白夜編
夢小説設定
この小説の夢小説設定※原作開始時点
誕生日:7月17日(かに座)
性別:女
年齢:16歳
血液型:A型
身長 150cm
好きな物:白薔薇、果物、空を飛ぶこと
出身地:王貴界
等級:一等下級魔法騎士
魔法属性:竜
竜化魔法 ?????
→自身がドラゴンになる。変身魔法とは別物。
魔法を弾く鱗、地上よりも空の方が速く動ける羽毛の翼、鋭い爪や牙が武器。
(title by
不在証明)
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白い雲に青い海。鼻をつんと突く潮風のにおい。
風景画より美しく、キラキラと光を受けて輝く景色にわあっと上げかけた声は。
「海だあ〜〜〜」
「わっ」
真横を追い抜いて行った黒の暴牛の面々の歓声に掻き消えた。
リゾート地ラクエの白い砂浜を無邪気に走っていくみんなは水着でも恥ずかしくないのか元気いっぱいだ。特にたゆたゆ揺れまくるノエルちゃんとバネッサさんの双丘。
「……」
「どうした? お腹空いたか? ん?」
「いえ……チャーミーさんは、そのままでいて下さいね」
「ら?」
自分のささやかな胸にそっと触れていたらチャーミーさんが声をかけてくれた。思わず懇願してしまうけれどそれはそれで失礼な気がしてきて、反省。
魔の影響で常に温暖なラクエの海辺では誰も彼もが水着か薄着で過ごしている。例に漏れず黒いワンピースの水着を着てきたソフィアは打ち付ける陽射しに目を細めた。
「眩しいですね」
「なら一緒にスイカ割りするか?」
ん? とチャーミーさんが立派なスイカを掲げた。いつの間にどこから出したのか。いわく、砂浜と言えばこれらしい。
「すみませんスイカ割りがよく分からないです」
「それは人生の半分を損しているな。よし、この私が直伝してやろうぞ! スイカ割りを!」
なんだか変なこと教えられそうな気がしなくもなかったけど、チャーミーさんに手を引かれてついて行く。
周りにひとのいない場所で、砂浜に直でスイカを置いたチャーミーさんはわたしに目隠しの布と棒を差し出した。
「これは……?」
「目隠しをして、スイカを棒で割るのだ」
「えっ、目隠ししてたら見えなくて当たらないのでは」
「問題ない、私達がどこに棒を振ればいいか教える!」
「達?」
チャーミーさんが指さした方には既にお酒をジョッキ半分は飲んでるバネッサさんがビーチチェアにゆったり寝転んでいた。満喫している。
「さあさあレッツトライ!」
「できるかなぁ……」
ちょっとだけドキドキしながら目隠しをして頭の後ろで布を結ぶ。
ひとの声があちこちから聞こえるような開けた場所で、こんなに薄着で目隠しするなんてした事ない。
これで棒を構えて、スイカを叩き割れと。出来るんだろうか。
「ソフィアー! もっと右よ、右ぃ〜!」
「いや左よ左ぃ〜!」
「待ってなんかバネッサさんの声がふたり分聞こえるんですけど?!」
「片っぽはグレイよ〜!」
「いぇ〜い!」
「ええっ?!」
親切なのか面白がってるのかウキウキなバネッサさんの声に愕然とする。初心者なのに難易度を上げないでほしい!
