白夜編
夢小説設定
この小説の夢小説設定※原作開始時点
誕生日:7月17日(かに座)
性別:女
年齢:16歳
血液型:A型
身長 150cm
好きな物:白薔薇、果物、空を飛ぶこと
出身地:王貴界
等級:一等下級魔法騎士
魔法属性:竜
竜化魔法 ?????
→自身がドラゴンになる。変身魔法とは別物。
魔法を弾く鱗、地上よりも空の方が速く動ける羽毛の翼、鋭い爪や牙が武器。
(title by
不在証明)
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その女の子は、すんなり伸びた綺麗な銀の髪と柔らかなマゼンタの瞳を持つ、とてもスタイルのいい美人さんで。
気品にあふれた所作と振る舞い、そして何より。
「ちょっと、本当にここが魔法騎士団の本拠地のひとつなの? ボロボロじゃない」
びっくりするほど歯に衣着せない言動の子でした。
早朝から騎士団の試験会場に出かけていったヤミとフィンラルとゴードンを見送ったあと、徒歩でやってきた美少女にかけられた第一声がこれである。とてもすごいとソフィアは純粋に思った。
「えっと……住んでみたら、居心地いいよ?」
「ふん。それで、あなたは誰よ?」
「わたしはソフィア……ただのソフィア。あなたはノエル・シルヴァちゃん?」
ちゃん? 王家の名前の後にちゃん付けされるなんてはじめてだわと思いつつ、ノエルはあからさまに貴族の出身に見えるソフィアが家名を名乗らなかったことに気づかないふりをした。
「ええ、そうよ」
「やっぱり!」
銀の髪と服に縫い付けられた家紋で身の証を立てられるノエルは、ひと目で出自を見抜かれたことには動揺しなかったけれど、ガシッと両手で握手してきたソフィアには驚き、2、3歩ほど下がった。
「ようこそ、黒の暴牛へ! わたしが案内するね!」
「ちょ、ちょっと! 私はここに住むとは一言も……」
「まず最初に、毎日トイレの場所が変わるから気をつけてね」
「嘘でしょ?!」
残念ながら本当の話である。
朝の挨拶の後に団員が交わす最初の言葉は「今日のトイレどこ?」だ。ソフィアも慣れるまで時間がかかったものだ。懐かしいなあと思いながら手を引くソフィアに引っ張られる形で、ノエルは黒の暴牛アジトに足を踏み入れた。
まず最初に女子部屋の説明である。バネッサの糸魔法トラップにより男性陣はまず入れないこと、ひとり一部屋あることを説明し、おそらく今まで使っていた王城の部屋とは比べ物にならないほど狭い部屋をノエルの部屋として案内したが、意外なほどすんなり聞き入れてくれた。
次に自慢の広々したお風呂場と、噂のトイレ、チャーミーが取り仕切る食堂まで案内した後で、はい、とローブを差し出す。
「黒の暴牛のローブ。お休みの日もできるだけ羽織っててね」
黒と金で織られたそれをマジマジと見て、手に取りもせず顔をそらすノエルに、首をかしげるソフィア。
「なにか嫌だった?」
「……別に」
「……ローブは嫌?」
聞いた後で、違うと気づいた。黒の暴牛が嫌なんじゃない。銀翼の大鷲がよかったんだ。
すねた子供みたいな顔をしたあと、ノエルは無言でローブを手に取り、きちんと羽織った。無理やり連れてこられたような風情でいながらちゃんと立とうとしている。えらいなとソフィアは思った。
「黒色も似合うね、ノエルちゃん」
「……ノエルちゃん?」
「ダメ?」
それこそダメもとで聞いてみたのだが、少し逡巡したノエルはぼそりと、ダメじゃない、と言ってくれたものだから。
もう可愛くて可愛くて、ソフィアはへらりと笑み崩れる表情筋を引き締めることができなくなった。
「そっかぁ。ふふ。ノーエルちゃん」
「ちょっと、私は王族なのよ。あんまり馴れ馴れしくしないで」
「はーい」
「ぜったいわかってないでしょ!」
怒りをあらわにする姿も小動物のように愛らしい。ソフィアはもうはじめての後輩にメロメロだった。
ノエルが早く馴染めるよう、エントランスに降りてみんなに挨拶しよう! とソフィアが提案した直後のことだ。
渡り廊下のひとつを通る途中、エントランスからの爆音が歓声に変わり、ノエルは首をかしげた。目ざとく気づいたソフィアが笑って教える。
「ヤミさんが帰ってきたんじゃないかな。みんなヤミさん大好きだから」
「ふぅん。……、……ちょっと外の空気を吸ってくるわ」
「ん、わかった。また後でね」
基本的に頭がいいのか、一度で迷路のようなアジト内の道順を覚えたらしいノエルが迷わずバルコニーに出るほうへ歩いていくのを見送って、ソフィアはエントランスへと降りていった。
