Pure rain
未来に望みを繋げる…
Pure rain
「今日は転校生を紹介します。さ、入りなさい」
いつもの朝のホームルーム。しかし、今日は少し違っていた。
「転校生だって!男の子かな?」
「可愛い女の子だったらいいなあ」
などと、クラスがざわめくなか、すっと扉が開き、転校生が入ってくる。
セミロングの黒髪を左側にちょこんと結んだ赤いゴム。丸いブラウンの瞳は不安そうに揺れている。
その少女の姿を見て、反応する生徒がいた。
「ゆ、雪菜ちゃん」
「えっ?あの子が雪菜ちゃんなの?」
「うん、ウチのクラスだったんだね」
「良かったじゃん!同じクラスなら目も届きやすいし!」
「うん、そだね」
明るく笑いながらガッツポーズをするユリアに、微笑みながら頷き返す柚希。
「ん~…でも、とてもイジメなんてするような子に見えないよねぇ…」
「うん…なんであんな噂になっちゃったのかな…」
「ふ~む……」
ロザリアとレスカは、何度か雪菜の写真を見ていたので知っているが、ユリアは初めてだった。
だが、第一印象で彼女が雪菜をそう言う風に評価してくれたことが、柚希は嬉しかった。
あまり知られていないが、ユリアの人を見る目は確かなのだ。
現に、レスカやロザリアなど安心して信頼出来る人達と知り合い(友達?)だ。それに、自由奔放に振る舞っているように思われがちだが、何よりも正義感が強く、行動力もあるため、柚希にとってユリアは、その辺の男子より頼りになる存在なのだ。
「休み時間になったら接触を図ってみるよ」
「あ、私も行く!」
「あったり前よぉ!!知ってる顔がいた方が雪菜ちゃんも安心するだろうし!!」
「うん!!ありがとう、ユリア」
二人が頷き合うと同時に、チャイムが鳴った。
…………―
………―
1時間目、2時間目と時間は過ぎ、お昼休みに入るとユリアと柚希は雪菜の元へ向かった。
本当なら、もっと早く雪菜の元に行きたかったが、転校生の宿命というべきか、大勢のクラスの子に囲まれており、なかなかチャンスが訪れなかったのだ。
質問責めで少し疲れた顔で、お弁当を鞄から出している雪菜に、柚希が声を掛ける。
「雪菜ちゃん!」
「………え?ゆ、柚希ちゃん?このクラスだったんだね」
「うん!!一緒のクラスになれて嬉しいよ!よろしくね!」
「う、うん!!私も嬉しい……よろしくね」
ひとしきり久しぶりの再会を楽しんでいると、柚希の背後からユリアがひょこっと顔を出した。
「も~!!ズルイよ柚!!私もお話したい~!!」
「あ、ごめん。そだ、雪菜ちゃん、紹介するね。私の友達のユリアだよ」
「ユリアでぇす!!初めまして!雪菜ちゃん、でいい?」
突然の乱入に、驚きつつも頷く雪菜を見て、ユリアは満足そうに笑った。
「あたしの事もユリアでいいよ!転校したてで色々大変だろうから、なんでも聞いてね!!」
「え……う、うん!ありがとう…ユ、ユリア…ちゃん」
戸惑いながらも笑顔を浮かべる雪菜を見て、柚希は一安心する。
「あ、よかったらお昼一緒に食べよ?お話もしたいし!ね?柚!」
「うん。どうかな?」
雪菜は少し考えると、コクリと頷いた。
「じゃあ、屋上行こう!今日は天気もいいし、ね?」
「そだね、行こう、雪菜ちゃん」
「うん!!」
ユリアの提案に、三人はお弁当を持ち、屋上に向かった。
―雪菜は安心していた。そして、ふと忘れていたのだ。これから起こる禍(わざわい)で、柚希達を巻き込み、雪菜の世界全てを壊そうと画策している者がいる事に…。
Pure rain
―その禍は
確実に
音もなく
彼女達に忍び寄る…―
続く…