おはようさん
爽やかな五月晴れの陽光も、障子越しでは柔らかな光となっていた。
六畳の和室に一つ布団で眠っているのは、坂本辰馬と桂小太郎。
かっての戦友は、時を経て宇宙商人と攘夷志士と立場を違えたが絆が途切れる事は無かった。
友から恋仲に、そして生涯の伴侶として。
互いに忙しくとも、時間を作り逢瀬を重ねていた。
昨夜も、久し振りの逢瀬だった。
地球に帰還した坂本を、桂は隠れ家へと迎え入れる。
夜の更けるまで、呑んで語って褥を共にした。
逢えなかった時間も、互いを想っていたと心と体で伝え合う。
愛しくて、恋しかったと。
夜明け近くまで、情を交わした。
障子から差し込む淡い日差しは、朝寝坊の二人の上に注がれる。
先に目覚めたのは、坂本だった。
胸元にある暖かな体温を感じながら、ゆっくりと瞼を上げる。
見慣れない天井から視線を巡らせ、愛しい人の艶やかな黒髪を目に映す。
規則正しい寝息に、我知らず口元に笑みを刻んでいた。
桂を起こさないよう、そっと身を傾けて寝顔を覗き込む。
絹糸を思わせる黒髪に縁どられた、白皙の顔。
瞼が少し腫れているのを見て、昨夜啼かせ過ぎたかと反省する。
なのに、視線がしどけなく開かれた唇に辿り着くとほんの少しだけ情動に突き動かされそうになる。
「いけんぜよ、いけんぜよ、我慢、我慢」
自分を宥めたが、手は勝手に動いて艶めく髪を撫でていた。
なめらかな手触りに、目を細める。心に、愛しさが溢れだす。
無防備に身を預けてくれるのが、嬉しくて誇らしかった。
深く眠る姿が愛おしくて、いつまでも見守っていたいと思う。
党首という重責と、指名手配犯という気の休まらない日々の中。
いや、攘夷戦争時代から桂の眠りは浅かった。
それが、今はこんな風に安堵して深く眠っている。
若干、前夜に体力を消耗させたせいもあるが……
「ん、んぅ」
撫でられているのを感じたのか、それとも少し強まってきた障子の向こうの朝陽の影響だろうか?
寝言じみた声を発して、ころんと寝返りを打った。
仰向けになり、長い髪もシーツの上に広がる。
「おん。眠り姫みたいじゃのぉ」
あどけない寝顔に、湧き上がる悪戯心。
肘を付き、腰を捻って上半身だけ桂の上に覆い被さる。
蒼い瞳を輝かせ、口元はニヤニヤ笑い。
そして、眠る桂の額に軽く口づけを落とす。
けれど、桂は目覚めない。
「寝坊しちょると、ごんごん下の方へキスするがよ」
今度は左右の瞼に、そっと唇で触れた。
桂の睫毛が、微かに震える。
坂本は首を傾げて、少しだけ様子見をした。
やはり、桂は目覚めない。
次は鼻の頭にチュッと音を立て、耳元に囁く。
「こーた、こたろ」
「ん……ぁつま」
甘えを帯びた、舌足らずな寝惚け声が返ってきた。
まだ微睡んでいるのだろうかと、お伽話の目覚めを促すキスを唇へと与える。
ピクリと、桂が反応した。
唇を放すと、ゆっくりと瞼が上がってゆく。
目と目が、朝の光の中で再会する。
互いの瞳に映る、愛しい人の優しい笑顔。
一日の始まりに、感じる幸せ。
桂の手が、坂本に向かって伸ばされる。
「たつま、おはよう」
「おはようさん、こたろ」
満面の笑顔で、桂を抱きしめた。
了
2018.4.30
六畳の和室に一つ布団で眠っているのは、坂本辰馬と桂小太郎。
かっての戦友は、時を経て宇宙商人と攘夷志士と立場を違えたが絆が途切れる事は無かった。
友から恋仲に、そして生涯の伴侶として。
互いに忙しくとも、時間を作り逢瀬を重ねていた。
昨夜も、久し振りの逢瀬だった。
地球に帰還した坂本を、桂は隠れ家へと迎え入れる。
夜の更けるまで、呑んで語って褥を共にした。
逢えなかった時間も、互いを想っていたと心と体で伝え合う。
愛しくて、恋しかったと。
夜明け近くまで、情を交わした。
障子から差し込む淡い日差しは、朝寝坊の二人の上に注がれる。
先に目覚めたのは、坂本だった。
胸元にある暖かな体温を感じながら、ゆっくりと瞼を上げる。
見慣れない天井から視線を巡らせ、愛しい人の艶やかな黒髪を目に映す。
規則正しい寝息に、我知らず口元に笑みを刻んでいた。
桂を起こさないよう、そっと身を傾けて寝顔を覗き込む。
絹糸を思わせる黒髪に縁どられた、白皙の顔。
瞼が少し腫れているのを見て、昨夜啼かせ過ぎたかと反省する。
なのに、視線がしどけなく開かれた唇に辿り着くとほんの少しだけ情動に突き動かされそうになる。
「いけんぜよ、いけんぜよ、我慢、我慢」
自分を宥めたが、手は勝手に動いて艶めく髪を撫でていた。
なめらかな手触りに、目を細める。心に、愛しさが溢れだす。
無防備に身を預けてくれるのが、嬉しくて誇らしかった。
深く眠る姿が愛おしくて、いつまでも見守っていたいと思う。
党首という重責と、指名手配犯という気の休まらない日々の中。
いや、攘夷戦争時代から桂の眠りは浅かった。
それが、今はこんな風に安堵して深く眠っている。
若干、前夜に体力を消耗させたせいもあるが……
「ん、んぅ」
撫でられているのを感じたのか、それとも少し強まってきた障子の向こうの朝陽の影響だろうか?
寝言じみた声を発して、ころんと寝返りを打った。
仰向けになり、長い髪もシーツの上に広がる。
「おん。眠り姫みたいじゃのぉ」
あどけない寝顔に、湧き上がる悪戯心。
肘を付き、腰を捻って上半身だけ桂の上に覆い被さる。
蒼い瞳を輝かせ、口元はニヤニヤ笑い。
そして、眠る桂の額に軽く口づけを落とす。
けれど、桂は目覚めない。
「寝坊しちょると、ごんごん下の方へキスするがよ」
今度は左右の瞼に、そっと唇で触れた。
桂の睫毛が、微かに震える。
坂本は首を傾げて、少しだけ様子見をした。
やはり、桂は目覚めない。
次は鼻の頭にチュッと音を立て、耳元に囁く。
「こーた、こたろ」
「ん……ぁつま」
甘えを帯びた、舌足らずな寝惚け声が返ってきた。
まだ微睡んでいるのだろうかと、お伽話の目覚めを促すキスを唇へと与える。
ピクリと、桂が反応した。
唇を放すと、ゆっくりと瞼が上がってゆく。
目と目が、朝の光の中で再会する。
互いの瞳に映る、愛しい人の優しい笑顔。
一日の始まりに、感じる幸せ。
桂の手が、坂本に向かって伸ばされる。
「たつま、おはよう」
「おはようさん、こたろ」
満面の笑顔で、桂を抱きしめた。
了
2018.4.30
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