白夜編
夢小説設定
この小説の夢小説設定※原作開始時点
誕生日:7月17日(かに座)
性別:女
年齢:16歳
血液型:A型
身長 150cm
好きな物:白薔薇、果物、空を飛ぶこと
出身地:王貴界
等級:一等下級魔法騎士
魔法属性:竜
竜化魔法 ?????
→自身がドラゴンになる。変身魔法とは別物。
魔法を弾く鱗、地上よりも空の方が速く動ける羽毛の翼、鋭い爪や牙が武器。
(title by
不在証明)
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魔法騎士団本部は王貴界にある。王貴界には魔法障壁が張られていて空から入ることは出来ないので、入り口の門近くに一旦降りる。
門にはマルクスさんが迎えに来てくれていたので、ぐっすり眠ったままのアスタくんを渡して。背中から四人の団長達が降り立ち。
さあ仕事は終わりだと踵を返そうとした所でマルクスさんがわたしを手招いたので、顔を寄せる。マルクスさんはヒソヒソと小さな声で耳打ちした。
「ユリウス様が、奥方様もご一緒にとの事です」
「……わたしも?」
「はい」
何があったんだろう。首を捻りながらヤミさんを見れば、察したように目を細めた。
「残っとけ。帰りのアッシーがいなくなる」
「あ……、はい」
周りの団長達の視線が和らぐ。ノゼルさんは察しているのか無言だったけど、ジャックさんとシャーロットさんがひどく物言いたげにこちらを見ていたのに、一瞬で。ヤミさんのこういう察しがいいところすごく助かる。
「団長は会議室で待機を。あなたは一緒に来てください」
「はい」
アスタくんを抱えたまま本部へ向かっていくマルクスさんの後をついて行く。
最近は頻繁に来ている気がする魔法騎士団本部。来客用の部屋でベッドにアスタくんを寝かせて、わたしはすぐ近くにあるいつもの休憩室で待つよう案内されて。
わずか数分で部屋の扉がノックされ、開かれた。
「ユリウスさん」
「ご苦労さま。怪我がなくて何よりだよ」
「はいっ」
手ぶらのまま入ってきたユリウスさんに思わず立ち上がりかけて、手で制される。
「すぐに戻る必要があってね。今はソフィアの顔を見に来ただけで……」
「なんか物騒なことが起きそうなんですか?」
ユリウスさんが珍しく肩を揺らした。図星だったらしい。何だかずっと狙われてばかりだから警戒するのは当たり前だけど、それだけじゃないらしい。
教えて貰えないかなぁとじっと見つめた先で、ユリウスさんは気まずそうに目を逸らした。
ため息をつく。申し訳なさそうな顔した夫を見に来たかったわけじゃない。
「言えないならいいです。ちゃんとお留守番してます」
「……うん」
ユリウスさんはわたしの頭をひと撫でして、たったそれだけを終えるとすぐ部屋から出て行ってしまった。
「いってらっしゃい」
「いってきます」
翻る鮮やかな深紅のローブをただ見送る。
時間がない中、無理やり顔を出してくれたのだろう。分かってる。だから聞き分けよくきちんと待てる。でもなんとなくモヤモヤする。
「(また何かから守られてるんだろうけど……ちょっとだけ、寂しいな)」
一気に気が抜けて、はしたなくも横になる。柔らかなクッションからは清潔な洗剤の匂いがした。
ソファーに腰掛け待つことかれこれ数十分。暇な時間が過ぎ去り。
うとうとと船を漕ぎかけていたわたしの耳を、再びノックの音が叩く。
慌てて起き上がったわたしを見つけて目を丸くしたのはまさかのアスタくんだった。
「(ユリウスさんじゃないんだ)」
目をまん丸にした後輩に首を傾げながら立ち上がる。
「アスタくん、体は大丈夫?」
「あ……はい、平気です!」
「よかった」
ほっと胸を撫で下ろすわたしに、アスタくんの後ろからひょいと顔を出したヤミさんが手を上げる。
「用事済んだから帰るぞ」
少し躊躇して、はい、と頷きついて行く。
誰とも会わないまま魔法騎士団本部から出て王都の道を歩く。日が傾き、夕日が石畳を染めていた。
