好きになっちゃう!(完結)



『好きになっちゃう!』
  1-3.準備




濡れた布地をぬるりと指が滑る。
ふにふにと布地を押し込むように指でつつかれると、またあの変な声が出そうになって、私は慌てて指を噛んだ。
クレフがちらりと私の顔を見た。また指を外されちゃうかしら、と思ったけれどクレフは視線を戻し、下着の隙間に指をもぐらせた。
濡れた感覚が堪らなくはずかしい。
下着の中で、指をゆるやかに滑らせながらクレフが「一応」と言った。

「準備はできているようだ」
「…じゅん…び、……?」
「男を受け入れる準備」
低い声が耳元をくすぐる。

「や…っ」
ぬっぷりと侵入してきた、指が折れ曲がったり、中をまさぐるように小刻みに動き始める。
胸の時とは違う、何か嫌な感じがした。

胸をまさぐられた時は、恥ずかしいけれど未知のくすぐったさが、心地よくて気持ちよかった。大人が、みんな〝これ〟をする気持ちがなんとなく理解できた。けれど今。指で中をいじられる感覚は、なんだか―
(…あんまり…気持ちよくない……かも…?)

「ねぇ、それ……嫌、なんだけど……」
「だが慣れておかないと後で泣くぞ」
とクレフは言った。
「泣く…って…?」
私が尋ねると、クレフが私の手を掴んでゆっくりと引っ張った。
導かれ、私は声にならない悲鳴を上げた。
服越しに触れる固くてゴリゴリとした感覚。
こんなに大きなものが、私の体のどこにだって入る気がしない。
服越しに触れただけでも「無理」だと思った。
だから小さい姿のままがよかったのに!
「いや! こんなの聞いてないわ!」
「いいから大人しくしていろ」
クレフは指を曲げたり出し入れをして、撫でる場所を少しずつずらし始めた。
「…これ…、いつまでするの…?」
クレフは何も答えなかった。ゆったりとした指の動きは続く。
私も次第に慣れてきて、異物感や不快感が少しずつ抜けてきた頃だった。
「……っ?」
体が勝手にびくんと震えた。クレフの指の動きが一瞬止まり、そして再び動き始める。
「やだっ…待っ……」

きっと、クレフの指の動き方が変わったんだと思った。けれどそうでないことがなんとなくわかってくる。わからせられていると言ってもいいかもしれない。
「クレふ…っ待って…! それ、なんか……変…なのっ…」
「知っている」
「えっ や…あんっ…―?」
「それでいい。その感覚に集中しろ」
と言って、クレフはしつこく指を動かし続けた。
「ね、待っ…て…だめ…それ」
もう一本の指が侵入してきて、クレフの二本の指が私の内側をバラバラとくすぐった。胸を舐められていた時のような感覚が腰に走り、乱れる息を抑えることが難しくなってくる。
「や、…ぁ…っ、それ、だめ……ってば…」
ムズムズとした感覚がお腹の奥から上がってくる。
「え、あ……っ…?」
その感覚は、よく知ったものだった。
(嘘、きちんと済ませてきたのに。どうして?)

「ね、待って、……ほんと、待って。違うんだってば!」
せっぱ詰まった私の様子に、クレフは指を抜き「どうした?」と言った。
「お手洗…い…に、行かせて…」
クレフは、なんだそんなことかという表情を見せ、あろうことか再び指を侵入させてきた。
「いや…ぁ!! …なん、で…? 私の、話…っ聞―っああんっ…!」

まるでマーカーでも付けたみたいに。クレフの指が、さっきとまるで同じ場所をトントンと叩く。
「おねが、止め……っ…無理…っお願い…!」
クレフは、構うことなく指を動かし続ける。
二本の指がコリコリとピンポイントにそこを刺激するので、もう堪らなかった。こみあげる恥ずかしい感覚がお腹の奥で暴れている。
「やっ…! クレ……、ねっ…お手洗い…っに……」

(このままだと……ほんとに、だめ!)
「クレフ…っ…も…ゆるし…トイ、レ…行か、せて……っ…!」
どうして? だって今までだって言葉は通じていたはずなのに。
まさか意味が伝わってない?
セフィーロではなんて言うんだっけ。
私は完全にパニックに陥り、クレフの腕を強く引っかいて悲鳴を上げた。
「だめ…!! 出ちゃ…っ…やだっ …おしっ…出、ちゃ…ぅから……」
子供みたいに泣き叫んでも、クレフは絶望的なほどに指を止めてくれない。
(もう……だめ…! がまんできない…っ…)

水の弾けるような音がして、おしりの下がひんやりと冷たくなった。

「ごめ…な、さ…い…わたし…なんてことを……」
「謝ることはない」

そうよ、謝るのはあなた。私は何度もやめてって言ったのに。
言いかけて、思考が止まる。
クレフが、濡れた指を舐めていた。
「え」
意味がわからなかった。
「え? 舐め…? なんで……?」

パパママごめんなさい。海は異世界で、二十歳になれないまま男の人にとんでもないことをされて恥ずかしさのあまり死んでしまいます。
「まだお若いのに」と親不幸な他界を悲しむ人たちのすすり泣きが脳内で容易に想像できた。

「床の才能があるようだな」
腕に伝った液体を舐め取りながら、からかうようにクレフが言った。
「え?」
クレフは「初めてでここまで噴けるとは」と言葉を足した。
「ふける? なにが?」
クレフは、私が今しがた放出した液体のことを教えてくれた。




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