ななだる旅情
桂さん、お誕生日おめでとうございます!
今年も、お祝いできて幸せです。
【ななだる旅情】桂誕2019
「本当に、お前は来ないのか?」
攘夷党党首・桂小太郎は、玄関口で廊下に立つ相棒のエリザベスに最後の確認をした。
【はい。お誕生日当日は、一緒にお祝い出来ますから。ご旅行、楽しんで来て下さい】
「うむっ…… しかし、」
表情を曇らせる桂に対して、エリザベスは固辞し続ける。
彼としては、桂と桂の恋人・坂本辰馬と二人水入らずで旅行を楽しんで来て欲しかった。
決して、遠慮している訳ではない。いや、多少の気遣いはあるのだがバカップルのイチャイチャぶりに当てられるより留守番してのんびり過ごす方が気楽だと思ってのことだった。
さすがにソレを言うのは憚られるが……
「なんじゃ、まだ気が変わらんがか?」
二人が無言になった気不味い空気を破る大声がして、表玄関から旅行鞄を下げた坂本辰馬が顔を覗かせた。
「辰馬、すまぬ。やはり、俺はエリザベスを置いて行くのは忍びぬ。この旅行は、キャンセル出来ないだろうか?」
【桂さん!駄目です!】
エリザベスは、慌ててプラカードを振り回す。
今回の伊豆旅行は、桂がとても楽しみにしていたものだった。
『SNSのフォロワー殿が、綺麗な滝の写真をupしていてな。なんと、近くに温泉もあるそうだ。一泊旅行にちょうど良さそうだな』と、嬉しそうに話していたのを覚えている。なのに、それを諦めさせる様な事は出来ない。
「すまんな、俺は皆で行きたいのだ」
思い出は三人で作りたいと、坂本に向かい合ってキャンセルの話を進める。
「うん。わしゃぁ構わんけんど、予約した宿は当日キャンセルやき多分料金は丸々返って来んよ。ほきえいか?」
坂本の返事は、倹約家の桂の痛い所を的確に突く。
「うっ、それは……」
「ちなみに、わしゃエリザベスも一緒に行くと思っちょったがから三人分の宿泊代を払い込きるよ」
しれっと、部屋食に舟盛りと酒も追加した事を付け足して白状した。
「なっ、なっ、なんだとォォォ!?」
「あと広々座れるから、ワゴン車もレンタルしちゅう。はやじき、届けに来てくれるぜよ」
「貴様っ!また、要らぬ贅沢を!!」
桂の怒鳴り声をどこ吹く風と受け流し、エリザベスの方へ声を掛ける。
「どうじゃ、エリー。観光はすっ飛ばして、温泉と夕飯だけでも付き合っちゃくれないか?」
絶妙な説得の言葉に、桂も言葉を繋ぐ。
「そうだぞ、エリザベス!美味い料理と酒、上げ膳据え膳に温泉三昧出来るぞ!」
出発ギリギリまで熱心に誘われて、上げ膳据え膳と温泉という魅惑の状態を示された上に、金銭面まで絡んで来ては断る方が申し訳無く思えてきた。
「三人の思い出があれば、わしが宇宙に行っちゅう間も楽しく話せるじゃろ」
鞄を下げていない片手で桂の肩を抱き寄せ、サングラス越しにエリザベスの大きな瞳を覗き込む。
それは言外に、桂に淋しい思いをさせたくないのだと目で語りかけているように感じられた。
【分かりました。お供します】
降参の意味も込めて、プラカードを高く掲げる。
渋々だったが、桂と坂本の嬉しそうな笑顔を目の当たりにすると、この選択で良かったのだと気持ちが切り替わった。
***
坂本の運転するワゴン車は、軽快に走り出す。
江戸を離れて東名高速沼津インターチェンジから新東名高速長泉沼津インターチェンジへ、その後天城峠を越えて天城山麓にある河津七滝温泉へと伊豆縦貫道経由を取る予定だ。
車を走らせる行程は、ほぼ三時間程度。その間、後部座席に桂とエリザベスが向かい合わせに座り車内の広さを存分に味わうという名目で何故か宇野を始めていた。
