白夜編
夢小説設定
この小説の夢小説設定※原作開始時点
誕生日:7月17日(かに座)
性別:女
年齢:16歳
血液型:A型
身長 150cm
好きな物:白薔薇、果物、空を飛ぶこと
出身地:王貴界
等級:一等下級魔法騎士
魔法属性:竜
竜化魔法 ?????
→自身がドラゴンになる。変身魔法とは別物。
魔法を弾く鱗、地上よりも空の方が速く動ける羽毛の翼、鋭い爪や牙が武器。
(title by
不在証明)
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立っていても仕方ないと歩き出して少し。
洞窟全体が大きく揺れた。どこかで戦闘が始まったのだろう。
ゴツゴツした岩の天井を見上げてふと思う。
「(わたしがここで暴れたら崩落するんじゃ……)」
この場所の耐久力を信用していないというより、竜の膂力を受け止め切れる無機物をあまり知らないがゆえの純粋な疑問だった。ちなみに生物で受け止めれるひとは師匠という生き証人がいる。
だから、ヤミさんには悪いけれど全力を出せないかもしれないと危惧していた。
「おや、またずいぶん可愛らしい子だね」
女性の声。振り向けば、シャチの面をつけた神官魔道士がひとり立っていた。
「ふふ……にしても、私と当たっちまうなんて。運がないね」
籠った笑い声を上げたそのひとが魔導書を開くと同時。ローブの中に収まっていたはずの体が一気に膨張し、肌が滑らかなツートーンに塗り変わり―――巨大なシャチの姿に変貌した。
道いっぱいを埋めるような巨躯が悠々と浮いている。開いた口には行儀よく並んだ鋭いギザギザの歯。それがカラカラと笑う。
「どうだい、驚いたろう? 棄権したって恥じゃないよ」
「よかった」
「ん?」
訝しげなシャチのひと。きっと訳が分からないと思うけれど、わたしは心底ほっとしていた。
だって、同じ怪物ならきっと大丈夫。
そして、このひとが暴れられるくらいここは強いのだろうから。
「わたしも、同じなので」
竜になる。指先は鉤爪に、腕にはびっしりと螺鈿の鱗を、少女の体躯は小屋にも届く恐ろしいモンスターへ。
みるみる変貌したわたしにシャチのひとは愕然とし。
次いで、天啓を得たりと口の端を吊り上げた。
「なるほど。遠慮はいらないらしい」
「です」
つられて笑って―――突進してきたシャチの頭を抱え受け止める。
竜の皮と鱗に包まれた手で掴んだはず。だったのに、濡れたシャチの肌はつるりと滑って掴みどころがない。歯を食いしばり堪えようにも頭をうねらせたシャチの頭は簡単に通り抜け。
大きく開いた上下の牙が、わたしのお腹に食らいついた。
「いっ……!」
「堅っ?!」
慌てて殴り落として距離をとる。ゴツゴツした岩の床に叩きつけたはずなのに、シャチはつるりとした頭を振ってウンザリしたように口を開いた。傷なんてどこにも見えない。全力で殴ったはずなのに。
というかそもそも。
「嘘でしょ、師匠以外で痛いなんて思ったことないのに……」
「そりゃこっちのセリフだよ! この私に噛みつかれて立ってるなんて、旦那以来だ……!」
ぶるりと身を振るったシャチのひとの体が魔力を放ち、またひと回り大きくなる。窮屈そうに揺れたはずみで壁が尾びれに削られ落ちた。
ぱっくり開いた口、並んだギザギザの歯と不釣り合いな女性の声が凛と響く。
「私は神殿最強の男の妻。あいつ以外に負ける訳にはいかないんだよ!」
息を飲んだわたしの懐めがけシャチの頭が突貫してきた―――所を回転しながら皮一枚で避け、そのまま尾を振るい弾き飛ばす。小さな悲鳴をあげながら吹っ飛んだ勢いのまま岩壁を崩落させ倒れていった。
それでも傷ひとつ付かなかったシャチはすぐに起き上がった。そうではなくては。
腰を落とし、次の突進に備える。
