水の街
月の力…
今こそ、解放す………!
翌朝…二人と一羽は老婆の家を後にし、怪物を倒すため港に向かった。
「………」
「………」
無言で海を見つめる二人。月夢鏡の為とはいえ、かなり無謀な事を引き受けてしまったとかぐやは後悔していた。戦う術を持たない自分、戦闘は確実に黒呼が引き受ける事になる。
(どうしよう……黒呼、怒ってるかな…。やっぱり月夢鏡のカケラに釣られなければ良かった……ごめんね黒呼…)
申し訳なくて黒呼の顔を直視出来ず俯く。
暫く歩いていると、水平線が見渡せる港に着いた。そこで二人は驚きの光景を目の当たりにした。
「夜……?」
「そ、そんな…あんなに明るかったのに……」
いつの間にか日が沈み、辺りは暗闇と静寂が支配していた。二人は状況が飲み込めず、辺りを見回していると、
……ゴボ…ゴボゴボゴボ……
水面が揺らいだ。黒呼がかぐやを庇うように前に立ち塞がり、愛用の鎌を構え、闇爾も翼を広げ、臨戦体制に入った。
ゴボゴボゴボ…………
ザバアァ!!
無数の頭に、金色に輝る目。鋭い牙を持った巨大な怪物がかぐや達の前に姿を見せた。
暗闇に溶け込んでいた体の輪郭は、目が慣れてくると次第に浮かび上がってくる。まるで巨大な大蛇のようにとぐろを巻き、鎌首を擡げかぐや達を見下ろしている。
「ひっ……」
「かぐや、下がって……」
「え?黒呼?」
「かぐやは私が護る。こいつは私が仕留めるから…」
「あ、ま、まって!!」
黒呼はそう言うと、闇爾に合図を送り、鎌を構え飛び上がった。
置き去りになったかぐやは呆然と黒呼達を見つめる。怪物は飛び掛かってきた黒呼に向かいしっぽのようなモノを振り上げ叩き落とそうとするが、間一髪で黒呼が避け鎌を一降り。切り付けられた場所からは、どす黒く赤い血が吹き出す。暫くそんな攻防を繰り返していたが、
………ガッ………
「くっ!!」
「!!く、黒呼!!」
脇を擦り抜けようとした黒呼に、怪物のしっぽが直撃し、黒呼は沖の方に吹き飛ばされた。闇爾は急いで黒呼を助けに向かうが、怪物に阻まれ擦り抜けられない。一方の黒呼は海に落ち、浮き上がる気配はない。
絶対絶命………怪物は無数の目をかぐやに向けた。冷や汗が背中を伝い、震える足で後ずさる。黒呼と闇爾がいない今、どうしたらいいのか………怪物は無数の触手をかぐや目掛け伸ばしてきた。
…もうダメだ……後少しでかぐやに届くその時、
…パアアァァ……
怪物の動きが止まった。いつまで経ってもやって来ない衝撃に、不思議に思ったかぐやが目を開けると……
「!?」
月夢鏡が光り輝いていた。
「え?なんで?まだカケラをはめ込んで無いのに……!!」
月夢鏡の光りは、一筋の光りの柱となり、一直線に真上に伸びた。釣られるようにかぐやも空を見上げる。
「………満月…!?そうか……そう言う事なんだね………これで私も戦える!!」
何かを悟ったかぐやは、真っ直ぐに怪物を見る。すると怪物は怯んだように身を竦める様を見て、かぐやは確信する。
月夢鏡はカケラの有無ではなく、月の満ち欠けで力を使えるのだ。カケラはかぐやの魂の化身。それを手に入れるための力………それが、月の力を受けた『月夢鏡』なのだ。
かぐやは静かに目を閉じ、月夢鏡に両手を翳す。手の平に感じる温かな光り。それは『かぐや姫』が残した『絶望』を払う『希望』の力。
すると、かぐやの脳裏に言葉が浮かんだ。まるで導かれるように呟く。
「我の前に立ち塞がりし、悪しき者よ……月の御名の元……闇にお帰りなさい!!」
………カッ!!…………
かぐやが叫ぶのと同時に、月と月夢鏡がまばゆく光り輝き、光りの雨となり怪物に降り注いだ。
ギャアアアアア!!
