【クレ海】R-18


恋するベビードール



身体をまさぐられる感覚に、意識が鈍く立ち上がる。瞼は重く、思うように開かない。感覚だけで恋人の悪戯を知る。本来ならば小さな悲鳴の一つもあげて、すぐにやめさせるべきなのだが、とにかく、体が重い。

特に腰から下はだるく鈍い痛みで、足全体がシーツに沈み込みそうだ。脳の起動にも時間がかかっている。
背後から回った手は、透けるような布地の上から、柔い力で胸を撫でつけている。幸い、というべきなのか、寝起きの体はその刺激に反応するほどの感度を持たず、ふわふわとまさぐる手の感触は、温かく心地よい。
とはいえ、いつまで触っているつもりなのか。無節操に胸をまさぐられ、身体がほんのりと反応してきたところで、海はようやく苦言を呈した。

「ちょっとクレフ、なにしてるの?」
「おはよう、ウミ」
恋人は手を止めることなく、悪びれもせずに言った。むしろ海が目を覚ましたことで、触れ方は遠慮をなくしていく。

「おはよう、じゃなくて。もー、朝からやめてよね」
「朝ではなく昼だな」
海は、クレフを制止するのとは逆の手を頭上に伸ばし、ベッドサイドの置時計をこちらへ傾けた。時刻を覗けば、ああ、と落胆の声を漏らさない術はなかった。
セフィーロでの貴重な滞在時間を、こんなにも浪費してしまった。もともと寝起きは良い方ではない。それでも2時間も3時間も寝過ごすことはなかった。めったになかった。それだけ時間があればいったい何ができただろう。
朝露のひんやりとした森を散歩できたかもしれない。城の朝食だって食べ損ねてしまった。クロワッサンのおこぼれをもらえなかった庭の小鳥たちも立腹しているだろう。いや、この足腰では散歩は無理か、と自らの思考を訂正した。

それにしても、これだけ惰眠を貪ってしまった原因は彼にもあるのだから、魔法で時間を戻すか止めるかでもしてくれればよいのに。そんな無謀な願いをぶつけるかわりに、勢いをつけて海は寝返りを打った。
「ねえ、起こしてくれたらよかったのに」
見るとクレフは既に寝衣姿ではなくなっていた。あとはローブ1枚を羽織って装飾品さえつければ外出できるほどの装いとなっており、自分だけがいまだ、こんな姿であることが気恥ずかしくなる。
ふいに、クレフが海の後頭に手を回し、髪をそっと梳いた。

「昨日はがんばってくれたからな。疲れているだろうと思って」
穏やかで落ち着いた声にはそぐわない、昨夜の情事を思い返させる言葉に海の顔は熱くなり、なかば八つ当たりのように、クレフの胸元へ額を擦り付けた。
「っ…がんばるとか言わないで…!」


それは、ほんの気まぐれに。ノリで、勢いで、いや、あの時の自分は少しおかしかったのかもしれない。
東京で見つけた薄紫色のベビードールは、どうしようもなく彼のことを思わせた。ランジェリーショップの前を5回は往復し、そして値段も見ずに購入した。
買ったからには着なければもったいない。けれど、こんな服を一人、東京で着たって仕方がない。そんな言い訳と共に、セフィーロ行きの荷物の中に入れた。そして、それをクレフが目ざとく見つけた、というわけだ。

「東京の娘達の間ではこんな服が流行っているのか」とクレフが眉間にシワを寄せたので、光や風、それから見ず知らずの'東京の娘達'のためにも、海はその誤解を丁寧に解いた。
すると、「ではなぜこんな服を」という流れになり、『そうなれば』『こうなる』のは当然と言えば当然の事だった。

昨夜は、海がほとんど失神するまでに体を弄び、散々に欲望を発散したあげく、これを着て寝ろというのだから驚いた。というか少し呆れた。そのくせ自分はちゃっかりといつもの寝衣を着て寝るという。近頃の海にとっては、自分も同じものをお揃いで着て眠るのが密かな喜びだったのいうのに。
先のクレフの依頼に対し「寝ちゃえば何を着ていても関係ないじゃない」と海は言ったが、「眠る寸前までその姿を見ていたい」と言ってのけ、結局その願いは押し通しされることとなった。

