落し物を拾ったら、本当は2割まで請求できるって知ってた?
朧が居間に戻ると畳の上に風呂敷が投げ捨てられていて、座敷机の上に置かれた重箱はちゃっかり蓋を開けられていた。
銀時は机の前に陣取り、信女を隣に座らせてあやしている。
晋助は銘々皿を四枚並べ、小太郎は湯呑にお茶を注いでいる所だった。
もうすっかり、おやつの時間体勢に入っている。
栄屋の大福を前にしては、先生の帰宅を待てないのだろう。
大福は先生の好物でもあるから、本当なら待って一緒に食べたい。
けれど弟弟子たちの嬉しそうな顔を見てしまった後では、お預けするのが可哀想な気がした。
人助けをした礼の品なのだから、先生とて咎めはしないだろう。
もしかしたら拗ねられるかも知れないとの考えが頭に浮かんだが、首を振って取り消す。
先生が時折見せる悪戯っ子の様な振る舞いは、ふざけているだけで本当に子どもっぽい訳では無いと。
敬愛する師が、親しみを表してなされることなのだと思い直した。
自分の中で、先生に詫びてから弟弟子たちに声を掛ける。
「みんな、ちゃんと手は洗ったな?」
はーいと、元気良く揃った声が返って来た。
銀時が特にはしゃいでいるが、晋助と小太郎もやはり何だかんだと言ってもおやつは嬉しいのだろう。
小さな信女まで、つられるように両手を上げてきゃっきゃと笑った。
銀時が大福の個数を数える横で、朧と小太郎が銘々皿に振り分けてゆく。
「十五個だから、一人四つだよなぁ? 一個足りないじゃん!」
「テメェ、先生の分を忘れてンだろ!」
「うむっ。信女はまだ小さいから、先生と朧兄さん、俺達の五人分で三つが正解だな」
座敷机の上に、それぞれの大福とお茶が並んだ所でそんな会話が交わされた。
「だってさぁ、松陽の帰り遅くなるかも知れないじゃん。時間が経ったら、大福硬くなって美味しくなくなるって。やっぱ、美味いもんは、早く食べちゃったほうが良くね!」
尤もらしい顔をしながら、重箱の中に残されている大福に手を伸ばそうとする。
その手を晋助がピシャリと叩き、小太郎が重箱に蓋をした。
「これは、先生の分だッ!」
「意地汚いぞ、銀時!」
二人に責められて、銀時は頬を膨らませる。
「俺は今、成長期だーかーらーっ! 糖分が必要なーのー。なぁ、朧!」
今度は朧の皿の方へと手を伸ばした。
そんな銀時の様子を苦笑いしながら見守るだけの朧の代わりに、晋助と小太郎が大福を守る為に動く。
「成長期は、俺達も一緒だ!腐れ天パッ!」
「朧兄さん、笑ってる場合じゃありません!」
銀時を押さえ込む晋助と、朧の皿を高く掲げる小太郎。
朧は立ち上がり二人の頭を撫でてから、小太郎が持ち上げている皿を受け取った。
「俺はもう少し、本を読んでからいただこう」
読みかけだった本の隣に自分の皿を置くと、三人に笑みかける。
そして、重箱の蓋を開けた。
「これは、お前達への礼だからな」
重箱から一つずつ、三人の皿へ大福を付け足す。
「先生には内緒だぞ」
驚きに目を丸くする弟弟子たちに、それだけ言って重箱に蓋を被せる。
「じゃあ、これを隠して来るから」
重箱の上に除けていた自分の皿を乗せて持ち上げ、本を小脇に挟んで台所へ向かう。
「兄弟子!」
「朧兄さん?!」
「やったぁああ!」
背中越しに聞こえる声には気付かない振りをした。
台所に入ると、皿から重箱へ大福を戻す。
「見つからないようにしないとな……」
小声でそう呟いて、弟弟子たちの背では届かない釣り棚の中に、重箱を隠した。
早々に銘々皿を洗って、水屋箪笥にしまう。
そのまま、彼らが食べ終わるだろう時間まで部屋に籠った。
***
「先生、よろしいですか?」