紫煙を吐いたヤミさんがアスタくんに話しかける。
「お前ガチガチだったじゃねーかよ。ひょーきんくんも緊張とかすんのな」
「誰がひょーきんくんですか! いやぁー魔法帝とか……自分がすげぇって思ってるひとから、期待とかされんの経験なかったもんで」
アスタくんはいつになく気弱な様子に見えた。意外だ。もっと上向きで、強い気持ちの持ち主だと思っていたから。
そんな背中をヤミさんが物凄い音を立てて叩く。
「アウチ!」
「アスタくんっ?!」
「テメーならやれると思って黒の暴牛に入れたんだ。キリキリ働けや」
は、と気づく。そうだアスタくんもわたしと同じ入団試験を受けたんだ。だったら最初にアスタくんの力を評価したのは団長のヤミさんだ。
「はいっす!」
元気のいい、いつものアスタくんの返事に胸が温かくなる。
ふと思い出す。団長のヤミさんはともかく、アスタくんがわざわざ本部に呼ばれた理由が分からないままだと。
「そういえばアスタくんはどういう用事で呼ばれたの?」
「あ……」
「帰ったら話すわ。誰が聞き耳立ててるか分かんねーしな」
何気なくそう言うヤミさんに少し足が止まる。すぐにまた歩き出したけど。
けど、それじゃまるで。
「(すぐ近くに敵がいるみたいな言い方)」
反射的に騎士団本部を振り返りかけた体を制して、前を向く。
魔法障壁の張られた王都を出ると同時に竜になり、ヤミさんとアスタくんを背に乗せて黒の暴牛のアジトまでひとっ飛びに戻る。
エントランスには団員がほとんど揃っていた。朝までは二日酔いで潰れてた面々はもちろん、雪山での処理を終わらせたのだろうフィンラルさんとゴーシュさん、ノエルちゃんもいた。
通信魔道具でヤミさんが前もって集まるように連絡してたんだろうか。いつの間に。
「よーし集まってんな」
珍しく、きっちりとアジトの扉を閉めたヤミさんがいつものソファーに腰掛ける。全員の視線を集めたヤミさんは少し面倒くさそうに襟足をかいて、新しいタバコに火をつけた。
紫煙と共に語られたのは今日起きた出来事について。
―――先日の王都襲撃の際に、白夜の魔眼を2人捕虜としていた。けれど彼らにかけられた記憶を守る魔法により情報が得られないままでいた。
そこで魔法帝はアスタの反魔法の力を借りてそれを解除し、捕虜の口からいくつかの情報を引き出すことに成功。
ひとつ、紫苑の鯱団長のゲルドルが裏切り者であること。これはその場に居合わせた団長達が制圧して捕縛済み。余罪も含めて本部で取り調べられるそう。
ひとつ、白夜の魔眼が“魔石”と呼ばれる石を集めていること。すべて集めると魔と密接に繋がった存在に生まれ変わり、強大な力が手に入ると彼らは信じている。王都襲撃の際に紅蓮の獅子王の団長フエゴレオンを狙ったのも魔石を身につけていたかららしい。
「で、だ。旦那は残る3つの魔石の回収を俺達に任せた」
「他の団ではなくわざわざ黒の暴牛に、ですか?」
「まだどっかの騎士団に裏切り者がいるかもしれねーしな。うちはほら、家のしがらみとか薄い奴ばっかだし」
適当な言い方だったけど全員押し黙った。王族も貴族も下民も揃ってだ。
「納得したか? んじゃ続けるぞ」
残る3つの魔石。そのうちのひとつは場所が白夜の魔眼が特定していた。
海底神殿。名前の通り海の中にある、魔の力場が強い強魔地帯のひとつ。一般人はもちろん魔法騎士といえどおいそれと立ち入れる場所じゃない。そんな危険地帯に。
「白夜の魔眼より先に行って、魔石を回収して来い、と」
「明後日にはここにいる全員で行く。今回は極秘任務だから誰が相手でも他言無用。なんか質問ある?」
しん、とエントランスが静まり返る。いつもなら絶対にない沈黙。それぞれ何か考えているのか、特に質問もないから黙ってるのか。
全員の顔をぐるっと見回したヤミさんは、タバコをくわえたまま手を打ち鳴らした。
「んじゃ今日は解散。お疲れさん。っしゃ仕事終わり、飲むぞ! 食うぞー!」
「おおーっ!」
「らあーっ!」
