始まりの時
…これはどう解釈すればいいのか。以前ユカが言っていたことを思い出す。(といっても、殆ど右の耳から左の耳に流れていたが)
「逃走側ってね、毎年くじ引きで決まるらしいの。でもごく稀に自薦他薦もあるみたい」
……ただの偶然か。はたまた誰かに仕組まれたことなのか。しかし、仕組まれたとなれば誰なのか。こう言っては何だが、キノはあまり他人と関わりを持とうとはしないタイプだ。周りもあまりキノには近づかない。近寄り難い雰囲気を纏わせているせいなのだろう。今のところ、キノとまともに会話が出来るのは、双子の姉妹とユカのみだ。ただ、キノが嫉みや羨望の対象である事は確かだ。寝ているくせに成績が良かったり、学校のアイドル的存在のユカと、親しかったりなど挙げたらキリがない。(ただし本人は気にしてない上に興味もない)となれば、キノ達に恨みを持つ者という線が濃い。
(まあ、私を恨んでる連中なんて掃いて捨てるほどいるけどさ…)
キノがボンヤリ考えていると、焦れたハナが先程の大音量で呼ぶ。
「キノ~~!!キノ~~!!
返事して~~~~!!また寝てるの?キノ~応答せよ~~!!」
耳にダイレクトに飛び込んできた奇声(?)に、キノはのそりと起き上がり、怒気を含んだ声で一言。
「………切るよ……」
「はあ!良かった!寝てなくて!それより質問の答え!」
「……届いた。今朝に」
「そうなんだ!!モモにも届いたんだよ。しかも、ユカにも!!すごい確率だよね~!!それでね、明日…」
モモとユカも……?疑惑がさらに深まる。きっとこれは単なる偶然ではない。だが、仕組んだ人物や意図は何一つ分からない。
(気味が悪いな……)
なにやら受話器の向こうであーだこーだ言っている、ハナの声はもう耳に入らなかった。適当に相槌を打ち電話を切った。しばらく携帯を見つめ、ふとベッドの傍らに置きっぱなしのカードに目を留める。色々と解せないが、選ばれてしまったからには、やらなければならない。キノは、面倒だと大きなため息を一つはくと、ふたたびベッドに寝転がる。そして静かに目を閉じる。祭が始まってしまえば、こうして寝る事も出来ないであろう。キノは考えるのをやめ、眠りに落ちていった。
…次の日。
キノの部屋にはなぜか、ハナとモモ、そしてユカがいた。
実はユカの提案で、情報交換という名目で集まろうという事になったのだ。しかし、なぜにキノの部屋なのかというと、ユカが
「キノの事だから、また寝こけてすっぽかすから」
と言ったから…らしい。またと言うことは、おそらく何回もあったのだろう。
それで、三人でキノの部屋に押しかけた……と言うわけなのだ。
一方、キノの方は安眠を妨害された上に、部屋に上がり込まれご機嫌ななめ。いつも以上に不機嫌な顔で、ワイワイと楽しげな三人を睨みつける。
「ご機嫌ななめね、キノ」
ユカは、持参したお菓子と飲み物を、テーブルに並べながら苦笑いする。
「提案したのはあんたでしょ?ユカ…」
キノはベッドに寝転がり、ユカを目の端に映しながら、不機嫌丸出しで言う。
もともと、団体行動が苦手なキノ。今まで、集まって何かをする…という事を極力避けていた。なので、今回も乗り気にはなれず、早くも夢の世界に旅立とうとしていた。すると、
