白夜編
夢小説設定
この小説の夢小説設定※原作開始時点
誕生日:7月17日(かに座)
性別:女
年齢:16歳
血液型:A型
身長 150cm
好きな物:白薔薇、果物、空を飛ぶこと
出身地:王貴界
等級:一等下級魔法騎士
魔法属性:竜
竜化魔法 ?????
→自身がドラゴンになる。変身魔法とは別物。
魔法を弾く鱗、地上よりも空の方が速く動ける羽毛の翼、鋭い爪や牙が武器。
(title by
不在証明)
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王都に着くなりヤミさんはわたしとチャーミーさんに待機を命じて、アスタくんを連れてどこかへ、多分騎士団本部へ行ってしまった。正直、今はユリウスさんと会いたくなかったのでしっかり待つ。別にまだ拗ねてるわけじゃない。
焼き菓子のおやつを買ってきて食べてるチャーミーさんの隣りで分けて貰ったおやつを食べ終わる頃。ヤミさんは、はーやれやれとタバコを吹かしながら戻ってきた。
「おかえりなさい、ヤミさん」
「おう。んじゃ行くぞ」
「どこにですか?」
「買い物」
「「買い物?」」
大変な任務を終えてキテン防衛にも顔を出した後で、王都でヤミさんが遊びにも行かずわざわざする買い物。それもわたしとチャーミーさんが手伝うようなもの。
なんでだろうとハテナを飛ばしながら大きな背中について行った先。
専門店で物凄い爆買いをするヤミさんを見た。
お酒の瓶が林立する木箱がいくつも重なり、チャーミーさんの目利きで選んだ瑞々しい野菜の入った籠を重ね、ちょっといい調味料なんかも買った後。
「次は肉な」
「まだ買うんですか?!」
「肉がなきゃ始まんねーだろ」
「じゅる……」
「オレの荷物に手ぇつけんなよチャミ公」
最初のお酒の木箱買いの段階で竜の姿になり、荷物を背に乗せ荷車として働いていたわたしの悲鳴が遠く王都に響くもヤミさんは止まらない。
でっかくて筋肉モリモリなヤミさんと同じくらい体積がありそうな精肉やらソーセージやらの入った包みを肩甲骨あたりに乗せて紐でくくる頃には日が傾き始めていた。
「そろそろ帰るか。フィンラルも戻ってんだろ」
「ソフィア、重くないか? ん?」
「重くはないけど、食材山盛り持って竜のまま王都の道を歩くの辛いです……」
チャーミーさんが慰めるように頭を撫でてくれたけど周りのヒソヒソ声、というかザワザワ声はそのままだった。もう気にしないけど。けどちょっと視線が痛い。
荷物を背負った竜のわたしが途中の門をくぐれなかったので、ヤミさんはひとり本部に行って。
後ろに唇を引き結んだフィンラルさんと、変わらず両腕に包帯を巻いたままのアスタくんを引き連れ戻って来た。
「あれ、アスタくん包帯取れなかったの?」
「あ……そっすね!」
いつもと違う雰囲気に首をかしげかけて、背中の荷物が傾く気配に慌てて踏み止まる。
「そんじゃアッシーくん、ドラ娘が通れる空間よろしく」
「……」
「フィンラルさん?」
「あっ、ああ! ごめん、すぐ開けるね!」
連続で働いてるのが辛いのか、フィンラルさんもいつもと何となく違った。前に竜のわたしが通れる空間を開けるのはキツいって言ってたのに文句ひとつ言わなかったし。なんだろう。
フィンラルさん渾身の巨大な空間魔法を無理やり通って―――小さな穴を通る猫の気持ちがちょっとだけ分かった―――辿り着いた黒の暴牛のアジト。
茜空を背負った摩訶不思議建築のそれを見上げる前に背中の荷物を降ろして貰って、やっと人に戻れたわたしが最初にしたのは背伸びだった。
「んっ……ああー、肩こった」
「晩飯するから全員集めて来い」
「はーい」
「てめーらはこっちだ」
ヤミさんが2本目のタバコに火を付けながら指示する。アジトからちょっと離れた場所にあるバーベキュー台に向かう背中はいつも通りに見えた。少なくとも、ヤミさんは。
