白夜編
夢小説設定
この小説の夢小説設定※原作開始時点
誕生日:7月17日(かに座)
性別:女
年齢:16歳
血液型:A型
身長 150cm
好きな物:白薔薇、果物、空を飛ぶこと
出身地:王貴界
等級:一等下級魔法騎士
魔法属性:竜
竜化魔法 ?????
→自身がドラゴンになる。変身魔法とは別物。
魔法を弾く鱗、地上よりも空の方が速く動ける羽毛の翼、鋭い爪や牙が武器。
(title by
不在証明)
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黒の暴牛のアジトの周りは鬱蒼とした木々で囲まれている。少し足を伸ばせば町はいくつかあるのだけれど、そのあいだには必ず森が挟まるほどの囲まれようだ。
地元の人間はそこにいるのが黒の暴牛だからというのもあり、なかなか森には近づかない。国を守る魔法騎士団とはいえ騒音の多い荒くれ集団だから当然といえば当然の距離感だ。
だからその森の中でどんなに魔法の練習をしても誰の迷惑にもならない。
「……とはいえご飯は食べてほしいなぁ」
天空に大きな月が浮かぶ今はもういい時間だ。ヤミなら子供はさっさと寝ろと言いそうなほどの。
にも関わらず、ノエルは次から次に水の玉を作り出しては木々にぶつけようとして、うまくコントロールできずに地面をえぐる、という行為を繰り返していた。
水は流動的であやつりにくいと本で読んだことがある。掌握したつもりでもすぐに流れが変わるのだと。
その源泉が昼から夜まで打ち続けても平気でいられるほどの魔力で、しかも半年前に魔導書を受けとったばかりとなれば、どんなに練習してもコントロールは難しいはずだ。本人の不器用さを加味しなくても。
とはいえ黒の暴牛の一員になった以上、ご飯はちゃんととって欲しいとソフィアは思う。
チャーミーも気にしていたし、まず自分の体を大事にしなければ何もできはしないというのが師匠の教えでもある。
ゆえに、終わるまで木陰から見守ることはやめて、ノエルに声をかけることにした。
「ノエルちゃん、こんばんは」
「あなた……」
「サンドイッチ持ってきたの。食べない?」
はい、とつつみを差し出せば、きゅう、と素直なお腹のお返事。一瞬で耳まで赤らめた姿に可愛いなあとほっこりした。これだけ魔法を使えばそりゃあお腹もすく。
「……い、いただくわ」
「うん」
とはいえ王族のノエルはその場で立ち食いがどうしてもできないようで、つつみを受け取るも困ったように立ち尽くした。
なので、アジトに帰ろう、と提案したら、意外なほど素直にうなずいたので、ソフィアはほっとすると同時に、少しの不安をいだいた。
「ご飯はちゃんと食べたほうがいいし、夜は眠らないと体が休まらないよ」
「そんなことわかっているわ」
「じゃあこんな暗くなるまでお外にいちゃダメだよ」
「……」
ぷいとそっぽ向くノエルはたいそう可愛らしかったけれど、ソフィアは笑み崩れたりしなかった。本当にわかっているのかと問いかけるようにマゼンタの瞳をじいっと見つめる。
「……明日の朝は、一緒に食べるわ」
「!」
折れたようにそう言ってくれたノエルに、ソフィアは今度こそ気色満面に笑った。
もう夜も遅い。誰もいない静かなアジトのエントランスで、せっかくなので紅茶も振る舞ったソフィアは、美味しそうに飲んで食べてくれたノエルに大満足だった。
お風呂に入ると言うので別れることになったが、本当に、今はそれだけでもじゅうぶんだと。心からそう思っていたから、ノエルに対してずっと笑顔で接していた。
「それじゃあ、おやすみなさい、ノエルちゃん。良い夢を」
「……おやすみ」
浴場へと消えていく後ろ姿をついつい見守ってしまう。
心配しすぎだとわかっている。それでも、心配になる。
心のすき間を埋めようと無理をしているのがわかってしまうから。
―――そして翌朝。まだ朝もやの晴れないような早い時間帯に強烈な魔力でたたき起こされたソフィアは慄然とした。
この、荒れ狂う水のマナは。
「うそ……」
窓からソフィアが見たのは、宙に浮くアジトと同じくらい大きな水の塊と、その中心でもがき苦しむノエルの姿だった。
魔導書入れを引っ掴んで部屋の窓から飛び出したソフィアは、同じくベランダから飛んだバネッサの糸魔法で一瞬宙に浮き、着地させてもらった。そのすぐ横に魔力の塊からこぼれた水鉄砲が降りそそぐ。
「バネッサさん!」
「おはよ〜、ソフィア。それにしても、ずいぶん騒がしい朝になったわねぇ」
少し中身の入った酒瓶の口を湿らせながら言うバネッサの言葉に振り返れば、団員がゾロゾロと集まってくるところだった。
「魔力が暴走しちまってやがるな」
「なんつー魔力量だ……! あれほっといたらやべーぞ」
先頭にいたヤミは相も変わらぬ顔で紫煙を吹かしている。
ソフィアはたまらず叫んだ。
「ヤミさん!」
「あ?」
「わたしが突っ込んで、ノエルちゃんくわえてきていいですか?!」
「ダメ。それ中のあいつもお前もただじゃ済まんだろ」
「でも……!」
大きな大きな水の塊。それは魔力の塊でもあり、中心にいるノエルの力そのものでもある。
