白夜編
夢小説設定
この小説の夢小説設定※原作開始時点
誕生日:7月17日(かに座)
性別:女
年齢:16歳
血液型:A型
身長 150cm
好きな物:白薔薇、果物、空を飛ぶこと
出身地:王貴界
等級:一等下級魔法騎士
魔法属性:竜
竜化魔法 ?????
→自身がドラゴンになる。変身魔法とは別物。
魔法を弾く鱗、地上よりも空の方が速く動ける羽毛の翼、鋭い爪や牙が武器。
(title by
不在証明)
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その日、ソフィアの機嫌は朝からすこぶる悪かった。
チャーミーの羊のコックさんがいつもの紅茶ではなく、はちみつ入りホットミルクを提供した時はほんわり笑ったが、何かを思い出したのかすぐに仏頂面に戻ってしまうほど、機嫌が悪かった。
それを見た男性陣が軒並み撤退したエントランスで、黒の暴牛の女性陣、つまりチャーミーとバネッサとグレイ―――最近は巨山のような女性の姿になっている、お気になのだろうとソフィアは思っている―――が聞き出したところによると。
きっかけは、先日の誕生日。
お休みをもらい、夫婦水入らずで過ごそうと計画した日のこと。
『17歳の誕生日おめでとう、ソフィア』
『ありがとうございます!』
いつもの誕生日通り白薔薇とフルーツのケーキが用意された卓をふたりで挟んで、笑顔だったソフィアは。
『今年のプレゼント、どうしても決まらなくてね。何か欲しいものはあるかい?』
『キスして欲しいです!』
すこぶる真剣にそう告げた。だって両思いになったというのに、結婚もしているというのに、夫は腕を組んだり抱きしめたり隣りで眠ったり以上を何もしてくれないのだ。
もっと触れたい、もっと感じたい、もっともっととねだるのははしたないと分かっていても、このままは嫌だったから、勇気をふりしぼっての言葉だった。
『……おでこに?』
『口に!』
なのに。
ちょっと頬を染めて気まずげに顔を逸らしたあの人ったら。
『……、……あっマルクスくんに呼ばれてる気がする行かなくちゃだねじゃあソフィアまたね!』
『えっ、ちょ、ユリウスさん?!』
早口でよく分からない言い訳をしたかと思えば、目にも止まらぬ速さで窓から飛び出してった。
残されたソフィアはぽかんと口を開いたまま、2年連続ホールケーキ丸ごと取り残され被害者となった。ちなみに今年はちゃんと1切れ食べて残りを使用人に分けた。
それ以来、ぜったいに夫婦の寝室には入らず、寂しかったけど屋敷に帰っても自室でのひとり寝をしていたソフィアの枕元に、昨夜、とある箱が置かれていた。
「その中身が、今持ってる通信魔道具?」
「……です」
「それ、プレゼント兼ごめんねの品では……?」
「私ならケーキぜんぶ食べたのに〜」
「次はチャーミーさん呼びますね」
「また同じこと起こると思ってんのね……いや起こりそうね、キスひとつでその騒動だと」
ため息をついたバネッサは、ソフィアが大事そうに両手で持つコーム型の通信魔道具と、左手薬指にはまる金の指輪と薔薇の指輪にくすりと笑った。
半年ほど前から毎日欠かさず身につけている指輪を、すねて不機嫌になって違うベッドで寝ても、決して外していない。可愛らしいものだと。
「でもあんたの誕生日ってだいぶ前じゃない? 今になって機嫌悪くしてる理由は?」
「……また同じことされた、って思って」
「んん?」
はちみつ入りホットミルクを一気に飲み干したソフィアは、音が立たないように素早くティーカップをソーサーに叩きつけた。
「だってあの人、婚約指輪も結婚指輪も直接渡してくれなかったのに、ごめんなさいのプレゼントまで無言で置き去りにしたんですよ?!」
「あー……」
「らー……」
「うーん……」
みっつの口から気の抜けた同意の声が上がる。
あの人、と呼ばれるソフィアの夫についてバネッサ達が知りうる情報は少ない。うんと年上で地位があって激務で王貴界に屋敷があることくらいだ。
これだけなら優良物件なのだが、いかんせん伝わってくるエピソードがヘタレの極みなのでぶっちゃけ心象は良くない。
なので今回も、たしかにそれは情けないなーと共感してしまった。
「たしかに、男らしくないわね」
「バシッと決めて欲しい時に常に外されてる感じがすごい」
グレイこと巨女はうんうんうなずいている。
ソフィアの言い分だけを聞くと、事実がどうあれ、どうしてもヘタレだねという感想になってしまう。
一気に吐き出した反動か、急速にしょんぼりしたソフィアは、傷ひとつない通信魔道具が映す自分の顔に心底がっかりした。
「……やっぱり、わたしが子供だから」
「ソフィア……」
人によってはまだ半年と言うだろう。だがソフィアから見れば、もう半年も経つのだ。
