白夜編
夢小説設定
この小説の夢小説設定※原作開始時点
誕生日:7月17日(かに座)
性別:女
年齢:16歳
血液型:A型
身長 150cm
好きな物:白薔薇、果物、空を飛ぶこと
出身地:王貴界
等級:一等下級魔法騎士
魔法属性:竜
竜化魔法 ?????
→自身がドラゴンになる。変身魔法とは別物。
魔法を弾く鱗、地上よりも空の方が速く動ける羽毛の翼、鋭い爪や牙が武器。
(title by
不在証明)
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フィンラルさんの空間魔法を通り抜け、着いた先は町の外壁の上だった。キテンの町は酷く懐かしい魔力で満ち満ちている。
「これ……」
そよそよと風そよぐ中に木の葉が心地よく踊る。淡い木漏れ日に顔を上げれば、雲にも届くような大樹が町の中心に植わっていた。その幹には数多のダイヤモンドの魔道士が取り込まれている。
神々しく美しく恐ろしい、ウィリアムさんの世界樹魔法だ。
「(凄い……)」
「ここがキテン……ってどわぁあああ! 何すかこのでっかい木! この町こんなの生えてんすね!」
「でっかい木の実なってますかね?!」
「はいバカふたりありがとう〜」
アスタくんとチャーミーさんの叫びにヤミさんのチョップがさくっと決まる。魔力なしのアスタくんはともかく、尋常じゃない魔力を放つ木を見上げて実を食べようとしたチャーミーさんはちょっと危なすぎると思う。
流石にフィンラルさんは呆気に取られたように見上げてるだけだったけど。手折って女の子への手土産にとか言い出さなくてよかった。
「こりゃ恐らく金ピカ団団長の魔法だ」
「え゛えええこれ魔法ううう?!」
「町の方も、殆どの小競り合いは終わって、敵主力とぶつかってるのが何人かいるだけみたいですね……」
「……来なくてよかったかもな」
「じゃ、じゃあもう帰りましょ! ね?!」
収束しかけてはいる。でもまだ町からは戦闘音も助けを求める声が聞こえる。何より味方である金色の夜明け団の誰からも話を聞けない。
だからか、ヤミさんは跳んで大樹を登り始めた。
「いや、戦況を確認しに行く。恐らく団長さんは上にいるな。ちょっくら行ってくっから、3人で死なねーよーに町の人間助けろ。ソフィアはそいつらのお守りな」
「はーい」
「お任せをっ」
「や……ヤミさぁぁぁん」
あっという間に駆け登って行ったヤミさんに良い子の返事をしながら竜になる。いつもなら黒の暴牛のローブを首に巻いていても悲鳴が集まるこの姿だけど、こういう戦場じゃ話は別だ。
とりあえず悲鳴をあげてるフィンラルさんに顔を寄せる。
「ほらフィンラルさん、お仕事しましょう。今回は人助けなのでフィンラルさんの魔法が頼りですよ」
「ううっ……ほんとにヤバかったら一緒に逃げようねソフィアちゃん……」
「はいはい」
やる気満々に駆け出したアスタくんとチャーミーさんを半泣きで追いかけだしたフィンラルさんの背中を追いかけ町の中を進む。
アスタくんが町全部に聞こえそうな声で避難誘導し、チャーミーさんが逃げ遅れたひとを綿に乗せて集め、フィルラルさんが空間魔法で安全地帯に飛ばす。完璧な布陣。
それらを邪魔しようと突っ込んで来たダイヤモンドの木っ端をまたひとり殴り飛ばしたわたしの目の前で、アスタくんが叫びながら敵を蹴飛ばした。
「んみなさぁぁーーん!! こちらから避難してくださぁぁぁーーい!!」
「あ、アスタくんそれ腕によくないよ。今だけでも大人しくしてて」
「すんません無理っす!」
「もう……」
その時。飛来したふたつの魔力の衝突にぱっと上向く。同じように空を見上げたフィンラルさんが叫んだ。
「空で……誰かがダイヤモンドの奴と一騎打ちしてる!」
「……ユノ……!」
風魔法の猛禽に乗ったままのユノくんは、ダイヤモンドの将だろう雷の鳥に乗った魔道士と互角の空中戦を繰り広げていた。
攻撃魔法を打ち消しあい、ドッグファイトで交差しあい。
決着は一瞬の間についた。