海は思った。導師としての彼を慕い敬う人に言ってやりたい。「この人はとんでもない色情魔ですよ」と。いや、もちろんそんなことを教えてあげるつもりはないのだけれど。

「今日のご予定は?」
色情魔が、その顔を昼の モードに戻して言った。悔しきかな、冗談めいた口調も、髪を梳く細い指も、愛しくて仕方がない。節操なしとか頑固とか短気とか年齢不詳とか、彼の悪口ならいくらでも言える。けれど、好きの度合いで言ったら、完全に負けていた。

「午後はプレセア達と街へ食材のお買い物。お菓子作りを教える約束をしてるの。夕方へ帰る前にまた寄るわ」
「そうか」
クレフの声のトーンが少し落ちた。クレフは、自らの体をやや下方へずらし、海の胸元へ顔を埋めて腕を背面へ回した。海が薄紫の髪を撫でると、クレフは子供のように、海の体へ頬を擦り寄せた。
「あまえんぼさん」
撫でつけた薄紫色に唇を寄せる。さらりとした感触が唇に触れれば、綿菓子のようで食べてしまいたくもなった。

クレフは、最近「寂しい」を表現するようになった。もちろん言葉にはしない。けれど「またすぐに会えるさ」と飄々 ひょうひょうと言ってのけた彼の姿は、ここしばらくは見ていない。それがたまらなく嬉しい。好きすぎて、涙が出そうになる。胸が愛でいっぱいになっていく。しかし、そんな海の想いをぶち破るかのように、予期しない感覚が身体に走った。

「ひゃっ…!な…っ?」
下方を見やれば、胸へ唇を落とすクレフの姿があった。
「、クレフ…!?」
ベビードールは、主張しかけた先端を浮き出している。きゅんと高鳴っていた淡桃色のハートが、灰色にピシリと固まるような感覚を覚えた。

上目遣いに覗く瞳を見た海は、これはまずい、と本能的に感じた。昨夜、ベビードール姿で初めて彼の前に立った時と、同じ輝きをその瞳に宿らせていたからだ。
「や…っやだっ…」
昨日は夜なのでまだ良かった。この、昼光の明るい室内において、先端を透かす布地の淫猥さが背徳的に際立った。せめて灯りを落としてほしい。けれど、そんなことを言えば、まるで「してほしい」と言っているようで、そんな嘆願はできるはずもなかった。

やめて、と言う海の制止もお構いなしに、薄い布地ごとちゅうちゅうと先端を吸われ、意図せず声が漏れてしまう。とても昼に聞かせるような声ではない。腕の中のクレフの体が、次第に熱を宿していくのがわかった。綿菓子に首筋をくすぐられれば、漏れだす声に甘さが宿った。

「ちょっと、…クレ、フ、やだっ…、ってば、」
「少しだけ」
「や…んっ、それで少しで…、済んだこと、ないじゃない…」
海の苦言にクレフは、たしかに、と笑みを零した。
「努力はする」
言うと、クレフは再び海の胸へと唇を落とした。

濡れた布越しのざらついた刺激が、海の感度をどんどん高めていく。主張しきった先端を軽く噛んでは何度も吸い上げられると、いよいよ声が我慢できなくなってくる。クレフの唾液によって濡れた布地から、頂きが透けて見えてしまうのがたまらなく恥ずかしい。それを時折覗いてはクレフがにんまりと笑った。

「あっ…ねえ、服…、濡れちゃ、う…っ」
「そんなことはいいから、ここに集中しろ」
「やっ…集中したら……よけい、感じ…、ちゃ…」
「それになんの問題がある」
クレフはそう言うと、濡れそぼった布地ごしに、浮き出た突起をつつくようにしてくるくると指の先を滑らせた。
「やぁあぁっ…!ぁ…っ、やっ!それ、だめっ…ぇ、」

