白夜編
夢小説設定
この小説の夢小説設定※原作開始時点
誕生日:7月17日(かに座)
性別:女
年齢:16歳
血液型:A型
身長 150cm
好きな物:白薔薇、果物、空を飛ぶこと
出身地:王貴界
等級:一等下級魔法騎士
魔法属性:竜
竜化魔法 ?????
→自身がドラゴンになる。変身魔法とは別物。
魔法を弾く鱗、地上よりも空の方が速く動ける羽毛の翼、鋭い爪や牙が武器。
(title by
不在証明)
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腐臭が、爛れ落ちた果実のような耐え難い甘い臭いが、街を覆っていた。
空の上にまで届く叫喚は男も女も大人も子供も差別なく、悲哀と絶望に突き動かされていた。
ゴミひとつ落ちていなかった王貴界に点々と広がる血溜まり。その中心には泣き叫び逃げ惑う力なき民と、食事にたかる昆虫のように群がる屍人の群れ。
これはなんの悪夢だと、竜の尻尾に掴まるレオポルドは震える歯をギリと噛み締めた。
「おのれ……!」
ソフィアは青ざめながらも、手当り次第に助けても意味はないことを悟った。恐らく操る術者を倒さなければ他の死体が出てくるだけ。
大きな建物と建物の間に広がる大きな道を飛び進む。より大きな声の、大きな魔力の上がる方へ。
そうして辿り着いたのはレンガで整えられた広場。王都の北方に当たるその場所を、ぐるりと取り囲む建物の壁際には、力なくへたり込む女の子と、罵声を浴びせる痩躯の男、それらを包囲する屍人の群れがいた。
ソフィアがそう視認すると同時に背からアスタが滑り落ちた。違う、降りたのだ。
幼い少女の眼前へ。守るために。
「っ紅蓮の方! 降ります!」
「ああ!」
滑空のため広げていた翼をたたみ、失われる浮力に従い降りたソフィアの竜の足がレンガを踏み抜き欠片を弾き飛ばす。それより一呼吸早く尻尾から手を離していたレオポルドは軽やかに着地した。
ふたりを一瞬で取り囲む屍人の群れ。統率された速さだと、レオポルドは舌を打つ。
屍人。ならば炎だと自身の魔力を放出する前に竜の尾が大きく薙ぎ払われた。
人の身ならば一瞬で息絶えるだろう威力の打撲が屍人共の腰を横からくの字に折りたたみ、そのまままとめて壁へと叩きつけた。
あまりの容赦のなさに絶句したレオポルドの頭上から、少女の震える声が落ちてきた。
「ぐ、ぐにゃって……」
「それはそうだろう、どう見ても死体だ」
ソフィアが全力でぶっ叩いたことがある有機物は師匠のみだ。普段はどんな犯罪者でも加減をしている。ただ今回ばかりは、それではダメだと吠える本能に従い、全力を尽くした。
その結果、尻尾に残った不快感。柔らかな泥を叩くような感触。
ひと目見て分かったのに。目の前のあれが死体だと。
またわらわらと集う屍人の群れ。一度薙ぐくらいではなんの意味もなさそうなほどの数に、竜鱗がぶるりと怖気立つ。
もう遅い。それに退くわけにはいかない。屍人の手を中心に点々とつく赤い色、その理由が分からない子供ではないのだから。
あんなに大きかった悲鳴が、今はもうほとんど聞こえない理由も。
「……わたし、この魔法しか使えません!」
「上等だ! 討ち漏らしはオレがやる。あの男のところまで穴を開けるぞ、竜よ!」
「はい!」
そうして、他の地でも同じ理由で魔法騎士たちが屍人の駆逐を開始すると同時に、ソフィアはレオポルドと共に戦い始めた。
死体を見るのが初めてなわけではない。ゆえに考えてしまったのが、ソフィアの鋭い尾や爪にバラバラと引き裂かれるこの死体の"出処"だ。
王貴界にも墓地はある。だが王侯貴族というごく一部の上流階級しか居住の許されていないこの地に、これほどの数の腐乱死体があるとは思えない。白骨ならまだ分かる。だが屍人共はほとんど人としての形を保っているのだ。
これほど大量の死体が王貴界に眠っていたとは考えにくい。何よりあまりに唐突な襲撃。
それらを一度に解決できる魔法の存在は、ソフィアもよく知るところだ。
「……空間魔法?」
「貴様もそう思うか」
死角からソフィアに襲いかかろうとしていた屍人を骨も残らないよう焼きながらレオポルドが相打つ。
そもそも王貴界への奇襲というだけでも大事だ。周囲をぐるりと囲む巨大な市壁。四六時中張り巡らされる警邏の魔法騎士。
それらを掻い潜り、クローバー王国で最も安全なはずの場所にこれだけの頭数を揃えるには、間違いなく空間魔法の使い手が必要。それも国でもトップクラスになれるほどの使い手が。
問題は、その使い手が今このとき何をしているか、だ。
「次の手を打つならそろそろ来るはずなんだが……っな!」
「屍人しか見当たらない……!」
こいつらは確かに放置するわけにはいかないし、民を、国を脅かす存在だ。とはいえこれだけで何が成せるかと言うとただ悪戯に魔法騎士団を混乱させるだけ。