ユノくんの作り出した風にダイヤモンドの将が煽られバランスを崩した。その不意をついた大きな風の剣が将の胴体を貫き、地上に吹っ飛ばす。
「たった一撃で……」
「倒した……!」
鮮やかな決着を終えたユノくんがふわりと降りてくる。その傍らには小さな妖精のような存在。あれが風の精霊だろうか。
「よく見知ったチンチクリンがいると思ったら……こんな所で何してるんだ……? アスタ」
次の敵を探すでもなく、アスタくんと向き合ったユノくんが静かに語りかける。
「しかもボロボロだしドタバタ動いて汗でビチャビチャだし……見苦しい」
「そ、そこまで言わなくても……」
「お前がそれだけボロボロになってるってことは、また更に強くなったんだな」
風向きが変わった。いや、もしかしたらユノくんはずっとそのつもりで話していたのかもしれない。
アスタくん以外の誰も、その真意を一言目から汲み取れてなかっただけで。
「負けないぜアスタ……!」
「お前こそめちゃくちゃ強くなりやがってこの野郎! オレだって負けねーぞ、ユノ!」
笑いあっての、互いに互いを知り尽くした言葉の応酬。
そういえばライバルでもあり幼なじみでもあったと思い出す。なんかほっこりする関係だ。
「相変わらずめちゃくちゃしてるようだな、アスタ」
「お前はまたスマートに戦いやがってまぁ。ん? なんかデカくなってねーか?」
「ああ。4、5センチ伸びたかも」
「お前なに簡単にデカくなってんだぁぁぁ!!」
それにしても本当に仲良いなぁ。微笑ましく見守っていたら、ユノくんがおもむろに顔を上げた。わたしと同じ色の瞳と目が合う。
「久しぶり、」
「一体何なのよ?! こいつはぁぁ〜〜!!」
ユノくんのほっぺをめいっぱい引っ張った風の精霊により挨拶はなされなかった。痛そうなのにユノくんは無表情だ。
「なんだあの小うるさい謎の生物は……?! はっ、あれが噂のシルフ?! ユノのあんな顔初めて見た……!」
「物凄い風の魔を持っているし、風の精霊だろうね。ちっちゃくて可愛い」
ユリウスさんが生で見たいと切望していた精霊は、ユノくんから「以前一緒に暮らしていた奴だけど」と「何なのよこいつは」の返事を貰い、めちゃくちゃ衝撃を受けていた。
「暮ら……くらら……? 暮らしてたって……?!」
「一緒に食事したり勉強したり」
「一緒のフトンで寝たり、一緒に風呂も入ったな」
「家族みたいだね?」
「同じ孤児院にいたんですよ」
「あっ、なるほど」
どうりで似てないけど兄弟のようだと思ったわけだ。うんうん頷いていたら、またユノくんと目が合った。
「あの、」
「あ……あの〜」
と、次はチャーミーさんがユノくんに声掛けたことで遮られた。ユノくん忙しいな。
「お久しぶりです〜! その節は私のご飯を助けて頂きありがとうございました……! もうお体は大丈夫ですか?」
「(ご飯を助けて頂き?)」
なんかよく分からないけど助けてもらったらしいチャーミーさんが、お礼にか戦いの後のおやつをユノくんに渡してるのを見て顔を上げる。
町はすっかり静かになってる。戦いの音も殆ど聞こえない。
なのにヤミさんもウィリアムさんも樹上から降りて来ない。
「(魔力が動いてないから、上にいるのは間違いないんだけど……何か話してるのかな)」
「ソフィア」
「うん?」
涼やかな声に呼ばれて首を下向ければ無表情のユノくんがいた。
「久しぶり。やっと挨拶できた」
「ほんと久しぶりだね。元気だった?」
「見ての通り」
「あははっ」
すーんとしてるけど、知り合いでしかないわたしに挨拶する為に何度も話しかけてくれるなんて律儀なひとだ。はたりと思わず尻尾が動く。
「それにしても、随分強くなったね」
「まだ足りない。もっと強くなる」
「おお……」
ダイヤモンドの将を一騎打ちで倒せるほど強くなったというのにまだと言う。なんという上昇志向。
感心しかけて、そういえばアスタくんも似たようなことをずっと叫んでるなぁと気づく。どこまでも対等なライバルだ。失礼かもだけど可愛い。