唾液の潤滑によって、クレフの指の刺激は舌でそうしているのとほとんど同等の快感を海にもたらした。滑りが悪くなるたびにクレフの舌が二度三度と触れ、そのたび潤いは持ち直すので、海の胸に与えられる刺激が収まることはなかった。

クレフはいつもそうだ。
ひとたび海の弱いところを見つけると、執拗に、泣くまで攻めたてる。いや、泣いてもやめることはほとんどない。実際、海の頬に涙が伝った今も尚、海の胸の上でねちねちと指の腹を踊らせた。

「くれ…ふ、おねが…やめ…」
無駄であるとわかっていても、やめてと懇願せずにはいられない。海の涙声にかえって気を良くしたのか、クレフは指の動きはそのままに、もう片方の頂きにも唇を落とした。
「ひっ、ん…!やめ、そん…な、っだめぇ…!」
まるで両の胸を同時に舐められているかのような感覚に、膝が浮くように立ち始めた。足の裏をシーツに押し付けても快感からは逃げられず、腰の奥がきゅうきゅうとひくついた。

「ね、も…やめ、て」
「やめてほしそうには見えない」
胸を離れたクレフの息が耳元をくすぐり、体が無意識に跳ねた。
「、やだぁ…、今日……もう、でき…な、…」
「なぜ?」
と言うと、クレフはその手をベビードールの裾から差し入れ、下着を撫でた。ぬるりとした触感が、海の快感を言葉以上にクレフへと伝えた。

「やっ…嫌…、も、むり…」
下着があっという間に引き剥がされ、細い指が抵抗なく滑りこんでくる。海の体はビクビクと震え、クレフを制止する手からも力が抜けていった。

「ね、脚、痛い…のっ、きの、…あんなに、したからぁ…」
涙のにじむ声に、クレフはその動きをピタリと止め、そして指をそっと引き抜いた。

「ばか、嫌い」
クレフは、横向きに寝転がると海を腕の中へ包んだ。拗ねる海の額に唇を寄せ、背中をトントンと叩く。
「すまない、かわいかったのでつい」
と言えば、海の頬はたちまちに緩んだ。
「嫌いだってば」
あっけなく機嫌を直し、緩んだ顔で取ってつけたように悪態をつく他愛もない恋人に、クレフは「ああ」と言って、柔らかな笑みを浮かべた。

「ね、クレフ」
「ん?」
「男の人って、そんなにしたいものなの?」
背を撫でる手がピタリと止まる。上目遣いで覗く幼い瞳の輝きに似つかわしくないその問いに、クレフは絞り出すような低い声で言った。
「……まるで他の男も知っているかのような物言いだな」
「そんなわけないでしょ!」
クレフは目を細め、怪訝とも睨みともいえる表情で海を見た。
「なによ、まさか疑ってるの?」
たじろぐ海の表情をしばらく見、クレフはふ、と決壊するように笑みをこぼした。
「いや、お前を疑うことなど微塵もない。それに、他の男で満足するような身体に仕立てた覚えはないしな」
「な、な、何を……、」
海は、信じられない、といった表情で目を見開くも、ふいにクレフが「好きだ」と囁き、その指がゆっくりと唇をなぞれば、とろんと瞳をとろかせるほかなかった。
「この唇も」
昼光の部屋において、夜を思わせるクレフの色香に当てられ、海はその視線から逃げるように顔を伏せた。
伏せたまま海が口の形だけで「いや」と言うと、クレフは開いた海の唇の隙間から親指を侵入させた。湿った温かい舌が指に触れる。クレフは、慈愛と共に、そっと目を細めた。
「この舌も」
「ね…、やだ、もうしないってば」
「わかっている。お前が、そのような不道徳な問いをするので、私も誠心誠意答えようとしているだけだ」
「クレフ、わかったから。もういいわ」
「なんだ、自分で聞いておいて」
そして、クレフは海を再びぎゅうと抱きしめ、髪に顔を埋めた。すう、と香りを吸い込めば、肺の中へ幸福が満たされていくようであった。
「お前の体は、どこも甘い」
青い髪を指で巻き取りながら「この髪も」と耳元で囁くと、海の体がピクと震えた。唇、舌、そして髪と来て、海はクレフのしようとしていることを薄々と察した。ぞくりとした悪寒にも近いものが背を走る。

