Pure rain
…私は…なんて愚かなんだろう…
Pure rain
朝学校に着くと、雪菜はまた昨日の女子達に囲まれ、その中の一人に詰め寄られる。彼女は愛莉の取り巻き達のリーダー的な存在で、熱狂的な愛莉主義者だ。
「ちょっと、白川さん!愛莉の邪魔するなって言ったわよね?」
「え?私、何も…」
「愛莉、また泣いてたのよ!あんたに酷い事言われたって」
「ねぇ?」と周りの取り巻きの子達に同意を求めると、皆は雪菜を睨みつけながら頷いた。
「で、でも…私は昨日は愛莉ちゃんとあってないよ?」
「嘘つき!!だって愛莉が嘘言う訳ないじゃない!!あんた……そんなに蓮汰くんと愛莉の邪魔したいの?」
「それに愛莉、昨日の放課後、蓮汰くんに言われたんだって。あんたが好きだから付き合いたくないって……愛莉、可哀相」
「その後にあんたが愛莉を………許せない!!最低よ!」
あまりの急展開に唖然とする雪菜。訳が分からずオロオロしていると、
「おい!何喚いてるんだよ!廊下まで丸聞こえだぞ!」
「…か、神楽さん……」
取り巻き達の様子が一変し、すっかりおとなしくなる。神楽凜…神楽道場の師範代を務める、女子高校生格闘家。実は蓮汰の師範であり親友だったりする。
リーダーの女子が、凜に訴えるように言う。
「白川さんが、愛莉と蓮汰くんの邪魔ばかりして……愛莉がフラれたのよ!このままじゃ、愛莉……すごく傷ついて…可哀相だわ」
と言い、雪菜をジロリと睨みつける。雪菜は思わずビクリとし俯く。そんな光景を黙って眺めていた凜は、リーダーの女子をキッと睨む。取り巻き達は思わずビクっと肩を揺らし後ずさる。
「だから何だよ。高嶺が蓮汰にフラれた?白川が邪魔してるから?そんなの八つ当たりじゃないか。誰を好きになろうと蓮汰の自由だろう」
「そ、それは…でも!愛莉は蓮汰くんを一途に…」
「蓮汰を本当に好きな奴なら、フラれたからって幼なじみに取り巻きを仕向けたりないだろ?騙されてるんじゃないのか?おまえ達」
「な、なんですって!!許せない、愛莉を悪く言うなんて!!」
「そうよ、そうよ!愛莉は可愛くて優しくて……この学園のアイドルなのよ!」
「……神楽さん?愛莉のお父様が誰か知ってるわよね?あんまり出過ぎた事はしないほうがいいんじゃない?」
ピクリと眉を動かす凜に、取り巻きの一人が嘲笑う。
「愛莉を馬鹿にしてると…………この学園にいられなくなるかもしれないわね(笑)」
取り巻き達はケラケラと笑う。一方の凜は呆れたようにため息を着く。
「…………………あ、そ」
「なっ!!!」
「親の権力を使わないと何もできないような奴に負ける気はない。…………さっさと消えな」
「くっ………!」
「覚えてなさい!絶対後悔するんだから!!」
取り巻き達は捨て台詞を吐き、走り去っていった。そして、その場には雪菜と凜しかいなくなった。凜はふぅ~と息を吐くと雪菜に振り向いた。
「あんた、また面倒な奴に目を付けられたな。大丈夫か?」
「え…はい。あの………ありがとうございました。あと……すみませんでした」
雪菜は小さく頭を下げる。無関係な彼女を巻き込んでしまった。申し訳なくて、顔が上げられない。
すると、凜ははははっ笑いながら雪菜の肩を叩き「気にするな」と言った。
「で、でも。愛莉ちゃんに逆らったら……」
「僕はあいつらに間違いを指摘してやっただけだ。まあ、懲りずにまた来るかもな、あの調子じゃ……」
「余計な事しちゃったか…」とすまなそうに雪菜に謝った。そんな凜の言葉に雪菜は慌てて首を振った。
「そんな事ないです。……嬉しかったんです。皆、愛莉ちゃんの味方だけだと思っていたし。あ、あの………蓮ちゃん、あ、飯塚くんとお知り合いなんですか?」
「ん?ああ、ウチの道場の門下生なんだよ。白川雪菜だったよな?あんたの話しは蓮汰からよく聞いていたし」
「そ、うですか…」
「あいつ、蓮汰の事嫌いか?」
「え?!」
思いがけない言葉に雪菜は驚いて凜を見る。
「あいつ……ずっと心配してたんだ。そんで昨日、あんたと別れた後、やっぱり雪菜の様子が変だって凄く心配しててな。高嶺に呼び出されれた時、問い詰めてフッたらしい。高嶺の事、かなり胡散臭がってたしな。もう、分かったろ?あいつの所に戻ってやってくれ」
……蓮汰はずっと自分を信じてくれていた。あんなに酷い事を言った自分を心配してくれていた。雪菜は知らないうちに泣いていた。蓮汰だけではない。昨日出会った柚希だって何も言えなかったにも関わらず、自分を信じてくれた。なのに………
「お、おい、大丈夫か?」
「ありがとう…ございました。私、私、蓮ちゃんに謝ってきます!!」
「ふふ……そうしな。ちゃんと仲直りしろよ」
「はい!!」
雪菜は凜に笑顔を見せると、蓮汰のクラスに向かい駆けていった。
そんな二人のやり取りを恨めしげに見る愛莉の姿を、凜も雪菜も誰も気づかなかった。
Pure rain
自分を信じてくれる人がいる。
それだけで
こんなに救われる…
絶対に無くしたくない
~絆~