「最強の男の妻だから負けられないというのなら、わたしこそ負けられない」
「へえ?」
師匠よりは弱い。でもわたしとそう変わらない強さのシャチのひとは、獰猛な捕食者に相応しい好戦的な笑みをはいて優雅に舞い上がる。まるでここが海中のように。
「お互い負けられない理由があるってわけね。いいよ、トコトンやろうじゃないか!」
「はい!」
巨躯をくねらせたシャチが弾丸のように突っ込んできた。さっきとは比べ物にならない速度と衝撃に受け止め損ねて、思い切り腹に食いつかれる。牙が鱗の隙間に突き立てられ剥がれる痛みが走る。
あげかけた悲鳴を堪え、シャチの滑る体に向かって噛み付く。口いっぱいに広が血の味。悲鳴はわたしのお腹のところで轟いた。
鱗がないシャチの体は一度の咬合が致命傷になる。ずるりと抜けた魚類の体はあっという間に距離を取り。
「ぐっ……まだまだぁ!!」
「そうこなくちゃ!」
血潮を纏ったままのシャチは、最高速度で鋭い牙をわたしに突き立てるべく突貫してきた。
それからは泥仕合。
噛みつき合い、尾びれと尻尾を叩きつけあい、壁を床を削り広げながら取っ組みあい、全身が血みどろになってもなお獣の喧嘩さながらに牙を向け合う。
止まったのは、丸く削り開かれた洞窟に放送が広がったからだ。
『あー……テステス。おいバカ野郎共、よく聞けー』
「えっ、ヤミさん?」
「む?」
ぱっと互いに距離をとる。シャチのひとはさっきの大司祭ではない声に戸惑いながら、わたしは団長の言葉を聞き逃さないよう耳をそばだてながら。
『今ゲームにやべー乱入者が来ちまった。そいつは白夜の魔眼の幹部で、騎士団団長とタメ張る強さの野人みてーな奴だ』
「それって……!」
雪山で見た獣魔法の使い手が脳裏を過ぎりゾッと震え上がった。あの時、現役の団長と互角に戦っていたあいつが、ここに来ている?
『それとそいつの部下っぽいのがそっちに3人。だがオレはなんやかやあってそっちに行けねー。つまりテメーらで何とかしろ』
「えっ! そんな無理……!」
黒の暴牛であんな化け物に勝てそうなのはヤミさんしか思い浮かばない。わたしだって相手になるかどうか。
『いいか……全員、今ここで、限界を超えろ』
肩が震える。
狼狽えるわたしの背中を蹴るようなヤミさんの声。
『死んだら殺すからな。以上―――』
「ヤミさん……」
きっと来れるなら真っ先に駆けつけてくれてる。なのに来れないということは、何かあったって事だ。拳を強く握る。
『ゲーム内容変更じゃ! 時間は無制限! ゲームクリア条件は白夜の魔眼チームを倒すこと! クリアに貢献した者には大司祭の権限で可能な限り何でも望みを叶える―――!』
「お、こっちも来たな」
場違いな朗らかさでシャチがわたしに笑いかける。お互い血みどろで、きっと第三者から見たらホラーな光景だろう。
「一時共闘だ。よろしく」
「こちらこそ」
「よし、行くぞ! こっちだ!」
シャチが泳ぎ出した先について駆け出す。周りの岩や潮だまりが振動に揺れるけど気にもせず、傷ついた尾びれをひたするに追いかける。
体格に合わせて広い通路を選んでくれているらしく、一度も引っかかることなく進んでほんの数分。
曲がり角のすぐ先に駆け寄ってくる見知らぬ魔力に一歩強く前へ出る。見計らったように白夜の魔眼のローブを着た知らない顔の男が飛び出してきた。
「止まれソフィア……」
「「邪魔!!」」
わたしの拳とシャチの頭が同時に撃ち抜き白夜の魔眼の知らない誰かは壁に打ち付けられ、力なくずり落ちていった。横を猛然と通り過ぎる。
「なんだあいつ知り合いだったのか?」
「知らないです!」
本当に知らなかったのでそう答えて。
ふと、雪山でのことを思い出す。
「(でも、白夜の魔眼はわたしを知っている)」
魔法騎士だからだろうか。それにしたって、どうしてわたしを?