案の定、クレフの指は首筋を経由してから双丘をたどった。触れるか触れないかの弱い感触は、海の身体をかえって震わせた。
「ここも、本当はもう少し愛したかったが、体がつらいのなら仕方あるまい」
クレフが胸をなぞりながら、ここをこんなふうに扱うとウミはもっと悦ぶのに、と、聞くもはばかられるほどに仔細な愛撫の手順を囁くと、海は耳までまっ赤にし、触れられてもいない体をモジモジと揺らした。薄々とした予測は確信へと変わった。

「クレフ…、も、やめて、私が悪かったわ……」
かぼそく囁くその声に気を良くしたか、クレフは耳へと言葉を寄せた。
「そうだ、耳が弱いところもかわいい」
「クレフやだ、ってば」
「及ばないのだから、これくらいは許せ」
子供のように笑い、海の腰へ手を回した。淫らに触れないよう、軽く抱きしめるまでにとどめ「細いな」と囁く。
「それから、感じると腰を逃がす癖がある」
「ね、クレフ…もうやめてよ…」
自身の身体の反応を次から次へとつぶさに語られ、海の瞳からは涙が零れた。腰が無意識に引けて、背面で待ち構えていたクレフの手のひらに当たる。「ほらこの通り」と、クレフは、海の腰を抱いた手を自分の体に引き寄せた。クレフの猛りが服越しに当たり、海はびくりと体を震わせた。
「やっ…!?、嘘……、?」
「嘘でどうする」
クレフが海の腰をさらに引き寄せ、自身の熱をぎゅうと押し付けると、海の口からは滑舌を失った声が情けないほどに漏れ出した。
「今日はもう何もしないというのに、ずいぶん甘い声を聞かせてくれるのだな」
「や…っばか…、も、やめて…」

準備は互いに整いきっている。服さえなければ、押し付けられたそこは直接触れ合い、その滑らかな粘性によってすぐにでもクレフを受け入れるというのに。服越しに当たるその感触は、足腰の痛みを忘れかけさせていた。

「何もしないんだったら……最初から何もしないでよね」
その無稽な言葉は、意地張りな海にとって最大限の嘆願の言葉であった。
後腰を撫でていたクレフの手がピタリと止まった。しばしの沈黙。しかし、その回りくどい嘆願に気付かぬほど海のことを理解していない彼ではない。また、その嘆願に素直に応じる彼でもない。

「それは悪かった」と、クレフはいよいよ体を離した。
離れ際、いつもならほとんど癖か習性のように撫でる髪にも、今は触れない。
さあ起きよう、とクレフが上体を起こすと、海はその背中を恨みがましく睨んだ。

しかし、こうなった彼には何一つ敵わないことはわかっている。'身体を仕立てる'とはよくもまあ言ってくれたものだ。

海は彼の名を小さく名を呼び、袖をつまんだ。
クレフの口角が意地悪く上がったことは、彼の背面しか見えていない海には知るよしもない。

「どうした」
クレフは、乱れた自分の衣服をバサリとわざとらしい動作で整え、背中だけで答えた。
袖をつまんでいた海の指は、服のはためきによって強制的にはじき出された。普段の彼ならばこのような粗雑なことは決してしない。繋いだ手を離す時も、抱きしめた体をほどく時も、余韻にすら意味を持たせるような柔らかい仕草でそうするというのに。つまり今のクレフの仕草は「これは、そういうことだよ」という彼からの合図でもあった。

