白夜編
夢小説設定
この小説の夢小説設定※原作開始時点
誕生日:7月17日(かに座)
性別:女
年齢:16歳
血液型:A型
身長 150cm
好きな物:白薔薇、果物、空を飛ぶこと
出身地:王貴界
等級:一等下級魔法騎士
魔法属性:竜
竜化魔法 ?????
→自身がドラゴンになる。変身魔法とは別物。
魔法を弾く鱗、地上よりも空の方が速く動ける羽毛の翼、鋭い爪や牙が武器。
(title by
不在証明)
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結局、わたしは腕を治したアスタくんに会うことは出来なかった。というのも黒の暴牛アジトに帰れなかったからだ。
「奥方様、明日は星果祭ですよ」
「あっ」
すっかり忘れていたわたしは、マルクスさんの苦笑に大変申し訳なくてソファーの上で小さく縮こまった。
「顔を見て来るくらいはいいんじゃないかな。幸いソフィアは空を飛べるんだし」
「あっ、だ、大丈夫ですユリウスさん! というかわたしが前日から心の準備をしておきたくて……」
「心の準備?」
「……黒星がなくなったとはいえ、今年も黒の暴牛が最下位でしょうし……」
消え入るような声になってしまった。頭上でユリウスさんとマルクスさんが目を見交わす気配がしっかとあるのがまた胃に痛い。
魔法帝のすぐ隣りでお前んとこドベだからと言われる辛さは他の誰にも分からないだろう。心のヤミさんは無味乾燥な返事してないで反省して。
「うーん、本当はよくない事なんだけどね」
「今年の黒の暴牛は星取得数2位ですよ」
黒の暴牛の星取得数2位。心の中で復唱して、ふふと笑う。
「ユリウスさんでも嘘つくんですね」
「いやいや本当だってば」
「ヤミさんに隠し子がいる方が信憑性ありますよそれ」
「凄い、あの奥方様が私達の話を頑なに信じて下さらない……どれだけ心象低いんだ黒の暴牛は……」
マルクスさんがドン引きしていたけれど、とてもじゃないけど信じられない。
「まあとにかく、明日の発表まで口外しないように」
「言っても誰も信じないですよこんなの……」
当事者のわたしが信じきれていないくらいなんだから。
その日はユリウスさんの仕事が終わるのを待ってから王都の屋敷に帰宅した。冷えすぎた体を湯船でじっくり温めてから眠ったからか翌日に引き摺らなくて本当に良かった。
ただその夜のユリウスさんはわたしと一緒にベッドに入った後はずっとドラクーン家から持ち出した書類を眺めてらした。魔道具の橙色の明かりに揺らめく瞳は紫ではなく不思議な色合いに染まっている。
「(魔法のことならあんなにはしゃぐのに、とても難しい顔をしてる)」
持ち出した知識はやっぱり魔法じゃなかったんだろう。なら、あの部屋にあったものは、アスタくんの腕を侵したものは、一体何だったんだろう?
じっと見つめるわたしに今気づいたふりをしたユリウスさんの手のひらが目元を覆う。
「明日はまた朝から付き合わせてしまうからね。早くお休み」
「はーい……」
このまま起きていたらユリウスさんは部屋から出て行ってしまうだろう。だから大人しく目を閉じた。だんだん呼吸がゆっくりになっていく。あったかくて、優しくて、世界一安心できる場所。
「良い夢を」
わたしは真綿に包まれるように眠りに落ちていった。
あくる朝。ユリウスさんは当然のようにわたしより先に起きていた。朝ごはんを終えるやいなや使用人達による昨日より丹念かつ重装備な身支度が始まって、それが終わる頃には昼前になっていた。
星果祭のメインイベントである順位発表は20時からだけど、魔法帝はその前に挨拶回りがあった。その妻であるわたしもまた全部にくっつき虫して回らなきゃならない。
結局、昼から夕方にかけて、歩き通しの愛想よし通しの疲れ通しになった。挨拶回りの相手が去年の倍は居た気がする。多分気のせいじゃない。
「久々に疲れました……」
「お疲れ様です、奥方様」
「ありがとうございます、マルクスさん……」
今は星果祭会場である広場の端っこに建てられたテントの中。てっぺんが夕日色に染まるそこで、マルクスさんが用意してくれていたクッション付きの椅子に腰掛け、外で指示を出しているのか誰かと話しているユリウスさんの声をぼんやり聞く。
しばらくしてユリウスさんがテントに入ってきてからマルクスさんは席を外した。どうやら前回逃げたのが響いているらしい。その節は大変申し訳ありませんでした……。
「わたしもう逃げませんってマルクスさんに言うべきですかね……」
「いや、彼が心配しているのは、……うーん。そうだね」
「待ってユリウスさん、今の切り方はないです。気になりすぎる」
