白夜編
夢小説設定
この小説の夢小説設定※原作開始時点
誕生日:7月17日(かに座)
性別:女
年齢:16歳
血液型:A型
身長 150cm
好きな物:白薔薇、果物、空を飛ぶこと
出身地:王貴界
等級:一等下級魔法騎士
魔法属性:竜
竜化魔法 ?????
→自身がドラゴンになる。変身魔法とは別物。
魔法を弾く鱗、地上よりも空の方が速く動ける羽毛の翼、鋭い爪や牙が武器。
(title by
不在証明)
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医療棟に運ばれたフィンラルさんは集中治療を受け傷が塞がってもなお意識不明のまま。アスタくんをはじめ他のみんなは怪我を治して無事に黒の暴牛へと戻った。
そんな報告を聞いた後。ユリウスさんは、わたしを連れて真っ直ぐ屋敷に帰った。
他の仕事をするでなく。別々に帰るでなく。珍しい。
「お酒ですか?」
「少しだけね。ソフィアも飲むかい?」
「……それじゃあ、ひと口だけ」
お風呂上がり。夫婦の寝室で珍しく晩酌を始めるユリウスさんのこれまた珍しいお誘いに頷けば、軽く瞠目して、次に嬉しそうに笑ってくれた。
嬉しそうなのに、苦しそうな微笑だった。
「乾杯」
「かんぱい」
ベットに並んで腰かけ、小さなグラスを鳴らして。わたしは少しずつ、ユリウスさんは呷るように蜂蜜色のお酒を飲む。今夜は珍しい尽くしだ。
「……たくさん飲むなら、ヤミさん呼びますか?」
「いや、今夜はそういう飲み方がしたい訳じゃないんだ」
苦笑い。
をした目が、不穏に細められる。
「それとね、ソフィア。こういう時は僕以外の名前を呼ばないで欲しいな」
「あ、……ごめんなさい」
確かにデリカシーがなかったとしゅんとなったわたしの頬にひたりと触れる手の甲。お風呂上がりのはずなのに冷たい。
そのまま。何を言うでもなく、紫の瞳がじいっとわたしの目をのぞき込む。
「ユリウスさん?」
「……今日のこと、恨み言があるなら聞くよ」
は、と息を飲んでしまった。それがよくなかった。恨み言なんてひとつもないのに、肯定してしまったみたいだ。慌てて言い繕う。
「ないです」
「何でも聞くよ?」
「本当にないですってば。……羨ましいなとは、思いましたけど」
「他にもあるだろう?」
他? フィンラルさんの試合のことだろうか。その後のアスタくんの試合のことだろうか。でもどれもユリウスさんに言うことじゃない。
ユリウスさんに言うこと。聞きたいこと。他。
ふと、思ってなかった事が浮上した。まるで泡のように。
―――もし白夜の魔眼が現れたら、自分が戦うつもりで今日を過ごしてたんですか?
喉元まで出かかったバカな質問。寸前で飲み込んだけど、ユリウスさんがそれを見逃してくれるはずもなく。
「言ってごらん」
「いえ……言うほどの事じゃないですし」
「そうかな?」
「そうです」
「……君の言葉なら、何もかも聞きたいと思ってるんだけどね」
そんなふうに甘く囁いて、ユリウスさんはまたお酒を飲んだ。わたしは最初の1杯をまだ大事に舐めているところなのに。お酒に強い人の飲み方は水を飲んでいるみたいだ。
「んん……じゃあ、代わりに」
「なんだい?」
「ぎゅってしてください」
ユリウスさんがむせた。
「きゅ、急だね」
「そうですか?」
「うん。やっぱり、不安だった?」
やっぱりってなんだろう。そんなに不安そうな態度をしていただろうか。……そりゃフィンラルさんが負けた時は動揺したけども。
ふ、とひと息で微笑む気配。流れるようにグラスが攫われ、サイドテーブルに置かれる。わたしのと、ユリウスさんの。
「おいで」
大きな手のひらが自身の膝を叩いている。頬に熱が上るのか分かる。もう結婚してだいぶ経つのに、まだ慣れない。
「……お邪魔します、ね」
「うん、どうぞ」
ユリウスさんの揃えられた膝を跨ぐようにする。ベッドの軋みすら気恥ずかしくて仕方なかった。
求めたとおり、ユリウスさんにぎゅっと抱きしめられる。優しく。柔らかく。何の他意もない、親愛しか滲まない抱擁。
温かくて石鹸の匂いしかしないそれに不満があるわけじゃない。いや嘘だ、不満タラタラだ。
「(……なんで?)」
