白夜編
夢小説設定
この小説の夢小説設定※原作開始時点
誕生日:7月17日(かに座)
性別:女
年齢:16歳
血液型:A型
身長 150cm
好きな物:白薔薇、果物、空を飛ぶこと
出身地:王貴界
等級:一等下級魔法騎士
魔法属性:竜
竜化魔法 ?????
→自身がドラゴンになる。変身魔法とは別物。
魔法を弾く鱗、地上よりも空の方が速く動ける羽毛の翼、鋭い爪や牙が武器。
(title by
不在証明)
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それは試合というにはあまりにも苛烈に過ぎた。
攻撃的な空間魔法の使い手だからという理由だからではない。
その使い手の、魔法の使い方があまりにもおぞましく目に映るが故の、恐怖で全身が震え上がるような戦いが繰り広げられていた。
魔法をひとつふたつ飛ばしたくらいじゃアスタくんの反魔法の剣に防がれ意味がない。ならばと増やされたいくつもの攻撃魔法。その球体が通った空間にぽっかりと穴が空いていく。
それは魔晶石を守り立ち塞がるアスタくんのふくらはぎの端っこを、右耳を、脇腹を掠め削り消失させていく。
負った傷はミモザちゃんが治している。でも痛くないわけがない。しかも治癒されるスピードを上回る勢いでアスタくんは全身に傷を負っていく。間に合わない。すぐに破綻する。
それでもアスタくんは、吠えた。
「フィンラル先輩が認めてくれた、オレが勝つ!!」
「(アスタくん……っ)」
諦めないのも彼の力だ。フィンラルさんが認めた、アスタくんの力だ。
でも根性だけじゃランギルスさんには勝てない。だからアスタくんは剣を構え、叫んだ。
「ザクス!! 頼んだ!!」
「バァ〜カ、誰が頼まれるか」
大きな魔法陣を盾にし、守るようにアスタくんの目の前にザクスさんが立ち塞がる。そう―――アスタくんは、仲間を信じることを躊躇しない。これもフィンラルさんが認めたアスタくんの力。
腹の底から鬱憤を吐き出すようにザクスさんが叫ぶ。
「お前らなんか、魔法騎士じゃねぇ!!」
「失せろ。僕こそが魔法騎士だ」
対してランギルスさんは冷静だった。追尾する魔法でカーブを描き、魔法陣を避けて本体の魔道士へ差し向けた。
ザクスさんに空間魔法が殺到する。肩に腕に胸に腹に足に空間を抉り取る魔法を受けたザクスさん―――風穴だらけになるかと思われたその全身に魔法陣が浮かんだ。
「本日初めてのオレへの攻撃到達、おめでとう貴族様……!」
「(前もって、罠魔法を自分の体に準備していた?!)」
そんな事が可能なのか。目を疑う観衆もランギルスさんも嘲笑うように魔法陣が光り、吸い込まれ消えた空間魔法が次々に放出される。
「受け取れニセ魔法騎士ーー!!」
絶叫とともに術者であるランギルスさんに跳ね返ったいくつもの空間魔法。
それに対し、ランギルスさんはなんと同じ数同じ挙動の空間魔法を出し、ぶつけ、相殺してみせた。
恐ろしく繊細かつ正確な空間魔法のコントロール。わたしはそれをよく知っている。顔がぐしゃぐしゃになってしまった。
「(やっぱり、フィンラルさんの弟……!)」
どんなに魔力が禍々しくても、言動が真逆でも、彼はフィンラルさんと兄弟なんだ。
例え、とっておきの魔法を使い切り、疲労困憊でしゃがみ込む相手を嘲笑うような人でも。
「お前のとっておきも僕に傷ひとつ付けられなかったなーー! 僕はまだ更に強くなれる……やっぱり僕は特別なんだーー!! 出来損ないの兄貴や、お前らとは違うんだ! お前らごときが何をやった所で無駄なんだよーー!!」
「無駄じゃねぇ!!」
空間魔法を動けないザクスさんに容赦なく放ったランギルスさんに再び立ち塞がったのは、黒い出で立ちのアスタくんだった。
黒い角と腕、羽。黒い剣を手に人ならざる姿で戻ってきたアスタくんはまず、向かってきていた空間魔法を薙ぎ払い打ち消した。
「なんだ……その姿は……!」
「別に何でもねーさ……お前がバカにしてるひとりの下民が足掻いた成れの果てだ……!」
ランギルスさんはさっきまでのアスタくんの試合をどれも見てなかったのか。たしかに見る見ないは個人の自由だけど……本当に眼中になかったんだ……。
「……どいつもこいつも目障りなんだよ。選ばれなかった分際で、同じ舞台に立とうとしやがって……! 選ばれた……特別なこの僕に適うわけがないだろうが……!」
「そーだな、お前はすげーよ……魔力の高い貴族の中でもひときわ強い魔力を持ってて、とんでもねー空間魔法の使い手……生まれながらに特別だ……!」
「(アスタくん……?)」
こんな事を言うなんて珍しい。ううん、初めて聞いた。だってアスタくんはいつだって前を向いていて、天才と呼ばれてるユノくんのライバルで、魔法帝になるってはっきり言葉にしていて。
「そんなすげー奴らに……オレは憧れた……!」
今まで、こんなふうに思っていたの?