「なんとなく気づいているだろう?」
「……まあ」
多分、白夜の魔眼対策だ。彼らがわたしを殊更に呼ぶせいで、狙われているのではとマルクスさんは思ってるんだろう。
「(そんな事なさそうなんだけど……)」
むしろ同類や古い友人のような語り口だった。身に覚えはないし、潔白は誰よりもユリウスさんが知っているはずなんだけど。
「考えれば考えるほど、こんがらがる……」
結局、ユリウスさんはうんうん考え込むわたしを黙って見守ってくれて。
やがてマルクスさんが飲み物と軽食をトレーに用意して持ってきてくれた。
華奢なグラスに口付ければ、炭酸が踊る飲み物からは爽やかな柑橘の味がした。軽食に手をつける前にユリウスさんがトレーに一緒に乗っていた紙の束をわたしへ差し出す。星果祭の簡単な行程表だ。
「今年はユリウスさんから発表するんでしたっけ」
「そうだね。ちなみに、ソフィアには私のすぐ横についていてもらう予定だよ」
「う、……頑張ります」
「特別な事は何もしないから……」
それでも緊張はする。大勢のひとの視線を集めるわけだし。
お腹に力を入れて紙に軽く目を通す。大体は去年と同じだし、ステージに上がる顔ぶれも殆ど変わりない。王様が来られるくらいか。
それと今年の星果祭では紅蓮の獅子王の代理団長と紫苑の鯱の新団長のお目見えもするらしい。出席者一覧に差し掛かっていたわたしはその名を見て指を止めた。
「あの……ユリウスさん……」
「うん、なんだい?」
「紅蓮の獅子王の代理団長の名前、合ってますか……?」
「メレオレオナ・ヴァーミリオンで間違いないよ」
嘘でしょ。隣りでグラスを傾けていたユリウスさんの軽い肯定にわたしはむしろ絶句しかけた。確かに凄い強いひとだったし、白夜の魔眼幹部が尋常じゃない強さだったのだから、あのひとを引っ張り出すのはある意味正しいのかもしれないけど。
でもだからって、団長職が勤まるのだろうか。
「魔法騎士団の団長任命権は確かに魔法帝だけのものですけど、あの、大丈夫ですか? というかよく説得出来ましたね?」
「レオポルドくんを初めとする紅蓮の獅子王の団員が頑張って説得してくれてね」
「ひぇ……」
説得になっていやしないかそれ。口を滑らせそうになったけで飲み込んだ。これは紅蓮の獅子王の問題で、わたしが口出し出来ることじゃない。
静かに紙を整え返したわたしの顔色を見てか、ユリウスさんは複雑そうな顔をした。
「意外だね。君は喜ぶと思っていたよ」
「嬉しいのは嬉しいですけど……住宅街を繋がれていないライオンが練り歩くようなものなので……」
「……うん」
でも無辜の民を守る方でもあったはずだし。師匠の前で安全が保証されてないのは力ある魔法騎士団員だけだろうし。多分、大丈夫。
なんとも言えない魔法帝のお返事を聞きながら、軽食に手をつける。外の屋台を回りたい気持ちはあるけれどおくびにも出さない。そんなの叶わないって分かっているから。それよりも。
「(お会いするの、結婚式以来だなぁ)」
思わず微笑んでしまうくらいには、師匠に会えるのが楽しみだった。
夕刻が過ぎ、テントの中でもランプが灯され。
あっという間に空が夜へと塗り変わる。
そろそろかなと被っていたヴェールをユリウスさんが直してくている所に丁度マルクスさんが入り口を捲り顔を出した。
「ユリウス様、奥方様。そろそろご準備を」
「そうだね、行こうか」
「はい」
ユリウスさんに手を取られて、隣りに立っても恥ずかしくないよう淑やかに歩き出す。本日二度目の猫かぶりタイムスタートだ。
広場の中央にある見晴らしのいい建物の最上段へ向かう。時間が来たらユリウスさんマルクスさんと一緒にバルコニーに出て、功績発表が始まる。
道中、ちらと遠目に見えた団長達の控え席。居並ぶ団長達の中にわたしと同じく猫かぶってそうな師匠がいるのはいいとして、なんかふたりほど足りない。
ヤミさんはともかくもうひとりの不在者、碧の野薔薇の団長シャーロットさんはどうしたんだろう。規律に厳しそうなひとに見えてたんだけど。
「遅刻ですかね?」
「時間厳守って言ったのに……」
間に合えばいいなぁと、少なくともヤミさんについては叶いそうにないことを無責任に思って目を逸らした。ヤミさんについてはもうあーあとしか言いようがない。諦めが肝心。
階段を登り、着いた最上階には先客が居た。護衛の囲まれ椅子に腰掛けているのは以前お会いした時よりもっと飾り立てた国王だ。げ、と出そうになった声をすんでで飲み込む。
「ドラクーンの娘よ、健勝そうで何よりだ」
「……お気遣い、ありがたく存じます」
わたし今ドラクーンの娘じゃなくてノヴァクロノ夫人なんですけど!
