始動
―一方のハナ達はというと…
地下街にいた。しかし、そこにはハナとモモしかおらず、ユカとは別行動だった。
「本当にここに居れば安全なの?」
「うん。だってクロさんが、ここには追跡側は入れないって言ってたし…」
今朝、ホテルで別れるとき、追跡側の出没パターンや潜伏場所、立ち入れない場所などを教えて貰っていた。その中の地下街は、よく買い物に行った場所だったため、取りあえずここで身を隠す事にしたのだ。
「……ユカ、なんでクロさんにあんなに冷たいのかな…」
モモは今朝の出来事を思い返していた。
モモ自身、実を言えばユカが苦手だ。嫌いではなく苦手。社交的で、グイグイ入ってくるユカとは全く真逆のキノと、幼い頃から一緒だったせいもある。(ハナもユカと同じタイプだが、産まれた時から一緒だったため気にならない)
全般的に人見知りの激しいモモにとって自分の領域(テリトリー)に赤の他人が入る事は恐怖なのだ。しかし、クロは平気だったのだ。自分でも解らない。
「クロさん、悪い人じゃないのに…ね」
「うん。モモがそんな事言うなんて珍しいよね(笑)」
「う……;だって…キノが信じた人だし」
キノがクロを連れてきた時はかなり驚いたが、あの無関心なキノが興味を持ち、信頼しているのであればと二人は受け入れたのだ。
話をしてみると、クロは気さくで暖かい。何よりも安心感があった。でもユカは拒絶した。一体何が気に食わなかったのか。それを二人が知るよしもない。
「…最近ユカ、おかしかったもんね。なんかキノにやたら突っ掛かるし。昨日だってすごくギスギスしてたし」
「お祭り、何事もなく終わるといいけど」
「うん……そうあって欲しいよ……」
祭直前から豹変したユカ。慣れない事を押し付けられたキノ。合流して早々ユカに敵意を剥き出しにされたクロ。
問題がありすぎて、幸先悪い事は必須だろう。
「なんとかならないかなあ……」
ハナは薄暗い地下街の天井を仰ぎ呟いた。
………………―
………―
「………早かったわね」
「悪いな。で?いつ頃にする?」
「………いつでもいい…と言いたいところだけど、もう少し時間が欲しいわ。あの子、まだその気になってないし…」
「やれやれ……随分と手の掛かる親友だな」
「……今は好敵手(ライバル)よ……」
「くく……そうだったな……そんなに勝ちたいか?」
「もちろんよ!あの時の屈辱、晴らさないと気が済まないわ!!」
「そうムキになるなよ。安心しな。舞台はちゃんと整えてやるよ」
「頼むわ」
「じゃ…その時が来たら連絡しな」
「ええ……また……」
「待ってるぜ………」
………―
……―
「…よし、大丈夫そう…」
キノは商店街に居た。
しばらく裏路地をさ迷っていたが、何人か追跡者がおり、回避している内に商店街に行くしかなくなっていた。裏路地なら比較的安全かと思ったが………ユカが言っていたようにそう簡単には行かない。
「………もう走るのはコリゴリだわ。なるべく人のいない方に………あれ、ユカ?」
キノが用心しながら辺りを見回した時、大通りを挟んだ反対側の路地からユカが出てきた。ユカはそのまま駅前の方向に歩いて行った。と、その時、ユカが出て行った路地から、真っ赤な長髪でゴツいサングラスを掛けた背の高い男が出てきた。
(…………誰?…)
普通に考えれば、たまたま同じ路地から出てきただけと思うのだが、この時キノは何か悪寒がした。
―あいつに見つかったらヤバい…―
あの男の雰囲気が、キノの頭に警鐘を鳴らす。
なんだかよく説明出来ないが、決して善人ではない。獲物が掛かるのをジッと待つ肉食動物のようだ。
「…ユカ、大丈夫だったのかしら……」
合流してから聞いてみるかと踵を返す。
ふと空を見れば、夕闇が迫っている。終了時間はまだ先だ。
キノは人目を避けつつ、もう一つの逃走区域、公民館に急いだ。
………………―
……………―
…………―
深夜。
すっかり寝静まった。
キノ達はまた同じホテル集合し、情報交換をしていた。
「と、言う訳で監査を連れて来たんだ」
クロは隣にいる少年、タケを紹介する。
「僕はタケ。よろしく!」
「君もこっちに来たんだね」
「うん!クロ兄ちゃんに誘われたんだ」
「よろしくね…」
「うん。よろしく!」
タケはハナとモモとはすでに意気投合したのか、楽しそうに話している。
クロはその様子を見て安堵した。と、ふと回りを見回す。
「あれ?ユカは?」
「いない。まだ帰ってないのかしら…」
不機嫌オーラを振り撒き、憮然としているユカが見当たらない。
キノはふと、夕方に見た光景を思い出した。
突然路地から現れたユカを追うように現れた、あの男。
まさか、ユカは捕まってしまったのでは……?
