LAKI様宅のクレ海&イーフェリ等



※「2」を読んでないとさすがにわけわかんないと思います。

てすと

「ピボット!3🏀」




1on1の勝負をクレフが受けたことに最も驚いたのは、勝負を挑んだイーグル本人だった。
戯れに煽るだけ煽ってはみても、結局この男はこんな挑発には乗らないだろうとどこか引いた目で見てもいた。

あの生徒の名前を出した時の、彼の静かな動揺ぶりがイーグルは好きだった。

(純愛、ですよねえ)

カレンダーを眺める。
彼らの卒業までの日数が、永遠にも思える。

教員用の、黒色のジャージ。
コートを囲むギャラリーの中には、同じジャージを着用した教員も数名いた。
けれど、同じデザインであるにもかかわらず、二人の着るそれと同じ服であるとは到底思えない。
「先生たちが着てるところ初めて見た!」とか、「あれ本当にうちのジャージ?」と、女子生徒たちの遠慮のない悲鳴があがる。カメラを持ちだし写真まで取り出す者すらいた。

長い指先の上でライトブラウンのボールがくるくると回る。
「ルールはさっき話した通りでいいですね」
腕を組んだまま、クレフが頷いた。

購買部のパンなどを賭けたベットがこそこそと行われ、オッズはイーグルに傾いた。
やはりあの長身。それに毎日行われる昼のゲームでの前評判。
「っていうか、クレフ先生って運動できるの?」
と言い出す者も少なくはなかった。

が、そのオッズ狂わせが今まさに起きている。
イーグルにかけた大半の生徒はなかば青ざめ、財布の中身を確認しだしたりもした。
とはいえ、クレフにかけた生徒も決して大手を振って喜ぶわけではない。

競っては離れ、追いついては離れる。
けれどポイントは、5以上離れることはない。
イーグル、クレフ、いずれもが追う者・追われる者になり、ギャラリーを含みこのコートにおいて油断や慢心をする者は一人も存在しなかった。

(ウサギかキツネ、いやネズミですね)

決して長身とは言えない体が、イーグルの周りをちょろちょろと動き回る。
得意の3ポイントは、クレフの高い跳躍によって高確率で阻止されるので、イーグルも試合の中で戦術を変えていくしかなかった。

「ちょっとしぶとすぎるんじゃないですか?」
ゲームの合間、乱れた息でイーグルが問う。

「しぶといもなにも、これはこういうルールだろう」
少しの汗は滲むものの、クレフはあくまで淡泊に返した。

ゲームにおいて圧倒的に有利である長身は、その大きな体を動かすためのカロリー消費によって、スタミナ切れを起こし始めていた。

「適度な運動は脳の活性に良いそうだぞ」
口の端をあげてクレフが言えば、イーグルも笑った。
「適度を越えてますって、これは」

尚も拮抗する試合。取っては取られを繰り返す。
海が、時計を見る。残り時間はあとわずかとなっていた。
いつもならキャアキャアとはしゃぐ彼女が、今日ばかりはそうしなかった。
手をぎゅうと握る。
フェンスに指を絡め、体重を少し預けた。

試合終了、十秒前。
ポイント差は1。あと一本返せば、クレフの逆転勝ちという場面だった。
ガラ空きのゴール前。イーグルの顔がわずかにゆがんだのは自身の敗北を薄らと予感したからだった。
誰もがクレフの勝利を確信する。

その時、クレフが突然イーグルに向けてボールをバックパスした。
「えっ」
そんな声がイーグルの口から反射的に零れる。

「私の負けでいい」

そう言うと、クレフはコートの外に向かって駆けて行った。

少しうつろな青い目が、クレフを見る。
クレフが海の前へ辿り着いた瞬間。
その場にしゃがみこんだ海の顔色は青白く、一切の血の気をなくしていた。

「貧血か?」
聞きながら海を背負い、腕を前に回させる。
軽い眩暈の中、海は小さく頷いた。




校舎へ入り廊下を歩いていると、海は少し体調を回復したようで、「もう歩ける」とか「あと一本入れてたら勝てたのに」などと気丈に言った。
クレフは、何も言わなかったし、彼女を下ろすこともしなかった。



看護教諭は離席をしているらしく、保健室は無人だった。
クレフはベッドの上に海を寝かせて布団をかけると
「担任には伝えておくから、しばらく寝ていろ」
と言った。

「ねえ、先生」
袖をつまみ、海は何か言いたげクレフを見た。
けれど結局は「ありがと」と、それだけを言い、指先をシーツの上に降ろした。

「私が貧血だって、なんですぐにわかったの…?」

海が尋ねると、しばらくの沈黙の後クレフは答えた。

「見ていたから」
「え?」
「ずっと見ていたから」
「クレ…」
「教師が生徒を見守るのは当然のことだ」

と言うとクレフは海から離れ、ベッド周りのカーテンを閉めた。


去り際、保健室の扉に手をかけたクレフが「龍咲」と、海を呼んだ。
「はい」と小さな返事がカーテンの向こうから聞こえる。

「昼休み、コートではしゃぐのもいいがたまには質問にでも来い」
「え?」

扉が音を立てて閉まった。

青白い顔は真っ赤に染まり、しばらくして戻って来た看護教諭に
「熱が出たのね?」と言わしめるほどだった。






「ピボット!3」
end

長々とありがとうございました✨
1,2,3共にザカザカっと勢いで書きましたがとても楽しかったです!

皆様また何卒🙏♡♡♡(よくばりw)
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