朧は松陽の私室の襖前で、中に向かって声を掛けた。
手には丸盆を持ち、その上には急須と湯呑そして銘々皿には大福が三つ盛られている。
夕餉前に帰宅した松陽と皆で食卓を囲み、慌ただしいお風呂も済ませ弟弟子たちと信女を寝かしつけた後、やっと台所の棚に隠した大福を取り出せたのだった。
「はい、どうぞ」
返事と同時に、襖が開かれる。
いつもならは朧が開けるのだが、今夜はまるで朧の手が塞がっているのを知っているようだった。
「……失礼いたします」
朧が部屋の中に入ると、松陽は後ろ手で襖を閉める。
膝を着いて書き物机の上に丸盆を置く朧を見てから、松陽はその隣に腰を下ろした。
「先生?」
いつにも増して近い距離感に狼狽え、声が裏返る。
それを気に留める事無く、松陽は微笑んで朧の言葉を待った。
「あの……夕餉でお話した栄屋さんの事ですが」
「はい。銀時たちの人助けですね。今回は偶々運が良かったですが危険な場所で遊ぶのは困りものですから、明日は少しお説教しようと思います」
「申し訳ありません、私の監督不行き届きで……宜しくお願い致します」
少しでも先生の助けになりたいのに、兄弟子の自分がしっかりしていなかったばかりにと朧は俯いて唇を噛む。
「?」
不意に髪にふわりとした圧力を感じて、落とした視線を上げる。
「すみません。キミを落ち込ませるつもりはなかったのですよ。朧は私の一番弟子として、大変良く弟弟子たちの面倒を見てくれているのは知っていますからね。これは、ちょっとした意地悪です。ごめんなさい」
朧のふわふわした柔らかい髪を撫でながら、もう片手で畳についている震える手を掬い上げ安心させるように握った。
暖かい手の温もりに朧は頬を染め、唇は微かにカーブを描く。
「意地悪など、とんでもありません!至らない私がいけないのです」
「もう、キミは本当に……」
松陽が滲むような笑みを見せ朧の手を引き寄せた。
髪を撫でていた手も肩に回され、ほんの一瞬だが抱擁されたように感じる。
「可愛くてたまりません」
「え?」
耳元で何か囁かれたが、心臓の鼓動が大き過ぎて聞き取れなかった。
「何でもありませんよ。それより、何を持って来てくれたのですか?」
松陽の手が離れ、朧の持ってきた丸盆の方へ視線が移される。
「あ、はい。栄屋の大福を! お礼に頂きましたので」
「栄屋の? キミたちの分は?」
大喜びで飛びつくと思った朧の予想は外れ、逆に不思議そうに首を傾げられた。
「私たちは、おやつの時間に頂きました。先生には、お夜食にと思いまして」
松陽から不自然にならないよう視線を外し、急須から湯呑にお茶を注ぐ。
自分の分は弟弟子に分けてしまい食べていないのだが、食べたと嘘をつく。
そんな些細な嘘でも、先生に対する罪悪感から視線を合わせる事が出来ない。
「朧、こちらを見なさい」
嘘を見透かされて様な気がして、朧は慎重に「はい」と答えて松陽の方を見る。
朧が視線を合わせたのを確認すると、着物の袂から三つの包みを取り出した。
懐紙に包まれたそれを、一つずつ開いて書き物机の上に並べてゆく。
そこに並べられたのは、銘々皿に乗っている大福と同じもの。
いや、二つは同じだが、一つだけ半分になっている。
「……これは?」
「あの子たちが、それぞれ別々に持って来ました。銀時だけは、食べかけですが」
クスクスと笑い声を挟んで、言葉を続けた。
「『先生、ごめんなさい。兄弟子は、悪くないです。内緒にしてください』と、言われて渡されました」
どうやら弟弟子たちは、こっそり懺悔と返却をしていたらしい。
彼らの言葉や今の朧の反応から、松陽には全て解ってしまったようだ。
「申し訳ありません!」