祭二日目で一人捕まるなんて………。キノがそんな事を考えていると、
―バタン…―
部屋の扉が開き、ユカが入ってきた。
「ユカ!お帰り!!」
「ただいま。あら?その子誰?」
ハナに笑顔で返事をし、ふとタケに目が行ったユカは、誰とも無しに聞いた。
「あ、ああ……俺が連れてきた…わ、悪いなまた勝手な事して」
決まり悪そうに頭を掻きながらいうクロ。
そこにいる全員(タケは除く)が、修羅場を覚悟した。が、
「そう……協力者を連れてきてくれたのね。ありがとう」
ユカは微笑み、クロにお礼を言ったのだ。
「は?………ああ、どういたしまして……」
クロは呆気に取られ暫し固まったが、なんとかそれだけ言うと、キノを見た。
キノも少し目を見開き驚いていた。
昨日のあれは何だったのか………。
女心は秋の空………とはこのことだ。
「私はユカよ。君、名前は?」
「タケっていうんだ。よろしく!ユカ姉ちゃん」
「ふふ……よろしくね」
ユカは笑顔でタケと会話をしている。本来なら嬉しいはずだが、何故か不安になってくる。
「なあ、どうなってんだ?」
「さあ……私にもよく分からないわ」
「二人とも!ブツブツ言ってないでこっちに来て。情報交換、するんでしょ?」
「え……うん」
「お、おう」
小声で話すクロとキノを見、集まるようにと呼ぶ。
二人は慌てて頷き、皆の方へ向かう。
………………―
…………―
「………という感じよ。追跡側はそろそろ本気を出してくるかもしれないわ」
ユカは駅前の様子を報告した。聞くところによると、かなりの人数が居たらしい。キノがあの時見かけたユカは、駅前の偵察にいっただけだったようだ。少しホッとしたキノ。
「私達は地下街に行ってきたの。安全だって事は間違いないみたい。誰も来なかったよ」
ハナも昼間の報告をした。あのあと、地下街から公園に行ってみたら、やはり追跡者がわんさかいたらしい。
「公民館は無人だった。後、浅川旅館も安全だわ。でも、そろそろこのホテルの周辺は危ないかもね。入るとき何人か見たわ」
このホテルは逃走者の拠点とされているが、規制されていないので、いつ追跡者に乗り込まれるか分からない。早めに移動しなければ危険だろう。
「じゃあ、明日は別の宿泊施設に集合しよう。たしか…浅川旅館はまだ安全だよな。一先ずそこにするか」
「そうね」
「うん、そうしよう」
皆がクロの意見に同意し、明日の出発時間を確認してから解散となった。
「……ユカ、ちょっと…」
「?なに?キノ」
「いいから…」
キノはユカを呼び止め、自分の部屋に連れていった。部屋の前まで来ると回りを見回し、誰もいない事を確認すると、ユカの手を引き部屋に入る。
「なに?本当に……」
「ユカ、あの男誰?」
「え…?」
「赤髪の長髪で、サングラスを掛けたヒョロリとした…」
ぴくりとユカが反応する。しかし、
「…さあ、知らないわ」
「本当?」
「私を疑ってるの?知らないわ、本当に」
ふぅ…と息を吐き、笑顔で否定するユカに、キノはそれ以上は聞けなかった。
「そう、ならいいわ……悪かったわね」
「いいわよ別に。じゃ、明日ね」
ユカは手を振ると部屋を出ていく。
―知らないわ―
キノは完全にその言葉を信じた訳ではなかった。
ユカは何かを隠している………そんな気がする。
そのキノの予感が的中するのは、ずっと先の話だ。
地下街にいた。しかし、そこにはハナとモモしかおらず、ユカとは別行動だった。
「本当にここに居れば安全なの?」
「うん。だってクロさんが、ここには追跡側は入れないって言ってたし…」
今朝、ホテルで別れるとき、追跡側の出没パターンや潜伏場所、立ち入れない場所などを教えて貰っていた。その中の地下街は、よく買い物に行った場所だったため、取りあえずここで身を隠す事にしたのだ。
「……ユカ、なんでクロさんにあんなに冷たいのかな…」
モモは今朝の出来事を思い返していた。