理由は自分でもよく分からないけれども。
やがて、ぴったりくっついていたユリウスさんの身体が離れる。膝の上に座ったままのわたしの頬を撫で、髪をくしけずり、優しく後ろに流して。
そうして満足気に目を細めるユリウスさんに胸が甘く締め付けられる。
「(わたしも、)」
触れたい。その気持ちのまま伸ばした指先を、ユリウスさんはひとつも拒まなかった。
彫りの深い顔立ち。小じわの増えた頬、目元。額のアスタリスク。くすぐったそうに端を上げた唇。ひとつとして。
「……ユリウスさん、無防備すぎませんか」
「こんなに僕に触れられるのは君くらいだから問題ないよ」
とんだ殺し文句に耳まで熱くなる。何故か言い放った方のユリウスさんまでほんのり頬が赤かった。そんなに恥ずかしいなら言わなきゃいいのに。
「(だって怖いでしょう。もしもわたしが白夜の魔眼だったら、……考えたくない)」
この手も、この目も、この温度も。何一つ当たり前なんかじゃないんだ。
もしかしたら明日にはここにないかもしれない。そんなことを今日まで一度も考えもしなかった。
だってユリウスさんはこの国でいちばん強いから。誰より強いから。
だから絶対にいなくならないって信じてた。
いや、盲目でいただけだった。
「ユリウスさん」
大好きって気持ちを、たくさん、めいっぱい込めて。
「好き」
心込めた声は、今にも消えてしまいそうなほど小さかった。
「……ソフィア」
「はい」
体を擦り寄せる。好き。大好き。もっと近くにいたい。もっと寄り添いたい。もっと。もっと。……その先がよく分からなくても。
胴を掴んでやんわり引き離す、ユリウスさんの手が熱い。まるでお熱があるみたい。
「ダメだよ、ソフィア」
「何がですか?」
「君はまだそれが分からないから、ダメなんだよ」
ユリウスさんが丁寧に引いた一線。いつも絶対に跨がないようにしている目に見えない境界線がある。
わたしはそれを、踏み越えてしまいたい。
「ユリウスさん」
きっとこのままでも幸せだ。このままでも上手くやっていける。
ユリウスさんの妻として、恋人として、家族として、ちゃんとやっていける。
わざわざしなくていい。頭では分かっているのに。
どうしてわたしは、この線を踏み越えたいんだろう?
ユリウスさんが、こんなにも欲しくて仕方ないんだろう?
「嫌なら、ちゃんと嫌がってくださいね」
きちんと前置きをして。わたしから、唇を重ねた。
ユリウスさんがいつもより弱ってると分かっていて、弱みにつけ込むように。
触れては離れ、離れては触れる。それだけのキス。たったそれだけなのに胸が燃えているように熱い。
やがて。重ねるだけだった唇に、湿った音が混じり出す。
わたしが何かしたわけじゃない。
ユリウスさんが、わたしにキスし返し始めたから。
「ん、」
くぐもった声が恥ずかしい。もじもじと膝の上で身をよじるわたしの腰を掴んで、ねえ、ユリウスさん、さっきまであんなに大人ぶっていたのに。
「ふぅ、ぅ……っ」
わたしの口を蹂躙する舌が火傷しそうに熱い。
気がつけばしがみついていた体も。首を支えてくれていた手も。何もかもが熱くて、燃えるようで。
「は、ぁ……」
「ふ……」
余韻を残して唇が離れてく。はふはふと浅い息の合間にぷつんと切れた銀糸。その先で濡れた唇を舐める舌の赤さがやけに目に付いた。
ユリウスさんの、目尻まで染まっていたのに。
「……はい、おしまい」
「え、」
あっさりと熱が離れてく。膝から下ろされこそしなかったけれど、ユリウスさんはまるで何もなかったかのように再びグラスを手に取った。
なんで。どうして。そう聞けばいいのに、声が出ない。
ショックだったから? 違う。今にも泣いてしまいそうだから。
「う、……〜〜っ」
「ソフィア、泣かないで」
泣かせたくせに、優しそうな顔してそんなことを言う。
慰めてくれるのに。抱きしめてくれるのに。キスも許されてるのに。
優しくされるだけじゃ足りないなんて、贅沢なのかな。
「……君は、……怖くはないのかい?」
怖い? そんなこと、ユリウスさんに思ったことない。
首を横に振ったわたしに、ユリウスさんはほろ苦く笑う。
「僕はね、怖いよ」
「え……?」
ユリウスさんの、怖いもの?
