白夜編
夢小説設定
この小説の夢小説設定※原作開始時点
誕生日:7月17日(かに座)
性別:女
年齢:16歳
血液型:A型
身長 150cm
好きな物:白薔薇、果物、空を飛ぶこと
出身地:王貴界
等級:一等下級魔法騎士
魔法属性:竜
竜化魔法 ?????
→自身がドラゴンになる。変身魔法とは別物。
魔法を弾く鱗、地上よりも空の方が速く動ける羽毛の翼、鋭い爪や牙が武器。
(title by
不在証明)
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かわいそうにボロ負けしたのか、しょんぼりと席を立った翡翠の蟷螂の人と入れ替わるように、ソフィアはふらりとその席に近づいた。荷物をまとめていたおばあちゃんはそれに気づかない。
「わたしもお相手してもらえますか?」
「ああもちろん……あっ」
ソフィアを見上げるやいなや、やべっともしくじったとも取れる声を残してアタフタする珍しい姿に、おばあちゃんのままとはいえ少し溜飲を下げて、ソフィアはすとんと椅子に腰かけた。
「すごーく奇遇ですね」
「あ、あー、そうだねえ」
「この時間はお仕事のはずでは?」
「……いやあ」
「ここでお名前をお呼びしても?」
「ごめんなさい」
ユリウス・ノヴァクロノは、実にあっさりと謝罪した。おばあちゃんの姿でしょんぼりされると罪悪感がわくからやめて欲しいと思いつつ、今ごろ大捜索に当たっているだろうマルクスのことを思えば、そう簡単に許していいわけではないとソフィアは頬杖をついた。
前置きも大切なのだが、こうやって一体一で話すのは久しぶりなので、もっとたくさんお話したいのが本音だ。
「もう、あの人も魔法騎士団員でしょう。部下をいじめるようなことをして」
「魔法やイカサマは使っていないよ?」
「魔法を、使わなくても、めっちゃくちゃ強いんでしょ」
ちょっと時間を置いて、てへっとしたおばあちゃんユリウスに、深く深くため息をつく。
現魔法騎士団団長たちに聞いてみたいものだ。魔法帝ユリウスとカード勝負したい人ーって。ぜったい全員その場で帰るから。
「お仕事、ぜんぶ終わらせてきたんですか?」
「うーん。一応終わらせてはきたけれど、そろそろ他に問題が起きてるころかな」
「よしマルクスさん呼びます」
「判断が早くなったね?!」
感心したような衝撃を受けたような反応をされたが知るものか。問題が起きているならなおのことマルクスはユリウスを死にものぐるいで探しているはずだと、通信魔道具を懐から出したソフィアの手に、おばあちゃんのしわくちゃな小さい手が重ねられる。
その手の持ち主などひとりしかいない。
「……手を握ってもらってすごく嬉しいのに、複雑な気分です」
「あはは……」
いつもよりずっとずっと低い温度の指先。なのにさっきバネッサにウインクされたときとは比べものにならないほど恥ずかしくて、頬まで熱くなる自分にソフィアはほとほと呆れた。
なんだかんだでこのひとに弱い。
「わかりました、連絡はしません。でもできれば今すぐマルクスさんのところに帰ってあげてください」
「うんうん、わかったよ」
こんな口約束でこのひとを拘束できるわけないと知っているソフィアは、息を吐きながら通信魔道具を懐にしまいなおした。マルクスさんごめんなさい。
ため息ばかりのソフィアに対し、おばあちゃんユリウスはうっきうきで話を変えた。
「それにしても、黒の暴牛は今年もおもしろい新人が入ったみたいだね!」
今年も。つまり去年からおもしろい新人がいたということ。去年入団したのはソフィアただひとり。
「わたしおもしろい新人でした?」
「(自覚なかったのか……)」
魔導書なしで竜になれてしまう元新人は、はてと疑問をいだいた。ここには買い物に来ただけだから、アスタもノエルも魔法を一度も使っていない。
なのにもうおもしろい認定がくだるとはどういうことなのだろう。
「あの、ふたりを見て、どこがおもしろいと……」
そう聞こうとしたソフィアは、急接近する魔力と乱暴な腕に気づいた。反射的に払おうとした手を小さな手が再び掴む。
「えっ」
しぃ、とひそめた声とともに小さな人差し指がくちびるの上にそえられる。
ソフィアはあっけに取られたままおばあちゃんユリウスと一緒に地面に転がり、風魔法で立ち去るフードを目深に被った男を見送るだけになってしまった。どこからか親切なひとの叫び声があがる。
「引ったくりだぁー!!」
「わしの戦利品……待っとくれー!」
「……」
遠ざかる引ったくり。闇市の通路におばあちゃんの悲痛な声がこだまする。
