好きになっちゃう!(完結)


『好きになっちゃう!』
   1-2.注文の多い処女


クレフに連れられ、寝室へ入った。
一歩一歩がたどたどしくて、数歩前を歩くクレフに何度もぶつかりそうになる。
クレフに促され、私はベッドのふちにぎこちなく腰かけた。
緊張で喉がカラカラに渇いている。ヘッドボードに置かれた水差しのお水がとてもおいしそうに見えて、喉がこくりと鳴った。
「飲みたければ飲め」と、クレフが言った。
グラスにお水を注いでいると、クレフはなぜだか立ったまま宙に手を伸ばし、手元にあの杖を取り出した。

「何?」
そう尋ねた瞬間、宝玉が淡く発光した。
金色の光が、薄暗い部屋をポウと照らす。
光は膨れ上がり、クレフの体をふわりと包みこんだ。
眩さに目を閉じる。

しばらくして目を開けると、目の前には私と同い年くらいの、いや少し年上だろうか―少なくとも〝どーみても十歳前後〟ではない―青年が立っていた。

「クレフ……?」

もし今クレフが目の前で〝変化〟していなかったら、
「誰?」と尋ねていたはずだ。
等身にはるかに伸ばしたクレフの姿に、私は目を瞬かせることしかできない。

セフィーロの男の人はみんなかっこいいと思う。
けれど目の前のこの人は、今までに私が見てきたどの男の人よりも素敵な顔立ちをしていた。

「さて始めるか」
こともなげにクレフは言った。その声はクレフの声そのままだった。
「ま、待って!」
「なんだ」
「いきなりこんなの聞いてない! だって、そんな姿…!」
「あの姿では色々と不便があるからな」
と、クレフは言った。

それから、もう煩わしい問答は御免とばかりに私の肩に触れベッドへ押し倒そうとしてきた。
「ねえ待ってってば!」
私が騒いでいると、クレフは少し迷惑そうにため息をついて、それから私の名前を呼んだ。びくりと体が震える。呼ばれなれた名前。
けれどその声を発するこの男の人は、私の知るクレフではない。

「私とて気やすくこの話を受けたわけではない」
クレフは続けた。
「この魔法も、少なからず体に負荷がかかるのだ。ここまで来てやめるとは言わせないぞ」
「負荷……?」
途端に、頭に冷たいものが走る。
「負荷って! どこか痛いとか? 体がつらいってこと!?」
慌て尋ねると、クレフはやんわりと首を横に振った。
「そうではない。様々な要素はあるが、まあ端的に言えば……」

「疲れる」とクレフは言った。

ほっとしたのと同時に、クレフに押し倒されまいと体を支えていた腕が根を上げた。支えを失った私の体は、背中から思い切り崩れ落ちる。
長い前髪を垂らしたクレフの顔が、私を見下ろしている。
目をそらせない。心臓がうるさい。
その時、私の視界を塞いだのはクレフの手の平だった。

「この姿に慣れないなら目でもつぶっておけ」
目的が果たせればそれでいいだろう、と。
ふさがれた視界が、更に暗くなる。
それで私は、この部屋の明かりが消えたのだとわかった。


「クレ……っ」
クレフはそのまま私にのしかかると、いきなり胸に触れてきた。
骨ばった大きな手が、私の胸を無遠慮に撫でまわす。
なんだか性急で、がっつくような動きに私はたじろいでしまう。
―え、嘘。こんな、感じなの……?

常日頃から妄想していたわけではないけれど、クレフならもっと柔らかく優しい触れ方をするのではないかと、勝手ながら思っていた。
「ね、待って……ってば!」
「往生際が悪い」
「だって…! 仮にも女の子をだ、だ、抱…こうとしてるんだから、いきなり体に触るとかじゃなくて! なんていうか…もうちょっと…こう…優しく愛を囁く? とかなんとかあるでしょ!」
「愛?」
クレフが、地球の知らない単語でも聞いたかのような反応を返した。それもそうだ。私だって自分が何を口走っているのか、わけがわかっていないのだから。
それでも、見込みとはおおよそ異なった〝コト〟の始まり方に、私は文句の一つも言わずにはいられなかった。

「お前、私に愛を囁いてほしいのか?」
「そ、そんなわけないでしょ! でもいくらなんでもいきなり胸をわしづかみにすることないじゃない! ムードってものはないわけ?」
「ムード?」
「ム、ムードっていうのは…たとえば…その…だから〝今日の君はきれいだね〟とか〝かわいいね〟とか! そういうのよ!」
クレフがいっそう怪訝な顔をした。
「な、なによ……」
「わしづかみ…?」
「胸の大きさの話はしてない!」
普段と変わらないくだらない言い合いに肩からどっと力が抜ける。

クレフはゆっくりと身を起こすと、大げさにため息をついた。
それから、あさってのほうを向いたまま「思ってもいないことは言えない」と呟いた。つまり「かわいい」とか「きれいだ」だとか、クレフはお世辞でも言ってくれないということだ。
「ひっど……別に心の底から言ってほしいだなんて言ってないのに…」
「注文が多い」
再びクレフに押し倒され、私は後頭部からベッドに落下した。