「ね、クレフ…」
「ん?」
海はのそのそと上体を起こし、クレフの背に額、それから手のひらを当てた。
「灯り、落として」
おそらく勇気を振り絞ったであろう精一杯の言葉に、クレフは口角をさらにあげた。しかし、こうも思った。普段から、こと情事に絡む事柄においては照れ隠しに奔走する彼女のこと。これを逃せば、このような誘いの言葉を引き出せるのはいつになるやらわからない。
つまり、欲が出た。

「なぜ?」
「えっ」
思わぬクレフの返答に、海はたじろいだ。これでも、勇気を振り絞って言った言葉であったのに。この状況において灯りを落とす理由など一つしかない。
しかも、クレフは、「だめだ」ではなく「なぜ?」と返した。海の脳が目まぐるしく回転し、顔を赤くしてその結論を出す。'そこまではっきりと言わせたいのか?'と。

海はすっかり黙りこくって、クレフの背に額と手を預けたまま固まった。
「ウミ」
膠着した空気を溶かすように、クレフが名を呼んだ。
クレフの背中から、発声による振動が伝わり、海の脳をつんとつついた。
(-言ってごらん)

クレフが心の声を飛ばすともなしに、海は、小さく息を吸うと消え入りそうな声で囁いた。
「…したく、なっちゃった…から、」
クレフは振り返り、勢いのまま海を寝台へと沈めた。掴まれた手首ですらも、海にとっては性感帯となり得た。

「ウミ」

低く掠れた声が、海の鼓膜を甘くくすぐる。
その視線に抗えない。クレフが何を言わずとも、まるで暗示でも掛けられているかのように、海はベビードールの裾へと指を伸ばした。ゆっくりと裾を持ち上げれば太腿があらわとなる。灯りを落としてくれるのではなかったのか。恥ずかしさに耐えきれず固く瞳を閉じると、クレフが再び名を呼んだ。

「ウミ、もっとだ」
「や、…無理…っ」
自分で下着をはぎとったことを忘れたわけではあるまいに、これ以上の肌を晒すことを求められ、あまりの羞恥に海の瞳には再び涙がにじみ、そして溢れた。その涙をクレフの唇が優しくすくう。許しを得たのかと、ほのかに期待の瞳を向けれど、クレフは掠れた声で「まだだ」と囁いた。
「だって…私、下着が……」
クレフが耳元へ「出来るな?」ととどめを刺せば、海は再び指を伸ばし、さらに裾をまくり上げるしかなかった。最も隠したい部位が外気にさらされる。恐る恐る目を開けば、にんまりと笑うクレフの視線が刺さった。

「いや…っ!も…恥ずか、し…っ」
「いいこだ」
クレフは、海の膝を立たせると自身の衣服を雑にめくりあげた。ぴちゃりとあてがわれた熱に、海はほとんど無意識にクレフの背に手を回し、ぎゅうと力を込めた。

「-あっ…!?」
ぢゅぷんっと音を立て、クレフが最奥を貫いた。準備は整いきっていたとはいえ、あまりに性急すぎる侵入に体がのけ反る。背中に立てた爪がくい込んだ。

「い、?やっ…あ"…そん、っ…な、?い、きなり、だ、めっ!」
挿入するや否や、果てる寸前のような激しい律動に、海は呼吸を整えることもできず、突かれた腹の奥から直接出る声の抑え方も忘れた。

「一度出すぞ」
「えっ…?えっ、嘘…、もう…?、っ……!」
クレフの口から発せられた直接的な言葉に、内部が彼の種子を求めきゅうきゅうと収縮した。クレフは苦しげに顔をしかめ、もはや、海の内壁をねちねちと弄ぶことも、控えめに揺れる胸に唇を落とすこともせず、ただ本能のままに腰を当てつけた。
「も…っや…ら"っ…、クレ、フ、…っちゃう…だめっ」
ぱちゅっぱちゅっと響く水音が激しさを増す。クレフが切なげに名を呼ぶと、海は背をのけ反らせて達し、そしてクレフもそれに続いた。

しばらく、二人の荒い吐息が混ざり合う。クレフがゆっくりと抜け出せば、海の内部からはとろりとしたものが溢れて脚を伝った。クレフは指でそれをすくうと、一滴足りとも零すなと言わんばかりに、内部へ戻すように差し入れた。

