開幕
《クロSide》
「今日もいい天気になりそうだ」
街外れの小高い丘にある公園にあるベンチで、愛用のヘッドフォンでお気に入りの曲を聴きながら、空を見上げる青年……クロ。
夏の明け方の風を体に受け、髪を掻き上げると腕時計を見た。
「そろそろか…。スズの奴、上手いこと言ってくれたかな……」
毎年、楽しみにしていた祭。正直、今年だっていつも通り参加したかった。しかし、知ってしまったのだ。……逃走側の事を。
今年の逃走側は女子高生と聞いた。しかも祭は初心者。あまりにいろいろと危険だ。追跡側は大半があまり善人とは言い難い奴らが多い。もし、捕縛されてしまったら……とても口では言えない展開になる事は明白だった。ましてや自分がその手伝いをするなんて御免被りたい。
良かったのだ、これで。追跡側や逃走側でなくても祭に参加は出来る。なんとか早い段階で、逃走側と接触した方がいいだろう。もし協力を断られても、警告やアドバイスぐらいは出来る。
……祭の開始を知らせるサイレンが鳴り響く。クロは一度思い切り伸びをし、ヘッドフォンを外し首に掛けた。
「さて……、お姫様達に会いに行くとしようか」
まだ見ぬ少女達を案じながら、街の方に歩きだした。
《逃走側Side》
「いよいよね。キノ」
サイレンを聞きながら、ユカは隣に居るキノを見る。キノは前を見据えたまま、何も言わず歩き出す。慌てたように、ハナとモモも後を追う。ユカは三人の後ろ姿を見つめ、自分もゆっくりと歩き出した。
先程の件でかなり空気が悪く、キノはおろかハナとモモとも気まずい雰囲気になってしまい、ユカは小さくため息をついた。でも、後悔はしていない。あの計画を実行するその時までの辛抱だ。こんどこそ実力でキノに勝ちたい。ユカを突き動かしているのはその思いだけだった。
「キノ……さっきの言葉、取り消す気はないわ。あなたにだけは負けたくないの……絶対に!!」
まるで自分に言い聞かせるように呟くと、ユカは決意を固めた目でキノ達の方を見た。
日が昇り、広がる澄み渡る青空に響き渡るサイレンを背に、逃走チームは動き始めた。これから一ヶ月間の逃走劇で、何がどう変わりどういう結末になるのかは、神様しか知らない。
《追跡側Side》
「…始まったな。さて、俺も出るとしようか」
サイレンと同時に、ワラワラと動き出した連中を横目に、スズ立ち上がる。
今年も追跡側として参加はするが、ずっと居続ける気はない。状況を見て離反する気だ。まずはクロを探し合流する。きっとクロの事、まずは逃走側の少女達に接触しようとするはずだ。長年の付き合いだ、彼の思考は大体把握している。クロが傍に居れば、きっと、いや絶対に安心だ。なぜなら、クロは今まで追跡側で参加していたのだ。連中の行動パターンやテリトリーなど全て知っているのだ。よっぽどの事がない限り、捕まる事はないだろう。後は、機を見て自分が離反し、クロ達と合流すればいい。
「クロ……必ず彼女達を守るんだ。俺も近い内にそっちに加勢する。待っててくれよ…」
スズは素早く、クロにメールを打つと《サーチ》と呼ばれるレーダーを腕に括り付け、舞台となる街に向かう。機械いじりが趣味のスズは、《サーチ》と呼ばれる機械を扱うため『技巧師』と呼ばれている。追跡側は毎年、『策士』のクロと『技巧師』のスズのおかげで勝つことが出来た。しかし、今年はクロは外れ、スズも離反を計画している。クロとスズが追跡側を外れれば、違う結果をもたらすことになるだろう。それくらい、二人の実力は高いのだ。
「これ以上、連中の好き勝手を許すわけにはいかないからな。変えてみせるさ………な、クロ……」
スズは眼鏡をクイッと持ち上げると、友に呼びかける。その声が早朝の少し涼しい風に乗り、今は遠い友に届く事を願って………。