「キノ!!寝ちゃダメだったら!!」
ハナがキノの枕を奪い取る。キノはハナをジト目で見ながら、むくりと起き上がり、ベッドに腰掛ける。キノは安眠を妨害されると、終始機嫌が悪くなる。(とは言え、いつも不機嫌そうだが…)それを知ってか知らずか、毎回ハナはキノを起こす。一方、ユカやモモは、報復が怖いのか大抵放置。…なので、二人にとってハナは魔王キノに立ち向かう勇者である。
「さて、明日から始まる『祭』のルールを確認しましょうか」
ユカは、紙とペンを鞄から取り出しながら話を切り出す。
********
・参加者は街から出てはならない。
・交通機関、公共施設を使用する際は必ず、個人ナンバーを提示する。
・参加者以外の者に危害を加えてはならない。
・離反は自由とする。
・逃走メンバーすべてが捕まった場合、その時点で終了となる。
・逃走メンバーは、拠点の移動は可能だが、追跡側は不可。
・捕縛時の恐喝、暴力などは禁止。
・『祭』は開始時間、終了時間を守る。時間外の捕縛は無効とする。
(朝6:00~夜9:00)
*******
「うわ…結構多いね」
ハナはウンザリした顔をしながらぼやく。
「覚えられるかな…」
「でも昔に比べたら、逃走側にかなり緩くなってるのよ。去年までは離反はタブーだったし。時間も関係なかったのよ」
「マジでか!!」
三人が話している間、キノは別の事を考えていた。
…そう、選抜方法だ。
キノはどうしても、偶然だと思えずにいた。それに、キノだけなら怨恨の可能性が高いが、ハナやモモ、さらにユカまでも選ばれるとは……キノはふとユカを見た。
そういえば、夏休み前から彼女の様子が少しおかしかった感じがする。
しきりに祭の話をしてきたし、自薦他薦の話もユカから聞いたのだ。
まさか……キノはある事を仮定する。自分達を選抜したのは、ユカではないのか……しかし、それではなぜ彼女は自分まで選抜したのかが不明だ。
(考え過ぎか……)
キノは緩く頭を振り、考える事を止める。きっと、祭が始まればわかるだろう。なら、わざわざ今、ごちゃごちゃ考える必要はない。キノはコップに入ったコーラを一口飲み、ふぅと息を吐いた。
その時、冷たい瞳で自分を見つめるユカを、キノは知らなかった………。
「逃走側ってね、毎年くじ引きで決まるらしいの。でもごく稀に自薦他薦もあるみたい」
……ただの偶然か。はたまた誰かに仕組まれたことなのか。しかし、仕組まれたとなれば誰なのか。こう言っては何だが、キノはあまり他人と関わりを持とうとはしないタイプだ。周りもあまりキノには近づかない。近寄り難い雰囲気を纏わせているせいなのだろう。今のところ、キノとまともに会話が出来るのは、双子の姉妹とユカのみだ。ただ、キノが嫉みや羨望の対象である事は確かだ。寝ているくせに成績が良かったり、学校のアイドル的存在のユカと、親しかったりなど挙げたらキリがない。(ただし本人は気にしてない上に興味もない)となれば、キノ達に恨みを持つ者という線が濃い。
(まあ、私を恨んでる連中なんて掃いて捨てるほどいるけどさ…)
キノがボンヤリ考えていると、焦れたハナが先程の大音量で呼ぶ。
「キノ~~!!キノ~~!!
