💎💎💎初恋(完結)
5.涙
心が沈んでいようがいまいが、セフィーロのお風呂は温かいし快適だ。
前はここで、光の恋の芽生えを見つけたっけ。
しばらく滞在したらいい、と皆が言うのでお言葉に甘えることにした。風と光はせっかく会えた殿方たちともう少し一緒にいたいだろうし、私ひとりで帰るわけにもいかないし。
皆、クレフのあの姿を見た時はとても驚いていた。何より、布で巻かれた杖が一番の驚きを集めていた。
けれど再会の喜びもそこそこに、クレフはプレセアやフェリオ、ランティスたちにほとんど引きずられるように執務室へと連れられて行った。
それで、〝残された組〟で「まずはお風呂でも」というのが今。
カルディナがモコナを抱えて洗い場へ向かい、湯舟に三人だけになった隙に私は光と風に言った。
「ごめんね。結局、言えなかったの」
こんなにお膳立てをしてもらったのに。
そう思うと情けなくて、申し訳なかった。
二人が私よりも落ち込むので、私は言葉を足した。
「でも、自分で決めたことだから」
努めて、明るく。
「やっぱり、これでいいのよ。それにね―」
今日という日は、本当に素晴らしい一日だった。
クレフとの素敵な思い出ができた。
城の人達だってきっとあんなふうにクレフと歩き回ったり食事を取ったことはないだろう。
それに、あの髪。
いつまで
ほんの一時でも、クレフを形作れたことが私はうれしかった。
うれしくて、かなしくて。
ポロポロとこぼれる涙がとまらない。
三人で泣いた。泣きに泣いた。
お風呂のお湯が溢れてしまうくらいに泣いた。
痛んだ足の小指は、城に常駐している
私の赤く腫れた目を見て、城の給仕係がお茶を出してくれた。
「気持ちが落ち着きますよ」と言って。
彼の頬は少し赤くて、ああ私もこうやって次の恋を見つけていかなくてはいかないんだなと思うと、不思議な笑みがこみあげた。
お風呂のお湯が、全て洗い流してくれたのだと思う。
甘い香草や木の香りも。クラッチやパンの味も。
今日一日分の思い出の香りがすべて流れて、泣くだけ泣いたら少しだけ気分が晴れた。
十五の失恋なんて案外現金なものなのかもしれない。
だから、クレフが私たちと同じく今夜から城に少しとどまって溜まりに溜まった用務(ほとんどがお手紙の返信だそうだ)をすると聞いた時も、平気だった。
なんなら宿代がわりにお仕事の手伝いもしたし、みんなでお茶だってした。
けれど、一人眠れない夜。
あの日のように、部屋を訪ねて薬湯をもらいに行くようなことは、できなかった。