白夜編
夢小説設定
この小説の夢小説設定※原作開始時点
誕生日:7月17日(かに座)
性別:女
年齢:16歳
血液型:A型
身長 150cm
好きな物:白薔薇、果物、空を飛ぶこと
出身地:王貴界
等級:一等下級魔法騎士
魔法属性:竜
竜化魔法 ?????
→自身がドラゴンになる。変身魔法とは別物。
魔法を弾く鱗、地上よりも空の方が速く動ける羽毛の翼、鋭い爪や牙が武器。
(title by
不在証明)
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日も暮れてきたし、ノエルちゃんは魔力切れ、アスタくんは体の傷が心配だからと魔法騎士団本部に用意された客室。いつの間にか王貴界にいて、いつの間にか敵を捕らえていたチャーミィさん共々それぞれ通されたのは、一流ホテルもかくやの豪奢な個室。
そんな遇され方をしたものだから、ソフィアはその後の展開が手に取るように分かっていたし、実際その通りになった。
即ち。襲撃されたその日のうちに魔法帝から国民に向けての会見―――マルクスさんがたくさんの魔道具でデッカくユリウスさんを中空に映してた―――そしてその3歩後ろにはヴェールを被った素性不明しかし王権派出身の魔法帝夫人が控えているということだ。
「戦ったその日の夜に会見してしかもわたしも同席しなきゃなんですね……」
「今回ばかりは間違いなく王権派から魔法帝への責任追及が激しくなるので……本当に申し訳ないです……」
「いいんですよ、ただ眠たいなーってだけなので……ふわぁ」
会見も無事終わり。どちらにせよユリウス様には国民の支持があるので問題ないです、それでも助かりましたありがとうございます、というソフィアにはよく分からない言葉を貰いながら、辿り着いた休憩室で思いっきりあくびを噛み殺してしまった。
気の利きすぎるマルクスさんが休憩室のソファを整えようとする。優しい。でもそれは、他ならないユリウスさんが制してしまった。
「マルクスくん、今日はもういいだろう?」
「はい。奥方様、ご助力頂きありがとうございます」
「いぇ……あふ」
本格的にあくびが止まらなくなり、頭もグラグラしてきた。今すぐベッドが欲しいという願いが聞こえたのかというくらい的確なタイミングで、ぐいと手を引かれる。
「抱っこしようか?」
ユリウスさんだ。首を横に振る。もげてしまいそう。
ねむたい。疲れた。かえりたい。今すぐ。でも、ユリウスさんにおんぶにだっこは絶対に嫌だったし、何よりお話したかった。
だから、本部の個室に送ろうとする手を逆に引っ張って、外に通じる廊下につま先を向ける。
「おうちに帰りましょう、ユリウスさん」
見上げた先には、少し困ったような紫の瞳。ダメと言われるだろうか。魔法騎士としてここにいるのだから、仕方ないのかな。
じいと見つめるうちに気持ちが伝わったのか、わたしの駄々を叶えてあげたくなってくれたのか。困った子だねと、ゆるゆる微笑んでくれた。
「そうだね、帰ろう」
手を繋ぎ直して、またユリウスさんに手を引かれて家路を辿る。
暗い夜に紛れて。騎士団本部の廊下から、少し崩れた街路、そして家の門扉までを、取り留めなくお話しながら、ゆっくりと。
「わたし、こんなにちゃんと戦うの、初めてだったかもです」
「怖かった?」
「いいえ。師匠に比べれば、全然。……でも、何も、出来なかった」
「そんな事ないさ」
「そう?」
「うん」
穏やかな夜だ。昼間の出来事が遠く感じるほどに。
まるで、世界にふたりしかいないみたいに。
「……ユリウスさん」
「うん?」
「変な話してもいい?」
「もちろんだよ」
「ん。……わたし、今は人なのにね」
「うん」
「尻尾にね、まだ、死体を叩いた感じが、残ってる気がするの」
「……うん」
「おかしいね」
「おかしくないよ」
「ほんとう?」
「うん」
ふたりきりならいいのに。月もない夜じゃなかったら、きっとこんなふうに歩けなかった。
「ユリウスさん」
「うん?」
「明日ね、アスタくんとノエルちゃんを、連れて帰らなきゃなの」
「そうだったね。今日の明日だ、気をつけて」
「うん。だからね、起きた時にわたしがいなくても、泣かないでね」
「ふふ、頑張るよ」
真っ暗な夜の中でも見え隠れする見慣れた屋根に、もうすぐ着いてしまうのだと肩を落とす。