苦しそうにもがき苦しんでいたが、凄まじい音を立て倒れた。と、同時に砂の城のようにサラサラと風化し、やがて消え去っていった。
………そしてまた、静かな海に戻っていった……。
…………………―
……………―
………―
怪物を倒し、再び老婆の元に戻ると、驚き喜びながら迎えてくれた。
そして、約束だからね…とカケラをかぐやに手渡した。二人は老婆にお礼を言い、街を後にした。
黒呼はずっと俯き、押し黙っていた。護れなかった。約束を果たせなかった。悔しくて仕方がなかったのだ。そんな黒呼にかぐやは笑顔を向ける。
「ありがとう黒呼」
「え!?……でも私…」
ううんと首を振り、黒呼の手を優しく握る。驚いたように目を見開いた黒呼だったが、ふと表情を和らげ、握り返す。
「私、自分が戦えない癖に、引き受けちゃって……黒呼の負担になっちゃったでしょ?申し訳なくて…」
「そんな事ない…戦いは慣れてるし…護るって決めたの」
「ありがとう。でもそれじゃ、多分意味は無いよ。黒呼に頼りっぱなしじゃ、私も何かしないと。だから、戦う方法を見つけた時、すごく嬉しかった。黒呼を護れるって」
「!?かぐや……」
これから先、もっと辛く厳しい出来事に遭遇するだろう。自分一人では絶対無理だ。でも、
「ねぇ、黒呼」
「ん?」
「これからも、二人で力を合わせて頑張ろうね!」
「!うんっ!!頑張ろう、かぐや」
「カアアアア!!」
「ふふ…闇爾もよろしくね」
「カア!」
「ふふっ……」
「あはははっ!」
今は自分の身を案じてくれる優しく頼もしい仲間がいる。
(私は負けない…。必ず元の世界に帰ってみせる。付いてきてくれる黒呼や闇爾のためにも……)
かぐやは改めて決意を固め、カケラが一つはまった月夢鏡をにぎりしめた。
今こそ、解放す………!
ツキノセカイ
翌朝…二人と一羽は老婆の家を後にし、怪物を倒すため港に向かった。
「………」
「………」
無言で海を見つめる二人。月夢鏡の為とはいえ、かなり無謀な事を引き受けてしまったとかぐやは後悔していた。戦う術を持たない自分、戦闘は確実に黒呼が引き受ける事になる。
(どうしよう……黒呼、怒ってるかな…。やっぱり月夢鏡のカケラに釣られなければ良かった……ごめんね黒呼…)
申し訳なくて黒呼の顔を直視出来ず俯く。
暫く歩いていると、水平線が見渡せる港に着いた。そこで二人は驚きの光景を目の当たりにした。
「夜……?」
「そ、そんな…あんなに明るかったのに……」
いつの間にか日が沈み、辺りは暗闇と静寂が支配していた。二人は状況が飲み込めず、辺りを見回していると、
……ゴボ…ゴボゴボゴボ……
水面が揺らいだ。黒呼がかぐやを庇うように前に立ち塞がり、愛用の鎌を構え、闇爾も翼を広げ、臨戦体制に入った。
ゴボゴボゴボ…………
ザバアァ!!