「ユノくんは凄いね」
「……出来れば、もっと違う受け止め方して貰いたかったんだけど」
「え?」
「チャーミーパイセン! 落ち着いてっ!」
アスタくんの大声にまた首を下向ければ、風の精霊とチャーミーさんが取っ組み合いの喧嘩をしていた。この短時間にいったい何が起きたのか。
「ベル、いい加減にしろ」
「チャーミーさん、ちょっと待ってください」
風の精霊の方はユノくんが文字通り捕まえてたのでわたしはチャーミーさんの服を摘んで引っ張って止めた。
「おーい、オレも混ぜてくれ〜」
「あっ、フィンラルさん」
「おや……? これはこれは、兄さんじゃないですか」
住民の避難は粗方終わったらしいフィンラルさんに声かけるひとがいた。民家の屋根の上からフィンラルさんを見下ろすそのひとが纏うのは金色の白いローブ、髪はフィンラルさんと同じブロンド。まさか。
「お久しぶりですね。こんな所でお会いするなんて」
「ランギルス……!」
「ろくに戦えもしない一族の恥晒しが……戦場に何の用ですか?」
フィンラルさんの弟さんかと思ったけどあんまりにも性格が悪いから違う気がしてきた。
けど、アスタくんが憤りながらフィンラルさんに投げた質問によってそれはあっさり確定する。
「フィンラル先輩、何ですか? あいつ」
「オレの弟だよ。金色の夜明けの副団長」
「えっ」
正直、髪の色以外びっくりするほど似てない弟さんは冷たい目でフィンラルさんを見下した。
「兄さんはまだ黒の暴牛なんかの運び屋をやってるんですか……? 兄さんがそんな情けないから……僕がヴォード家当主を継がなきゃいけなくなりそうじゃないですか」
「ふざけんなぁ! フィンラル先輩はすげーぞ! てゆーかお兄さんに向かって何て口ききやがんだこの野郎ーー!!」
「いいんだアスタくん……! 本当のことだからさ……」
「でも……」
「フィンラルさん……」
フィンラルさんが名門ヴォード家の出身なことも驚いたけど、それ以上に言われっぱなしなことに戸惑ってしまう。確かに好戦的とはとても言えないけれど、自分の思うことはヤミさん相手にも零すひとなはずなのに。
「もう敵は粗方片付けましたし、何より団長が全部やってくれちゃいましたからねー。もう暴牛さんの出る幕はないですよ。……それにしても、いつから黒の暴牛は託児所になったんですか?」
見下ろす。両腕骨折したアスタくんとチャーミーさんが並んでそこにいた。
否定したいけど、チャーミーさんに至ってはユリウスさんもヤミさんの子供かと勘違いしてた手前、なんとなく言いづらい。
「子供ふたりの面倒を見るのも大変でしょう? 兄さんはそんな子達の子守り……悔しくはないんですか?」
「……わたしも黒の暴牛なんですけど」
「ああ、失礼。木偶の坊を忘れてました」
苛立ち紛れに口を挟んだけどあっさり返されて口を噤む。このままだと喧嘩してしまいそうだ。戦場で、味方同士なのにそんなのはダメだから我慢する。
なんて性格も口も悪いんだ。フィンラルさんの弟でウィリアムさんの副団長でも、大嫌いだこんなひと。
アスタくんとチャーミーさんはやんやと野次飛ばすみたいに反論し始めた。それを遮り一歩前に出たのは、さっきまで言われっぱなしなフィンラルさんだった。
「ランギルス、オレのことはバカにしても構わない……いくらでもな。だが黒の暴牛の団員のことはバカにするな……!」
「フィンラルさん……!」
「……へぇ〜。そんな怖い顔、できたんですね」
大嫌いだと思ったそのひとの、最後の言葉だけはちょっと寂しげに聞こえた気がした。
険悪な空気はを切り裂くように飛来するものがあった。弟さんがひらりと避けたそれは家にくっ付き、べっとりと粘性を保ったまま地面に落ちる。
飛んできた方向を見ればぬとぬとした巨大ナメクジ。
「あらら、まだ生きてたのか……しかも……」
弟さんが肩をすくめた。言わんとすることは分かった。厄介だ、と。