返事して~~~~!!また寝てるの?キノ~応答せよ~~!!」
耳にダイレクトに飛び込んできた奇声(?)に、キノはのそりと起き上がり、怒気を含んだ声で一言。
「………切るよ……」
「はあ!良かった!寝てなくて!それより質問の答え!」
「……届いた。今朝に」
「そうなんだ!!モモにも届いたんだよ。しかも、ユカにも!!すごい確率だよね~!!それでね、明日…」
モモとユカも……?疑惑がさらに深まる。きっとこれは単なる偶然ではない。だが、仕組んだ人物や意図は何一つ分からない。
(気味が悪いな……)
なにやら受話器の向こうであーだこーだ言っている、ハナの声はもう耳に入らなかった。適当に相槌を打ち電話を切った。しばらく携帯を見つめ、ふとベッドの傍らに置きっぱなしのカードに目を留める。色々と解せないが、選ばれてしまったからには、やらなければならない。キノは、面倒だと大きなため息を一つはくと、ふたたびベッドに寝転がる。そして静かに目を閉じる。祭が始まってしまえば、こうして寝る事も出来ないであろう。キノは考えるのをやめ、眠りに落ちていった。
…次の日。
キノの部屋にはなぜか、ハナとモモ、そしてユカがいた。
実はユカの提案で、情報交換という名目で集まろうという事になったのだ。しかし、なぜにキノの部屋なのかというと、ユカが
「キノの事だから、また寝こけてすっぽかすから」
と言ったから…らしい。またと言うことは、おそらく何回もあったのだろう。
それで、三人でキノの部屋に押しかけた……と言うわけなのだ。
一方、キノの方は安眠を妨害された上に、部屋に上がり込まれご機嫌ななめ。いつも以上に不機嫌な顔で、ワイワイと楽しげな三人を睨みつける。
「ご機嫌ななめね、キノ」
ユカは、持参したお菓子と飲み物を、テーブルに並べながら苦笑いする。
「提案したのはあんたでしょ?ユカ…」
キノはベッドに寝転がり、ユカを目の端に映しながら、不機嫌丸出しで言う。
もともと、団体行動が苦手なキノ。今まで、集まって何かをする…という事を極力避けていた。なので、今回も乗り気にはなれず、早くも夢の世界に旅立とうとしていた。すると、
「キノ!!寝ちゃダメだったら!!」
ハナがキノの枕を奪い取る。キノはハナをジト目で見ながら、むくりと起き上がり、ベッドに腰掛ける。キノは安眠を妨害されると、終始機嫌が悪くなる。(とは言え、いつも不機嫌そうだが…)それを知ってか知らずか、毎回ハナはキノを起こす。一方、ユカやモモは、報復が怖いのか大抵放置。…なので、二人にとってハナは魔王キノに立ち向かう勇者である。
「さて、明日から始まる『祭』のルールを確認しましょうか」
ユカは、紙とペンを鞄から取り出しながら話を切り出す。
********
《祭のルール》
・参加者は街から出てはならない。
・交通機関、公共施設を使用する際は必ず、個人ナンバーを提示する。
・参加者以外の者に危害を加えてはならない。
・離反は自由とする。
・逃走メンバーすべてが捕まった場合、その時点で終了となる。
・逃走メンバーは、拠点の移動は可能だが、追跡側は不可。
・捕縛時の恐喝、暴力などは禁止。
・『祭』は開始時間、終了時間を守る。時間外の捕縛は無効とする。
(朝6:00~夜9:00)
*******
「うわ…結構多いね」
ハナはウンザリした顔をしながらぼやく。
「覚えられるかな…」
「でも昔に比べたら、逃走側にかなり緩くなってるのよ。去年までは離反はタブーだったし。時間も関係なかったのよ」
「マジでか!!」
三人が話している間、キノは別の事を考えていた。
…そう、選抜方法だ。
キノはどうしても、偶然だと思えずにいた。それに、キノだけなら怨恨の可能性が高いが、ハナやモモ、さらにユカまでも選ばれるとは……キノはふとユカを見た。
そういえば、夏休み前から彼女の様子が少しおかしかった感じがする。
しきりに祭の話をしてきたし、自薦他薦の話もユカから聞いたのだ。
まさか……キノはある事を仮定する。自分達を選抜したのは、ユカではないのか……しかし、それではなぜ彼女は自分まで選抜したのかが不明だ。
(考え過ぎか……)
キノは緩く頭を振り、考える事を止める。きっと、祭が始まればわかるだろう。なら、わざわざ今、ごちゃごちゃ考える必要はない。キノはコップに入ったコーラを一口飲み、ふぅと息を吐いた。
その時、冷たい瞳で自分を見つめるユカを、キノは知らなかった………。
《始まりの時》END