見せようとしたことを今さらながら馬鹿なことだったと気付いてイライから顔を背けた。顔が熱い。イライに見られたかもしれない。
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イライ
……フォレスターさん
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フォレスター
あ、はい……!
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イライ
ネロさんが、舌を火傷した用に用意してくれているクリームがあるんです。これを塗ったら、少しはよくなるかと……
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フォレスター
そんなものがあるんですね……!
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フォレスター
えっと……
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イライ
このスプーンをどうぞ
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フォレスター
ありがとうございます……
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フォレスター
ん?!
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フォレスターは不器用だった。自分の舌にクリームを塗るだけなのに、なぜか唇についてしまう始末。
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イライ
ふふふ……
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フォレスター
も、もーう、笑わないでくださいよー
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イライ
ごめんごめん……
私が、やりましょうか? -
フォレスター
え……あ、いや、でも、それは手間をかけてしまいますし……
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イライ
大丈夫ですよ。私は、世話焼きなので
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イライ
さ、フォレスターさん。舌を出して下さい
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フォレスター
は、はい……ん……
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ひやりと冷たいそれに少しびっくりしながら、フォレスターはイライに火傷の部分をクリームで塗ってもらう。
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イライ
はい。これで大丈夫です
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フォレスター
ありがとうございます……でも、どんどん飲み込んじゃいそうで……
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イライ
食べ物から作った薬だそうで、飲んでも大丈夫ですよ
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フォレスター
そうなんですね
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そんな不思議な薬があるんだな、とフォレスターは思ったが、自分が記憶喪失で覚えていないだけかも、とも考えた。
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フォレスター
なんか、眠くなってきました……これ飲んだら、私、寝ますね
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イライ
それはよかったです
では、飲み終わるまで付き合います -
フォレスター
そんな……イライさんは寝なくても大丈夫なんですか?
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イライ
はい
……実は、そのミルクに、睡眠剤を仕込んだので、本当に眠るか見届けたくて -
フォレスター
す、睡眠剤?!
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フォレスターは驚いて立ち上がった。
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イライ
くすくす……冗談ですよ
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フォレスター
な、なんだぁ……よかった……ごくっ……ん、美味しい……
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フォレスター
あれ、このままミルク飲んじゃったら、火傷のクリームも飲み込んじゃう……あれ……?
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フォレスターの目の前がぐらりと傾いた。
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イライ
大丈夫ですか、フォレスターさん?
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フォレスター
なんか……意識が……
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イライ
眠くなってきた?
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フォレスター
は……い……
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イライ
それはよかった
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イライ
実は、睡眠剤はクリームの方です
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フォレスター
え……
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イライ
一目見ただけで分かりました。貴方は、私の運命の人だと
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フォレスター
何を……言って……
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フォレスターは、強い睡魔に引き込まれて行った。
薄れゆく意識の中、耳元でイライの声が響いた。 -
イライ
これから貴方は、私のものになります。そういう運命だから
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イライ
おやすみ、愛おしい人
……永遠に、愛を誓います -
フォレスター
イライ……さん……
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フォレスターは夢へと落ちて行った……。
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