運転に備えばっちり酔い止めを服用していたお陰で、坂本も快適にドライブを楽しめる。
時折、バックミラーをちら見して桂とエリザベスの楽しそうな様子を確認し笑みを深くした。
そして、行きは車内で楽しんだのだから帰りは伊豆・熱海と海岸線が見られるルートを辿って車窓の景色も楽しんで貰おうと心のメモに残す。
高速を降り、伊豆縦貫道から国道136号線・414号線と修善寺から天城へと車は進んだ。
「小太郎、エリー。昼がけにちっくと、浄蓮の滝を見て行かぇいか?」
昼食前のひと運動に、桂とエリザベスは喜んで同意する。
坂本は見えて来た観光案内版の表示を確認し、道の駅・天城越えの駐車場に車を停車させた。
道の駅とその周辺には食事処が並び土産物屋だけでなく情報館や資料館など施設も充実している。
「おおっ! しいたけコロッケだと?」
【桂さん、わさびソフトがありますよ!】
坂本がドライブ用のサングラスを胸ポケットにしまっている間に、二人はワゴン車から飛び出し辺りを見廻して騒いでいた。
青い空と、並ぶ緑の山々を背に、二人のはしゃぐ声を聞いていると坂本もテンションが上がる。
「どれ、コロッケとソフトクリームか? 好きながこうちゃるき、食べたら滝見物するぜよ」
いつもなら奢りに渋い顔をする桂も、テンションが上がっているのだろう。
エリザベスと競う様に走って、店舗を目指す。
「辰馬! 見ろ! しいたけ蕎麦というのがあるぞっ!」
数歩遅れて来た坂本の腕を引いて、店のメニューを見るよう促した。
好物があることに瞳をキラキラと輝かせている桂を、坂本は優しい眼差しで見詰める。
「昼飯は、この店で決まりじゃの」
【良かったですね、桂さん。私も楽しみです!】
「……良いのか?」
自分の好物だけで決められたのに遠慮を見せるが、頷く二人の笑顔に桂も破願して礼を言った。
三人は最初に目に入ったしいたけコロッケを買い求め、齧りながら駐車場を横切る。
案内板に従って、駐車場横の狭い石造りの階段を下りて行った。
階段はおおよそ二百段ほどだろうか? 下りてゆくに従って、滝が見えて来る。
浄蓮の滝は、高さ二十五メートル 幅七メートルの見事な威容を誇っていた。
景勝と呼ぶにふさわしい幽玄で、清浄な雰囲気を持つ。涼やかな風と瀑声が、肌や鼓膜に心地良く響く。
濃い緑と濡れた岩肌、白く流れる瀑布、滝壺の暗碧。それらが陽の光で陰影を帯び、目を楽しませた。
視線を転ずれば、若々しい緑が一面に広がるわさび畑もある。
たっぷりマイナスイオンを浴びた後、石段を上って道の駅まで戻った。
最初に決めていた通りの店に入って、それぞれ食べたいものを注文する。
桂は、気になっていた天ぷら付のしいたけ蕎麦定食を頼んだ。
お品書きを見て、坂本は即座に伊豆牛カレーを頼む。
エリザベスは色々悩んだ末に、猪丼定食にした。
どの料理にも、伊豆の新鮮な野菜が使われており三人は舌鼓を打つ。
食後に、わさびソフトクリームを堪能して食事を終えた。
再びワゴン車に乗り込み、扉を閉める。坂本がサングラスを取り出してハンドルを握った。
「さぁ、出発するぜよ。忘れもんは無いな?」
確認の声に「あっ!」と、桂が声を上げる。
「どがあした?」
【何か、忘れ物ですか?】
「滝も蕎麦も、ツイッターにUPするのを忘れていた!」
うぐぐっと、悔しげな声を上げる桂を見て坂本とエリザベスは視線を交わす。
どちらも互いの瞳に(可愛い)との思いを汲み取っていた。
【滝はココだけじゃないですし、旅館で舟盛りも待ってますよ!】