ナメクジの中で怨嗟を吐くダイヤモンド魔道士の魔法で作られただろうそいつの中には民間人が巻き込まれていた。まるでゼリーに飲み込まれたみたいに。
ダイヤモンドの魔道士は、これでは手が出せないだろうと嘲笑っている。
「(確かにこれじゃ普通の攻撃はできない……周りを上手く削るか、ダイヤモンドの魔道士だけを的確に射抜くか)」
「仕方ない……国の為に彼らには尊い犠牲になってもらおう」
「えっ?!」
声の出処は弟さんだった。その右手には魔力が集まってる。本気だ。敵を倒すためなら民間人も諸共に攻撃するのだと。一気に頭に血が上る。
止めようとしたけど、それより早くアスタくんの声が鋭く轟く。
「待てぇーー!! 何、国民を見捨てようとしてんだ……! オレ達は魔法騎士団だぞ!!」
そうだそうだ! と言いたいのをグッと堪えて今度こそ弟さんの前に出て、敵との間の壁になる。ムッと眉間にしわ寄せた弟さんは右手を下げた。
「……何のつもりですか?」
「少しでいいから、黙って見てて」
「フィンラル先輩! チャーミーパイセン!」
「あぁ!」
「ラジャっ!」
背中越しにアスタくん、フィンラルさん、チャーミーさんの声が聞こえる。振り返らずに信じてぐっと堪える。視界の端でユノくんは動かないまま。
わたしが邪魔だからか斜めに傾いた弟さんが、おそらくアスタくんを見て怪訝そうな顔をした。
「なに威勢よく後退して……」
「(えっ)」
すごく気になったけど、風切り音―――たぶんアスタくんが綿魔法か空間魔法を使ってぶっ飛んでる音だ―――に踏み止まる。あのナメクジのゲルには反魔法が抜群に効くはずだからと。
「(いやでも……アスタくん、両腕折れてるから剣持てないよね……自信満々だったから任せちゃったけど、本当に大丈夫なのかな……?!)」
見ないようにすると気になって仕方ない。ソワソワするわたし越しにアスタくん達を値踏みしてる弟さんが片眉を上げたり目を見開いたり口をちょっとだけ曲げたりしてるから尚のこと。
「ぐぬ……ああ!」
アスタくんの声。そして水袋が弾けるような破裂音。振り返らなくたって分かる。でも見たい。
チラチラと後ろを気にするわたしに弟さんが呆れたような目を向けてきた。そんなに気になるなら見ればいいだろうと。
観念して振り返った先では、ちょうどアスタくんがダイヤモンドの将に後ろから剣をぶつけている所だった。
手が使えないからか、反魔法の剣は口に咥えている。
「え……えええっ?!」
「なんであなたが驚くんですか……」
弟さんに呆れられたけど、後輩が大剣を歯で噛んで戦ってたら誰だって驚くだろう。突っ込むための移動は空間魔法でしたにしてもだ。
ダイヤモンドの将を倒し、失速して地面に落っこちかけたアスタくんに慌てて手を伸ばそうとして。ふわりと吹いた風に動きを止める。
「相変わらず、めちゃくちゃな戦い方だな……!」
ユノくんが魔法でアスタくんの着地を手伝ってくれていた。アスタくんを信じて見守って、その上で無茶した所はフォロー。わたしより先輩らしいのでは。
何はともあれダイヤモンドの将のトドメはアスタくんがした。その手伝いを終えたフィンラルさんがこちらを、いや弟さんを睨みつけるように見上げる。
「ランギルス、確かにオレはお前に勝てない……けど」
さっき自分に対して言われ放題だった、でも仲間への暴言には毅然と反論したフィンラルさんの眼差しは、見たこともないほど鋭かった。
「黒の暴牛は、金色の夜明けに勝つ!!」
「……ふーん」
品のいい嫌味のひとつやふたつは返されるかと思っていたけれど弟さんは不機嫌そうな顔をしただけで何も返さなかった。
だからか啖呵をきったはずのフィンラルさんの方がジリジリと後じさる。心臓がうるさいのか胸まで押さえて。なんとなく締まらないの、らしいと言えばらしいけども……。
「戦局も落ち着いたことだし、そろそろヤミさんと合流しようか!」
「そうっすね!」
「上まで行きますか?」
「いや、さっきの場所に戻ろう」