真っ暗な視界の中。オロオロしてばかりのわたしには、もはやさっき見たスイカの場所なんて全然思い出せない。
「やっぱりわたしには無理です!」
「諦めるなー! 食べ物の声を聞けーっ!」
「食べ物の声って?!」
もはや訳が分からない。
とにかくフラフラと歩いたら「そこだぁぁーっ!」と聞こえたので半ばヤケクソにえいやっと棒を振り下ろす。
「あいたぁぁーー!!」
「えっ」
まさかの手応えと悲鳴に慌てて目隠しを取ればそこには頭を押さえ蹲るアスタくんの後頭部。飛び上がるほど驚いた。
「あああアスタくん?! ごめんほんとごめんわざとじゃないの!」
「ってて……だ、大丈夫っす!」
「頭から血が流れてるよ!」
「スイカ汁?」
「チャーミーさんは黙ってて!」
慌てて手当てしたらアスタくんはカラッと笑って許してくれた。いい子すぎる。流血沙汰をよそに目隠しと棒を装備してスイカ割りをし始めたチャーミーさんに爪の垢を飲ませたい。
頭に絆創膏を貼ったアスタくんは爽やかに砂浜へと走り込みに行ってしまった。
元気な様子にほっとして周りを見回す。
ノエルちゃんはアスタくんの方を向いてなんだかモジモジしているし、フィンラルさんは知らないお姉さんのナンパに失敗してて、ゴーシュさんは鏡の中に映る妹さんに海を見せてる。
ラックさんとマグナさんはアスタくんよろしく砂浜を走ってるし、チャーミーさんはスイカ割りしてるし、バネッサさんはお酒をぐいぐい飲み干してる。この場にいないゴードンさんは欠席。
はてと眉をひそめる。
「わたし達、任務で探し物をしに来たのでは?」
「全員で聞き込みしたら怪しすぎでしょ。まずは団長が帰ってくるのを待ってましょ〜」
言われてみればヤミさんの姿が見当たらない。あの遊び大好きなひとがだ。なるほど聞き込みに行ってるのかと納得して。
ふとバネッサさんのすぐ横で柔らかそうな巣に収まっているアンチドリに目が行く。
「暑くないの?」
「……」
木陰の下でもなお黒い羽をピクリとも動かさない小鳥に笑いかけて前を向く。
見渡した海の向こう。空と水平線が交わる青のあわいをじっと見つめる。
「(やっぱり、海底神殿は海の中にあるみたい。魔が海中で竜巻みたいに渦巻いている。海中から進むのは難しそうだけど、かといって空から行けるかどうか……)」
ふと真横からのじとっとした湿度の高い視線に振り向く。そこには目の据わったバネッサさんがいた。
「水着、やっぱりちょっと大人っぽすぎない?」
「またその話……」
「背伸びしたいのは分かるけど〜。黒のワンピースなんていくつになっても着れるんだし、もっとはっちゃけても良かったわよ、絶対」
ノエルちゃん行きつけの服屋さんでもした会話にちょっとげんなりする。めちゃくちゃ過激な水着ばっかり勧めてきてたバネッサさんは海に来てまでその話をするのかと。
「もう、言ったじゃないですか。わたしにビキニは無理ですって」
「……でもねぇ」
うーんと悩ましげな声を漏らしたバネッサさんはわたしの背中に伸ばした。
つう……っと、大きく開いた背中を柔らかな指先が撫で下ろす感触に肩が跳ねた。慌てて振り向く。
「バネッサさんっ!」
「ビキニはダメなのに、こーんなに背中開いてるのは大丈夫なの?」
胸の大きさに自信がないからビキニが嫌なだけです! とストレートに言う訳にもいかず黙りこくるわたしを見て、バネッサさんはまあいっかと手を離してくれた。
「でも、水着の時は私の目が届く所にいなさいよ〜?」
「え? なんで……」
「へいそこのキャワイイお嬢さん」
「オレ達と一緒に、魔女っ子の萌えついて語り合わないかい?」
理由は聞く前にあさっての方向からやって来た。見覚えのない男性ふたりがなんか嫌そうな顔をしてこちらを見ていた。その言い分は……、……ナンパ、だろうか? 今のが?