「今日もいい天気になりそうだ」
街外れの小高い丘にある公園にあるベンチで、愛用のヘッドフォンでお気に入りの曲を聴きながら、空を見上げる青年……クロ。
夏の明け方の風を体に受け、髪を掻き上げると腕時計を見た。
「そろそろか…。スズの奴、上手いこと言ってくれたかな……」
毎年、楽しみにしていた祭。正直、今年だっていつも通り参加したかった。しかし、知ってしまったのだ。……逃走側の事を。
今年の逃走側は女子高生と聞いた。しかも祭は初心者。あまりにいろいろと危険だ。追跡側は大半があまり善人とは言い難い奴らが多い。もし、捕縛されてしまったら……とても口では言えない展開になる事は明白だった。ましてや自分がその手伝いをするなんて御免被りたい。
良かったのだ、これで。追跡側や逃走側でなくても祭に参加は出来る。なんとか早い段階で、逃走側と接触した方がいいだろう。もし協力を断られても、警告やアドバイスぐらいは出来る。
……祭の開始を知らせるサイレンが鳴り響く。クロは一度思い切り伸びをし、ヘッドフォンを外し首に掛けた。
「さて……、お姫様達に会いに行くとしようか」
まだ見ぬ少女達を案じながら、街の方に歩きだした。
《逃走側Side》
「いよいよね。キノ」
サイレンを聞きながら、ユカは隣に居るキノを見る。キノは前を見据えたまま、何も言わず歩き出す。慌てたように、ハナとモモも後を追う。ユカは三人の後ろ姿を見つめ、自分もゆっくりと歩き出した。
先程の件でかなり空気が悪く、キノはおろかハナとモモとも気まずい雰囲気になってしまい、ユカは小さくため息をついた。でも、後悔はしていない。あの計画を実行するその時までの辛抱だ。こんどこそ実力でキノに勝ちたい。ユカを突き動かしているのはその思いだけだった。
「キノ……さっきの言葉、取り消す気はないわ。あなたにだけは負けたくないの……絶対に!!」
まるで自分に言い聞かせるように呟くと、ユカは決意を固めた目でキノ達の方を見た。
日が昇り、広がる澄み渡る青空に響き渡るサイレンを背に、逃走チームは動き始めた。これから一ヶ月間の逃走劇で、何がどう変わりどういう結末になるのかは、神様しか知らない。
《追跡側Side》
「…始まったな。さて、俺も出るとしようか」
サイレンと同時に、ワラワラと動き出した連中を横目に、スズ立ち上がる。
今年も追跡側として参加はするが、ずっと居続ける気はない。状況を見て離反する気だ。まずはクロを探し合流する。きっとクロの事、まずは逃走側の少女達に接触しようとするはずだ。長年の付き合いだ、彼の思考は大体把握している。クロが傍に居れば、きっと、いや絶対に安心だ。なぜなら、クロは今まで追跡側で参加していたのだ。連中の行動パターンやテリトリーなど全て知っているのだ。よっぽどの事がない限り、捕まる事はないだろう。後は、機を見て自分が離反し、クロ達と合流すればいい。
「クロ……必ず彼女達を守るんだ。俺も近い内にそっちに加勢する。待っててくれよ…」
スズは素早く、クロにメールを打つと《サーチ》と呼ばれるレーダーを腕に括り付け、舞台となる街に向かう。機械いじりが趣味のスズは、《サーチ》と呼ばれる機械を扱うため『技巧師』と呼ばれている。追跡側は毎年、『策士』のクロと『技巧師』のスズのおかげで勝つことが出来た。しかし、今年はクロは外れ、スズも離反を計画している。クロとスズが追跡側を外れれば、違う結果をもたらすことになるだろう。それくらい、二人の実力は高いのだ。
「これ以上、連中の好き勝手を許すわけにはいかないからな。変えてみせるさ………な、クロ……」
スズは眼鏡をクイッと持ち上げると、友に呼びかける。その声が早朝の少し涼しい風に乗り、今は遠い友に届く事を願って………。