「ほうじゃ! ついでに天城山隧道も寄ってくぜよ」
桂を元気づける様に提案する。もともと、浄蓮の滝も予定にはなかったのだ。
予定にしていないものが、増えるぐらいどうってことはない。
何より深夜に思い出して、突然行こうと言い出されるよりも今行く方がいいと密かに独りごちた。
旧天城トンネルに入る為414号線を脇に逸れ、未舗装の砂利道を走らせているとタイヤの下でバリバリと音がする。
「うむっ、こんな音を聞いているとンまい棒が食べたくなるな、エリザベス」
【はい、桂さん。コンポタ味です】
「おお! さすが、エリザベス。気が利くではないか」
後部座席でキャッキャしている声を意識から追い出して、坂本は運転に集中した。
舗装が無いだけでなく、道幅も狭く対向車に注意しなければならない。
大事な家族二人を乗せているのだ、事故る様な事にはなりたくないと慎重になった。
「おん! 見えたぜよ」
坂本の言葉に、後部座席の二人が前に顔を出す。
「あれが……」
桂の漏らした言葉を合図に車の速度を落とした。
「ほれ、写すなら今の内ぜよ!」
桂はスマホを取り出し、画面に収まるよう調節する。
左右から覆い被さる様な木々の下に、石造りのトンネルが鎮座していた。
トンネルの入り口を支えるように伸びた石壁は苔生した緑で、奥に続く暗闇を更に暗く見せる。
「撮れたかや?」
「ああ、撮れた。ありがとう、辰馬」
短いやり取りの後、坂本はアクセルを踏み込み速度を上げた。
暗いトンネル内に入ると、後ろからエリザベスにも礼を言う桂の声が聞こえてきて一瞬首を傾げる。
だが、すぐに何の礼か思い付いた。きっと、桂のツイートにイイネをしたのだろう。
自分も宿に着いたらイイネを押そうと、これも心のメモに付け加えた。
今年も、お祝いできて幸せです。
【ななだる旅情】桂誕2019
「本当に、お前は来ないのか?」
攘夷党党首・桂小太郎は、玄関口で廊下に立つ相棒のエリザベスに最後の確認をした。
【はい。お誕生日当日は、一緒にお祝い出来ますから。ご旅行、楽しんで来て下さい】
「うむっ…… しかし、」
表情を曇らせる桂に対して、エリザベスは固辞し続ける。
彼としては、桂と桂の恋人・坂本辰馬と二人水入らずで旅行を楽しんで来て欲しかった。
決して、遠慮している訳ではない。いや、多少の気遣いはあるのだがバカップルのイチャイチャぶりに当てられるより留守番してのんびり過ごす方が気楽だと思ってのことだった。
さすがにソレを言うのは憚られるが……
「なんじゃ、まだ気が変わらんがか?」
二人が無言になった気不味い空気を破る大声がして、表玄関から旅行鞄を下げた坂本辰馬が顔を覗かせた。
「辰馬、すまぬ。やはり、俺はエリザベスを置いて行くのは忍びぬ。この旅行は、キャンセル出来ないだろうか?」
【桂さん!駄目です!】
エリザベスは、慌ててプラカードを振り回す。
今回の伊豆旅行は、桂がとても楽しみにしていたものだった。
『SNSのフォロワー殿が、綺麗な滝の写真をupしていてな。なんと、近くに温泉もあるそうだ。一泊旅行にちょうど良さそうだな』と、嬉しそうに話していたのを覚えている。なのに、それを諦めさせる様な事は出来ない。
「すまんな、俺は皆で行きたいのだ」
思い出は三人で作りたいと、坂本に向かい合ってキャンセルの話を進める。
「うん。わしゃぁ構わんけんど、予約した宿は当日キャンセルやき多分料金は丸々返って来んよ。ほきえいか?」
坂本の返事は、倹約家の桂の痛い所を的確に突く。
「うっ、それは……」
「ちなみに、わしゃエリザベスも一緒に行くと思っちょったがから三人分の宿泊代を払い込きるよ」