「失せなさい、羽虫共」
「あ、ノエルちゃん」
どバッサリ切り捨てながらやってきたノエルちゃんは絶対零度の眼差しを男性ふたりに向けていた。凄く素敵なビキニを着こなしてるけど纏う空気は恐ろしい。アスタくんに水着は褒めて貰えたのだろうか。
ふと、男性の後ろに見覚えのある顔を見つける。確か闇市でユリウスさんに搾り取られてたひと。
そしてその後ろから退去して押し寄せたるは、もっと見覚えのある闘牛のような面々。
「あの、後ろ……」
危ないですよと声をかける前に、物凄い勢いで走ってきたラックさんマグナさんアスタくんチャーミーさんゴーシュさんに男性ふたりとカモだったひとは弾かれ、どこかに吹っ飛んでしまった。
「(……まあいいか、魔法騎士団のひとみたいだし)」
心配したのは一瞬だった。
なんとなく集まり足を止めた仲間を横目に、バネッサさんがビーチチェアで気持ちよさそうに笑う。
「いやーほんと、最高のバカンスだわ〜」
「ほんとっすね〜!」
「いや、今回は……」
頭にスイカと、スイカに齧り付くチャーミーさんを乗っけたアスタくんの緩い同意に突っ込もうとして気づいた―――その更に後ろに立つヤミさんの巨躯に。
アスタくんは気づかずにノリツッコミし始めちゃったけど。
「っておいいいい!! オレ達、魔石探すために来たんでしょーが! 何みんなして遊んでんすかぁぁーー!!」
「お前もだろ」
そしてなかなかの勢いで背中を蹴り飛ばされた。合掌。
その後、主に駆け回ったり魔法を使っていたメンバー、つまりバネッサさんとわたし以外の全員を砂浜に埋めたヤミさんは、タバコをふかしながら任務の進捗についての話をし始めた。
「はいバカ野郎ども注目〜」
「はーい」
「お前らが戯れてる間に情報掴んできましたー。海底神殿はこの海の下にあるのは間違いねーみてぇだが……」
やっぱり。ちら、とヤミさんの向こうに広がる海原を見やる。
「魔によって起こる海流が強すぎて普段は上等な魔道士でも近づけねーみてぇだ。だが満月の夜のみ、魔が弱まって行けるかもしんねーんだと」
「海だから、潮の満ち干きの影響を受けるんでしょう……か……」
ふと静かな埋められてる面々を見れば、ヤミさんがきちんと仕事をしていることに顎を落としていた。
ヤミさんは「てめーらマジで殺すぞ」と怒ってたけど正直仕方ないと思う。日頃の行いがよくない。
「だが海底神殿はその名の通り海の底にある、普通には辿り着けねー。だからノエル。お前の水魔法でオレ達を連れてくんだ」
「え……海竜の巣で?! アレを移動させるなんてよっぽど魔力をコントロールできないと……! 無理よそんなの……誰か他の人に……だってそんなの、失敗したら」
「そうだな。失敗すれば全員激流に呑まれ、溺れ死ぬだろう」
恐れを隠せないノエルちゃんを見下ろすヤミさんは、小揺るぎもせずに断言した。
「この任務は黒の暴牛だけに課せられた極秘任務だ、替わりはいねー。お前がやるんだ。次の満月まで1週間……それまでに、限界超えろ……!」
それだけを告げて、ヤミさんはどこかに行ってしまった。
砂浜に埋められていた一人一人を助け出しながら―――何人かは自力で脱出してたけど、どうやってだろう―――最初に助けたノエルちゃんの様子が気にかかって仕方なかった。
「ノエルちゃん、震えてた……」
「魔力コントロールは苦手のままだからでしょうね〜」
伸びをするバネッサさんを縋るように見るも、首を横に振られる。
「私も教えてあげたけどね〜。あれは技術的な問題じゃないみたい」
「それじゃあ……」
「気持ちに踏ん切りが付かなきゃ、難しいと思うわ」
埋められてたひとの最後のひとり、フィンラルさんを引っこ抜き終わり。とぼとぼと遠ざかっていく華奢な背中を見つめる。
「ノエルちゃん……」
彼女は振り返らなかった。
その日の夜。食事を終えた後、ホテルの窓から海岸を見ていたのは、わたしひとりじゃなかった。
作られては泡沫に消えていく巨大な水の魔力とそれを操るノエルちゃんを遠くに、隣りでバネッサさんがワインボトルを開けている。
「今のノエルが使える魔法は“海竜の巣”だけ。だからそれをどうにか海の中の移動にも使えるようにするのが一番だけど……」
「それにはコントロール力がいるからね〜」
「あいつ魔力はすげぇのに、肝心のコントロールが絶望的だからな」