アジトのエントランスに顔を出せば殆ど全員がこっちを向いた。
ノエルちゃんバネッサさん、マグナさんにラックさん。ゴーシュさんは声かけたけど妹さんの所に帰るからと断られ、グレイさんは部屋まで行ったけど不在らしくてどこにも居なかった。
ヤミさんの所に4人を連れて戻れば、ヤミさんはてんこ盛りの食材を背にいつも通りの顔で紫煙を吐いた。
「はい注目〜。気づいた奴もいるだろーが、ここ最近で星獲りまくってなんと黒星がゼロになりました」
「あっ」
そうだ星の制度があるんだった。すっかり忘れてたわたしと違って、周りは、特に先輩達は歓声を上げていた。
「これもお前達バカ野郎共の活躍のお陰だっつーことで……」
ヤミさんが行儀悪くサムズアップで背後の食材を指差した。
「ま、まさか……」
「肉食えオラァぁ〜〜!」
戦闘中にも聞いた事のない大喝と共に黒の暴牛の黒星脱却おめでとう焼肉が始まった。
いつものグダグダはどこへやら。羊のコックさんで食材を切って串打って整えるチャーミーさん、台に火を入れるマグナさん、酒を全員に行き渡らせるバネッサさん、珍しくマグナさんにちょっかいを出さないラックさんと、素早い連携であっという間に準備が進む。
チャーミーさんから貰った串を握ったまま思わず半目になる。
「いつもこんなならいいのに……」
「ソフィアあんたちゃんと飲んでる〜?!」
わたしに小ぶりな瓶をそのまま握らせたバネッサさんが肩組んで揺さぶってくる。ついで握ってた串の肉も齧られた。
「ヤミさんに奢ってもらえるとは……今日は記念日だ! 来てねー奴らの分も食ってやるぜ〜!」
「マグナ! この肉かけて殺し合いしない?!」
「するかバカ!」
「ぷっはあーっ、お肉とお酒! これ以上ない至福の時ね〜!」
「お外でご飯食べるの、久しぶり」
思い返せば子供の頃のお祭りぶりだ。ぬるい風が吹き抜ける中、串に刺さった野菜に噛み付く。
そういえば両腕骨折してるアスタくんは食べられないんじゃと探せば、モジモジしてるノエルちゃんのすぐ近くの椅子に座っていた。
「あ……アスタ! あんたその腕じゃ食べられないでしょ?! しょしょしょ……しょうがないから私が食べさせてあげても」
「足で食えるよーになったぁぁぁぁ!」
「えっ、すごい」
ブーツも靴下も脱いで足の指で串焼きを持つアスタくんがいつもみたいに食事していた。ちょっと行儀悪いけど純粋に凄いなと感心したら照れくさそうに笑ってた。
その笑顔にノエルちゃんが向けたのは杖だったけど。
「お下品下民めーーっっ!!」
「だははははは」
「うわ水が!」
ノエルちゃんが起こした魔法は小さな噴水みたいだった。吹き出した水に乗って吹っ飛ぶアスタくんも心配だったけど、何よりバーベキュー台に水しぶきがかからなくてよかった。
ほっと胸をなでおろして、ちょっとだけ、黒の暴牛に馴染みすぎではと我に返る。因みにアスタくんが取り落とした肉はチャーミーさんが空中で食べ尽くした。
「はぁ、喉乾いた……」
うっかり手に持ってた瓶に口付けて危うく噴き出しかけた。渡してきたのがバネッサさんならお酒だろうに、うっかり飲んでしまった。
「う……頭くらくらする……」
「えー? もしかして具合悪かった?」
「そ、じゃないです、けど」
「じゃあ飲んでも大丈夫ね!」
「え、」
一切の躊躇なく酒瓶を口に突っ込まれた。吐き出すわけにもいかず、ゆっくり飲み干したわたしにバネッサさんはご満悦だ。
「はぁ……うぅ、息が酒くさ……」
「ドンドン飲むわよ〜! あー美味し〜っ!」
みんなを見れば、宴もたけなわで。