「そんなお前らに、別に好きになって欲しいわけじゃねー……オレもお前なんか嫌いだ……! ただ……理不尽に奪うなよ」
アスタくんはランギルスさんを真っ直ぐ見つめて語っていた。叫んでいないのに、みんながそれに聞き入っているのが分かる。
みんなが胸打たれているのが、分かる。
「オレ達は、特別なお前らと……みんなを守るために、競い合い高め合うために、一緒に戦う為に……! 強くなって、ここまで来たんだ!」
「……うるさい! 死にたくなけりゃ、黙ってうずくまってればよかったんだよ出来損ないがぁぁーー!!」
ランギルスさんには響かず、球体の空間魔法が放出されアスタくんに向かって飛ぶ。
出来損ない、がアスタくんを指しているとは思わなかった。きっとアスタくんも同じ顔を思い浮かべただろう。
でもアスタくんはあくまで自分の事として返した。
「そーかよ……! じゃあその出来損ないの力……今、お前に焼き付けてやる」
そうして飛び出したアスタくんは、一筋の黒い流星のようだった。
空間を抉るはずの魔法を全弾が消し飛ばし。そのまま振り抜いた黒剣でランギルスさんを捉え、突貫。そのまま直進した先は―――ランギルスさん側の魔晶石。
手隙のはずの他ふたりすらいない魔晶石が真っ二つに切られ、気絶したランギルスさん諸共地面に崩れ落ちる。
同時に、ミモザちゃんの後ろにあった魔晶石が瓦解した。
「両チームの魔晶石、同時に破壊ーー!! この試合は引き分けとするーー!!」
「引き……分け……」
勝てなかった。脱力し、組んだままの指にため息が落ちる。
試合に負けて残念だと思う。それ以上に、アスタくんが本懐を遂げられなかったのだろう事実が辛い。
勝って証明したかったはずだから。
下民でも、出来損ないでも、ちゃんと魔法騎士なんだって。
「ソフィア」
ユリウスさんの声。指さす方を見て、ぐっと胸が詰まった。
満身創痍のアスタくんがふらふらと地面に倒れ込みかけ、駆け寄っていたマグナさんに受け止められる。
その近くにはラックさんやレオくん、キルシュさんもいた。でも黒の暴牛ではない、アスタくんと交流のないはずの人達が、輪を作るようにその場に集まっていた。
「共に……全力で戦おう……! 我々は同じ……クローバー王国、魔法騎士だ……!」
耳慣れない声が、万感の思いを込めて紡ぐのがここまで届いた。
アスタくんが何かを決定的に変えた。不思議なほど確信をもって、そう思った。
「それでは改めて……2回戦、第3試合を行ないます!」
アスタくんとランギルスさんが医療魔道士の人達に運ばれて行った後。待たされていた別ブロックの試合が始まる。
ラックさんとクラウスさんのチームが、リルさんと当たる組み合わせだ。
「(実際、リルさんがヤミさんと同じくらい強いなら普通に戦っても歯が立たないと思うんだけど……)」
予感は的中。ラックさん達は3人で協力して恐ろしく速く鋭い雷の一矢、神鳴の矢を用意し相手魔晶石目掛け射出したけど、リルさんが描いた雷を操る天上神の絵でカウンターされ逆に魔晶石を一撃で破壊され、敗退。
普通なら城や都市も貫いただろう超威力の雷魔法だったけど相手が悪すぎた。合掌。
「魔晶石破壊! Iチームの勝利ーー!!」
「(何が恐ろしいって、まだ底が見える感じがしないことだよね……)」
ヤミさんに対してもうっすら思っていることなんだけど、強さの底が知れない。限界値が分からない。そんな恐ろしさがリルさんにもある。
