白夜編
夢小説設定
この小説の夢小説設定※原作開始時点
誕生日:7月17日(かに座)
性別:女
年齢:16歳
血液型:A型
身長 150cm
好きな物:白薔薇、果物、空を飛ぶこと
出身地:王貴界
等級:一等下級魔法騎士
魔法属性:竜
竜化魔法 ?????
→自身がドラゴンになる。変身魔法とは別物。
魔法を弾く鱗、地上よりも空の方が速く動ける羽毛の翼、鋭い爪や牙が武器。
(title by
不在証明)
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朝の空気にふと目が覚めたわたしは、ぐっすり眠るユリウスさんの横顔を見た。
「(珍しいだらけ……)」
いつもなら先に起きてわたしを見ているのに。
まだ薄暗い室内で白い肌はほのかに光を放つよう。触れようか悩んで、起きてしまうなと諦める。
肘をついてじっくり見ようとして、何も着ていないことを思い出し、慌ててシーツにくるまり直す。
そうっと確認したユリウスさんは穏やかで密やかな寝息を立てていた。ほっと息つく。
改めてまじまじと見つめる。
砂金色の髪。同じ色のまつ毛が綺麗に揃っていて。通った鼻筋が顔に陰影を描いている。
彫像のように綺麗なひと。
「(わたしの、旦那さん)」
頬がまた熱を帯びる。昨日の名残りで節々が痛むけれど―――特に足の付け根とかなんかその辺の色々―――それすら幸福だった。
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、やっぱり気にしていたから。
ちゃんと夫婦になれた実感が。それを噛み締めるこの時間が。こんなにも満ち足りて、胸をいっぱいにしていく。
「(時間が、止まればいいのに)」
数分だろうか。それとも数十分か。飽きることなく見つめていたユリウスさんが身動ぎした。起きるのかな。
目を手の甲で擦って、そのまま額に置いて、大きく息をつく。そんなありふれた仕草さえ目が離せなかった。
起きる前、ちょっとだけガラが悪く見えるなんて知らなかった。
「……んん……おはよう、ソフィア」
「おはようございます」
「早いね」
「目が覚めちゃって」
そっか、と伸ばされた手腕は当たり前に裸のまま。まだ寝ぼけているのか、ややぼうっとした様子のユリウスさんは一糸まとわぬわたしの肩から背中に腕を回して、甘えるように抱きしめてきた。
ずれた枕が変なところに当たっているのに、鼻先をくすぐる真っ白な胸板にしか意識がいかない。
「もうちょっと……」
「(ほっ……ほわあぁぁぁ)」
ユリウスさんの匂いがする。服とか香水の混ざらない、ユリウスさん自身の匂いが、鼻を抜け、肺いっぱいに。
わたしの心臓はもう爆発しそうな早鐘なのに、触れたユリウスさんの胸から辛うじて拾えた音は普通だった。とてもリラックスしていらっしゃる。
「(うぅ……年上の余裕……っ!)」
同衾した翌朝の態度の違いに、改めて年齢差を突きつけられた気がしてひっそりと涙を飲む。いいんだ。分かってた。むしろこの年齢になるまでユリウスさんがわたし以外の女性を知らないとかの方がびっくりだし。
……初めてかどうかをちゃんと聞いたわけではないので、確信は持てないけど。シュレディンガーのユリウスさんのままそっとしておく。
しばらくして。本格的な目覚めたユリウスさんが、素っ裸のまま妻と抱き合っている事実に素っ頓狂な声を上げて、慌てて拾い集めた寝間着を着せてきたりするのだけど。
それまでわたしは、真っ赤な顔のままユリウスさんの腕の中。
じっと幸せを噛み締めていた。
もっとも、しゃんと起きてしまったユリウスさんは人ひとり分の距離を置くようになってしまったので、淡い幸せだったのだけれど。
「その……本当にすまない……」
「もう、まだ気にしてるんですか」
「うう……」
朝の身支度を終え、一緒に朝食を取っている間もしきりに謝るほど何かを気にしているらしいユリウスさんに呆れたとため息を禁じえない。
「……しなきゃよかったって、後悔してたり」
「それはないよ」
ばっさり切り捨てられてほっと安堵する。じゃあ何でそんなにうなだれているのか。
「じゃあなんで……」
「いや、その……今朝、加減せず、抱きしめてしまっただろう?」
「そんなの、寝ぼけてたんだから仕方ないんじゃ……」
本気でそう思うわたしに、ユリウスさんは申し訳なさそうな、恥ずかしそうな顔を背ける。昨夜の行為ではなく、今朝、抱き枕のようにぎゅうぎゅうに抱きしめたのを無意識にやっていたのが気恥ずかしいらしい。
薔薇色に染まった頬を横目に、よく分からないなぁと紅茶を飲む。
