悪意

一方、キノとタケはと言うと……


「ちっ…しつこい」
「キノ姉ちゃん、もう少し頑張れば撒けるよ!」

追われていた。
別にどちらかのミス…という訳ではなく、単純に運が無かった…らしい。
駅前を避け、裏道から安全な場所を探そうとしたのだが、何故か今日に限って追跡者が多い。
昨日の今日……。
自分の不運さにほとほと嫌気が挿した。

「はあはあ……」
「キノ姉ちゃん!しっかり!!…あ、こっち!!」

タケはキノの腕を引っ張り、地下通路に入り込んだ。地下通路には複数の小部屋があり、その一番奥の部屋に飛び込み、静かに扉を閉めた。ドアに張り付き、聞き耳を立てていると、暫くして地下通路の入口辺りで話し声がしていたが、その内静かになった。その瞬間、二人は気が抜けたように座り込んだ。

「はあ………なんとか、なったみたい…」
「うん……さすがにヤバかったね……でも、ここに何時までも居られないよ。連中はきっと嗅ぎ付けてくる筈だから…少し休んでから別の所に移ろう?」
「……そうね」

この地下通路も制限されていない場所。しかも、今隠れている場所は、地下で廊下の突き当たり。追跡者が来てしまえば逃げ場はない。まさに四面楚歌。タケの言う通り、居続けるのは危険だ。
暫く、座り込んでいた二人だが、何かを見つけたのかタケが立ち上がった。向かった先は……冷蔵庫。

「あ、いいもの見っけ!すっげー冷えてる!」
「?タケ?何してるの?」

ゴソゴソ漁っていたタケが、キノの元に戻り、手にしていた物を差し出した。

「はい!」
「え……缶ジュース?」

よく冷えたスポーツドリンク。廃墟かと思ったが、電気が通っている所を見ると、何かの事務所のようだ。しかし、

(……これって、犯罪にならないの……?)

なぜなら勝手に黙って、戴いているのだ。泥棒と言われても何も言い訳できない。スポーツドリンクを凝視しながら固まるキノに、タケは笑いながら言う。

「大丈夫だよ。キノ姉ちゃん。クロ兄ちゃんから聞いてない?この『鬼ごっこ』の最中に、逃走側が利用する施設とか食べ物、日用品とかは統べて主催者が買い占めてるんだよ」

確か、初めて出会い、集合場所のホテルに行ったとき、クロからちらりと聞いた事を思い出した。

「あ…そういえばそんな事、言ってたわ…」
「だから、黙って飲んでも大丈夫!!」

そう言うと、タケはプルタブを開け飲みはじめた。暫く考えていたキノも、タケに習い飲みはじめた。



…………………―
……………―
…………―


「やれやれ…やってられないな……」

こちらは追跡側の陣地である広場。
テントから出てきた青年、スズは不機嫌オーラを漂わせながら、街に向かい歩きだした。今回の策士は無茶苦茶過ぎる。しかも、他の奴らも今までの鬱憤を晴らすかのように、その非道な策に手を貸し、自分以外誰ひとり咎める者はいない。せめて、クロが居てくれれば……こんなどうしようもなくつまらないこんなゲームの為に、あんな奴らの為にサーチを使いたくない。

スズは決心した。

追跡側を外れる。クロと合流するまでは中立でいて、合流出来たらクロと同じ、逃走側の協力者となればいい。

「ふう…思い残す事はない。さあ、行くか……」

スズは振り返る事無く、追跡側の陣地を後にした。
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