と食ってかかるわけにもいかず。楚々とした振る舞いのまま対面した国王にヴェールの下で顔が引き攣るかと思った。思わずエスコートしてくれているユリウスさんの腕にしがみつく。
ぴったりくっ付き合うわたしとユリウスさんをジロジロ見て、国王は鼻を鳴らした。
「ふん、夫婦仲が良いようで何よりだ。子が出来たなら真っ先に余に知らせよ。よいな」
「国王、妻の前でその話は……」
「(もうやだこのひと)」
初めて顔も名前も知ってるひとに対して殺意を覚えた。
わざとらしく咳をしたマルクスさんが時間だからとバルコニーに案内してくれたから離れられたけど、本当に、本当にあのひとはどうにかならないものか。
国王とその護衛の耳目が届かない場所に移動したと同時に3人揃ってため息をついてしまった。
「……国王にも困ったものだね」
「ユリウス様、毅然と断ってもよかったのではないですか。あれは奥方様へのセクハラですよ」
「預言者ドラクーンの血筋を残したがるのは自然なことだからね……」
ドラクーンの底冷えする家を思い出す。そんな凄い家には見えなかったけれど、偉いひとには違うんだろうか。……いやユリウスさんや師匠も偉いひとだからそのくくり方はよくない。
「すまないね。なるべく会わずに済むように気を付けるよ」
「じゅうぶん気遣って貰ってますよ」
現に、ユリウスさんの予定通りだったら国王との顔合わせは結婚式以来になるはずだったんだから。
見上げて笑えばユリウスさんはほろ苦く微笑んだ。それは一瞬の事だったけど。
「それじゃあ、行こうか」
「はい」
差し出された大きな手のひらに揃えた指を重ね、一緒にバルコニーへと歩を進める。
広場の聴衆を見下ろし、下からも見えるだろう場所で足を止め、ユリウスさんだけ一歩前に出る。そうして逆隣りにいたマルクスさんが魔法を交信魔法を使えば、後のわたしはただ立っているだけだ。
ユリウスさんの朗々とした声が魔法で拡声される。
『みんな―――集まってくれてありがとう』
眼下を埋め尽くす民衆の返事は圧倒されるほどの歓声。ユリウスさんへの、いや魔法帝への声援が王都を揺らしそうなほどの熱気が隣りにいるわたしの頬をも焼くよう。
『今回の魔法騎士団功績発表は私からさせて貰う。発表後に国王も登壇するから、楽しみにしていてくれ』
国王来るよと言ってるのに歓声は魔法帝一色だ。可哀想になってくる。個人的には改めて嫌いになったばかりだからちょっと溜飲が下がったけど。
『みんなも知っての通り……今このクローバー王国ではダイヤモンド王国とスペード王国の侵略に加え、白夜の魔眼というテロ組織が現れ、厳しい戦いが続いている。王都が襲撃され、国民に犠牲者が出た事もあった。今回の星果祭も開催すべきなのかとも思った』
屍人に蹂躙された王都の光景がまな裏に蘇る。あれから随分時間が経ったように思えるけれど、まだ数ヶ月しか経っていないんだ。
この広場もあの騒乱の舞台のひとつだった。魔法で修復されてはいるけれど、消えない記憶として刻まれているひとも少なくないだろう。
だろうに、こんなにも集まってくれたのは。
『だが敢然と敵に立ち向かう者がいるのも事実。こんな時だからこそ我が国が誇る彼らを褒め称えたく、祭りを開催した』
きっと、ユリウスさんと思いを同じくしている国民が多かったから。
そして、魔法騎士団主催のお祭りなら大丈夫だろうという信頼からだろう。