無数の頭に、金色に輝る目。鋭い牙を持った巨大な怪物がかぐや達の前に姿を見せた。
暗闇に溶け込んでいた体の輪郭は、目が慣れてくると次第に浮かび上がってくる。まるで巨大な大蛇のようにとぐろを巻き、鎌首を擡げかぐや達を見下ろしている。
「ひっ……」
「かぐや、下がって……」
「え?黒呼?」
「かぐやは私が護る。こいつは私が仕留めるから…」
「あ、ま、まって!!」
黒呼はそう言うと、闇爾に合図を送り、鎌を構え飛び上がった。
置き去りになったかぐやは呆然と黒呼達を見つめる。怪物は飛び掛かってきた黒呼に向かいしっぽのようなモノを振り上げ叩き落とそうとするが、間一髪で黒呼が避け鎌を一降り。切り付けられた場所からは、どす黒く赤い血が吹き出す。暫くそんな攻防を繰り返していたが、
………ガッ………
「くっ!!」
「!!く、黒呼!!」
脇を擦り抜けようとした黒呼に、怪物のしっぽが直撃し、黒呼は沖の方に吹き飛ばされた。闇爾は急いで黒呼を助けに向かうが、怪物に阻まれ擦り抜けられない。一方の黒呼は海に落ち、浮き上がる気配はない。
絶対絶命………怪物は無数の目をかぐやに向けた。冷や汗が背中を伝い、震える足で後ずさる。黒呼と闇爾がいない今、どうしたらいいのか………怪物は無数の触手をかぐや目掛け伸ばしてきた。
…もうダメだ……後少しでかぐやに届くその時、
…パアアァァ……
怪物の動きが止まった。いつまで経ってもやって来ない衝撃に、不思議に思ったかぐやが目を開けると……
「!?」
月夢鏡が光り輝いていた。
「え?なんで?まだカケラをはめ込んで無いのに……!!」
月夢鏡の光りは、一筋の光りの柱となり、一直線に真上に伸びた。釣られるようにかぐやも空を見上げる。
「………満月…!?そうか……そう言う事なんだね………これで私も戦える!!」
何かを悟ったかぐやは、真っ直ぐに怪物を見る。すると怪物は怯んだように身を竦める様を見て、かぐやは確信する。
月夢鏡はカケラの有無ではなく、月の満ち欠けで力を使えるのだ。カケラはかぐやの魂の化身。それを手に入れるための力………それが、月の力を受けた『月夢鏡』なのだ。
かぐやは静かに目を閉じ、月夢鏡に両手を翳す。手の平に感じる温かな光り。それは『かぐや姫』が残した『絶望』を払う『希望』の力。
すると、かぐやの脳裏に言葉が浮かんだ。まるで導かれるように呟く。
「我の前に立ち塞がりし、悪しき者よ……月の御名の元……闇にお帰りなさい!!」
………カッ!!…………
かぐやが叫ぶのと同時に、月と月夢鏡がまばゆく光り輝き、光りの雨となり怪物に降り注いだ。
ギャアアアアア!!
苦しそうにもがき苦しんでいたが、凄まじい音を立て倒れた。と、同時に砂の城のようにサラサラと風化し、やがて消え去っていった。
………そしてまた、静かな海に戻っていった……。
…………………―
……………―
………―
怪物を倒し、再び老婆の元に戻ると、驚き喜びながら迎えてくれた。
そして、約束だからね…とカケラをかぐやに手渡した。二人は老婆にお礼を言い、街を後にした。
黒呼はずっと俯き、押し黙っていた。護れなかった。約束を果たせなかった。悔しくて仕方がなかったのだ。そんな黒呼にかぐやは笑顔を向ける。
「ありがとう黒呼」
「え!?……でも私…」
ううんと首を振り、黒呼の手を優しく握る。驚いたように目を見開いた黒呼だったが、ふと表情を和らげ、握り返す。
「私、自分が戦えない癖に、引き受けちゃって……黒呼の負担になっちゃったでしょ?申し訳なくて…」
「そんな事ない…戦いは慣れてるし…護るって決めたの」
「ありがとう。でもそれじゃ、多分意味は無いよ。黒呼に頼りっぱなしじゃ、私も何かしないと。だから、戦う方法を見つけた時、すごく嬉しかった。黒呼を護れるって」
「!?かぐや……」
これから先、もっと辛く厳しい出来事に遭遇するだろう。自分一人では絶対無理だ。でも、
「ねぇ、黒呼」
「ん?」
「これからも、二人で力を合わせて頑張ろうね!」
「!うんっ!!頑張ろう、かぐや」
「カアアアア!!」
「ふふ…闇爾もよろしくね」
「カア!」
「ふふっ……」
「あはははっ!」
今は自分の身を案じてくれる優しく頼もしい仲間がいる。
(私は負けない…。必ず元の世界に帰ってみせる。付いてきてくれる黒呼や闇爾のためにも……)
かぐやは改めて決意を固め、カケラが一つはまった月夢鏡をにぎりしめた。
水の街
《後編》
一人じゃない……
それが
今の私の力の源……
《後編》
一人じゃない……
それが
今の私の力の源……