ラックさんが、マグナさんが、喧嘩もせずに海を、頑張るノエルちゃんを見ている。
「空からは入れないのかな」
「空からのルートは、箒で視察だけはしてあるそうだよ」
「つまり無理なんですね……」
フィンラルさんの返事に肩を落とす。窓枠の端っこから、砂を蹴立ててノエルちゃんに駆け寄っていくアスタくんの姿が見えたことにほっとする。たぶん特訓してただけなんだろうけど。
みんなで行っても負担になってしまいそうで気後れしていたから。アスタくんひとりが行くくらいが、一番ノエルちゃんが楽でいられる。
「……力になれないのは、もどかしいですね」
「ソフィア……」
気遣わしげなチャーミーさんの声を最後に、しん、と窓辺が静まり返る。
やがて玲瓏な歌声の少女がそこに合流した。3人で楽しげに、全力で特訓する姿を、みんながただ見守った。
それが、ほぼ1週間続いた。
夜毎、ノエルちゃんとアスタくんはホテルを抜け出して特訓していた。絶え間なく努力しているのは見ていても分かるくらいだったのに、それでもノエルちゃんの魔法は変わらなかった。
今夜は満月の前夜。月はもうほとんど欠けていない。
残り時間は今夜限り。
だというのに、砂浜でとぐろを巻くように円を描きかけた水魔法は弾けて消えた。
「もう少しなのに……!」
窓辺で見ているだけの自分に我慢ならなくなって、堪らず駆け出した―――同時に肌が粟立つ。
誰もが同じ方を向いていた。振り返らずにいられない強大な魔力。ラックさんが舌なめずりをするほどの。
「これ……!」
「魔力を全て解き放ってる! 凄いや……!」
「言ってる場合かこれ?!」
全員がホテルから飛び出し、見たのは月に重なるように浮かぶ水の玉。いくつもの渦巻く水柱を放つそれは入団したばかりのノエルちゃんが暴走して起こした時に見たものと同じ。
あの時はアスタくんが反魔法で解除した。
でも今夜は、今度ばかりは、ノエルちゃんが頑張ってコントロールして、やりきって欲しい。
これが、これさえものに出来れば―――きっと、ノエルちゃんは生まれ変わる。
わたしが、竜の姿に成ることを受け入れられた時のように。
「がっ……がんばれーー!!」
「ノエルーー!!」
暴れ狂う水の玉の中心。脱力していたノエルちゃんがこちらに気づいて、顔を向ける。
「いつも威張ってる癖に何だそのザマはー!! それでも黒の暴牛の一員かテメぇぇぇ!!」
「すんごい魔力なのに勿体ないなあー、早く使いこなして僕と一戦ヤろうよー」
「大丈夫大丈夫! 失敗しても死ぬわけじゃないし! 気楽に気楽に〜〜」
「お腹は空いてないかぁー?! ほらっ! さっさと終わらせてコレ食べなさいっ!」
「落っこちても優しくキャッチしてあげるよ!」
「いや落ちてきたら蹴り上げるから成功させろ」
「とにかく気張れオラァァァ!!」
岩場に並んだそれぞれが、それぞれにノエルちゃんに叫ぶ。応援したり、ハッパをかけたり、中には脅迫めいたものもあったけれど。
「「「ノエル!! お前なら出来る!!」」」
でもそれはきっとノエルちゃんに届いた。
心から、信じてるよって。
水が、優しい音色を奏でて美しい円を描く。
それはまるで満月の揺籃のように。
「出来てる……っ」
「よっしゃああーー!!」
歓声が上がる―――と同時に水の玉が弾けた。
「あっ」
「ぶわぁぁぁぁ!! 気ぃ緩めんなぁーー!!」
「食べ物は私が守るっ」
「にゃははは気持ち〜」
出来たことで気が抜けたのか、解けた水魔法が豪雨のように降り注ぐ。全員ずぶ濡れになる中。落っこちてきたノエルちゃんを危なげなく受け止めたのは、アスタくんだった。ちなみにすぐ横には受け止めそこねたフィンラルさんが変な格好で止まってた。
「やったなノエル!」
「気安く触んないでくれる?!」
「あらら……」
アスタくんは褒めたのに思いっきりノエルちゃんにビンタされてたから、受け止めなくてよかったかもしれない。
苦笑して、ふと後ろからの独特な紫煙のにおいに気づく。
振り返ればヤミさんがいた。窓辺で見ていた時にも居なかったのに、まるで今夜完成すると知っていたように。
いや、信じていたように。
「ほいじゃま、行きますか」
そう、これでやっと海底神殿に行ける―――行った先で魔石を回収するまでが任務だ。