予想していたとおりヤミとフィンラルとゴードンが帰ってきていて、なぜかみんなで外へ出ようとしているところだった。その先頭には見知らぬ少年とマグナがいる。
「おかえりなさい、ヤミさん、フィンラルさん、ゴードンさん。入団試験はどうでしたか?」
「あっ、ただいまソフィアちゃーん!」
「おう、活きのいいのがひとり入った」
活きのいいのと評された少年とマグナは、どうやら黒の暴牛入団の洗礼をしようとしているらしい。ソフィアが竜になったせいでグダグダになったあれだ。
とても声の大きな少年がどんな魔法を使うのか、前情報のまったくないソフィアはわくわくしながら観戦することにした。
なぜなら、少年が取り出した魔導書は見たこともないほど黒くすすけ、ボロボロだったからだ。
「魔導書の授与式って半年前ですよね? この短期間であんなにボロボロになったりするんですか?」
「さあ? よっぽど無茶な使い方したんじゃない」
「たとえば?」
「鍋敷きとか」
酔っ払ったバネッサと大真面目にうなずくソフィアに、突っ込んだら負けだと思いながらもフィンラルは激しく突っ込みたい欲に襲われた。ちなみにあいだに挟まりたい欲もある。
外野があれこれ話しているあいだにマグナと少年で話がついたのか、ふたりともに距離をとり、魔導書を開いた。
ソフィアの時と同じ条件なら、どんな形でもマグナの魔法を防げば洗礼は終わりだが、マグナの炎魔法は見た目によらず火力があり、なにより早い。普通の新人には荷が重いはず。
「もしものときは、フィンラルさんの空間魔法で逃がすんですよね?」
「そうだよ! さて、今年はどうなるかな〜」
マグナが魔導書から火の玉を掴み上げると同時に、少年が魔導書から剣を抜き払った。柄から切っ先まですべてが黒で塗りつぶされたそれはボロボロの魔導書と同じくらい汚れ、ほつれたように見え、とても剣としての役割を果たせそうにない。
というか、あれ? 少年からも魔導書からも剣からも魔力を感じない。
「ヤミさん、あの子って魔力……」
「ねぇな」
「まったく?」
「まったく」
どうして? 魔力は多かれ少なかれみんな持っているものではないの?
混乱するソフィアの前で、ついにマグナが火の玉を投球する。
―――炎魔法、爆殺豪炎魔球!
当たればただでは済まない一球に対し、少年は。
振りかぶった黒剣の腹にマグナの魔法をジャストミートさせ、見事に打ち返した。
素直に跳ね返った魔法は真正面にいたマグナに直撃し、ド派手に爆発し、炎上。
「えっ、ちょ、フィンラルさん?!」
「うわ〜、マグナはノーマークだったや。まあ平気でしょ」
そんなお気楽な! と言いたいところだったが、実際マグナはぶすぶすと焦げながらも自力で出てきた。ローブも服も煤けてはいたが燃えていない。
きっと新人相手だから火加減してはいたのだろう。まさかそれが自分の身を救うことになるとは思ってなかっただろうけれど。
「……いや、というか、あの魔法? 剣? すごい。なんですかあれ」
「入団試験のときも魔法の壁をさっくり切ってたからな」
「えええ」
ホームランな勝利に感激してか、生来のお祭り好きゆえか、わあっと少年に駆け寄る暴れ牛のメンバーたちの中で、ソフィアは混ざることなくヤミとしゃべることにした。少年とはまだ挨拶すら済んでいないから。
マグナの魔法を一刀のもとに切り捨てた黒い大剣。その性能もさることながら、振り回す膂力もすごい。腰の入ったスイングを見る限り剣自身の重さがかなりあるから、普段から鍛えていなければあの動きはできないだろう。
そして何より、ボロボロの本の背表紙。
クローバー王国で授与される魔導書には例外を除いて必ず印されているクローバー、一般的には3つ葉が刻まれているはずの場所に刻まれていたのは。
「5つ葉……」
魔導書に刻まれている3つ葉のクローバーの葉には、それぞれに誠実と希望と愛が込められている。
歴史的にも希少で、授けられた者は例外なく傑物になると言われる4つ葉には幸運が。
そして5つ葉には、悪魔が宿ると言われている。
「……悪魔ぜんぜんいなさそうな子ですね」
「それな」
宿る余地がまったくないように見える。
何はともあれマグナによる黒の暴牛の洗礼は終わり、晴れて騎士団のローブを身につけられた少年は。
さっきエントランスにはいなかったソフィアに早速挨拶しにきた。
「はじめまして! オレ、アスタっていいます! よろしくお願いしま……」
元気印! って感じの子が急に黙ると不安になるなあとソフィアは思った。