枕があるので痛みはないけれど、それは私がお願いしたような優しくて包み込むような所作では、決してなかった。
「ねえ! ちょっと、待ってってば!」
「いい加減に覚悟を決めろウミ。お前がどのように抗ったところで、今夜私に抱かれるという事実は揺らがない」
クレフの息が耳をかすめる。耳から爪先まで全身に鳥肌が立ち、私は一つの声も出せなくなった。
そのまま、クレフは私の首筋に唇を落とした。
ちゅうと吸い上げられると、くすぐったさに体が震えて、私は思わずクレフの背をぎゅうと握った。

クレフの指が、そっと胸をなぞってから離れる。
ネグリジェの上からおなかを撫でて、そのうちに裾から手がもぐってくる。ショーツが外気に触れ、クレフが当たり前みたいに裾をめくるので〝これはこういうものなのだ〟と思い知らされるようでものすごく恥ずかしい。

クレフは指先でくすぐるようにふとももを撫で、それからおへそに指をなぞらせてきた。全てが初めての感触。ぞわぞわと鳥肌が立ち、私はなすすべもなく身を固くするしかない。
大きな手が私の左わき腹をなではじめた。
上下にさするような動きをしたかと思えば、クレフの手のひらが少しずつ胸のほうへ近づいてくる。さっきの性急な動きとはまるで違う。
(さっきはあんなに適当だったのに……!)
ゆっくりと、けれど確実に近づいて来る手の感触に、私はぎゅうと目をつむって耐えた。
すると、クレフの指がフロントレースに触れ止まった。
私の左胸を、下着越しに包み込むように撫でる手はすごく優しい。
息が苦しい。ハアハアと呼吸が荒くなるのが恥ずかしくて、私は下唇を噛んだ。
そのうちに、胸全体を撫でるようだった手の動きが、ある一点を集中して触れ始めた。人差し指と中指を揃えてくるくると回すような動き。
ぞわぞわと駆け巡る感触が堪らない。
余計に息が苦しくなる。涙もじんわりと浮かんできた。
「やっ…!」
カップの中へもぐりこんだクレフの指が、頂に触れた。
そこが固くとがっているのが自分でもわかって、恥ずかしくて泣きそうになる。ブラの上からしたのと同じように、クレフは私の弱いところを指でなぞりつづけている。
「や…ぁっ……」
情けない声が漏れる。けれどクレフはまるで聞こえてないみたいに、むしろ速度と強さをまして私の胸に触れ続けた。

荒くなる呼吸がいよいよ我慢できない。ハアハアと息を乱しながら、私の腕はよりどころを探していた。それが、私の体を攻めたてる張本人の背であったとしても。
クレフの体にぎゅうとしがみつくと、暗がりの中で、クレフの唇の端がゆるやかに上がるのが見えた。
「や、っ…なにか…変?」
尋ねると、クレフは不思議そうに私を見た。
「だって…クレフ、笑ってるから……」
クレフは二、三度瞬きをして「何も変ではないし、笑ってもいない」と言った。
笑ってたじゃない。
そんな言葉は途端に喉の奥に詰まる。クレフが、再び胸を触り始めたからだ。
先端をしつこくいじったかと思えば、今度は胸全体を優しい力で揉みしだかれ、もう胸が溶けてなくなってしまいそうだった。

下着を外してくれと言うのでそうした。せっかくフロントホックのものを付けてきたのに、クレフには外し方がわからないようだった。
ホックを外し、カップが浮き上がった隙間からクレフの手がもぐりこんでくる。左胸を執拗に触れられているうちにカップがはだけ落ちて、両胸があらわになった。
手で隠すことを、クレフは許してくれなかった。
「あっ…!」
ちゅっと水音が立つ。思わず小さな悲鳴があがってしまう。
クレフが、とがり切った私の先端に舌を這わせている。唇で吸い上げられるともうだめだった。
次から次に声が漏れてしまう。恥ずかしいのに、声を抑えることがまるでできない。
「や…っ! あ…んっ……」
私が指を噛んで声を押し殺すと、クレフは動きを止めた。それからゆっくりと体を起こして、私の手を口元から外した。

だめ。抑えていないと声が出ちゃうの。
そう告げても、クレフは私の手を解放してくれない。
私の手を掴み抑えこんだまま、クレフの舌が私の耳に触れた。
「ひゃっ…ん!」
「こちらに集中していろ。声は殺すな」
囁かれ、ゾクリと甘い波が走る。耳元にクレフの舌が這いまわり、そのうちに右手が胸をなで始めた。二つの刺激が私をどんどん追い詰める。
「…だ、って……っこんな声、恥ずかし…ぃ…」

だめと言っているのに、クレフはまったく手をゆるめてくれない。
クレフは、そうすれば私の声が出るとでも思っているのか、むりやり声を引き出すみたいに、胸をちゅうちゅうと舐めている。
右手が左胸を撫でて、手つかずだった右胸に唇に落とされてからは、もうだめだった。
「あっ……ん…っ…!」
声が我慢できない。
恥ずかしいのに、もう何も考えられなくなってくる。
「や…っ…それ、だめっ…」
両胸の先端を指ではさまれ強く摘み上げられると、情けないくらいに甲高い声が漏れ出た。声が零れるたびにクレフは更に刺激を強めるので、もう私は叫び出したいほどだった。
「ひゃぁっ…」
特別大きな声が出てしまって、それから体の力がぐったりと抜けた。



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