かぐや姫と導く者達

私にはどんな力が
隠されているのか……





「さて、単刀直入に言うわね。貴女に『ツキノセカイ』を消して欲しいの」
「……え?消す……?」

 夢幻界の番人から聞いた言葉に、かぐやは唖然とした。消すと言っても、どうすればいいかなんて解らないし、第一、『ツキノセカイ』なんて見たことも聞いたこともない。そんな状態の自分に彼女は一体何を言い出すのか…。不安と意味不明な恐怖を感じる。
 そんなかぐやの心境を察したのは、ティナだった。

「…まだ貴女は完全には力に目覚めてはいないわ。きっと、無意識の内に創られたからでしょう。いいわ、私が説明してあげる」

 ティナはそう言うと、目を閉じた。

「事の始まり…つまり、『ツキノセカイ』が生み出されたのは1000年以上前、ある老夫婦の元に一人の女性が現れたの」


 その女性は産まれて間もない赤ん坊を抱いていて…。女性は老夫婦に言ったの。『この子が大人になるまで育てていただけませんか?』と。子供がおらず、寂しい生活をしていた二人は、女性に深くは聞かず赤ん坊を受けとった。…可愛らしい女の子だったそうよ。 二人は神様が授けてくれたと喜び、女の子を大切に育てたわ。
 女の子はスクスクと成長し、やがて年頃になる頃には美しい女性になっていた。
 美しい女性…かぐや姫の噂は瞬く間に世に知れ渡った。様々な男達が彼女を娶ろうと躍起になった。
 でも、かぐや姫はその男達とは結ばれなかった。いえ、意図して結婚を退けたの。何故か……?


 かぐやはティナの話を聞きながら疑問を感じた。かぐや姫は『竹取物語』に登場するお姫様だ。竹から産まれ月に帰る…そんな話だったはず。でも、ティナが話したものは、違う点が多々ある。そう、赤ん坊のかぐや姫を連れてきた女性の存在だ。

「竹から産まれたんじゃないの?」

 思った疑問が自然と口に出た。すると、ティナは首を振った。

「貴女が知っている『竹取物語』は真実ではないわ。それは長い月日の内に脚色され、子供たちに語り聞かせるために創られた話。本来の『竹取物語』はかなり内容が生々しいの。…いえ、もう『竹取物語』とは呼べないかもしれないわ」

 ティナがそこまで言うと、隣にいたミィが口を開いた。

「かぐや姫が人の世に現れた理由はただ一つ。人を試す事」
「た、試す?」

 ミィはうなづき、何かをかぐやの前に差し出した。

「これは月夢鏡。本来は月の民が代々受け継ぎ、力を保持するためのものよ。満月の夜にだけ、装備した者の願いを聴き入れ、叶える力を持つの」
「満月の夜、貴女は二度、鏡に救われている。一度目は四歳の時、そして二度目は…」

 ミィとティナの話を聞き、ほうけたように固まっているかぐやを見て、ティナはあまりにも残酷な事実を明かす。

「事故に遭い、瀕死の重傷を負った貴女」

…その瞬間、かぐやの頭の中にまるで早送りのビデオを見ているように、映像が流れる。




『……ぶないな。……運転か?』
『…!!危……い!!』



ガシャアアアアン!!



「…っ!!」
「思い出した?貴女は今、生と死の間に漂っている。本来ならそのまま死んでしまってもおかしくなかった。でも……」

 ミィはそこまで言うと、かぐやの近くに歩み寄り、ペンダントを握らせた。

「月夢鏡が貴女を死なせる事を拒んだ。それは何故だと思う?」

 解らないと首を振るかぐや。ミィは月夢鏡ごとかぐやの手を優しく包み、言った。

「ツキノセカイは貴女が人の世から逃げる為に創った世界。辛い、苦しい、悲しい…そんな気持ちがツキノセカイを創った。ツキノセカイは受け入れ、願えば自分の思い通りになるけど、否定すれば貴女に牙を剥く。今が正にその状態なの」
「大人になればなるほど現実が全てになるわ。夢や空想など下らない、有り得ないと思ってしまうのは、貴女が大人なりつつある証拠。決して悪い事ではないわ。でも、ツキノセカイはそれを許さない。このまま貴女に否定され続けるくらいなら、貴女と共に消えてしまおうとするでしょう」
「………」
「月夢鏡はかぐや姫の残した希望。そして、ツキノセカイは人を試す為の絶望。月夢鏡は、我が身を犠牲にして貴女の命を夢幻界につなぎ止めた。砕け散った鏡の破片は、ツキノセカイに散らばったわ。貴女がすべき事……それはツキノセカイに散らばった月夢鏡のカケラを集めること……」

 かぐやが手の中の月夢鏡を見ると、確かに鏡があったであろう場所に丸いはめ込みがあるだけだった。どれだけのカケラになり、散らばったのかは見当もつかない。しかし、カケラを集めない限り生きる事も死ぬ事も出来ない。

 …やるしかない。

 かぐやが月夢鏡を抱きしめるのを見て、ティナとミィはほっとした表情を見せた。

「さて、ツキノセカイへの入り口を開くわよ。一度入ったら、カケラを全て集めない限り出られないわ。それと、一人では心細いでしょ?中に一人と一匹待機させてるから」
「一人と一匹って…」
「会ってみれば分かるわ。行くって聞かないんだもの。大丈夫、頼りになる子だから」
「???」

 ミィとそんなやり取りをしていると、ティナが思い出したように付け加えた。

「あ、そうだ。カケラを手に入れたら、夢幻獣に奪われる前に月夢鏡にはめるのよ。カケラは貴女の魂と同じ。揃わなければ貴女はツキノセカイから永久に出られないから」
「は、はい。色々ありがとうございました」

 助言をくれたミィとティナに深々頭を下げる#名前##を見て、ミィは慌てて声を掛ける。

「そんないいってば。なんか照れちゃう」
「ははは!じゃあ、気をつけてね。#名前#ちゃん」
「クスクス…さあ、いってらっしゃい」
「はい!行ってきます」

 ミィが扉を開けると、フワリと懐かしい薫りを感じ、かぐやは誘われるようにツキノセカイに足を踏み入れた。

 かぐやの後ろ姿を見送り、扉を閉めたミィは目を閉じ、ある少女の事を思い出す。

「これでいいのよね」
「運命…そんな言葉では片付かないかもね。断ち切るにはあの子に托すしかないわ……」

……そうでしょ?ユキ……

 かぐやとツキノセカイの闘いは始まったばかり…。






この先に
何が待ち構えていても
私は負けない……



つづく……
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