しれっと、部屋食に舟盛りと酒も追加した事を付け足して白状した。
「なっ、なっ、なんだとォォォ!?」
「あと広々座れるから、ワゴン車もレンタルしちゅう。はやじき、届けに来てくれるぜよ」
「貴様っ!また、要らぬ贅沢を!!」
桂の怒鳴り声をどこ吹く風と受け流し、エリザベスの方へ声を掛ける。
「どうじゃ、エリー。観光はすっ飛ばして、温泉と夕飯だけでも付き合っちゃくれないか?」
絶妙な説得の言葉に、桂も言葉を繋ぐ。
「そうだぞ、エリザベス!美味い料理と酒、上げ膳据え膳に温泉三昧出来るぞ!」
出発ギリギリまで熱心に誘われて、上げ膳据え膳と温泉という魅惑の状態を示された上に、金銭面まで絡んで来ては断る方が申し訳無く思えてきた。
「三人の思い出があれば、わしが宇宙に行っちゅう間も楽しく話せるじゃろ」
鞄を下げていない片手で桂の肩を抱き寄せ、サングラス越しにエリザベスの大きな瞳を覗き込む。
それは言外に、桂に淋しい思いをさせたくないのだと目で語りかけているように感じられた。
【分かりました。お供します】
降参の意味も込めて、プラカードを高く掲げる。
渋々だったが、桂と坂本の嬉しそうな笑顔を目の当たりにすると、この選択で良かったのだと気持ちが切り替わった。
***
坂本の運転するワゴン車は、軽快に走り出す。
江戸を離れて東名高速沼津インターチェンジから新東名高速長泉沼津インターチェンジへ、その後天城峠を越えて天城山麓にある河津七滝温泉へと伊豆縦貫道経由を取る予定だ。
車を走らせる行程は、ほぼ三時間程度。その間、後部座席に桂とエリザベスが向かい合わせに座り車内の広さを存分に味わうという名目で何故か宇野を始めていた。
運転に備えばっちり酔い止めを服用していたお陰で、坂本も快適にドライブを楽しめる。
時折、バックミラーをちら見して桂とエリザベスの楽しそうな様子を確認し笑みを深くした。
そして、行きは車内で楽しんだのだから帰りは伊豆・熱海と海岸線が見られるルートを辿って車窓の景色も楽しんで貰おうと心のメモに残す。
高速を降り、伊豆縦貫道から国道136号線・414号線と修善寺から天城へと車は進んだ。
「小太郎、エリー。昼がけにちっくと、浄蓮の滝を見て行かぇいか?」
昼食前のひと運動に、桂とエリザベスは喜んで同意する。
坂本は見えて来た観光案内版の表示を確認し、道の駅・天城越えの駐車場に車を停車させた。
道の駅とその周辺には食事処が並び土産物屋だけでなく情報館や資料館など施設も充実している。
「おおっ! しいたけコロッケだと?」
【桂さん、わさびソフトがありますよ!】
坂本がドライブ用のサングラスを胸ポケットにしまっている間に、二人はワゴン車から飛び出し辺りを見廻して騒いでいた。
青い空と、並ぶ緑の山々を背に、二人のはしゃぐ声を聞いていると坂本もテンションが上がる。
「どれ、コロッケとソフトクリームか? 好きながこうちゃるき、食べたら滝見物するぜよ」
いつもなら奢りに渋い顔をする桂も、テンションが上がっているのだろう。
エリザベスと競う様に走って、店舗を目指す。
「辰馬! 見ろ! しいたけ蕎麦というのがあるぞっ!」
数歩遅れて来た坂本の腕を引いて、店のメニューを見るよう促した。
好物があることに瞳をキラキラと輝かせている桂を、坂本は優しい眼差しで見詰める。
「昼飯は、この店で決まりじゃの」
【良かったですね、桂さん。私も楽しみです!】
「……良いのか?」
自分の好物だけで決められたのに遠慮を見せるが、頷く二人の笑顔に桂も破願して礼を言った。
