白夜編
夢小説設定
この小説の夢小説設定※原作開始時点
誕生日:7月17日(かに座)
性別:女
年齢:16歳
血液型:A型
身長 150cm
好きな物:白薔薇、果物、空を飛ぶこと
出身地:王貴界
等級:一等下級魔法騎士
魔法属性:竜
竜化魔法 ?????
→自身がドラゴンになる。変身魔法とは別物。
魔法を弾く鱗、地上よりも空の方が速く動ける羽毛の翼、鋭い爪や牙が武器。
(title by
不在証明)
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黒の暴牛の浴場はなかなか広い。もともとはバネッサ、チャーミー、グレイ、ソフィアの4人で使っていたところにノエルが加わってもなお、その倍の人数が入りそうなほど。
とはいえ今は夕食前なので誰もいなかった。
湯気だけが立ち込めるそこにノエルと一緒に入ったソフィアは、身を清めたあとゆったりと浴槽に沈みこんで、たっぷりと息を吐いた。
竜の姿で長い時間飛ぶとどうしても体が冷えてしまうから、湯船がしびれるほど気持ちいい。
ちなみに。隣りに腰を下ろしたノエルの胸もまた、バネッサほどではないが浮いていた。ソフィアはそっと自前の胸を隠したくなった。
「今日、どんな任務だったの?」
「え? ああ、わたしは荷物運びだけだったんだ。ノエルちゃんは? ソッシ村でイノシシ退治だって……」
聞いたんだけど、と続くはずの言葉は湯気の中にかき消えた。
白いモヤのその先。体を温めたからか、より色付いたくちびるを噛み締めるノエルがそこにいたからだ。
「……テロリスト、って言うのかしら。敵がいたの」
「敵……って、人と戦ったの?」
「ええ。……村の人達を殺そうとしてたから」
「……!」
そんなの、初任務でする体験じゃない。
恐怖と、後悔と、それらとは違う強い何かに突き動かされるように、ノエルの口から次々に言葉が飛び出してくる。
「村は魔法で霧に包まれてた。アスタの剣で切った先には、氷の刃に囲まれた村の人達がいて。それはマグナとアスタが何とかしたのだけれど、相手は4人もいたから、どうしようもなくなって」
「……着いた時には、もうそんなことになってたの」
村を襲う蛮族はいるが、それにしては用意周到だ。他国の人間がたかが村にそこまで手を出すとは考えにくい。
テロリスト。抱いた違和感は、ノエルの声に流されていく。
「私は王族だから、この国の民を、村の人達を守らなきゃって思ったら、魔法が使えたの」
「えっ、魔法が!」
「"海竜の巣"っていう、水を1ヶ所に集めるだけの魔法だけど……」
「じゅうぶん凄いよ!」
なんせ今朝までは水の塊をあさっての方向に飛ばしたり、魔力の暴走を起こしてしまうほどコントロールが壊滅的だったのだから。1日ですごい上達ぶりだ。
真っ直ぐに褒められたノエルは少し照れたものの、すぐに消沈した様子を見せた。
「そのあと、アスタとマグナが敵を倒して、マグナが拘束魔法で捕らえたんだけど……」
「うん……」
ソフィアが連れ帰ったのは黒の暴牛の3人だけ。本部に移送した様子もない。そしてヤミから通信をもらったときの「トラブった」という言葉。
「……逃げたひとり以外みんな自殺したの」
まるで、他に言い方があったら良かったのにと願うような、できるならこんなこと言いたくなかったと思っているような、声だった。
朝とは比にならないくらい、今にも泣き出しそうなほど傷ついた顔をしたノエルは、その横顔に恐怖と、後悔と、それを上回る怒りを滲ませて、沈黙した。
まだ任務での人の死に関わったことのないソフィアは、なんて声をかければいいか分からなかった。
あなたは悪くない。
生きて帰ってこれて良かった。
怪我がなくて嬉しい。
どの気持ちも薄っぺらくて、余計にノエルを傷つけてしまいそうで。
ただ。遠い昔、綺麗な木の棺に入れられた母親の顔が、ふと浮かんだ。
「わたしのお母さん、だいぶ前に亡くなってるんだけど」
「え……」
「一緒に暮らしたことなかったし、思い出もなにもなかったから、どう悲しんだらいいか分からなかったんだよね」
白いおもて。わたしと同じ色の髪。組まれた手に添えた白薔薇のつぼみ。
死がどういうものか、未だによく分かっていないわたしが言っていいのか分からないけれど。
「亡くなったその人たちのことを、ノエルちゃんが悲しんでくれるのは、すごいことだと思うよ。それこそ、魔法にも負けないくらい」