ヤミさんがフィンラルさんに一発芸を所望して出てきた秘技自分殴り(空間魔法で自分の頭を殴ってた)とか、続いて指名されたチャーミーさんの秘技瞬間肉消し(網に乗ってた肉が一瞬で食べ尽くされた)とか、自薦して筋トレを始めたアスタくんとか(スクワットで残像見えたの初めて)などなど、もうめちゃくちゃで、面白くて。
たっぷり笑って、とっぷり日が落ちて、夜も更ける頃。
「いや〜ちょっと疲れちゃったもんで、オレここいらで失礼しま〜す」
「そーかしっかり休めよー」
「お疲れ様でぇぇす!!」
アスタくんが一抜けした。あのアスタくんが、である。
ぼんやりした頭に引っかかるものがあったけど追いかけられなかった。
「何かアスタ……少し変じゃなかった?」
「確かに。つかあいつが疲れるわけねーだろ」
「でも、王都からなんか元気なかったし……」
寄りかかっていたバネッサさんから体を起こしながら言葉にして、ますます違和感が膨らむ。そういえばもうひとり、様子のおかしいひとがいた。
「みんな、聞いてくれ」
「フィンラルさん……?」
「アスタくんが治療されてる時、聞いちゃったんだ……」
それはまるで懺悔するような声音だった。
「アスタくんの両腕は……二度と戻らないって……」
「え……?」
夜風が吹き抜け枝葉を揺らす音が聞こえた。それくらい静かな夜のしじまだから、フィンラルさんの声は嫌というほど鮮明に響いて。
「何……言ってんだよ……!」
「聞いたんだ……恐らく、古代の呪術が掛けられている……骨が粉々に砕かれているのも相まって、残念ながら今の魔法では治すことが出来ない、って……!」
「古代の呪術……?!」
「クローバー王国一の回復魔道士が言うんじゃ、間違いねーな……」
「そん……な……」
誰もが絶句した。ラクエで魔法騎士の犠牲者が出たと聞いた時だってこんなに落ち込まなかったのに、酷い気分だった。
欠損しても魔法で代替の手足を生やして使っているひともいる。でも魔力のないアスタくんにはそれが選択肢にすら上がらないんだ。
ただ、そう生まれついたというだけで。あんなにも必死に夢を追いかけているアスタくんから、何もかもが毟り取られようとしているような気さえした。
鼻の奥がツンと痛む。泣いてしまいそうだ。
「だって……なんで、そんな……酷い……っ」
「くそ、最強の相棒が……見つかったと思ったのに……!」
「ハード過ぎるだろぉが……!」
「魔力がないあの子の……唯一の武器を振ることすら出来ないって言うの……?!」
「……アスタ……!」
気がつけば誰もがアスタくんの去っていった方を見ていた。
アジトから少し外れた方角。気がつけば、あの小さな背中を追いかけるようにみんなバラバラに歩き出していた。
疲れたと言って輪から離れたアスタくんはやっぱりアジトに戻っていなかった。
アジトから離れた木立の向こう、空がよく見える原っぱの石に腰掛けていた。仰いでいたのは煌々と光る三日月。
どんな気持ちでいるだろう。どんな言葉をかければいいんだろう。
昼間。魔法帝になるという夢に笑ったあの瞬間が遠い。
あの時は心の底から応援した言葉が、痛い。
「アスタ……」
震え始めたアスタくんは―――勢いよく立ち上がった。
「誰が諦めるかぁぁぁぁーー!!」
は、と誰もが息を飲んだ。呆気に取られる仲間が背後の茂みに隠れているなんて気づきもしないでアスタくんは月に向かって吠え猛る。
「またやってくれたな運命この野郎ぉーー!! もうむしろ燃えるわバカタレぇ!! ぜっってーこの腕が治る方法見つけ出してやるからなぁぁぁ!! もしくは腕以外の力だけで戦い抜いてやるわぁぁぁ!!」
「……アスタくん……」
誰もいない、何もない、泣き出してもいいような場所で、アスタくんは物凄い勢いで啖呵をきった。それはノエルちゃんがちょっぴり吹き出すほどだった。
「オレが本当に落ち込むのは……あの時で最後だ……!」
「アスタ……」
「そーだよな小僧……!」