考え込む暇もなく、ぐんぐん恐ろしい魔力の気配に近づいていく。最初はうなじを撫でていくようだったそれは距離を詰めていくうちに全身から冷や汗が吹き出させ、常人ならざる凶暴さを知らせてくる。
まるで猛獣がひしめき合い、辛うじて人の形を保っているような魔力の持ち主。
通路から飛び出すと同時に見えたそれはやはり雪山で会った獣魔法の使い手。ギロリとこちらを睨んだそいつが腕を振りかぶったその足元にはラックさんとマグナさんがボロボロの姿で倒れ、壁には無惨な姿で埋められたひとがいた。
「あんたぁーーっ!!」
「ラックさん! マグナさん!」
壁の穴に向かって宙空を泳いだシャチとは逆に、わたしは獣魔法の野人に向かって駆け出す。でも舌打ちをしたそいつが腕を振り下ろす方が速い。
「(間に合わな―――)」
ふ、と。違う方の通路から弾丸のように飛び出す黒い人影が滑り込んできた。爪のような手にかち合ったのは煤けた漆黒の剣。こんなものを振り抜けるのはただひとり。
「アスタくんっ!」
「反魔法の剣……! 来たな、小僧!」
「この……!」
駆け寄り、思い切り振りかぶった尻尾を背中に叩きつけても小動ぎもしなかった。まるで山を動かそうとしたみたいだ。纏っている魔力の鎧が濃密すぎて本体への手応えがない。慌てて跳んで引き下がる。
だとしても、まだアスタくんよりわたしの方が強いはずなのに、野人は黒剣から―――いやアスタくんから微塵も目を離さなかった。
「いい機会だ……貴様がリヒトに与えた痛み、何倍にもして返してやろう! この足元の虫けらのようにな……!」
「なっ……!」
「虫けらじゃねぇ、オレの先輩だ……! お前をぶっ飛ばす役目、後輩のオレが引き継ぐ!!」
もうひと振りの黒剣を抜きながら吠えたアスタくんから野人が一歩引く。その隙間をこじ開けるようにシャチの頭が突っ込み、ぐ、と野人の足を浮かせた。
当たったのはアスタくんの反魔法の剣が当たった場所。一瞬やったと思った、が。
「小煩いわ!」
「ぐっ?!」
「母上!」
野人はクマのような腕を振るい、たった一撃でシャチのひとを壁に吹き飛ばした。アスタくんの近くにいた青年が悲鳴混じりに叫ぶよりも早く、壁に埋まるように。
野人は鼻で笑い、少しアザのついた腹を撫でさする。
「なるほど、これが反魔法の一撃か……まともに喰らえば普通はひとたまりもないのだろうな。そこいらの魔道士の必殺魔法よりは効いたぞ……!」
「母上の魔法が、効いていない……?」
「じゃーもっと痛がれコノヤロぉぉぉ! テメーら魔石集めて一体何しようと企んでんだ?! 全部バレてんだぞコラーー!!」
「お前に言う必要が? 魔力の全くない、魔に愛されなかったゴミめ……!」
「何だと、んがぁ〜」
「どうでもよい、早くかかって来い。すぐに他の虫けらと同じようにしてやる……!」
挑発に乗りかねないアスタくんに目配せして首を横に振る。突っ込むのなら同時に。でなければ各個撃破されて沈められるだけだ。
焦れてか、野人は言葉を重ねた。
「ここにいる者を皆殺しにして、ゆっくり魔石を探し……見つかるまで海底神殿に住む者を殺しに行こう。辺境にいるクズでも多少は楽しませてくれるだろう……!」
「なんてことを……!」
「ここには愛する家族……そして家族同然のみんなが暮らしている。絶対にそんな事はさせない……!」
それは、うなじが焼け付くような怒りだった。神殿魔道士だろう彼だけでなく、わたしとアスタくんをも一瞬で焚き付けるほどの。
どうしてそんな邪悪な事を口にしてしまえるのか。
ましてや、放置すれば実行してしまうだろうと確信を抱かせる邪な魔力を放てるのか。
理解し難いケダモノ目掛けて足に力を入れ―――青年とアスタくんが駆け出すと同時に血を蹴り付ける。
「行くぞアスタぁーー!!」
「おぉぉ!!」
青年が振るう対の宝剣とアスタくんの反魔法の剣が2本。4振りの剣が舞い踊るように野人を襲いかかるが、全て獣魔法により受け流され、避けられ、当たりもしない。
逆に放たれる野人のカウンターを、腕の半ばに噛み付き妨害する。そうまでしてやっと野人はわたしを見た―――厄介な子供を見るような目で。
「鈍い動きに軽い攻撃、クズとゴミだな。だがやはり貴様は別だ……ソフィア。しかし貴様を害してはパトリが悲しむ、大人しく待っていることは出来ないのか?」
「なにを訳の分からないことを!!」
牙を突き立てても傷ひとつ付かなかった腕から離れ、竜の膂力でもって全力で殴り飛ばそうとして。
「仕方ない、寝ていろ」
「あ゛っ?!」
頭を掴まれ地面に叩きつけられた。鼻先で岩が砕け、周りが丸く陥没する。
チカチカする意識。アスタくんがわたしを呼ぶ声が聞こえるのに、動かない。
「おやすみ、ソフィア。起きた頃には全てが終わっているだろうよ」
「ソフィア先輩から離れろてめぇぇぇ!!」
「クズとゴミの本気、見せてやらああーー!!」
すぐ頭上で野人に猛攻をしかける青年とアスタくんの剣戟の音が聞こえる。ふたりだけじゃダメだ。加勢しなきゃ。
そう、立ち上がろうとして―――わたしの意識は野人の拳で今度こそ刈り取られた。