朧は両手を付いて畳に額を擦り付け詫びる。
浅はかな嘘をついて、嫌われてしまったのではないかと心震わせた。
「謝る必要はありませんよ。別に、怒っていませんからね」
松陽の声は優しく、朧の背中を撫でる。怒っていないとの言葉に、朧は恐る恐る顔を上げた。
言葉通り、松陽は変わらぬ笑顔で朧を見詰める。
いや、常よりも明るく輝いて何か企んでいるのが分かった。
「先生、本当に?」
「ええ、怒っていません。が、私に嘘をついた罰は受けて貰います」
「……はい。何なりと」
嫌われなかったのであれば、それでいい。
それなら、どんなとんでもない事を言い付けられても平気だと朧は覚悟して聴く体勢に入った。
「では、ここで私と一緒に大福を食べなさい」
弾んだ声で、楽しそうにそう命令する。
朧は、気が抜けたように一旦伸ばした背を丸めた。
「あの? それだけ、ですか……」
それのどこが罰になるのか、解らない。
これはもしかして、からかわれているのだろうかと首を傾げる。
「私と一緒に食べた事は、あの子たちには内緒ですよ」
弟弟子たちに言えない秘密の共有に朧は黙って頷いた。
けれど、やはりどう考えても罰とは思えない。
朧にとってこれは、二人だけの秘密と二人きりの時間という甘いご褒美でしかないのだ。
「では、いただきましょう」
「はい、先生」
二人並んで、頂きますと手を合わせる。
そしてこの夜の食べた大福は、二割増しの甘さで二人の頬を緩ませた。
了 2019.4.19
松「あ、朧。もう一つ!罰というか、宿題です」
朧「はい?」
松「貸した本に栞が挟んであったでしょう」
朧「はい、黄色い花の栞がありました」
松「あれは、ミモザです」
朧「ミモザですか」
松「ええ、あの花の花言葉を調べてください。宿題ですよ」
朧「はい、先生」
松「その意味も、ちゃんと考えて下さいね」
朧「?」
お時間あったら、朧ちゃんの宿題手伝ってあげてください。
銀時は机の前に陣取り、信女を隣に座らせてあやしている。
晋助は銘々皿を四枚並べ、小太郎は湯呑にお茶を注いでいる所だった。
もうすっかり、おやつの時間体勢に入っている。
栄屋の大福を前にしては、先生の帰宅を待てないのだろう。
大福は先生の好物でもあるから、本当なら待って一緒に食べたい。
けれど弟弟子たちの嬉しそうな顔を見てしまった後では、お預けするのが可哀想な気がした。
人助けをした礼の品なのだから、先生とて咎めはしないだろう。
もしかしたら拗ねられるかも知れないとの考えが頭に浮かんだが、首を振って取り消す。
先生が時折見せる悪戯っ子の様な振る舞いは、ふざけているだけで本当に子どもっぽい訳では無いと。
敬愛する師が、親しみを表してなされることなのだと思い直した。
自分の中で、先生に詫びてから弟弟子たちに声を掛ける。
「みんな、ちゃんと手は洗ったな?」
はーいと、元気良く揃った声が返って来た。
銀時が特にはしゃいでいるが、晋助と小太郎もやはり何だかんだと言ってもおやつは嬉しいのだろう。
小さな信女まで、つられるように両手を上げてきゃっきゃと笑った。
銀時が大福の個数を数える横で、朧と小太郎が銘々皿に振り分けてゆく。
「十五個だから、一人四つだよなぁ? 一個足りないじゃん!」
「テメェ、先生の分を忘れてンだろ!」
「うむっ。信女はまだ小さいから、先生と朧兄さん、俺達の五人分で三つが正解だな」
座敷机の上に、それぞれの大福とお茶が並んだ所でそんな会話が交わされた。
「だってさぁ、松陽の帰り遅くなるかも知れないじゃん。時間が経ったら、大福硬くなって美味しくなくなるって。やっぱ、美味いもんは、早く食べちゃったほうが良くね!」