「熱い漢だぜチクショーが〜……!」
折れず、曲がらず、アスタくんはアスタくんのままだった。こんな目にあってもなお。
茂みから立ち上がってヤミさんに一礼する。
「すみません、ヤミさん。一旦王都に帰ります」
「おー、旦那によろしくな」
「はい」
アスタくんに背を向け林を抜けるわたしを誰も引き止めなかった。きっと、これから全員が同じことをする。誰も口にしなくても分かった。
夜闇に飛び立つ。お酒が抜けていない体でふらつきながらも真っ直ぐ目指した王都。駆け込んだ屋敷の、夫婦の寝室。
日を跨ぐ寸前の帰宅にも関わらず、寝間着姿のユリウスさんは椅子に腰かけ本を開いていた。まるでわたしが来るのを待っていたように。
「やあ、おかえり。ソフィア」
「ただいまです。アスタくんの腕について、知ってるんですね」
「オーヴェンから報告は受けているよ」
予想通りの答えに頷きながら歩み寄る。いつもはここにふたりの話以外は持ち込まない。でも今日だけは例外だった。
ユリウスさんはそれに薄く笑みをはいた。プライベートではなく、魔法帝としての笑みを。
「君が駆け込んできたということは、アスタくんはもう立ち直っているんだね」
「立ち直るも何も折れてすらいないです」
「それは素晴らしい」
「はい」
本人が聞いたら大喜びするだろう素直な賞賛にも頷くだけ。そんなわたしにユリウスさんはゆっくりと目を細めて、次の言葉を待ってくれた。
「ユリウスさん、確認だけさせて下さい。ユリウスさんの時間魔法でアスタくんの腕は治療できないんですね?」
「それは出来ない。人体の一部分だけに時間魔法を使った場合、後から悪影響が出てくるかもしれないからね」
「……ですよね」
分かっていた。それが出来るならフエゴレオンさんはとっくに目を覚ましている。
それなら。
「古代の呪術について、教えてください」
「実を言うとね、私もさほど詳しくないんだ。少なくともオーヴェン以上の知識はない」
「そん、な……」
魔法マニアのユリウスさんでも詳しくないのならいったい誰が知っているのか。
頼みの綱であるユリウスさんでも分からないと。どうしたらいいか分からず立ち尽くすわたしに、大きな手のひらが少し待ってと言いたげに向けられる。
「古代の呪術について知っている家はいくつかある。ただし、その知識は門外不出で他人が目にする機会はそうそうない。そして君の生家であるドラクーン家もその知識を蓄え、外に出さない家のひとつだ」
「……え?」
呪術は魔法とはまた違う。知識として頭で分かっていても理解してなかったのだと朧気に受け止めながら、同時に困惑する。なんでここでドラクーンの名前が出るのか。あの家は祖母が預言者だったことしか分からないのに。
「昼間のうちに君の里帰りを打診しておいた。返事は、いつでも来てもいい、ただし条件がある、と」
「条件……?」
「君ひとりで来ること」
わたしにとってはあまりに何も知らない家。母の葬式をした場所。迎えてくれるのはきっと、結婚式で会ったっきりの父だろう。
「行くかい?」
「行きます!」
躊躇いはなかった。そこに、ほんの少しでもアスタくんの腕を治す可能性があるのなら。
即答したわたしにユリウスさんは満足気に頷いた。
「なら、出発は明日の朝だね。家まで送ろう」
「はい! ありがとうございます、ユリウスさん」
「これは君自身の伝手で、私は何もしていないよ」
「それでも……アスタくんのこと、絶対に諦めたくなかったから、……嬉しくて」
胸をせり上がる熱いものにぐっと喉が鳴る。ぐしぐしと目元を袖で拭うわたしの頭に温かな手のひらがぽんと落ちる。
「ほら、早くお風呂に入っておいで」
「……っはい」
ぐっと顔を上げて急いで踵を返す。
明日の朝に控えた決戦へ向けて、今日をきちんと終わらせるために。