ちょっと、ここに座りなさい
「辰馬、おい、辰馬っ!」
夕餉の前から少し元気の無かった坂本さんに、桂さんが呼びかける声がする。
私は洗い物の後片付けがあったので、様子を見に行く事は控えた。
下手に介入した所で、当てられるだけだと学習しているので食器を片付けるのに専念する。
「辰馬、聞こえないのか!」
返事をしない坂本さんに、焦れているのか桂さんの声が大きくなった。
これは、珍しく喧嘩になるのだろうか?
私は音を立てないように気を付けて、台所の暖簾を押し上げて二人の様子を覗いた。
食事中も元気の無かった坂本さんは桂さんに背中を向けたまま、顔をテレビに向けている。
手には新聞紙があるが、紙面が逆さまで心ここに在らずな様子だった。
仕事で何かあったのかも知れない。
けれど坂本さんは滅多に弱音を吐かない上に、桂さんの前では格好つけたがる。
でも、桂さんだって坂本さんのそんな所をお見通しだ。
分かっていても、弱音を吐いてくれない事に苛立つ事はあるだろう。
このまま坂本さんが桂さんに振り向かなければ、今夜は喧嘩になるかも?
ここは、愛くるしいペット、二人の絆としての私の出番ではないでしょうか?!
急いでエプロンを取り、プラカードの用意をした。
「なんじゃ?わしゃ今、新聞を読んじょるきに」
「つべこべ言わず、ちょっとここに座りなさい!」
私がもたもたしてる間に、桂さんのお説教体勢が始まりそうな感じに!
ここは、プラカードよりも物質的に入る方がいい。
お茶を入れて持って行こう。
そうだ!ンまい棒をお茶請けにすれば、桂さんの気持ちも和むのではないかな?
桂さんに笑顔が戻れば、坂本さんも元気になるでしょう。
だって、坂本さんは桂さんの笑顔が大好きですから!
私が慌ただしく茶葉を急須に突っ込んでいる間に、会話が途切れたのか居間が静かになった。
一体どうしたのだろう?
坂本さんが、居間から出て行ってしまったのか、それとも無言の睨み合いになったのか。
お二人に限って、掴み合いの喧嘩にはならないはずだし、それならこんな静かなはずは無い。
用意したお茶セットを置いて、再び暖簾を押し上げ居間を覗き見る。
いつものように、ここに座りなさいと言われた坂本さんが桂さんの前で正座している姿を想像したが、全く違っていた。
「よいか?大人しくしているのだぞ」
「おん、じっとしちゅうよ」
桂さんの優しい話し方と、坂本さんの甘え声。
桂さんは坂本さんの頭を膝に乗せて背を丸め、耳掻きをしてあげていた。
坂本さんの表情は見えないけれど、投げ出された足を見るだけで纏っていた雰囲気が柔らかくなったのが分かる。
桂さんは何かを聞き出したりせず、ただ世話して甘やかすことで坂本さんを癒していた。
坂本さんも、何も語らず桂さんの好意に安らいでいる。
その姿は、とても満ち足りて幸せそうだ。
私は暖簾から頭を抜いて流しの横のお茶セット前に戻り、一つの湯呑みにだけお茶を注ぐ。
もう暫く二人きりにしてあげましょうと、ゆっくりお茶を啜った。
【あ!今日は、いい夫婦の日でしたね】
2019.11.22
夕餉の前から少し元気の無かった坂本さんに、桂さんが呼びかける声がする。
私は洗い物の後片付けがあったので、様子を見に行く事は控えた。
下手に介入した所で、当てられるだけだと学習しているので食器を片付けるのに専念する。
「辰馬、聞こえないのか!」
返事をしない坂本さんに、焦れているのか桂さんの声が大きくなった。
これは、珍しく喧嘩になるのだろうか?
私は音を立てないように気を付けて、台所の暖簾を押し上げて二人の様子を覗いた。
食事中も元気の無かった坂本さんは桂さんに背中を向けたまま、顔をテレビに向けている。
手には新聞紙があるが、紙面が逆さまで心ここに在らずな様子だった。
仕事で何かあったのかも知れない。
けれど坂本さんは滅多に弱音を吐かない上に、桂さんの前では格好つけたがる。
でも、桂さんだって坂本さんのそんな所をお見通しだ。
分かっていても、弱音を吐いてくれない事に苛立つ事はあるだろう。
このまま坂本さんが桂さんに振り向かなければ、今夜は喧嘩になるかも?
ここは、愛くるしいペット、二人の絆としての私の出番ではないでしょうか?!
急いでエプロンを取り、プラカードの用意をした。
「なんじゃ?わしゃ今、新聞を読んじょるきに」
「つべこべ言わず、ちょっとここに座りなさい!」
私がもたもたしてる間に、桂さんのお説教体勢が始まりそうな感じに!
ここは、プラカードよりも物質的に入る方がいい。
お茶を入れて持って行こう。
そうだ!ンまい棒をお茶請けにすれば、桂さんの気持ちも和むのではないかな?
桂さんに笑顔が戻れば、坂本さんも元気になるでしょう。
だって、坂本さんは桂さんの笑顔が大好きですから!
私が慌ただしく茶葉を急須に突っ込んでいる間に、会話が途切れたのか居間が静かになった。
一体どうしたのだろう?
坂本さんが、居間から出て行ってしまったのか、それとも無言の睨み合いになったのか。
お二人に限って、掴み合いの喧嘩にはならないはずだし、それならこんな静かなはずは無い。
用意したお茶セットを置いて、再び暖簾を押し上げ居間を覗き見る。
いつものように、ここに座りなさいと言われた坂本さんが桂さんの前で正座している姿を想像したが、全く違っていた。
「よいか?大人しくしているのだぞ」
「おん、じっとしちゅうよ」
桂さんの優しい話し方と、坂本さんの甘え声。
桂さんは坂本さんの頭を膝に乗せて背を丸め、耳掻きをしてあげていた。
坂本さんの表情は見えないけれど、投げ出された足を見るだけで纏っていた雰囲気が柔らかくなったのが分かる。
桂さんは何かを聞き出したりせず、ただ世話して甘やかすことで坂本さんを癒していた。
坂本さんも、何も語らず桂さんの好意に安らいでいる。
その姿は、とても満ち足りて幸せそうだ。
私は暖簾から頭を抜いて流しの横のお茶セット前に戻り、一つの湯呑みにだけお茶を注ぐ。
もう暫く二人きりにしてあげましょうと、ゆっくりお茶を啜った。
【あ!今日は、いい夫婦の日でしたね】
2019.11.22
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