モモ自身、実を言えばユカが苦手だ。嫌いではなく苦手。社交的で、グイグイ入ってくるユカとは全く真逆のキノと、幼い頃から一緒だったせいもある。(ハナもユカと同じタイプだが、産まれた時から一緒だったため気にならない)
全般的に人見知りの激しいモモにとって自分の領域(テリトリー)に赤の他人が入る事は恐怖なのだ。しかし、クロは平気だったのだ。自分でも解らない。
「クロさん、悪い人じゃないのに…ね」
「うん。モモがそんな事言うなんて珍しいよね(笑)」
「う……;だって…キノが信じた人だし」
キノがクロを連れてきた時はかなり驚いたが、あの無関心なキノが興味を持ち、信頼しているのであればと二人は受け入れたのだ。
話をしてみると、クロは気さくで暖かい。何よりも安心感があった。でもユカは拒絶した。一体何が気に食わなかったのか。それを二人が知るよしもない。
「…最近ユカ、おかしかったもんね。なんかキノにやたら突っ掛かるし。昨日だってすごくギスギスしてたし」
「お祭り、何事もなく終わるといいけど」
「うん……そうあって欲しいよ……」
祭直前から豹変したユカ。慣れない事を押し付けられたキノ。合流して早々ユカに敵意を剥き出しにされたクロ。
問題がありすぎて、幸先悪い事は必須だろう。
「なんとかならないかなあ……」
ハナは薄暗い地下街の天井を仰ぎ呟いた。
………………―
………―
「………早かったわね」
「悪いな。で?いつ頃にする?」
「………いつでもいい…と言いたいところだけど、もう少し時間が欲しいわ。あの子、まだその気になってないし…」
「やれやれ……随分と手の掛かる親友だな」
「……今は好敵手(ライバル)よ……」
「くく……そうだったな……そんなに勝ちたいか?」
「もちろんよ!あの時の屈辱、晴らさないと気が済まないわ!!」
「そうムキになるなよ。安心しな。舞台はちゃんと整えてやるよ」
「頼むわ」
「じゃ…その時が来たら連絡しな」
「ええ……また……」
「待ってるぜ………」
ユカ
………―
……―
「…よし、大丈夫そう…」
キノは商店街に居た。
しばらく裏路地をさ迷っていたが、何人か追跡者がおり、回避している内に商店街に行くしかなくなっていた。裏路地なら比較的安全かと思ったが………ユカが言っていたようにそう簡単には行かない。
「………もう走るのはコリゴリだわ。なるべく人のいない方に………あれ、ユカ?」
キノが用心しながら辺りを見回した時、大通りを挟んだ反対側の路地からユカが出てきた。ユカはそのまま駅前の方向に歩いて行った。と、その時、ユカが出て行った路地から、真っ赤な長髪でゴツいサングラスを掛けた背の高い男が出てきた。
(…………誰?…)
普通に考えれば、たまたま同じ路地から出てきただけと思うのだが、この時キノは何か悪寒がした。
―あいつに見つかったらヤバい…―
あの男の雰囲気が、キノの頭に警鐘を鳴らす。
なんだかよく説明出来ないが、決して善人ではない。獲物が掛かるのをジッと待つ肉食動物のようだ。
「…ユカ、大丈夫だったのかしら……」
合流してから聞いてみるかと踵を返す。
ふと空を見れば、夕闇が迫っている。終了時間はまだ先だ。
キノは人目を避けつつ、もう一つの逃走区域、公民館に急いだ。
………………―
……………―
…………―
深夜。
すっかり寝静まった。
キノ達はまた同じホテル集合し、情報交換をしていた。
「と、言う訳で監査を連れて来たんだ」
クロは隣にいる少年、タケを紹介する。
「僕はタケ。よろしく!」
「君もこっちに来たんだね」
「うん!クロ兄ちゃんに誘われたんだ」
「よろしくね…」
「うん。よろしく!」
タケはハナとモモとはすでに意気投合したのか、楽しそうに話している。
クロはその様子を見て安堵した。と、ふと回りを見回す。
「あれ?ユカは?」
「いない。まだ帰ってないのかしら…」
不機嫌オーラを振り撒き、憮然としているユカが見当たらない。
キノはふと、夕方に見た光景を思い出した。
突然路地から現れたユカを追うように現れた、あの男。
まさか、ユカは捕まってしまったのでは……?