言い終わったソフィアは、ああ上手に言えなかったと自分にがっかりした。
ただ、村の人達をこの国の民だからと守ろうとしたノエルは、テロリストとはいえきっとこの国の民だったろう人達が目の前で自殺したことに、すごく悲しんでいたのだろうと思ったら。
それはとても尊いことだと、すごいことだと思ったし、伝えたくなった。
うつむいていたノエルは、湯を手のひらですくい、顔を一度洗うと、手の甲で水滴をぬぐいながら口を開いた。
「私も、お母様が亡くなられているの」
「えっ」
「嫌なおそろいね、私たち」
ふふっと、なにか吹っ切れたような、ごくごく普通の女の子の笑顔を見せたノエルに、ソフィアもまた笑い返した。
「探せば、いいお揃いもあると思うよ」
「何もないかもしれないわよ」
「の、ノエルちゃん〜」
「ふふっ」
お風呂場にわんわんと反響するふたりぶんの軽やかな笑い声が、ソフィアもノエルも楽しくって仕方なかった。
のぼせる前にと上がったふたりは、他の団員から少し遅れた晩ご飯を食べて。
まだ月もてっぺんにきてないからと、ソフィアの部屋に紅茶と少しの砂糖菓子を持ち込んで、はしたなくもベッドに並び座って話しこんだ。
「ノエルちゃんも学校じゃなくて家庭教師だったんだ」
「当然よ、私は王族だもの」
「それもそっか」
それはソフィアにとって、はじめて同年代の同性に心を開いて話す時間だった。
「小さいころは外に出られなくて、なんで他の子はいいのにわたしはダメなの〜って泣いたりした?」
「な、泣かなかったわよ!」
「えー、わたしは泣いたなあ」
「……まあ、ちょっとだけ、なら」
「ふふふ」
「なによ」
「なにもー」
師匠やバネッサやチャーミーに置く信頼とか親愛とはまた違う、不思議な気安さ。次から次に話題が出てきて止まらないなんて、はじめてのことで。
「ずっと気になっていたのだけど」
「うん?」
「その、もしかして、結婚しているの?」
ぴっと左手薬指をゆびさされたソフィアは、そこにはまる金の指輪と白薔薇の指輪に、ほころぶように微笑んだ。
「うん、結婚してるよ」
「えっ、どっ、どんなひと?!」
「うーん、すごいひと?」
「もっと具体的に!」
身を乗り出しマゼンタの瞳をらんらんと輝かせて食いついたノエルに、ソフィアはちょっと困った。話しすぎて特定されてはダメだからだ。
「えーっと、すごく強くて、すごく優しくて、とにかくすごくて」
「すごいしか言ってないじゃない」
「だって本当にすごいひとなんだもの」
強くて、おおきくて、優しくて、包み込んでくれるように接してくれて。
たまにやきもきするけれど、いつだってわたしを愛してくれていると、そう信じられるひと。
いつでも会えるわけじゃない。秘密にしなければならないことも多い。夫婦という形にはほど遠いかもしれない。
それでもかけがえのない、大切なひと。
「わたしが隣りにいてもいいのかなって思うほど、すごいひと」
たったひとりの、わたしの好きなひと。
そう言い切るソフィアの瞳はうっとりするほど綺麗で、その琥珀の色が今にも溶け出すんじゃないかと見とれながらノエルは思った。
幸せそうで。満たされていて。
きっとソフィアは愛していて。愛されてもいて。
こんなにも誰かを想うひとの顔を見るのは、はじめてかもしれない。
「……なんだか、ごちそうさま」
「うん、そろそろお開きにしよっか」
「そっちじゃないんだけど……まあいいわ」
ため息を吐いて枕を抱きしめたノエルに首をかしげながら、ソフィアは茶器を片付けた。
テーブルの上にひとまとめにして、あとの片付けは明日に回して。
「ノエルちゃん、ここで寝てくの?」
「い、いいでしょ別に!」
「うん、いいよ」
ベッドから立ち上がろうとしないノエルとふたり並んで転がって、灯りを消せば、眠る時間。
やっぱり疲れていたのか、すぐに健やかな寝息を立て始めたノエルの肩まで毛布をかけ直して、ふうと息をついたソフィアは、窓から差し込む月明かりにそうっと手を伸ばした。
しらじらと輝く薔薇の輪郭と、守るように煌めく金色。
甘えるように、乞い願うように、ゆっくりと薬指をくちびるに寄せて、目を伏せた。
金色の髪。紫の瞳。
最近また深くなったえくぼ。柔らかい声。
ローブの下の温かな体。いつも優しい大きな手。
ぜんぶ覚えている。一時も忘れられない。
会いたいなぁ。声を聞きたいなぁ。
ねえ、あなたは今、どうすごしていますか?
ユリウスさん。