「(なんか……変なの。ちゃんと夫婦になったけど、何も変わった感じがしない)」
そりゃ、白い結婚だろーと言われたら、違いますーって返せるようにはなったけれど。
穏やかで、静かな時間。だから油断していた。
「今日は、夕方には黒の暴牛から帰ってきますね」
「あ、それなんだけど」
ユリウスさんの態度が急に切り替わる。魔法帝のそれへと。頬も白い。
「王撰騎士団の団長をメレオレオナにお願いしているんだけど」
「凄いノリノリで殴り込みかけそうですね……」
「彼女の強い希望で、メンバーにソフィアも選ばれたんだ」
「……え?」
適任だと思っていたわたしの花畑な頭を横から殴られた気分だった。
「あのわたし、試験受けてないんですけど……」
「他にも試験は受けていないけれど選出されている魔法騎士はいるよ」
「えぇ……」
それでも釈然としない。なんだかズルした気分だ。
「それで、君と話がしたいから今日来るそうだよ」
「え、」
そんな急に朝イチで言われても。と反論しかかった言葉が喉から出ることはなかった。隕石が落ちたかのような濃縮された炎の魔力の持ち主が中庭に現れたからだ。
誰だろうかなんて、わたしもユリウスさんも考えない。
「……師匠、朝から元気ですね」
「いい事だよ」
それはそうなんだけど、これから連れ回されるだろう身としては程々に元気でいて欲しいと思ってしまう。
待たせるわけにはいかないと慌てて中庭に出る。黒の暴牛に行くつもりだったから動きやすい格好をしていて助かった。
朝の挨拶もせず、師匠はとんとんと自身の首を指で叩いた。
「隠してこい莫迦弟子。それくらいは待ってやる」
「え?」
自分の首を同じように触る。でもよく分からない。
困惑するわたしに、師匠は口角を上げた。
「鬱血痕が残っている。情事の痕にしか見えんぞ」
「じっ……?!」
「無事に襲えたようで何よりだ」
「襲ってないです!!」
わっはっは。師匠の高らかな笑い声を背中で聞きながら慌てて屋敷にとって返す。
「(ユリウスさん〜〜!)」
もしまだ居たら文句のひとつも言ってやろうと思っていたのにもう出掛けていた。さては逃げたな。
掴まえた侍女に白粉をはたいてもらって首の痕を隠して庭へと駆け戻る。
改めて挨拶を交わした師匠は片頬を上げたまま立て板に水の如く話し始めた。
王撰騎士団の団長に自分が選ばれたこと。
そのメンバーの選出は国王と魔法帝と共にすること。
貴様、つまりわたしは使い勝手がいいから独断で既に選出済みなこと。
「そして貴様には早速働いてもらう。王撰騎士団に配布予定のローブの材料を採取してこい」
「それはいいんですけど、わたしひとりでやるより手分けした方が早くないですか?」
「内部から情報が漏れる可能性が残っている。故に準備は全て内密に行なう」
「あ、なるほど……」
かくして、師匠にこき使われる日々が始まった。
希少な素材を山ほど集めろ、そのまま工房へ持ち込めただし人の姿でだ竜の姿だと目立つだろう莫迦弟子、おい素材が足りないらしいぞもう一度行ってこい働け。
毎日ヘロヘロになって帰ってくるわたしをユリウスさんは労ってはくれたけれど。
「(師匠がまずわたしを選出した理由が顎で使いたいからだろうなと分かってて了解出したのもユリウスさんだよね……)」
夕食も終わり。よしよし頭を撫でてくれていたユリウスさんをじとっと見上げれば、何かしら通じたのか気まずそうに目を逸らされた。クレームの意を込めてぐいぐいと頭を擦り付ける。
「ええと、ソフィア……」
「そのまんま撫でてください」
「はい……」
よしよしよしと熱心に頭を撫でてくれるユリウスさんに、少しだけ溜飲を下げる。なんやかんやで惚れた弱みだ。
「(ユリウスさんにとっては魔法帝の仕事が一番なんだろうし、そんなユリウスさんが好きだからいいけど……)」
たまに構ってくれる大きな手のひら。擦り寄って、体温を分けてもらうだけで、思わず頬が笑み崩れる。
何もなくても、幸せだ。
次々なんやかんや仕事を振ってくる師匠に付き合うこと数日。
メンバーの選出はとっくに終わり、ローブも人数分完成し、他の諸々も完了したと師匠が告げに来たのは夕方の頃。
「明日、選出したメンバーを集め、その足で奴らのねぐらに殴り込む」
「えっ、急ですね」
「逃げる暇を与えるつもりはない」
まんま狩りである。獅子のように笑う姿に師匠らしいと苦笑いして、その日は解散した。
明日は朝早くの出立になる。何日も顔を出してない黒の暴牛が気になったけど―――意識が戻ってないフィンラルさんのお見舞いには合間を見て行ったし、ヤミさんとはその時に会えてるけど―――今からアジトまで行っていたら夜になってしまう。
