【クレ海】R-18



「強制発情海ちゃん」



ノックもそこそこに扉を開け、海はクレフが腰掛けるソファの元へと、よろよろと足をふらつかせながら歩んで行った。

「どうした?」とクレフが問うのとほぼ同時に、海はクレフの胸元へと飛び込む。

両腕を後頭に回されたかと思えば、突然首筋に走るピリとした痛みにクレフは顔をしかめた。
「ウミ?」
「…クレフ…」
海が再び首筋をガリと噛み、それから舌を這わせたまま名を呼ぶので、動揺の中にも、たしかに熱いものがクレフの腰を襲った。
「一体どうしたというのだ」
どうにかそう尋ねる。しかしクレフには半分わかりかけていた。
(これは……まずいな…)

紅潮した頬、潤んだ瞳、艶を含んだ声と、なにより吐息が甘い。比喩ではなく、砂糖を煮詰めたような真に甘い香りがクレフの鼻腔をくすぐった。これ以上吸ってはいけない。自分とてどうなるかはわからない。魔導力と「これ」の耐性は比例しないのだから。
一体海はどこで「これ」を?
いや、そんなことを今考えるべきではない。

海が口付けを求めるので、手のひらでやんわりとさえぎる。
海は目を見開き、クレフが見せた拒絶の仕草を悲しげに非難した。
「そうではない。これは移るのだ」
「移る?」
海は小首をかしげ、今度はその唇をクレフの耳元へと寄せた。そんなことをされては、いよいよ思考が進まない。

ひとまず、海を膝の上へ横抱きに抱え、体を安定させてやる。苦しげな荒い息も気の毒だ。海を抱えたまま腕を伸ばし、ローテーブルからグラスを手に取る。水を注いで海の口元へ運び飲ませてやると、白い喉がこくりと美味そうに鳴った。口の端から零れた水ですらクレフを煽るので、思わず目をそらした。

まずは海をどうにかしなくては。
とはいえ手は出せない。出したくない。これまでも我慢に我慢を重ねてきた。これからも耐えるつもりだったし耐える自信もあった。たかが数年。それだけ待てば良い。生きてきた年月に比べればなんということはない。
けれど、この「数分」を乗り越える自信を、クレフは失いかけていた。

「体が熱いの…助けて、クレフ…」
そう言うと、海は耐えかねたように制服のタイを外し、こともあろうにシャツのボタンを一つ二つと外しはじめた。
その手をクレフが包み、止める。
「どうして…?」
「ウミ、頼む…少し考える時間をくれ」
「むり…おねがい…クレフ、触って…」
海は自分の手を包むクレフの手を、そっとシャツの中へと導いた。
「ふ…ぁ…」
クレフの指が、下着に触れると海の口からは必然的にそんな声が零れる。
「おねがい…、直接…ここ…」
言いながら、下着をずらし控えめな胸をあらわにした。

これまでなんのために耐えてきたというのか。ロマンチシズムなど持ち合わせてはいないが、海との初めての行為のきっかけが「これ」ではあまりにひどいではないか。

しかし一方でこんな風にも思う。海の熱は、どの道解放してやらなければならない。それならば、細く弱い刺激で少しずつ熱を逃がしてやるのも一つの手ではないかと。その考えは、クレフの指先を海の胸元へと滑らせる言い訳にも近かった。
「はぁ、ん……っ」
下着の隙間から潜った指は、海の胸元の飾りをいたずらに弄ぶ。海の体は、熱く柔らかい。指を動かすごとに漏れる吐息はどんどん甘さを増していく。
「クレ…、きもちぃ…そこ…もっとして…」
クレフの胸元に額を押し付け、海は小さく首を振った。
それは、海がクレフの舌を求める時のくせのようなものでもあった。

「あぁっ…ん、くぇふ…それ、やぁっ…」
海の口の端からは、先程の水とは違う液体が伝い、締りのない声が次々に零れた。
舌の先で押しつぶすようにすると海は悦ぶ。
それをクレフは知っていた。
なので、その通りにした。

ここまでは、ここまでなら、なにも初めての行いというわけでもない。

海とて年頃の娘。口付けを求め、肌に触れることを求めたこともあった。
それはクレフにとっては生殺しのような行為でもあったのだけれど、応じないわけにもいかなかった。

けれど今ばかりは、今までとは事情が異なる。
これまでクレフが強靭な理性をもってして「今日はここまで」と言えば、頬を赤らめて頷き自ら衣服を整えた海は、今夜はいない。

「もっともっと」と、膝をすり合わせ、更なる刺激を求める海をクレフは強く抱きしめた。
「お願い、クレフ……、したいよぉ…」
腕の中で、海が囁く。
口の中に血の味が広がる。そうでもしなければ、海の言葉通りにしてしまいかねなかった。
そっと腕を解き、どうにか微笑む。
「すまない、海」
そう言うと、クレフは杖を手に持ち、そして海のほうへとかざした。海の症状を解消する魔法は存在しない。
なので、これは一時しのぎにすぎない。
「戒めの風」にも近い魔法で海の体を柔らかく拘束する。海は目を見開き、宙にふわふわと浮く自分の体を見た。
「薬を煎じる。つらいだろうが、そこで少し待っていてくれ」
そう言うと、クレフは海に背を向け、厨へと向かった。

後方からは、海のすすり泣く声が聞こえる。
(泣きたいのはこちらのほうだ)
クレフがそんなことを思ったかどうかは、彼のみぞ知るところである。



「強制発情海ちゃん」
end






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