三人は最初に目に入ったしいたけコロッケを買い求め、齧りながら駐車場を横切る。
案内板に従って、駐車場横の狭い石造りの階段を下りて行った。
階段はおおよそ二百段ほどだろうか? 下りてゆくに従って、滝が見えて来る。
浄蓮の滝は、高さ二十五メートル 幅七メートルの見事な威容を誇っていた。
景勝と呼ぶにふさわしい幽玄で、清浄な雰囲気を持つ。涼やかな風と瀑声が、肌や鼓膜に心地良く響く。
濃い緑と濡れた岩肌、白く流れる瀑布、滝壺の暗碧。それらが陽の光で陰影を帯び、目を楽しませた。
視線を転ずれば、若々しい緑が一面に広がるわさび畑もある。
たっぷりマイナスイオンを浴びた後、石段を上って道の駅まで戻った。
最初に決めていた通りの店に入って、それぞれ食べたいものを注文する。
桂は、気になっていた天ぷら付のしいたけ蕎麦定食を頼んだ。
お品書きを見て、坂本は即座に伊豆牛カレーを頼む。
エリザベスは色々悩んだ末に、猪丼定食にした。
どの料理にも、伊豆の新鮮な野菜が使われており三人は舌鼓を打つ。
食後に、わさびソフトクリームを堪能して食事を終えた。
再びワゴン車に乗り込み、扉を閉める。坂本がサングラスを取り出してハンドルを握った。
「さぁ、出発するぜよ。忘れもんは無いな?」
確認の声に「あっ!」と、桂が声を上げる。
「どがあした?」
【何か、忘れ物ですか?】
「滝も蕎麦も、ツイッターにUPするのを忘れていた!」
うぐぐっと、悔しげな声を上げる桂を見て坂本とエリザベスは視線を交わす。
どちらも互いの瞳に(可愛い)との思いを汲み取っていた。
【滝はココだけじゃないですし、旅館で舟盛りも待ってますよ!】
「ほうじゃ! ついでに天城山隧道も寄ってくぜよ」
桂を元気づける様に提案する。もともと、浄蓮の滝も予定にはなかったのだ。
予定にしていないものが、増えるぐらいどうってことはない。
何より深夜に思い出して、突然行こうと言い出されるよりも今行く方がいいと密かに独りごちた。
旧天城トンネルに入る為414号線を脇に逸れ、未舗装の砂利道を走らせているとタイヤの下でバリバリと音がする。
「うむっ、こんな音を聞いているとンまい棒が食べたくなるな、エリザベス」
【はい、桂さん。コンポタ味です】
「おお! さすが、エリザベス。気が利くではないか」
後部座席でキャッキャしている声を意識から追い出して、坂本は運転に集中した。
舗装が無いだけでなく、道幅も狭く対向車に注意しなければならない。
大事な家族二人を乗せているのだ、事故る様な事にはなりたくないと慎重になった。
「おん! 見えたぜよ」
坂本の言葉に、後部座席の二人が前に顔を出す。
「あれが……」
桂の漏らした言葉を合図に車の速度を落とした。
「ほれ、写すなら今の内ぜよ!」
桂はスマホを取り出し、画面に収まるよう調節する。
左右から覆い被さる様な木々の下に、石造りのトンネルが鎮座していた。
トンネルの入り口を支えるように伸びた石壁は苔生した緑で、奥に続く暗闇を更に暗く見せる。
「撮れたかや?」
「ああ、撮れた。ありがとう、辰馬」
短いやり取りの後、坂本はアクセルを踏み込み速度を上げた。
暗いトンネル内に入ると、後ろからエリザベスにも礼を言う桂の声が聞こえてきて一瞬首を傾げる。
だが、すぐに何の礼か思い付いた。きっと、桂のツイートにイイネをしたのだろう。
自分も宿に着いたらイイネを押そうと、これも心のメモに付け加えた。
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