忙しいのはわかっている。大事にしてくれているのも知っている。気持ちを疑ったことはない。
なのに、もっともっとと願う自分がいる。
困らせたかったわけじゃないのに、思い浮かぶのは困り顔ばかり。
かける言葉が見つからないバネッサ達に、ああこのままではダメだと、ソフィアが気を取り直して笑おうとした時だった。
団長がソフィアを呼んでるぞ、とゴーシュが声をかけてきたのは。
手短に謝って、チャーミーと羊のコックさんにお礼を言って駆けてったソフィアを見送り、バネッサはボトルのコルクを開けた。
不機嫌な妹分の話を聞きながら飲む気分にはなれなかったのだ。そのぶん今から飲む。
「それにしても、ソフィアが入団してからもう1年になるのね」
「えっ、もうそんなに?」
「だって明日もう入団試験でしょ」
早いわ〜と言いながら水のようにワインを飲むバネッサのちょうど上らへんで、ソフィアが団長室の扉をノックし、入っていった。
くゆる紫煙の中で今日もタバコをふかす我らが団長は、おーすドラ娘と適当な挨拶で迎えてくれた。
「失礼します。ヤミさん、書類ですか?」
「お前オレに呼ばれる時は書類仕事だと思ってない?」
違いますーと言ったあと、今回は本当に違っていたのでヤミは口頭で要件を話した。
「明日、新入りが来るから案内してやれ」
「……えっ、明日って、魔法騎士団の入団試験日ですよね? 誰か入るのもう決まったんですか?」
「いや、裏口入団のやつがひとりいんだよ」
裏口入団。初耳だったソフィアは、文字通り飛び上がるほど驚いた。ずるい! とかはなく、純粋に驚いた。
「ちなみに、入るやつの名前はノエル・シルヴァ」
「えっ、シルヴァって、あのシルヴァ家?」
「オレはひとつしか知らねーな」
「ですよね……」
シルヴァ家といえば、ヴァーミリオン家と並ぶ三大王家の一角だ。
とても綺麗な銀髪と強力な水魔法、そして銀翼の大鷲の歴代団長を輩出する家としても有名。今の銀翼の大鷲団長もシルヴァ家の長男ノゼルが務めている。
名前を聞いてもうひとつ、気になったことがある。
「王族の方は試験を受けずに入団できるのは知ってますけど……銀翼の大鷲じゃなくて、うちに来るんですね」
「まあいろいろな」
シルヴァ家の者は基本的に銀翼の大鷲に入団する。王族の人間は総じて魔力が膨大なため即戦力になりやすく、同家が運営する団の底上げに繋がるからだ。
黒の暴牛に入るということは、そこから弾かれた子、ということになる。
「同性のやつが案内したほうが馴染みやすいだろうからお前にした。仲良くやれよ」
「はいっ」
良い子のお返事をしたソフィアは、女子部屋のひとつを空けることと、新人のぶんのローブを受け取り、退室した。
廊下に出て、ふと気づく。
これはもしや、はじめての後輩なのでは?
気づいたソフィアは、不機嫌なんて吹っ飛んだ。だってはじめての後輩である。楽しみにする以外の何も残らなかった。
明日への期待に胸ふくらませて、ソフィアはバネッサ達に報告するべくエントランスへ駆け下りていった。
一方、団長室で吸い終わったタバコを灰皿に押し付けたヤミはというと、黒のローブをひるがえし去っていった少女の後ろ姿に、感慨深いものを覚えていた。
あいつが入団してから1年経つ。月日が流れるのは早いなと、奇しくもバネッサと同じことを思ったヤミは。
気持ち悪いほどドンピシャなタイミングで入った通信魔法に、ちょっと嫌そうな顔をして応答した。
「なんすか」
《やあ、ヤミ。調子はどうだい?》
「旦那の嫁さんの機嫌ならめちゃくちゃ悪かったんですけど」
《……うん、それについてはその、えっと、……ごめんね?》
「言う相手はオレでいいんすか」
《うう……》
実際に機嫌が悪かったのは朝だけで、ついさっき会ったぶんには問題なさそうだったことは伏せたまま、ヤミは気まずそうにわざわざ通信魔道具を使って連絡してきた上司を突っついて遊んだ。
この半年ほど、いや1年か? ヘタすると1年半? 上司と部下のモダモダにいちいち巻き込まれてきたのだ。これくらい許して欲しい。
とはいえ42歳上司の照れ顔は別に見たくもないので、さっさと本題を切り出す。
「夜に来るやつが増えたの、旦那が手ぇ出してないって気づいたからでしょ」
《……そうか、そっちも増えたんだね》
「シリアスで流そうとしても無駄なんで。さっさとやることやれや」
《いや、でも、あの……》
「オレからは以上。じゃ」
言うべきことを言い終わるや否やサクッと通信を切ったヤミは、新しいタバコに火をつけ、細く長く紫煙を吐き出した。
窓の外からシーツを取り込むソフィアと酔っ払ったバネッサの笑い声が聞こえる。鳥の声。草の葉のすれる音。
魔法帝の結婚式から1年が経とうとしていた、ある日のこと。