白夜編
夢小説設定
この小説の夢小説設定※原作開始時点
誕生日:7月17日(かに座)
性別:女
年齢:16歳
血液型:A型
身長 150cm
好きな物:白薔薇、果物、空を飛ぶこと
出身地:王貴界
等級:一等下級魔法騎士
魔法属性:竜
竜化魔法 ?????
→自身がドラゴンになる。変身魔法とは別物。
魔法を弾く鱗、地上よりも空の方が速く動ける羽毛の翼、鋭い爪や牙が武器。
(title by
不在証明)
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夜間飛行に慣れないからか、出発が遅かったからか、王都に着く頃には三日月はすっかり頂点に昇っていた。
屋敷の門を小走りでくぐりながら、これはもう寝てしまってるかもしれない、と不安に駆られる。いやそもそも家に帰ってないかもしれない。本来ならわたしは今日、黒の暴牛で過ごす予定だったし。何も言ってないし。いなかったら寂しすぎる。
そんなふうに考えていたから、ふたりの寝室を覗いたら見えた驚き顔のユリウスさんに、わたしもまた驚いてしまった。
「ソフィア……?」
「ユリウスさん……帰ってらしたんですね」
「それは僕のセリフなんじゃないかな?」
窓辺で力なく苦笑するユリウスさんに、確かにとこちらも緩く笑って。
「おかえり」
「っ……」
広げられた両腕に、全部を預けるように飛び込んだ。
「ただいま」
「うん。昼間はごめんね」
「ぜんぜん大丈夫です。ヤミさんから聞きました」
「そっか」
ほ、と息つく寝間着のユリウスさんからは石鹸の匂いがした。
温かさに頬ずりしたわたしの頭上で、今夜の月光のように密やかな笑い声。
「外と、風の匂いがする」
「風の?」
それはいったいどんな匂いだろう。気になったし、普段なら聞いただろう言葉。でも今はそれどころじゃなかった。
「ユリウスさん、元気ないですね」
「そうかな。いつも通りだよ」
腕の中。いつもならじっとしているそこで、胸板に手を付き、顔を上向ける。薄明るい月を背にしたそのひとの顔はやっぱりよく見えない。
例え暗闇の中でも、この目が潰れても、きっと分かる。
「でも、なんだか悲しそう」
息を飲み、次いで苦しげに目を細めたユリウスさんは、わたしと見つめ合ったまま微動だにしなかった。
やがて薄く唇が開かれる。
「僕は魔法帝になるため、全力で走ってきた」
「……はい」
「故に、たくさんの間違いを犯して来たのではないか、周囲に目を配れていなかったのではないか。そう、思ってね」
「辛いことが、あったんですね」
わたしにはユリウスさんがしてきた事、ひた走った道、犯しただろう間違い、そのどれも分からない。でも分かることはある。
ユリウスさんが、今、どう思っているかだ。
いつになく力ない紫色の瞳が、いよいよ閉ざされる。
「……うん」
ちいさな、ちいさな、声。
呼吸に紛れて消えてしまいそうなほどの。
わたしこそが、泣いてしまいそうだった。
他ならないユリウスさんが、そんな声を聞かせてくれたこと。そんなふうにしていいって思ってくれたこと。その全部が、胸が苦しくなるほど切なくて。
頬に両手を伸ばして包み込めば、ひんやりと冷たかった。どれだけひとりでここに居たのだろう。わたしが帰って来なかったら、このまま朝を迎えるつもりでいたんだろうか。
「(帰ってきてって、言ってくれてもよかったのに)」
薄く目が開く。後悔しているような色。わたしは嬉しくて仕方ないのに。
「ユリウスさん、ぎゅってしていいですか」
「……いいよ」
甘えた声でねだれば、ユリウスさんは断わらない。分かっていて言質を取ったわたしは頬に触れていた指を滑らせ、丸い頭を両手でかき抱くように引き寄せる。
わたしよりずっと背が高いユリウスさんは窮屈そうだ。精一杯かがんでくれて、でもちょっとだけ不服そうな様子に思わず微笑む。
「ちょ、ちょっとソフィア。これは流石に苦し……」
「わたしはずっとユリウスさんの傍にいますからね」