合流地点にヤミさんが来るまで待つつもりらしい。分かりました、とひとつ頷いて竜から人の姿に戻る。町の中で衝突する魔力もないみたいだからと。竜のままだと空間魔法を通れないし。
金色の夜明けと話したのは結局、ユノくんと弟さんだけだった。弟さんは屋根から降りて来ないまま顔を背けているからユノくんにだけ別れの挨拶をする。
「じゃあなユノ!」
「ああ、じゃあなアスタ。落ちた物拾って食べるなよ」
「誰が食うかぁぁぁ!! 昔はよく食べてたけど」
「食べてたの?!」
「あ、……っす」
気まずそうな顔したアスタくんに今日一番のショックを受けてしまった。そんなのお腹が痛くなってしまう。
チャーミーさんに連絡先を聞かれていたユノくんが、今度は少しだけ見下ろすようにわたしを見て、軽く手を挙げた。つられてわたしも手を振る。
「ソフィアもまた」
「うん。またね、ユノくん」
風の精霊とバトっていたチャーミーさんと、その首根っこを掴み引きずるフィンラルさんに続いて空間魔法をくぐる。
空間魔法で戻った町の外壁の上にヤミさんはまだ居なかった。チャーミーさんはおやつを山ほど出し、アスタくんは綿魔法でそれを食べさせてもらって、フィンラルさんは無言で頭を抱えた。
「腹でも痛いんすか? フィンラル先輩」
「まぁまぁこれでも食べんさい」
「この呑気達めーーっ! 言ったのオレだけど」
「まあでも怒ってなかったですし、いいんじゃないですか?」
思い返せば弟さんはもちろんユノくんも気にした様子はなかった。ちゃんと耳を傾けてくれている様子だったのに、だ。
「そういえばアスタくん、あんなあっさりした別れ方でよかったの? 古い友人なんでしょ? あのイケメンの彼」
「いいんす! どうせまた、どっかの戦場で会いますよ! 目指してますから―――魔法帝!」
「ふたり共に、ね」
「はい!」
決して変わらないアスタくんとユノくんの夢。改めて聞いて思わず笑みが浮かぶ。わたしも、フィンラルさんも。
やがて樹上からヤミさんとウィリアムさんが降りてきた。ウィリアムさんは軽く手を振ってユノくん達のいる方へ素早く行ってしまったけれど、わたし達がそれを見送ることは出来なかった。
真っ直ぐ落ちてきたヤミさんが、めちゃくちゃ怒ってたからだ。
「(なんで?!)」
「ヤミさんオレ達ちゃんと民間人の避難とか頑張ってましたよ!」
「おうお疲れ。で、小僧」
ヤミさんにがっしと頭を掴まれたアスタくんの肩が思いっきり跳ねる。
「なんで大怪我してるお前がもっとボロボロになってんの? 死なねーよーにってオレ言ったよね?」
「あだだだだだだ」
なるほど確かに言われていた。苛立ち満点な顔でぐりんと首だけこっち向いたヤミさんに今度はフィンラルさんの悲鳴があがる。
「こいつ医者に連れてくから本部への空間開け」
「はいっ!」
「んで金色が捕虜運ぶの手伝え」
「は……ええっ?!」
「ら……」
「哀れ……」
さらりと次の仕事を申し付けられたフィンラルさんをチャーミーさんと一緒に同情の目で見てしまうけど手伝う気はなかった。というか金色なら拘束魔法を使えるひとなんて山ほどいるだろうし必要ないだろう。
「オレ……働きっぱなし……」
がっくり肩を落としたフィンラルさんの肩をチャーミーさんが優しくぽむんと叩く。
「わたしとチャーミーさんはここに待機でいいんですかね?」
「いやお前らは着いて来い」
それだけ言うとヤミさんはアスタくんを手にしたままさっさと空間魔法に入って行ってしまった。チャーミーさんと目を合わせる。
「というわけで先に王都に行ってますね、フィンラルさん」
「お腹空いたのら〜……」
「さっきおやつ食べてたじゃないですか……」
「こんなんオレだけ残業じゃないですかヤミさん〜!」
悲しげなフィンラルさんの声を聞きながら空間魔法に入る間際。大きく羽ばたく度にさわさわと枝葉を揺らす世界樹に目が行く。全然話せなかったウィリアムさんの姿が重なって見えた。
「(どうせまたどっかの戦場で会う、か)」
リフレインしたアスタくんの尤もな言葉に微笑んで、空間魔法をくぐり抜けた。