だからやっぱり優勝はリルさんかなと諦念にも似た気持ちで構えていた。
「2回戦第4試合はMチーム対Pチーム!!」
ユノくんの試合ぶりを見るまでは。
先程の雷の矢をそのまま返した刹那の試合には及ばないにしても、あまりにあっという間に決着した試合に口が半開きになってしまった。
同じチームのノエルちゃんも似たような顔をしているに違いない。
「(今の力は……)」
相手チームの魔晶石を破壊した風魔法が、粉々になった破片を巻き上げているのが見える。申し分のない威力。でもそれ以上に、今の攻撃魔法がどこから放たれたのか分からないことに思考がいく。
基本、魔力は、魔法は自身から放つ。そのはずなのに。
ユノくんは今、まったく違う場所から魔法を放った。
「(ザクスさんみたいに罠魔法を置いていたわけじゃなく、マグナさんみたいに視界から外したわけじゃない。間違いなく何もないところで風魔法が発生してた)」
最も恐ろしいのは、同じ現象を起こせる人をひとりだけ知っていること。
「(ユノくん、師匠と同じことしてた……!)」
食い入るように見つめていたわたしの頭にぽんとユリウスさんがひと撫でして、立ち上がる。
「準決勝第2試合、とうとう最後の試合だね。準決勝第1試合が引き分けになったから、Iチーム対Pチーム……これが事実上の決勝戦だ!」
そうして始まった試合は、2対2と1対1の戦況に別れた。
ノエルちゃんともうひとりが相手の2人を相手に自陣の魔晶石を守りきり。
ユノくんは単身、魔晶石を守るリルさんに挑んでいた。
もし攻守が逆だったらすぐに決着していたかもしれない。それくらい、リルさんにユノくんの魔法は効いていない。
「(あらゆる方角からの鋭い速い風魔法がことごとく防がれてる……さっきのラックさんみたいに、一撃必殺の魔法を使えばカウンターを取られるかもしれないし……)」
ここまでほぼ自力で勝ち上がってきていたユノくんは、初めて精霊の力を解放した。いや、違う。
「(精霊の魔を……身に纏った?!)」
まるで薄衣を羽織るようにユノくんが濃密な風精霊の魔力をその身体に留めた。頭のてっぺんからつま先までぴったりと魔力をキープするマナスキンという技術。それを、精霊の莫大な魔力で完璧に行なっている。
「ユノくん……凄い……!」
溢れ出た風の魔力が左手を染め上げ、頭には冠を、背中には片翼を授けている。アスタくんとアシンメトリーになっているよう。
呼応してリルさんが描いたのは逸話にしか存在しない竜だった。女の半身、猛禽の足、蝙蝠の両翼を持つ、幻竜ヴィーヴル。
精霊の竜巻と幻竜の息吹がふたりの間でぶつかり合う。お互いに全魔力を思いっきり放出し合う、胸のすくような正面対決。
その最中。ユリウスさんが立ち上がった。
「ユリウスさん?」
しぃ、と唇に指を当てた姿に、どこかに行こうとしているのだと察する。
あのユリウスさんが。あれだけ見たがっていた精霊魔法と、団長のタイマンの最中に。繰り返すが、あのユリウスさんが。
ふ、と消える寸前。わたしは咄嗟にユリウスさんの腕にしがみついた。
「あっ」
とっても珍しいユリウスさんの不意をつかれた声。
一瞬後には、さっきまで浴びていた魔力の奔流が嘘のように静かな場所にいた。
少し困ったように眉を下げたユリウスさんはわたしの頭を撫で、腕から手を外させ、物陰から出ないよう指さし。自分は濃い影の中から一歩進み出た。建物の出口の向こう。遠ざかろうとしていた足音の主を引き留めるように。