広い肩が震えた。首元で喋っていたユリウスさんが押し黙る。
「離れろって言われたって離れませんから。覚悟してくださいね」
わたしにとっては分かりきっていたこと。ずっとずっと昔から決めていたこと。でもユリウスさんは、それを受け止めかねているように見えた。だからわたしはそれ以上なにも言わず、柔らかな金糸に頬寄せ目を閉じ、待った。
耳に痛いほどの静寂が部屋に満ちる。
やがてユリウスさんの腕が背中に周り、ぎゅっと抱きしめられた。そのまま立ち上がったユリウスさんに抱っこされる。
いつもより高い目線。いつもよりずっと近い距離。
不思議と恥ずかしさよりも、よかった、って気持ちが強かった。
「僕は幸せ者だね」
ユリウスさんが、いつもの優しい笑顔をしていたから。
「わたしも、幸せです」
心からの言葉に、ユリウスさんが本当に嬉しそうに笑ってくれたから。
しばらく、言葉も交わさず抱き合った後。
離れ難かったけれどユリウスさんに降ろしてもらったわたしはお風呂に入ることにした。今日は何度も飛んだから汚れが酷くてこのままじゃベッドに入れない。
「先に寝てて下さいね」
「いや、待っているよ。ゆっくりしておいで」
疲れてるはずだからとかけた言葉はあっさり返されてしまった。ユリウスさんがわたしを置いて先に眠るなんてしないのは分かっていたので、肩をすくめてさっさと浴室に引っ込む。
みんな寝静まった後だからシャワーを浴びるだけで済ませて。
寝間着に着替えて寝室に戻る頃には、わたし自身があくびを堪えきれなくなっていた。
「あふ……」
「お疲れ様。ほら、早く寝よう」
案の定、眠るどころかベッドに入ってすらいなかったユリウスさんに手を引かれてベッドに横になる。
隣りに寝転んだユリウスさんに毛布を被せられぽんぽんと優しく寝かしつけられ、完全な子供扱いにムッとなったけどなんだか凄く嬉しそうだったから文句は言えなかった。
「明日は何もないなら、ゆっくり過ごすのもいいんじゃないかな」
「明日は、暴牛のみんなと水着を買いに行くから……」
「えっ」
ふわ、と完全にリラックスしたあくびを零したわたしとは逆に、ユリウスさんはピタリと動きを止めた。
まるで生き物が一瞬で彫像になったような不自然な姿勢での静止に思わず怪訝そうな目で見てしまう。ユリウスさんはさっきまでのふわふわほわほわした雰囲気はどこへやら、切羽詰まったような空気さえ漂わせて口を開いた。
「……水着?」
「みずぎ……」
「……、……、……どこに、来ていくのかな」
まるで断崖絶壁を前にした容疑者のような切羽詰まった声音だった。変なの、と思いながらも思ったことをそのまま返す。
「ラクエに行くので……?」
ユリウスさんは絶句した。
極秘任務で海底神殿へ行く前に最寄りの町であるリゾート地ラクエに滞在する可能性が高い。だから水遊び用の水着をと思っていたのだけど。
「ラクエ、ダメでしたか……?」
「違うんだ……ソフィアは悪くないんだ……本当に……」
ユリウスさんは向こう側に転がって顔を覆ってしまった。なんで、どうしたの、と背中の寝間着をつんつん引っ張っても全く振り返ってくれない。耳まで赤くして、本当にどうしたのだろう。
「……はあ。本当に、年甲斐がなくてごめんね……」
「そうなんですか……?」
「うん……」
年甲斐がない、なんてユリウスさんに対して一度も思ったことがないわたしは困惑し切りだったけれど。
でも、よく分からないままわたしの顔も見れないような状態になって、本当に辛い時は大人しくわたしに抱きしめられてくれて、わたしと一緒にしか眠ってくれないユリウスさんのことは。
「ふふ、かわい」
「……勘弁してくれ」
「ふふ……」
ビクンと震え上がって、しょんぼりと小さくなった背中。
それにピッタリくっついて、可愛い可愛い、大好き、と呟いているうちにわたしは呆気なく眠りに落ちてしまった。
意識が完全に途絶える間際。
こっち向いたユリウスさんが、優しく包み込むようにわたしを抱きしめてくれたものだから、泣いてしまいそうだった。