ソフィアは失礼ながら心底思った。いや、あなたなら余裕で捕まえられたでしょうと。なんだろうこの茶番と。
バネのように飛び出したアスタと、その背中を追想する謎の乗り物に乗った翡翠の蟷螂のひとが路地の奥に消えて行くのが見える。
おばあちゃんユリウスを庇うかたちで押し倒されていたソフィアは、あわてて駆け寄ってきたバネッサとノエルになんとも言えない気分で立ち上がらせてもらった。
「ソフィア、ちょっと怪我はないでしょうね?!」
「あ、うん。ないです。大丈夫です」
「おばあさん、今から私たちも引ったくりを追いかけるから、この子と一緒に待っててくれる?」
この子、と指さされたソフィアは複雑な気持ちでバネッサとお話するおばあちゃんを見た。オロオロする小さなおばあちゃんに見えるが、それ、中身魔法帝なんです。
「わしの荷物だ、わしも追いかけるよ」
「えっ? でも、それは」
「もし足が追いつかなかったら、置いていってくれて構わないから」
「……わかったわ。ソフィア、おばあさんから目を離さないでね!」
「あ、はい……」
それ、中身、魔法帝なんです……。
などと言い出せるはずもなく、走り出したバネッサとノエル、にぴったり追走するおばあちゃんの斜め後ろについた。
女性とはいえ現役魔法騎士団員と同じ速さで走れる通りすがりのおばあさんなんているわけがない。間違いなく怪しまれるとソフィアは思っていた。だが意外なことにバネッサもノエルも何も言わなかった。なぜ。
闇市という名前のわりにすっきりした路地なのか、真っ直ぐな一本道の先、風魔法に追いつかんとするアスタの姿がソフィアには小さく見えていた。
風魔法めがけて投げられた黒い剣も、その剣に切り裂かれたところから、かすみのように魔法が消えてしまったのも。
「……珍しい魔法、いや、あれは魔法なのかな?」
「素が出てますよ」
「ふぉっふぉっふぉっ」
少し前を走るおばあちゃんのつぶやきに突っ込みを入れながら、引ったくりを謎の乗り物ではねたあとピクピクと痙攣して動かなくなった翡翠の蟷螂のひとと、そのひとに何かしら話しかけるアスタに駆け寄る。
なんかいろいろ悲鳴をあげている翡翠の蟷螂のひとの足にバネッサが軟膏を塗りはじめたのを横目に、途中で引ったくりが取り落としたらしい荷物をノエルとあらためた。あの短時間なら問題ないだろうけれど、細工がされていないか確認する必要があるからだ。
中身はぎっしりと金品が詰まっていた。魔力も感じないし、仕掛けもなさそう。特筆すべきは総額いくらか考えたら頭が痛くなりそうなことくらい。
「問題ないみたいね」
「あ、えと、うん」
「ちょっと、どうして急に元気ないのよ」
「いろいろあって……」
よく分からないみたいな顔をするノエルに笑ってごまかして、ソフィアはアスタとバネッサのほうへ振り向く。ちょうど翡翠の蟷螂のひとが足をひょこひょこさせながら帰り、アスタがその背に手を振っているところだった。
「足の怪我、大丈夫かな」
「ただの刺激毒だし、シーケ軟膏塗ったから問題ないわよ」
あくびすらしながら説明するバネッサに納得して、ソフィアはおばあちゃんの戦利品をアスタに渡した。これを取り返したのはアスタだから、返してあげるのもアスタがやるべきだと思ったからだ。
……あと、どんな顔して渡せばいいのか分からなかったのもある。
「さっき戦利品って言ってたよな? これぜんぶ賭博で勝ったのか! すげーなばーちゃん!」
「ありがとうよ〜、魔法騎士団様〜」
「もう盗られんなよ!」
「……」
これ、ほんと、どんな顔していればいいのだろう、わたし。
ソフィアは砂を噛んだような顔でたたずんでいた。様子がおかしいわとノエルが怪訝な顔をしていたが、それが目に入らないほど頭が痛い。
「うーん。心配だし、ばーちゃん、表まで送ってこうか?」
「……それはわたしがします。バネッサさん、アスタくんとノエルちゃんの買い物の続き、お願いしてもいいですか?」
「それは構わないけど……いいの?」
「はい」
正直このまま買い物する気分になんてなれないソフィアは、バネッサと待ち合わせの約束をして、離れていく3人の背中を見送った。
アスタはちょっとだけ申し訳なさそうに、ノエルは気遣うような目を向けてくれたのが、嬉しくも後ろめたかった。
なぜなら、ソフィアは自分の都合のためにこのおばあちゃんのところに残ったから。
「……ユリウスさん」
「待って落ち着いてソフィア、ね?」
闇市とはいえ人目が完全にないわけではないのに実名だしちゃったソフィアを、おばあちゃんユリウスがあわあわと宥めるように声をかける。