もう少し一緒にいたかった。
もう少し話してたかった。
……でも、それだけじゃない。
「ユリウスさん」
「うん」
「キスしてほしいって言ったら、困る?」
ピタリと足が止まる。瓦礫に崩れた街に響いていた靴音と、続いていた会話ごと道ずれに。
代わりに心臓がうるさい。耳のすぐ側で打ち鳴らされているのかってくらい、ドクドク、ドクドク、わたしの心音なのにすごくよく聞こえる。
抱きしめられるだけでよかったはずなのに、こんな道のど真ん中で、ふと、そういえばわたし、キスも知らないんだと思って。
ユリウスさんのキスも知らないのに、夫婦なんだって、思って。
そうしたら、ぽんと口から出てしまった。
結婚しているのだから、別にキスくらいなんてことないはずなのに。
なのに緊張で手足が冷たく感じる。
嘘みたいに怖くなってきている。
ユリウスさんに、困るって言われたら、泣いてしまう。
「あの、やっぱり、なんでもない」
意気地無し。こんな事も言えないで、何が夫婦よ。
心の変なとこがけたたましくブーイングを上げる。うるさい。でもしょうがないでしょう、ユリウスさんは、そんな事しない人だったってだけで。そんな人を、わたしが好きになっちゃったってだけで。
「ソフィア」
低い声だった。ひやりと背中が伸びるような。
腰を折られて、顔が近づく。どうしよう。怒られる。
表情を見たくなくて目をぎゅっと瞑れば、ふふ、と小さな笑い声が鼻先を掠めた。
そうっと熱が触れたのは、額にだけ。
「はい、おしまい」
パッと熱が遠ざかる。おどけた声に恐る恐る目を開ければ、にこにこと柔らかに笑うユリウスさんがいた。
大人だ、ユリウスさんは。カッと頬が熱くなる。
「ちゃ、ちゃんと口に、」
「なんの事かな」
絶対に分かっているはずなのに、とぼけて先を行く。わたしの手を引いたまま。何事もなかったように。
「〜〜っ、ユリウスさん!」
悔しい、悔しい、悔しい!
今にも泣き出しそうな、我ながら情けない悲鳴に、ユリウスさんは困った横顔を肩越しに覗かせた。結局、やっぱり、困らせた。
「子供扱いをしているつもりはないよ」
「でも!」
きゅうと、大きな手がわたしの手を握り込む。無邪気な子供が、大事な宝物をそうするように。
「僕はソフィアに、焦って大人にならないで欲しいんだ」
ずるい。わたしが、ユリウスさんのことを好きで仕方ないって知ってて、そんな事を言う。ユリウスさんは、ずるい。
「キスくらい、いいじゃないですか」
「ううーん」
「……わたしと、したくないんですか」
「そ、そんなに真っ直ぐ聞かれると……」
手を握り返す。ユリウスさん。ユリウスさんの心に、また触れたい。何度でも。幾星霜たっても。
「……し、たい、よ」
羽が落ちるような、あまりに小さな、か細い声。
見上げたユリウスさんは、酷く恥ずかしげな様子だった。キスをしたいと、わたしに言うだけなのに、たったそれだけの事を、こんなに大人なユリウスさんが、こんなにも照れている。
胸が詰まるような心地と、浮かれて踊り出したい気持ちに息が止まった。
「したいん、ですね。わたしの唇に、キス、したいんですね」
「……あの、そんな念押しするように言うのは止めてもらえると……」
「したいんですね」
「……、……はい……」
ユリウスさんは、これヤミかウィリアムに聞かれたら流石に怒られそうだなあ、などとよく分からないことをボソボソ言っていた。でもそんなの全然気にならなかった。
そっか。ユリウスさんも、わたしとキス、したいんだ。
したいけど、しない理由が、ちゃんとあるんだ。
「じゃあ、いいです」
手を引く。ユリウスさんの大きな手。揃いの結婚指輪が見える左手。持ち上げて、甲に唇を寄せた。
「ユリウスさんがわたしを欲しがってくれるまで、待ってます」
心からの言葉だった。ユリウスさんには、よく分からない響きだったみたいだけれど。空いていた手で顔を覆って闇夜を仰いでいる。現世の何もかもから目を逸らしてるような姿は珍しい。
「……ソフィア」
「はい?」
「今の、絶対、僕以外にしても言ってもダメだからね」
「言われなくても、わたしにはユリウスさんだけですよ」
「……ちゃんと意味わかってるのかなあ……」
その後。
なんだかぐったりしているユリウスさんと手を繋いだまま歩いて、お屋敷に着いた。
昼間に起きたことが嘘のような、穏やかな暗夜だった。