尤もらしい顔をしながら、重箱の中に残されている大福に手を伸ばそうとする。
その手を晋助がピシャリと叩き、小太郎が重箱に蓋をした。
「これは、先生の分だッ!」
「意地汚いぞ、銀時!」
二人に責められて、銀時は頬を膨らませる。
「俺は今、成長期だーかーらーっ! 糖分が必要なーのー。なぁ、朧!」
今度は朧の皿の方へと手を伸ばした。
そんな銀時の様子を苦笑いしながら見守るだけの朧の代わりに、晋助と小太郎が大福を守る為に動く。
「成長期は、俺達も一緒だ!腐れ天パッ!」
「朧兄さん、笑ってる場合じゃありません!」
銀時を押さえ込む晋助と、朧の皿を高く掲げる小太郎。
朧は立ち上がり二人の頭を撫でてから、小太郎が持ち上げている皿を受け取った。
「俺はもう少し、本を読んでからいただこう」
読みかけだった本の隣に自分の皿を置くと、三人に笑みかける。
そして、重箱の蓋を開けた。
「これは、お前達への礼だからな」
重箱から一つずつ、三人の皿へ大福を付け足す。
「先生には内緒だぞ」
驚きに目を丸くする弟弟子たちに、それだけ言って重箱に蓋を被せる。
「じゃあ、これを隠して来るから」
重箱の上に除けていた自分の皿を乗せて持ち上げ、本を小脇に挟んで台所へ向かう。
「兄弟子!」
「朧兄さん?!」
「やったぁああ!」
背中越しに聞こえる声には気付かない振りをした。
台所に入ると、皿から重箱へ大福を戻す。
「見つからないようにしないとな……」
小声でそう呟いて、弟弟子たちの背では届かない釣り棚の中に、重箱を隠した。
早々に銘々皿を洗って、水屋箪笥にしまう。
そのまま、彼らが食べ終わるだろう時間まで部屋に籠った。
***
「先生、よろしいですか?」
朧は松陽の私室の襖前で、中に向かって声を掛けた。
手には丸盆を持ち、その上には急須と湯呑そして銘々皿には大福が三つ盛られている。
夕餉前に帰宅した松陽と皆で食卓を囲み、慌ただしいお風呂も済ませ弟弟子たちと信女を寝かしつけた後、やっと台所の棚に隠した大福を取り出せたのだった。
「はい、どうぞ」
返事と同時に、襖が開かれる。
いつもならは朧が開けるのだが、今夜はまるで朧の手が塞がっているのを知っているようだった。
「……失礼いたします」
朧が部屋の中に入ると、松陽は後ろ手で襖を閉める。
膝を着いて書き物机の上に丸盆を置く朧を見てから、松陽はその隣に腰を下ろした。
「先生?」
いつにも増して近い距離感に狼狽え、声が裏返る。
それを気に留める事無く、松陽は微笑んで朧の言葉を待った。
「あの……夕餉でお話した栄屋さんの事ですが」
「はい。銀時たちの人助けですね。今回は偶々運が良かったですが危険な場所で遊ぶのは困りものですから、明日は少しお説教しようと思います」
「申し訳ありません、私の監督不行き届きで……宜しくお願い致します」
少しでも先生の助けになりたいのに、兄弟子の自分がしっかりしていなかったばかりにと朧は俯いて唇を噛む。
「?」
不意に髪にふわりとした圧力を感じて、落とした視線を上げる。
「すみません。キミを落ち込ませるつもりはなかったのですよ。朧は私の一番弟子として、大変良く弟弟子たちの面倒を見てくれているのは知っていますからね。これは、ちょっとした意地悪です。ごめんなさい」
朧のふわふわした柔らかい髪を撫でながら、もう片手で畳についている震える手を掬い上げ安心させるように握った。
暖かい手の温もりに朧は頬を染め、唇は微かにカーブを描く。
「意地悪など、とんでもありません!至らない私がいけないのです」
「もう、キミは本当に……」
松陽が滲むような笑みを見せ朧の手を引き寄せた。