『さあ国民みんなで呼ぼう! 我ら9人の魔法騎士団長を!』
一段下のバルコニーに登壇した団長達へ、ユリウスさんが現れた時と同じ、いやそれ以上の喝采が民衆からあがった。
特にフエゴレオンさんの後任が女性である事に触れている声が多かった。安心して欲しい性別とかどうでもよくなるひとだから。
これが、この国を護り支える、9つの騎士団を率いる騎士団長達への誉れと期待と信頼。
……今この場には7人しかいないけど。
「(ヤミさんとシャーロットさん、間に合わなかったんだ……)」
『気を取り直して、じゃあ順位をいきなり発表しちゃうよ〜! 1位は……金色の夜明け! 星の数はなんと125だーー!!』
黒の暴牛と碧の野薔薇の団長がいないことへのザワめく声が大きくなる前にユリウスさんがサクサク進行する。
自然とウィリアムさんの後ろ姿に視線がいく。垣間見えた涼やかな横顔には驚きも喜びもない。まるで当然の事のよう。
『金色の夜明けは、今期は素晴らしい活躍を見せてくれた! それでは星取得に最も貢献した団員に登壇して貰おう。風の精霊シルフを従えた期待の新人―――ユノ!』
予定調和のように団長達の前に進み出てきたユノくんが下に見える。彼もまた涼しい顔をしているけれど、入ったばかりの新人がそこに立つなんて普通なら偉業。本人は気にした様子もないけれど。
『続いて2位の発表だ!』
来た。得体の知れない緊張にかたずを飲む。握った手のひらが汗で滑るわたしのすぐ隣りで、それは高らかに告げられた。
『第2位は……黒の暴牛!! 星の数、101!』
地響きかと思うほどのどよめきが広場を埋めつくした。
それは間違いなく今夜一の騒がしさだった。
分かる。わたしも未だに信じきれていない。そう言えたならどれほど楽だろう。功績一覧を見れば、なるほど心当たりは確かにある。
「(間違いなくアスタくんの貢献のお陰が大きいのは勿論、今年は荒事が多かったから……)」
『みんなが驚くのも無理はない……黒の暴牛は昨年、星マイナス50という前例の無い数字を出したからね……』
不正をも疑う人達の声にユリウスさんが苦笑いしてフォローしてくれた。けれどわたしは胃が縮むかと思った。異例の数字打ち立ててたの、去年のわたし達……。
『けど今年は違う! 目覚ましい躍進を見せて一気にこの順位まで上り詰めたんだ。中でも凄かったのが新人の……って団長すらいないんだよね。お〜い誰か暴牛の関係者いないかーい?』
「(いっぱいいる……)」
射的のところにマグナさんとラックさん。少し離れたところには海底神殿で会った兄妹と一緒にいるノエルちゃん、そのすぐ近くにはなんか奇天烈な格好してるヤミさんもいる。
でも、ここに呼ばれるなら、ユノくんの隣りに立つのなら。
「(やっぱり、アスタくんだよね)」
ヤミさんが手近にいたアスタくんの頭を掴んでぶん投げた。わたしがこの光景を見るのは三度目だ。
一度目はただノエルちゃんの魔力を霧散して。
二度目は海底に投げ出されるようにして。
今度は、飛ばされた先であるユノくんのすぐ目の前に剣を突き立て、危なげなく着地した。
しっかりとその両手に剣を掴んで。
「うおお〜、あっぶねぇぇ〜〜!」
「来たな……アスタ」
「おう、ユノ!」
魔法の明かりが煌々と照らすステージに、ふたりはやっと向かい合って辿り着いた。わたしはそれに何の違和感も覚えなかった。あまりに早い登壇にも関わらず。
とても頑張っていたのを知っていたから。