何が目的かが見えない。その危うさを、ソフィアは直感で、レオポルドは論理的思考で、導き出した。
それはそれとして。
「あの男、剣だけで我々より多く倒してはいないか?!」
「アスタくんですもの」
そうなのだ。竜であるソフィアの薙ぎ払いよりも、レオポルドの超高火力の炎よりも、アスタの黒い剣の方が効率良く屍人を打ち倒している。
驚愕し感心するレオポルドに、後輩を褒められたソフィアはドヤ顔したが竜のままだったため通じなかった。
「フフッ……はははははは!」
「?!」
「面白すぎるではないか! それでこそ、我がライバルに相応しい!!」
いつライバルになったのか。一瞬過ぎった疑問を、ソフィアはさらりと流した。
アスタが対峙していた痩身の男が魔導書を開き、禍々しい魔力を宿した屍人を呼び寄せたからだ。
ここからアスタの所までまだ距離があるし有象無象もまだ排除できてない。なのに、立ち塞がる屍人の群れ越しにも伝わる魔力の質に、冷や汗が止まらない。竜の巨体が本能的な恐怖に震える。
「……あれは不味いな、オレが助太刀に行く。竜よ、オレを投げろ!」
「はえっ?!」
だというのに真横から信じられない声が上がった。レオポルドは、爛々と目を輝かせこちらを見上げている。
あんな恐ろしい魔力を持つ屍人のほうへ投げろという。たしかにアスタへ誰かが加勢に行かなければ危ない。かといってそんなことしていいのか、着地地点ミスったら大惨事なのでは、と思考がぐるぐる回る。
痺れを切らしたレオポルドは竜の鱗をばしりと叩いた。痛かった。
「オレは強い、多少雑に投げても構わん!」
「そういう問題です?」
たぶん違う。
とはいえいくら王貴界の広い路地とはいえ、アスタの所まで飛べるほどの場所は確保できないと判断したソフィアは、爪を立てないようレオポルドを掴み、思いっきり空高く―――師匠の弟さんだし大丈夫だと信じて―――ぶん投げた。
奇しくもノエルの魔力が暴走していたときの打ち上げアスタにも似たそれは、無事にアスタの近くまでレオポルドを運ぶことに成功する。
「よし……!」
そうひと息をついた途端、ワラワラと再び現れた屍人達。今度はレオポルドの手助けなしで乗り越えなければ。
そう意気込む竜のすぐ横を大きな獅子が疾駆し、屍人達を一瞬で灰にしてしまった。
ソフィアはこの獅子を、正確には種火を知っている。
「夫人、おひとりで前に出ないよう」
「……わたしは、魔法騎士として来ています」
振り返ればやはり、炎のような髪をなびかせ歩いてくるフエゴレオン・ヴァーミリオンの姿。
今のは決してピンチでもなんでもない。だというのに注意されたソフィアは、致し方のないことだと分かっていても落ち込んだ。
とはいえ気分に左右されている場合ではない。新たに群がる屍人を尻尾の大きなひと振りで薙ぎ払い、気合いを入れ直す。
ひとりで出るなということは、フエゴレオンの目の届く範囲でなら問題ないだろうと。
態度で示されたフエゴレオンは、鼻息荒く屍人をバッサバッサ倒す竜に苦笑した。
「姉上の弟子がこの程度で引くはずもない、か」
魔法騎士団入団試験のときに見抜いた通りの性根。愚直で、頑固で、恐れ知らず。
それゆえに強い、竜魔法の使い手。
フエゴレオンは思い出す。魔法帝ユリウスの結婚式の日を。挙式の直後、ノゼル、ヤミ、ヴァンジャンスと共に直談判したあの時のことを。
あまりにも歳若い花嫁。本人が嫌がっていないことはヤミとヴァンジャンスが証言した。
それでも親子ほどの年の差。まだ子供とも言える年齢の花嫁に、魔法帝の妻としての責務は務まるのか? 一生連れ添う覚悟は?
そう尋ねたフエゴレオンに、ユリウス・ノヴァクロノが返した言葉を、思い出す。
『大丈夫。ソフィアは、自分の中の正解をちゃんと選べる子だよ。たとえ私相手でもね』
4人もよく知る、信頼と、慈愛の込められた、少し陰りのある声音に頷いた、あの日を。
なるほど聞きしに優る勇敢さだったと振り返りながら、広場にいた最後の屍人を焼き付くし、フエゴレオンは口角を上げた。
―――恐らく死者を操っている術者の男はアスタが倒し、その近くにはレオポルドが、サポートにはノエルがいて。
どこからともなく湧いていた屍人達はすっかり数を減らしていて。
このまま収束すると誰もが思っていた。空間魔法の使い手がいることを失念していたわけではない。だが、油断していた。
そのとき、竜は見た。
王都の方々から立ち上る大きな魔力。そして空に登る漆黒の幕。一瞬で掻き消えたそれは、よく見なれた黒色。
「空間……魔法……」
それも有り得ないほど大規模なものが同時に複数展開された。
背の高い竜だけが遠目に観測したその魔法により、この場以外の場所で戦っていた魔法騎士団員は、ひとりの例外を除いた全員が王都の遥か遠い地に空間移動させられた。
王都を襲った主犯が高笑いする。
本番はここからだ、と。