【クレ海】ショート作品
ボス様のこちらを先に読んでいただきたい🙏
『最後の女』
「そんなこと言ったって、クレフは〝初めて〟じゃないじゃない」
たしかに、この少女ときたらむくれた顔も可愛らしいのだけれど
クレフは背に走る冷たい汗を感じずにはいられない。
何も移り気を起こしたり不義理を働いたわけではない。
遥か昔。あまりに昔のことだ。〝なかったことに〟―この場合なんと言ったか。
そう〝ノーカン〟だ。確か海の世界ではそう呼んだはず。
クレフの口からこんな不似合いな横文字が飛び出せば、いつもの海ならば「クレフもすっかりこっちの言葉を覚えたわね」と言って笑っただろう。
多少なりとも恥というか外聞を捨て、海に笑ってもらえばと思ってのことだったが、それはあえなく撃沈する格好となる。
その愛らしい頬はいまだに膨れたまま。
いや、膨れているうちはまだよかった。
次第に涙が滲み、瞳の青色がうるうると透明に輝いていく。
クレフは慌て、指で涙をすくった。
「何も泣くことはないだろう」
「だって…」
つい今しがた体を通わせたばかりだというのに、海は二人を隔てる壁のようなものを感じていた。それは、先の言葉に集約される。
クレフは、嘘をつけない。
そして、それを今更どうにかすることなど、さすがのクレフにも不可能というものだった。
もし時を戻せるのならば。
『七百余年後に真に愛する人と巡り会う。その時まで、決してつまらない色欲に寄りかかるな』と、若造の自分に言い聞かせることができればどれほど良いことか。
残念ながら、時を戻す魔法をこの国最高位の魔導師は心得ていない。
今クレフにできることは、海の涙をすくい、背や髪を撫でること。
そして、考えただけでも赤面したくなるような甘い言葉でもって彼女を慰めることだけだった。そのうちに腕の中の薄水色がクスクスと震え出した。
「泣いてみるものね」
と涙をぬぐったその顔は、少女を最も美しくする表情―笑顔だった。
海とほとんど同じに頬を赤くしたクレフが、照れ隠しに海の額をピンと弾いた。
「〝最後の女〟かあ」
海は、先程クレフが発した赤面台詞集の中から一つを取り出し、嬉しそうに言った。
「ね、クレフ。もう一回〝好き〟って言って?」
すり寄る体、柔らかな髪がクレフの首元をくすぐる。
「抱きたい」
海の求めた言葉の代わりにクレフの口から飛び出したのは、こんな直球の愛情表現だった。
今度ばかりは海だけが顔を赤くし、照れくささを怒りの中に隠しながら、こくりと頷いた。
シーツに沈んだ二つの体が、愛を確かめ合う。
end
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”『ブッ書く』…そんな言葉は使う必要がねーんだ。なぜならオレやオレたちの仲間はその言葉を頭の中に思い浮かべた時には!実際にSSを書いちまってもうすでに終わってるからだッ!だから使った事がねぇーッ『ブッ書いた』なら使ってもいいッ! ”
byプロシュート兄貴(嘘)9/19
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