「仕事してるカッコイイ団長、一瞬で崩れちゃった……」
「普段はこっちでしょ」
「そだね……」
秒で戻っていたいつものノリとどんちゃん騒ぎに一気に肩の力が抜ける。知らないうちに詰めていた息がこぼれた。
隣りにいたノエルちゃんがじっと見つめてくる。なんだか切羽詰まったような雰囲気で。なんだろう。
「どうかしたの?」
「……海底神殿って、海にあるわよね」
「確か、そうだったはず?」
ノエルちゃんが黙りこくった。その間にワインボトルを抱えたバネッサさんがわたしとノエルちゃんの手にグラスを握らせジュースを注いで乾杯した。物凄い早業だった。
「朝まで二日酔いだったのに、夜また飲むんですか……」
「そんなの別腹よ。べ、つ、ば、ら」
「ほらお食べー!」
「わっ」
そうこうしているうちに目の前のテーブルに色とりどりの料理が並ぶ。当然のようにチャーミーさんだ。見ればチャーミーさんの魔法である羊のコックさんが他のテーブルにもあれこれ置いて回っている。
ひょいひょいと取り分けた小皿をわたしに手渡し、次にノエルちゃんに渡そうとしたチャーミーさんが緩い笑顔のまま怪訝そうにした。
「お、どした? 食べんのか? ん?」
「ノエルちゃん?」
「なになにー?」
「……水着……買わなきゃ……!」
バネッサさんとチャーミーさんの動きがピタリと止まった。
わたしは首を傾げる。
「水着?」
「そっかそうだわ、海底神殿に行くんなら滞在するのはラクエ。だったら水着がいるわね」
ラクエ。王貴界にある有名な常夏のリゾート地だ。名物は美しい海岸と新鮮な海産物。
「……それで、水着?」
「そうねー、泳ぐなら水着いるし。私も新調しようかしら」
「私は持ってるからいいのら」
「必要なら、わたしも買わなきゃですね」
一斉に3人分の視線が刺さる。驚き混じりの、信じられないものを見る目。
「持ってないの?! 1着も?!」
「海に行ったことないので……」
「旦那に連れてってもらったりしないの?」
旦那。ユリウスさんと海。想像してみる。青い空に青い海、白い砂浜、照りつける太陽の下に佇むユリウスさん。
……なんだかびっくりするくらい似合わなかった。
それ以前に、魔法帝のユリウスさんと海に遊びには行けない。
「仕事があるから難しいかと……」
「ふーん。じゃあ明日辺り、私達と買いに行きましょ。ノエルも」
「うっ」
ワイングラスを空けながらのバネッサさんの提案にノエルちゃんは何か詰まったような声を上げた。代わりに、料理を平らげているチャーミーさんが「私は持ってるからパスするのら」とのお返事。
「ノエルちゃん?」
「……その、特注の水着にしようと思ってて」
「もしかして、行く店もう決まってる?」
「う……そうね」
バネッサさんと目を見交わす。ノエルちゃんの行く服屋さん。絶対めちゃくちゃ高い。だからひとりで行くつもりなんだろうけれど。
「わたし達も一緒に行っていい?」
「えっ、ええ、構わないけれど」
「たまには良い服見に行くのも楽しいしね〜」
ワインボトルを傾けながら鼻歌を歌い出しそうなバネッサさんにうんうん頷く。
頬を薔薇色に染めたノエルちゃんは「しっ、仕方ないわね」とつんとそっぽ向いた。可愛らしくて口元が緩む。
「じゃあ、また明日ね」
「え? ええ……」
「なによー、今日はこっち泊まんないの?」
「はい」
「ちぇーっ」
ちょっと寂しそうな顔したバネッサさんだったけど、すぐに戸惑い顔のノエルちゃんの肩を抱いていたから大丈夫だろう。たぶん。
盛り上がるエントランスから離れる前にヤミさんに挨拶する。グラスもお皿もテーブルに置いてきたわたしに、団長はフラットな目を向ける。
「帰んの?」
「明日には戻ります」
ひらりと後ろ手で手を振るヤミさんに背を向けて、なるべく静かに黒の暴牛のアジトから抜け出る。後ろでガラスの割れる音とか大きな笑い声とか聞こえたけれど、一度も振り返ることなく。
細く三日月が浮かぶ空を、ひと息に王貴界へ翔ける。
今度はひとりきりで。