とはいえソフィアもここで魔法帝ユリウスをさらし者にしたいわけではない。深く深くため息をついて、おばあちゃんの腕の中にあるぎっしりの金品とか、わざと引ったくりにあった事実とかを、無理やり飲み下すことにした。
金品の件はともかく、わざと引ったくられた理由についてはなんとなく察しはつく。たぶんあれだ、黒の暴牛の新人の力が見たかったとかだろうと。
「はぁ。もう、いいです。表通りまで送ります」
「おや、本当に送ってくれるのかい?」
「……今はおばあちゃんですから」
自分より低いところにあるおばあちゃんに差し伸べた手を、エスコートするようにしわくちゃな手に重ねる。
いつもとは逆だなあと思いながら手を引いたソフィアに、ユリウスもまた同じことを思いながら、嬉しそうに手を引かれた。
「それにしても、魔法無効化、か。見たことのない種類の魔法だったね。……いや、そもそもあれは魔法なのかな?」
「えっ」
「なかなか面白い子だね」
魔法以外であれだけの力を持つなんて、ありうるのだろうか。おばあちゃんユリウスの口から飛び出た言葉に、ソフィアは首をかしげながら、でも聞き返すような愚行はおかさなかった。
魔法についてひとつ質問したらじゅう返そうとするから、このひと。日が暮れてしまう。
賭博場から離れたせいか、少しずつ人の目が少なくなっていく。とはいえ入り組んだ造りだから人目がないわけではない道の半ばで、隣りから聞こえた密やかな笑い声に、ソフィアは振り向いた。
おばあちゃんユリウスは、なんだか嬉しそうに笑っていた。
「デートみたいだねえ」
「デートなら、いつもの姿に戻ってください」
「ええと、それは……」
もう少しすれば表通りだ。そこは人目も段違いに多いし、何より陽の光がすべてをつまびらかにしてしまう。だから魔法帝のユリウスはそこに現れるわけにはいかない。顔が分かる人にひとりでも見つかれば大騒ぎになってしまうから。
わかっていて意地悪を言ったソフィアは、ちょっぴりの罪悪感を飲み込んで、なるだけ明るく笑った。
「冗談です」
「……ごめんね、ソフィア」
「いいんです。ユリウスさんがしわくちゃのおじいちゃんになって、魔法帝じゃなくなったら、たくさんデートに連れてってもらいますから」
それはソフィアにとってなんら疑うことのない未来のひとつだ。ずっとずっと一緒にいるのなら、ユリウスのほうが先に歳をとるし、おじいちゃんにもなるだろう。
そのころには魔法帝じゃないユリウスになっているだろうし、そうなればふたりでどこへでも行けるのだと。
「……」
「あれ、どうしました?」
ぴたりと足を止めたおばあちゃんユリウスに合わせて足を止め、首をかしげる。足を止めるような何かがあったのだろうか。
すると、おばあちゃんが光に包まれたと思えば、まばたきする間に魔法帝のユリウスがそこに立っていた。一瞬の変身術にソフィアがぎょっとする。
「って、わっ! なんで元の姿に」
元の180センチの男性に戻ったユリウスは、何も言わずにソフィアを裏路地へ引っぱり込んだ。
そのまま音もなく背に腕が回され、そうして、万力のようにぎゅうっと抱きしめられる。
なにが何だか分からないままぎゅうぎゅうに包み込まれたソフィアは、目を白黒させながらもユリウスの体温を、匂いを、いっぱいに受け止めた。
こんなにきつく抱きしめられるのは久しぶりで、だからというわけではないけれど、とても嬉しかったから。
しばらくして、ユリウスのおどけたような声が頭上から降り落ちる。
「いやあ、愛されてるなあって思って」
「あい、って……!」
耳まで赤くして絶句したソフィアの後ろ髪を、機嫌良さげにユリウスの大きな手がいじる。
ゾワッと背筋をのぼった感覚はソフィアにとって未知のものだ。
「これは恥ずかしいんだ?」
「当たり前じゃないですか! もうっ、マルクスさんに通報しますよ?!」
「あっはっはっは」
「笑わないで!」
悪戯するユリウスの手をぺしりと叩いたソフィアは、首から耳まで赤く染めながら、目の前の胸板に手を置き、力いっぱい押した。
簡単に離れた熱い体温になぜかほっとしつつ、ふいっとそっぽ向く。
「ソフィア」
「……なんですか」
「今夜は帰っておいで。僕も屋敷に帰るから」
「……ちゃんと一緒に寝てくださるなら」
「うん、約束する」
おそるおそるユリウスを見上げたソフィアは、優しく見下ろす紫の瞳に瞳をからめて、また目を逸らした。
あんまり見つめていると、口から心臓が飛び出してしまいそうだったから、仕方なく。