悪意

―その頃、ユカとハナはというと…


「……よし、誰もいないわ」
「うん。今しかないね」

あれから小1時間たち、目を覚ましたユカと共に、隠れていたテナントを抜け出し、別の場所に移るべく移動していた。テナントを抜け出し、傍にあった建物の陰に隠れて様子を見ていると、やはり予見していた通り、追跡者が雪崩混んでいた。
間一髪。ツーっと冷や汗が背中を伝う二人。
賑やかになったテナントを尻目に一目散に駆け出した。

「やっぱり、一つの場所に隠れつづけるには、制限がかかった場所に行くしかないみたいね…」
「ここからならどこが一番近い?」
「そうね……市役所……かしら」
「ええ~;あそこまで行くの?」

市役所は街の中央にある。今いる場所、商店街からはバスで大体30分は掛かる。しかも歩いて、さらに隠れながらとなると、何時間掛かるか……。二人は顔を見合わせた。

「………ダメね」
「……ムリだね」

はあ…とため息を付き、新たに隠れる場所を求め、歩きだした。


………………………―
…………………―
………………―

―その頃のクロ、モモは…

「ん?」
「どうしました?クロさん」
「いや、急に静かになったな……まだ昼なのに…」

地下街に隠れていた二人は、あれだけ騒がしかった外が急に静かになった事に気付く。
諦めたのか……それとも罠か……。
二人はアイコンタクトを交わすと、足音を立てないように、地下街の出入り口に近づいた。

「ど、どうですか?」
「んー…人の気配はないみたいだけど。どうする?」
「えと…この辺りで制限されているのは、ここしかないんですよね?」
「ああ…後はあちこち転々と逃げ回るしかない」

クロの言葉を聞き、モモは考える。たしかにここにいれば安全だ。しかし、キノ達の様子も気になる。特にあの四人の逃げた方向は、制限地帯が一つもない。
…自分だけ、安全な所にいるわけには行かない。だが逃げ切る体力が果たして自分にあるかと問われると、自信を持って『Yes』とは言えない。…でも、

「ここを出ましょう」
「え?いいのか、モモ?だってお前…」

クロの言いたい事は解る。体力がない自分を気遣ってくれているのも……。

「大丈夫です!足を引っ張らないように頑張って走ります。それにこれじゃ、平等じゃないです。他のみんなに申し訳ないし…」

微笑みながら、自分の決意を告げるモモに、クロは驚きつつも感嘆する。
鬼ごっこが始まって、まだ三日しか経ってはいないが、モモはかなり強くなったと思う。おそらく、以前の彼女を知っているキノ達が見たら驚くだろう。
クロが今まで見てきた逃走側は、大体が仲間割れをし、裏切りや陥れが発生し、それにじょうじた追跡側が一網打尽にしてきた。
どんなに信頼しあい、すべてを知り尽くした長い付き合いでも、結局は他人。自分が助かるためなら平気で仲間を差し出す。……それが当たり前と思っていた。
しかし……

(今回の逃走側は、中々見所がありそうだな……よし、必ず勝ってやる。)

再び強い決意を胸に、モモの手を引き、地下街を後にした。
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