だがそれはノエルの呼吸を奪う水でもある。コントロールできない渦の中で、ぎゅっと目をつむり口を閉ざす姿はあまりに痛々しくて、見ていられない。
助けてあげたい。その手段がない。
「つっても、他に手もねぇか。魔力を打ち消せるやつでもいるなら話は別だが……」
「魔力を……って、え、それって」
「そういやいたわ」
昨日の一幕をすっかり忘れていたかのような発言のあと、ヤミはぽむと手をたたいた。まわりにいる団員はソフィアとのやり取りで攻撃禁止らしいと察してか観戦モードになっている。
そんなただ中に、ちょうどよくヤミの手元ぴったりに降ってきたのは、魔力を打ち消せる唯一の存在。
「ちょっとあれどーにかして来い」
「アスタくん! ノエルちゃんを助けてあげて!」
「いやいやいやあんなんどーすりゃいいんすか?! あんなとこまで飛べないです……」
あわあわとしているアスタに申し訳なく思わないわけではなかったけれど、本当に、他に手がないのだ。ゆえにソフィアは心の中で謝っておいた。これからどうなるか、なんとなく察しがついたので。
我らが団長は、ボールのようにアスタを振りかぶり、その逞しい右腕に強化魔法を付与した。
「今ここで、限界を超えろ」
そして真上にぶん投げた。
人力で花火さながら打ち上げられたアスタは、歯を食いしばりながら魔導書を開き、剣を引き抜く。魔力を切るという聞いたこともないその武器を、今度はアスタが振りかぶり。
魔法騎士の何十人分にもなる膨大な水の塊を、その魔力を、中心のノエルを避けて、まっぷたつに切り裂いた。
「やった!」
「っしゃあ!」
水の檻から開放されたノエルが薄く目を開くのと同時に、浮力を失った新人ふたりが落ちてくる。
空中に開いたフィンラルの空間魔法がふたりを安全に下ろすとわかっていても、体が動きそうになったソフィアは、バネッサに肩を掴まれ止められていた。ふたりが着地しステイが解かれるやいなや、すぐさま動いたが。
顔面スライディングしたアスタだが、叫び声をあげ飛び跳ねるように立ち上がった姿を見たところ、めちゃくちゃ元気そうだった。すごい丈夫。
「よくやった小僧」
「うすっ!!」
ヤミのめずらしい褒め言葉がアスタに送られているのを横目に、倒れ伏して動かないノエルに駆け寄ったソフィアは、怪我がないかどうか聞こうとして、ぴたりと止まった。
泣いているんじゃないかと思った。もしそうだったらなら無理やり顔を上げさせたくないと。
その一瞬の迷いのあいだに、アスタがノエルに声をかけた。
「なんちゅー魔力持ってんだよ!! すっげぇーな!! 俺魔力ないから羨ましいぞチクショオオ」
太陽のようだと、なぜだかユリウスを思い出しながら、ソフィアはまっすぐなその声を聞いた。
「特訓して自在に扱えるようになれば、お前無敵だな!」
俺も負けねえようにがんばんねえと、と続いた言葉がノエルに届いたかはわからなかった。いつのまにか顔を上げていたノエルは無防備なほど呆けた表情をしていたから。
それはまるで、遠い昔のおさない自分を思い起こさせる顔で。
「ノエルちゃん、痛いところはない? 大丈夫?」
「えっ、ええ……」
たまらず問いかけたソフィアは、ちょっと火照った頬を冷まそうと手を当てた。なんだかとっても恥ずかしい気持ちになったから。
やがて、マグナを筆頭に黒の暴牛メンバーが続々とノエルに声をかける。
魔力のコントロールができないことを隠していたノエルを責める言葉はひとつもなかった。
ただ、なんだそんなことかって、ソフィアが入団試験を受けにいく前日に泣いてしまったときみたいに、当たり前に受け入れてくれる態度がそこにあった。
「なんだ魔力がコントロールできなかっただけかよ。早く言えよ出来損ない王族」
「マグナさん言いすぎです」
「……オレたちは出来損ない集団、黒の暴牛だぞ。テメーの欠点ごときどうってこたねぇんだよバカタレ」
きっとノエルも試験を受けて入っていれば話は少し違っただろう。魔力のコントロールができないことを知ってもらって入るのと、知ってもらう機会を失ったまま入るのは気持ちがだいぶ違う。
それでも、もうバレたなら。
腹をくくろう。大丈夫だから。ここにいる人は誰も出ていけなんて言わないから。
だから。
「ノエルちゃん……」
ぐっと顔を上げ立ち上がろうとするノエルにほらよと手を差し伸べたのは、アスタだった。
「よろしく、お願いします……」
「っうん! よろしくね」
怖がりながらもまっすぐ向けられたマゼンタの瞳に、ソフィアはくしゃくしゃに笑った。
不思議だ。まだ会ったばかりなのに。まだ何も知らないのに。
大好きだと、守ってあげたいと思った。
そうして思い出す。魔導書入れの中、ノエルの落し物。今なら。
「そうだ。はい、返すね」
「これ……」
「昨日、廊下で拾ったの。ノエルちゃんのものでしょう?」
きゅっと唇を引き結んだノエルは、ソフィアの手の中から勢いよくローブを掴み、肩から羽織った。
黒地に金のふち飾りがある布地の上に、すんなり伸びた銀髪がゆるやかに流れる。
やっぱり似合ってるとこぼしたソフィアに、頬をうっすら染めたノエルは、つんと顔をそむけた。