髪を撫でていた手も肩に回され、ほんの一瞬だが抱擁されたように感じる。
「可愛くてたまりません」
「え?」
耳元で何か囁かれたが、心臓の鼓動が大き過ぎて聞き取れなかった。
「何でもありませんよ。それより、何を持って来てくれたのですか?」
松陽の手が離れ、朧の持ってきた丸盆の方へ視線が移される。
「あ、はい。栄屋の大福を! お礼に頂きましたので」
「栄屋の? キミたちの分は?」
大喜びで飛びつくと思った朧の予想は外れ、逆に不思議そうに首を傾げられた。
「私たちは、おやつの時間に頂きました。先生には、お夜食にと思いまして」
松陽から不自然にならないよう視線を外し、急須から湯呑にお茶を注ぐ。
自分の分は弟弟子に分けてしまい食べていないのだが、食べたと嘘をつく。
そんな些細な嘘でも、先生に対する罪悪感から視線を合わせる事が出来ない。
「朧、こちらを見なさい」
嘘を見透かされて様な気がして、朧は慎重に「はい」と答えて松陽の方を見る。
朧が視線を合わせたのを確認すると、着物の袂から三つの包みを取り出した。
懐紙に包まれたそれを、一つずつ開いて書き物机の上に並べてゆく。
そこに並べられたのは、銘々皿に乗っている大福と同じもの。
いや、二つは同じだが、一つだけ半分になっている。
「……これは?」
「あの子たちが、それぞれ別々に持って来ました。銀時だけは、食べかけですが」
クスクスと笑い声を挟んで、言葉を続けた。
「『先生、ごめんなさい。兄弟子は、悪くないです。内緒にしてください』と、言われて渡されました」
どうやら弟弟子たちは、こっそり懺悔と返却をしていたらしい。
彼らの言葉や今の朧の反応から、松陽には全て解ってしまったようだ。
「申し訳ありません!」
朧は両手を付いて畳に額を擦り付け詫びる。
浅はかな嘘をついて、嫌われてしまったのではないかと心震わせた。
「謝る必要はありませんよ。別に、怒っていませんからね」
松陽の声は優しく、朧の背中を撫でる。怒っていないとの言葉に、朧は恐る恐る顔を上げた。
言葉通り、松陽は変わらぬ笑顔で朧を見詰める。
いや、常よりも明るく輝いて何か企んでいるのが分かった。
「先生、本当に?」
「ええ、怒っていません。が、私に嘘をついた罰は受けて貰います」
「……はい。何なりと」
嫌われなかったのであれば、それでいい。
それなら、どんなとんでもない事を言い付けられても平気だと朧は覚悟して聴く体勢に入った。
「では、ここで私と一緒に大福を食べなさい」
弾んだ声で、楽しそうにそう命令する。
朧は、気が抜けたように一旦伸ばした背を丸めた。
「あの? それだけ、ですか……」
それのどこが罰になるのか、解らない。
これはもしかして、からかわれているのだろうかと首を傾げる。
「私と一緒に食べた事は、あの子たちには内緒ですよ」
弟弟子たちに言えない秘密の共有に朧は黙って頷いた。
けれど、やはりどう考えても罰とは思えない。
朧にとってこれは、二人だけの秘密と二人きりの時間という甘いご褒美でしかないのだ。
「では、いただきましょう」
「はい、先生」
二人並んで、頂きますと手を合わせる。
そしてこの夜の食べた大福は、二割増しの甘さで二人の頬を緩ませた。
了 2019.4.19
松「あ、朧。もう一つ!罰というか、宿題です」
朧「はい?」
松「貸した本に栞が挟んであったでしょう」
朧「はい、黄色い花の栞がありました」
松「あれは、ミモザです」
朧「ミモザですか」
松「ええ、あの花の花言葉を調べてください。宿題ですよ」
朧「はい、先生」
松「その意味も、ちゃんと考えて下さいね」
朧「?」
お時間あったら、朧ちゃんの宿題手伝ってあげてください。