「もう帰るのかい?」
足音が止まる。代わりに、振り返るような音もなかった。
「言い方は悪かったけど……勝てなかった皆への問題提示ありがとう。高みを目指す者は真摯に受け止め、より強くなれるだろう」
「(あれ問題提示だったんだ……)」
やっと足音の主がザクスさんだと分かると同時に複雑な気持ちになる。普通に口が悪いとしか思えなかったので聞き逃してしまった。だって人の悪口とか聞きたくない。
「君の罠魔法とその知識は必要だ。王撰騎士団試験、合格するだろうからよろしくね」
「なーに言ってんだ。もう知ってるだろーけどオレはザクスでも何でもねーから。じゃ」
「(えっ)」
「君も魔法騎士だろう? イデアーレくん」
「(えっ?!)」
偽物か、あるいは偽名だったらしいと衝撃を受けていたのに、即座に更なる衝撃が降ってきた。
「昔、君によく似た魔法騎士がいてね……下民だけど、魔法騎士の鑑のような男だった」
「(あれ……? それって……)」
思い出す。遠い夏の日。語ってくれた昔話。
ゾラという男の死の話。
ユリウス・ノヴァクロノの夢の原点。
「彼のような者が評価されるように星のシステムを考えたんだ。上の立場の私達が不甲斐ないせいで、君に頑張ってもらったみたいだが……そろそろ、自分の団のローブ……身に付けてもいいんじゃないかな……?」
自分の団のローブ。その言葉に思い浮かんだのが真っ黒なそれだったのは、わたしが黒の暴牛だからだろうか。
ううん。だってわたしはひとりだけ知っている。どこからもあぶれた人をスカウトする、変わり者の団長を。
「イデアーレ? 誰のことだよ、知らねーなそんな奴……」
足音が遠ざかっていく。
「オレはただの……通りすがりの、スーパー魔道士のなりそこないだ……」
どこか寂しげな声が足音と共に聞こえなくなって。
戻ってきたユリウスさんは、わたしの顔を見て、優しく目尻を下げた。
「君がそんな顔をすることないんだよ」
「だって……」
「ほら、おいで」
広げられた両腕に飛び込む。今にも泣いてしまいそうだった。
だって彼はきっとゾラさんに関係する人で。そんな人が何をしてきたかは知らないけど、今日、きっと何か思うところがあったに違いなくて。
「(アスタくん、やっぱり凄いなぁ)」
言葉にならない気持ちで心がくしゃくしゃになってしまいそうだ。
抱っこして、とんとんと背中を叩いてくれていたユリウスさんが、これでおしまいと言いたげに頭を撫でる。
「泣かせてあげたいのは山々なんだけど、急いで戻らないといけないんだ。マルクスくんが待ってるからね」
「あっ……」
過ぎったのは怒り顔のマルクスさんだった。この想像が幻で終わるかは時間勝負に違いない。
慌てて腕から降りたわたしの腰を抱いたままユリウスさんが魔法を使う。瞬きし終わる頃にはもう元の観覧席。
ちょうど、ユノくんとリルさんの魔力が少しずつ小さくなるタイミング。
マルクスさんに青筋はまだ立ってない。
「(間に合った……!)」
リルさんの後ろにあった魔晶石が壊れている。よって、ユノくんとノエルちゃんのチームの勝ち。実質の優勝だ。
かくして波乱の王撰騎士団選抜試験は終わり―――国王は下民と王族の優勝に複雑な顔してたけど誰もがスルーして―――王撰騎士団に選ばれた団員には後日、知らせが届くと通達され。
王都に搬送されたフィンラルさんの様子を見に行く黒の暴牛のみんなを見送って、わたしは騎士団本部へユリウスさんと一緒に戻った。