「ひゃっ…なにっ?」
達したばかりの内部を、熱い種子を擦り付けるように細い指でくすぐられ、海の口からは甲高い声が漏れる。
「っ?や、だ やだっ…!」
「私の形になれば良いのに」
クレフが独り言のように言った。
「な、に、?クレ、フ…」
「抱いても抱いても抱きたりない、お前が欲しい。ウミ…」
クレフの言葉は、途中から耳に入らなくなった。先程達したちょうどその箇所を、クレフの指がざらりとなぞった。海の口から叫びにも近い短い悲鳴が漏れると、クレフは「見つけた」と満足そうに笑った。
「ひ、ん…、ぁ、あ、ぁ、っだめ、…そこ、いっ、た…とこ、やっ、……!また…っ、来ちゃ、…やだ、やだやだやだっ、」
急速にのぼりつめる快感に、恐怖すら感じる。一方で、もどかしいような、早く達したいようなジレンマに、頭がおかしくなりそうだった。
「くれ、…らめっ…も、いくの、や…こわ…っ変…っそこ、もっと…っしてっ…」
唾液とともに、支離滅裂な言葉が漏れた。
クレフの指がぴたりと止まったかと思えば、更に強い圧迫感とともに内壁を蹂躙される。2本目の指が入ったのだと気づいた時には、海はもはや、その時を待っていた。
「あっ、あ、ああ、…!っ や、だめ、いっちゃう…、いっちゃ、…!クレ、ふ…っあ、ぁああ、っ…!!」
焦点の定まらない視界に、クレフが妖艶な笑みを浮かべている姿が映った。
海の口からは「すき、クレフ、すき」と、壊れたラジオのような声が零れた。脳が稼働を諦めたのだと、海は思った。うわごとのように彼の名を呼んでいると、クレフが海におおいかぶさり、そして再び熱をあてがった。ぬるりと入ったそれは、海に快感を与えこそすれ、抵抗感や異物感は全くと言っていいほどなかった。

(もう、とっくにクレフの形になっちゃってるじゃない)
心の声が漏れたのか、クレフはこの世の幸福をすべて集めたかのような微笑みを見せた。

「くれふ…、好きって、ゆって…」
クレフが海の名を呼び、そして愛を囁くと、薄れゆく意識の中、快感の内に、ひときわ熱いものが溢れた。





---

予定していた待ち合わせ時刻には間に合わなかった。しかし、予定していた買い物の時刻には間に合った。

「ウミが遅れるなんて珍しいわね」
「ほんと、ごめんなさい。急に現地集合にしちゃって」
「いえ、結果的には時間通りでしたし大丈夫ですわ」

げんなりした様子でプレセアたちに謝る海の足腰は、どこか覚束無い。東京での部活の筋肉痛が遅れて来た、と言ってごまかした。ごまかせた、はずだ。

「それにしても、クレフ優しいな!わざわざ街まで送ってくれるなんて」
「本当ですね。クレフさんって、私的な魔法の使い方を良しとしない方だとばかり思ってましたから。海さんだけ先に街へ来ていた時は驚きましたわ」
「まあ、色々あって……」
げんなりしつつも顔の赤い海を見、察した者達はつられて顔を赤くした。
「海ちゃん顔が真っ赤だ!どこか悪いのか?」
光の純粋な瞳に、海はたじろぎ、そして彼女の頭をかかえるように抱きしめた。
(この子の純粋さを少しは煎じて飲ませてあげたい)


そう思った声が届いたか、クレフは一つくしゃみをし、恋人が置いて行った薄紫色の衣服を手に、果たしてどうしたものか、としばし思慮を巡らせた。






『恋するベビードール』
end







海ちゃんに「もう?」って言われてちょっとだけムカつく呉市が存在しても良い。



LAKI様のベビド海ちゃんの神絵ツイート見て😭








埋め込み表示用ダミーソース
11/13ページ