よく分からないけれど顔を見合わせた途端に固まってしまった少年に首をかしげる。
「どうかしたの?」
「あっ、いえ! オレの幼なじみと目の色が同じだなって!」
「えっ、そうなの?」
ソフィアの瞳は綺麗な琥珀色だ。時を閉じ込めた樹液のような色合いは自分でも好きな色なので、純粋にそれは見てみたいなあと思った。
「今度機会があったら会いたいな、アスタくんの幼なじみさん」
「そいつも魔法騎士団に入ったんで、そのうち会えると思います! そのとき紹介しますね!」
「うん、楽しみにしてるね」
それにしても少年ことアスタくん、とても声が大きい。
挨拶を終えたソフィアは、夕飯までに新人ふたりぶんの寝具を用意して渡そうと再びアジトの中をウロウロした。
だから道中で落ちていた黒の暴牛ローブの経緯も理由も知らなかった。
「……ん?」
これを落としてしまうような人は団にいないはず。なんせ服は着なくてもローブは着るような人たちなのだ。
もしや洗濯したのが飛んでしまった? と拾い上げたあとで、ピンときた。
ひとりいる。これを落としても拾わないだろう子が。
もし、もしもあの子だったら、あの子の肩にローブがなかったら、このローブをもう一度渡してもまた落とすだろう。
わたしとあの子はちがう人間だから。その心中を推し量ることはできても、完璧に理解してあげることは出来ない。
「どうしようもないのかなあ……」
それはそれとしてホコリを払い綺麗にたたんだソフィアは、魔導書入れのかばんの隙間にローブをしまい、再び廊下を駆けてった。
ふかふかの寝具を新人ふたりの部屋に運ばなければならないからだ。
まず男子部屋のほうに足を運び、すれ違ったマグナに部屋の場所を教えてもらう。
女子部屋より狭くなんだかホコリがもうもう舞う個室で、アスタはせっせせっせと雑巾がけをしていた。
「あっ、先輩お疲れさまです!」
「お邪魔します。ホコリすごいね、お手伝いする?」
「大丈夫っす!」
「じゃあ、はい、これ」
毛布や枕、数枚のシーツをどこが綺麗か分からなかったからアスタにそのまま手渡したソフィアは、じぃぃんとうち震え喜ぶ姿に驚いた。
「新しい毛布とシーツ……!」
「そっ、そんなに感動しなくても」
「オレには感動ものなんですよ! ありがとうございます!」
「どういたしまして」
こんなに丁寧にお礼を言われるとは思っていなかったソフィアは照れ照れと頬をゆるめた。
これが先輩後輩というものの力なのか。なんだかアスタくんがとっても可愛い。
「じゃあ、わたし行くね。がんばって」
「はいっす!」
それにしても、アスタくんはやっぱり声が大きい。
その後、ノエルの部屋にも寝具を運んだが、部屋の主はいなかったためベッドの上に置き、ローブは魔導書入れから出さないまま部屋を出て、いつもの時間からは早かったけれど浴場へと向かった。
日が落ち、エントランスにてほぼ全員が豪華な夕食を食べ終えたあと。
案内のあとからずっとノエルの姿を見ていないソフィアは、ひとりぶんのサンドイッチを羊のコックさんからもらい、丁寧に包み、席を立とうとした。
目ざとく気づいたバネッサがソフィアの肩にするりと手を回す。マグナがなにか叫んだがいつものことだ。
「ソフィア〜、ちょっと私も構いなさいよ〜」
「バネッサさんは団長とお酒があるでしょう?」
「冷た〜い!」
むにむにとほっぺたに頬ずりされたソフィアは邪険にするでなく構うわけでもなく、ただそこから抜け出そうとした。いつもならこれで逃がしてくれるからだ。
だが今日は違った。頬を赤く染めたバネッサは、しっかりとした声でソフィアにひとつ問いかけた。
「ずいぶん気にしているのね?」
「……ちょっとだけ、気持ちが分かるので」
バネッサはソフィアがノエルを構いすぎないか心配してくれているのだと気づいた。優しくて気配りのできるひとだから。
だからこそ、ソフィアもまたきちんと返すことにした。
こういうことができるようになったのは、バネッサがソフィアに同じことをしてくれたからだ。
「捨てられたかもって思ったら、ああいう風にもなっちゃうなあって」
「……ん、そうね」
ノエルの誰にも心を開かない、馴染もうとしない、その行動の根底にあるのは、傷つき悲しむ気持ちだと。
それがこの場にいる誰よりわかるバネッサは、ソフィアを拘束していた手をほどき、酒瓶を片手に団長へからみに行った。
開放されたソフィアは、サンドイッチを片手に食堂から抜け出し、アジトの外、夜の森へと駆けていく。
大きく荒々しい水の魔が渦巻くその中心へ。