みんなに会いたい気持ちはもちろんあるけれど。
「(明日、ついに決着がつくんだ……)」
足は自然と王都の屋敷へ向かっていた。
ユリウスさんはまだ帰ってなかった。晩ご飯に手は付けず、先にお風呂を済ませてしまう。とっぷり日が暮れてもまだ帰らない。
気を利かせてせめてお菓子をひと口と言ってくれた侍女にお礼だけ返して、きちんと整った夫婦の寝室でひとり待つ。
開け放した窓からは初夏らしい青々とした葉っぱの匂いがした。虫の音。息を潜める鳥の羽音。
いつもなら気にならないひとつひとつが妙に心に留まる。気が立っているのだろうか。
「(……明日の準備でもしよう)」
とはいえわたしの準備は特にない。動きやすい服、結婚指輪と婚約指輪、魔導書、黒の暴牛のローブ。それくらい。ほとんどいつもの身につけている物ばかり。
ふと。荷物の中から転がり出てきた小箱を拾い上げて開く。中で夜闇に輝いたのは紫色。少しだけ色褪せてしまった、ユリウスさんの瞳と同じ色をしていた硝子玉の指輪。今はもう小指くらいにしか入らない。
「(これも持って行こう)」
なんとなく、それも明日の身支度セットの上に置いて。
「ただいま」
開いたままの扉の向こうから顔を出したユリウスさんに、笑顔で駆け寄る。
「おかえりなさい!」
いつもと同じように。
ユリウスさんと一緒にゆっくり食事をとって。
お風呂に行ってる間はユリウスさんの読み途中の本をめくって、頭が痛くなって閉じると同時に戻ってきたユリウスさんに笑われて。
失礼だと怒れば、慌てて謝られて。横向いて拗ねていれば。
「ソフィア、おいで」
広げられた腕に招かれる。
まだちょっとだけ恥ずかしいけど、飛び込んで。
「捕まえた」
「あっ」
ユリウスさんは背中からベッドに寝転んだ。
仰向けになった大きな身体の上でわたしは猫に弄ばれるネズミのように硬直した。
わたしはまだ、夫婦の行為を一度しか知らない。
「(し、したくないわけじゃないけど)」
したくないわけじゃない、とユリウスさんに伝えるのも恥ずかしくて、いつも優しく寝かしつけてくれるユリウスさんの手に負けて健全に眠ってしまうのだ。いやハグやキスはよくするから何もしてないわけじゃないんだけど……。
大きな手のひらが頬から首をゆっくりと撫でていく。ゾワゾワと肌を駆け上がる感覚はまだ慣れない。
わたし、きっと耳まで真っ赤だ。
「安心して、何もしないから」
「え……しないんですか?」
特に意識せず、ぽろっと零れた本音。きょとんとしているユリウスさんに慌てふためき悲鳴をあげかけた。今、今わたし何言った?!
ユリウスさんはゆぅっくり息を吐いて、片手で目元を覆ってしまった。はしたないと呆れてしまったのだろうか。
「ごっ、ごめんなさい!」
「いや、ソフィアが謝ることじゃないんだ……ないんだけど……」
はふ、と熱っぽい息を吐いて、目元から離れた手がわたしの頭を撫でる。白皙の頬は薔薇色に染まっていて、夜陰にも艶やかだ。
「僕も男なんだから、あんまり煽らないでくれ」
「は、……」
後頭部を包み込む手のひらにぐっと引き寄せられ、呼吸が重なる。途端、ちゃんと整ってた思考が端から溶けていってしまう。まるで温めたチョコレートになってしまったよう。
後はもう、なすがまま。布の下にするすると入り込む温かくて大きな手のひらに宥めすかされ、いじられ。
二度目なのにちっとも慣れない幸福に、息もできないくらい浸るだけ。
肌が重なる。体温が溶け合う心地良さの渦の中。
サイドテーブルに置かれたふたつの魔石が見えた。
すぐにユリウスさんに視線も、意識も、吐息まで、持っていかれたけれど。
「(そういえば、白夜の魔眼はどうしてあれを集めていたんだろう……?)」
浮かんだ疑問は泡沫のように消え、跡形もなくなった。
―――まだ夜明けすら来ていない薄暗い部屋の中。
用意していた服を着て、左手の薬指に結婚指輪と婚約指輪をはめて、ウィリアムさんからの指輪を、少し悩んで右手の小指に通す。少しキツいけどちゃんと入った。
穏やかな寝息を立てるユリウスさんを見つめ、少しだけ頬に口付けようか悩んで。
結局、静かにベッドから離れた。帰ってきてからすればいい。
戸口を跨ぐほんの一瞬。一度だけ振り返る。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
小さな声でかけた言葉に、掠れた声の返事が背中を追いかけてきた。
思わず止めかけた足を前へと踏み出す。
寝室の扉が閉まる音がやけに廊下に響いて、消えてなくなった。