なんだろうそれは。思わずまじまじと見つめた目は、真っ直ぐにわたしを射抜いていた。
紫色。今夜はなんだか、いつもよりぐっと濃い色をしてる。
「君を愛することが、恐ろしい」
「……どうして?」
「……、……二度と引き返せなくなる」
驚いた。ユリウスさんがそんな事を言うなんて、夢にも思ったことなかったから。
「僕も……君も」
「元から、わたしにはユリウスさんしかいないですよ」
すとんと肩の荷がおりたような心地で何気なく投げかけた言葉に、ユリウスさんのお顔が酷く歪む。まるで痛みに耐えるよう。
「……本当に、後悔しないかい?」
念押しするようなそれに含まれているのが怯えだと、二度と引き返せない選択に挑む直前の最後のモラトリアムだと、やっと気づけたわたしの胸に広がったのは。
くすぐったくなるような、甘く柔らかな、歓喜。
「ユリウスさん。わたし、ユリウスさんの妻なんですよ。知らないんですか?」
「―――ソフィア」
「はい、なんですか」
テーブルに再びグラスが置かれる。迫った唇が一瞬だけ香ったお酒の匂いは、わたしの口の中の味とまったく同じで。
ゆっくり寝かされたベッドの上。逆光で影になったユリウスさんのお顔は、今まで見たこともないほどの緊張を孕んでいた。
「嫌だったら、すぐに言ってほしい」
さっきのわたしの言葉を返すように念押しして。
そのくせ、わたしを見下ろす目にどろりと煮詰めたような熱を持ったまま。
ゆっくりと唇が降りてくる。甘い口付け。そちらに気を取られている間に寝間着の中に大きな手がゆっくりと侵入して。
薄々わかっていた。ユリウスさんは初めてじゃないんだろうなって。わたしは、初めてだけれど。
「(でも……この先ずっとユリウスさんと一緒にいるのは、わたしだけ)」
顔も名前も匂いもしらない昔の女性への悋気はぐっと堪えて。
わたしもユリウスさんの寝間着に手を伸ばす。驚き、見張られた目と視線が絡んで。
どちらともなく笑い合いながら、影が、重なった。
一枚一枚、花びらを捲るように、一糸まとわぬ姿にされていく。
わたしも乱したくて。同じことをしたくて。伸ばした震える指は甘く舐め取られて。
ユリウスさんの淡く染まった指先が自身の寝間着を脱ぎ去るのをぼうっと見ていた。その中で、サイドテーブルに硬い音を立てて置かれたそれに意識が逸れる。
「(あ……魔石……)」
黒の暴牛で回収した後、ユリウスさんに渡された物。クローバー王国で最も強い男が持っているのが一番安全。
分かっているのに、ふとさした嫌な胸騒ぎ。
「ソフィア……」
「あ、」
それは降ってきた優しくも深い口付けに攫われた。
「僕を見て。……うん、いい子だ」
頭を撫でて。頬をくすぐって。やんわり抱きしめて。
いつもと同じような動きに滲む欲に、身体を這う視線に、変わる表情を堪えきれない恥ずかしい声をつぶさに見て聞いて柔らかに微笑む姿に。
ドロドロに溶け落ちたわたしには、不安を抱える余裕なんて残ってなかった。
軋むベッド。熱気が籠った行為の最中。
ユリウスさんは、涙が止まらないわたしのまなじりに何度も口付け。押し殺すように、堪えて堪えて最後の最後にどうしようもなく零れたように、それを口にした。
びっくりした。そういえば言われたこともないし、言ったこともなかった。
ずっとずっと思ってきたのに。
ずっとずっと感じていたのに。
握りあった手がぬるい汗で滑る。掴み直すみたいに指に力を込めたら、同じ強さで握り返してくれた。
こんなふうに伝わってるといい。こんなふうに伝わるといい。
「わたしも……―――」
信じられない。わたし、初めて言ったの。
愛してるって。