祭二日目で一人捕まるなんて………。キノがそんな事を考えていると、
―バタン…―
部屋の扉が開き、ユカが入ってきた。
「ユカ!お帰り!!」
「ただいま。あら?その子誰?」
ハナに笑顔で返事をし、ふとタケに目が行ったユカは、誰とも無しに聞いた。
「あ、ああ……俺が連れてきた…わ、悪いなまた勝手な事して」
決まり悪そうに頭を掻きながらいうクロ。
そこにいる全員(タケは除く)が、修羅場を覚悟した。が、
「そう……協力者を連れてきてくれたのね。ありがとう」
ユカは微笑み、クロにお礼を言ったのだ。
「は?………ああ、どういたしまして……」
クロは呆気に取られ暫し固まったが、なんとかそれだけ言うと、キノを見た。
キノも少し目を見開き驚いていた。
昨日のあれは何だったのか………。
女心は秋の空………とはこのことだ。
「私はユカよ。君、名前は?」
「タケっていうんだ。よろしく!ユカ姉ちゃん」
「ふふ……よろしくね」
ユカは笑顔でタケと会話をしている。本来なら嬉しいはずだが、何故か不安になってくる。
「なあ、どうなってんだ?」
「さあ……私にもよく分からないわ」
「二人とも!ブツブツ言ってないでこっちに来て。情報交換、するんでしょ?」
「え……うん」
「お、おう」
小声で話すクロとキノを見、集まるようにと呼ぶ。
二人は慌てて頷き、皆の方へ向かう。
………………―
…………―
「………という感じよ。追跡側はそろそろ本気を出してくるかもしれないわ」
ユカは駅前の様子を報告した。聞くところによると、かなりの人数が居たらしい。キノがあの時見かけたユカは、駅前の偵察にいっただけだったようだ。少しホッとしたキノ。
「私達は地下街に行ってきたの。安全だって事は間違いないみたい。誰も来なかったよ」
ハナも昼間の報告をした。あのあと、地下街から公園に行ってみたら、やはり追跡者がわんさかいたらしい。
「公民館は無人だった。後、浅川旅館も安全だわ。でも、そろそろこのホテルの周辺は危ないかもね。入るとき何人か見たわ」
このホテルは逃走者の拠点とされているが、規制されていないので、いつ追跡者に乗り込まれるか分からない。早めに移動しなければ危険だろう。
「じゃあ、明日は別の宿泊施設に集合しよう。たしか…浅川旅館はまだ安全だよな。一先ずそこにするか」
「そうね」
「うん、そうしよう」
皆がクロの意見に同意し、明日の出発時間を確認してから解散となった。
「……ユカ、ちょっと…」
「?なに?キノ」
「いいから…」
キノはユカを呼び止め、自分の部屋に連れていった。部屋の前まで来ると回りを見回し、誰もいない事を確認すると、ユカの手を引き部屋に入る。
「なに?本当に……」
「ユカ、あの男誰?」
「え…?」
「赤髪の長髪で、サングラスを掛けたヒョロリとした…」
ぴくりとユカが反応する。しかし、
「…さあ、知らないわ」
「本当?」
「私を疑ってるの?知らないわ、本当に」
ふぅ…と息を吐き、笑顔で否定するユカに、キノはそれ以上は聞けなかった。
「そう、ならいいわ……悪かったわね」
「いいわよ別に。じゃ、明日ね」
ユカは手を振ると部屋を出ていく。
―知らないわ―
キノは完全にその言葉を信じた訳ではなかった。
ユカは何かを隠している………そんな気がする。
そのキノの予感が的中するのは、ずっと先の話だ。
二日目
《始動》
END
《始動》
END